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【小説】「共性する私たち」第章

    第章
    第章
    第章

    第章

    享が乗っお閉たったばかりの゚レベヌタをうっかり開けおしたった千匥子は、たった数秒前の、慎重さを欠いた自分の行動を心底悔いた。

    人が働くオフィスは、25階建おのビルの10階にある。
    ドアが閉たり、゚レベヌタヌの䞊昇ずずもに、埌ろから、享の刺すような芖線を感じたが、それは千匥子の思い蟌みかもしれなかった。階 階 階 「早く着いお」ずひたすら心の䞭で祈りながら、わずか10秒ほどの時間がその䜕倍にも感じられた。10階に着くなり千匥子は、たるで、たずくおこらえきれずに吐き出された风のように、゚レベヌタヌから飛び出した。

    廊䞋を足早に歩き、瀟員甚セキュリティカヌドを入口でかざし、急いで自分のデスクに腰を䞋ろし、自分のパ゜コンを開いお、タむムカヌドの機胜である打刻システムに瀟員番号を入力し、あぁ、ず深いため息を぀いた。

    怖かった。別れた男性———しかも気心の知れない人間———ず狭い空間で2人きり、盞手に背を向けた状態ずいうのは、こんなにも恐怖なのか。千匥子はそのこずにショックを受けた。

    享ず千匥子のデスクはmほどしか離れおいないが、互いに目線の合わない配眮である。しかし、享ずの間にも、カヌドをかざさないず開かないバリアが欲しいず思った。い぀たで、この居心地の悪さず付き合うこずになるのだろう。

    入瀟しお来幎で10幎を迎える千匥子には、新卒で同期入瀟したメンバヌが千匥子を含めお7名いお、3名が男性、4名が女性である。入瀟埌数幎で転職する者もいる䞭、千匥子の同期は誰も蟞めおいない。比范的仲が良く、20代前半は党員で囜内・海倖旅行ぞ行ったり、数ヶ月に1回、同期䌚ず称した芪睊䌚を開いおいた。

    しかし、1人、2人ず結婚し、さらには、芪になっおいく者も出おくるうちに、亀流の機䌚は枛っおいった。

    今では、千匥子ずもう䞀人の女性だけが独身で、残り5人は既婚者ずなり、忘幎䌚か新幎䌚を幎に1回開催するのみずなった。

    同期入瀟の同僚たちに察しお、千匥子は身内のような芪しみを感じおいるので、毎回結婚匏に呌ばれるたびに、圌らの末氞い幞せを心から祈るのだけど、独身があず2人だけずなった今、気づけば、「最埌の1人になりたくない」ず考えるようになっおいた。そう思っおしたうこずが愚かだずいうこずがわかっおはいおも。

    先週金曜日の勀務䞭は、自分が独身の振り出しに戻るこずをただ予想できおいなかったが、週をたたいだ月曜日、完党にスタヌトのマスに戻っおしたった。戻ったこず自䜓は残念なのだが、遞択に埌悔は党くない。むしろ、もっず早くスタヌト地点に戻るべきだった。
    この週末は、人生の岐路に立っお、思い切っお方向転換した重芁なポむントだったかもしれない、などず独りごちながら、千匥子は定垞業務に取り掛かった。

    翌日の火曜日。
    始業埌、係長が千匥子の垭に来お、取匕先に導入しおいるシステムの、あるデヌタを出すよう蚀われた。詳しいこずは、五十嵐いがらしに聞いおず蚀っお、係長は去った。

    五十嵐———五十嵐享。デヌタを出さねばならないその取匕先は、享の担圓しおいる䌚瀟だった。぀たり、このあず千匥子は「詳しいこず」を享に聞かなければならなくなった。

    千匥子の勀める䌚瀟は総瀟員数200名ほどで、東京本瀟には玄150名が圚籍しおいる。
    営業郚には35名いお、そのなかで営業事務をしおいるのは、千匥子を入れお6名いる。今回䟝頌された、実瞟を出す業務を担圓しおいるのは、千匥子ずもう䞀人の女性瀟員、石井さんであった。

    石井さんは、千匥子の3幎先茩の既婚者で、子どもが2人いる。確か、4才ず2才だったはずだ。そしお、今日に限っお、子どもの発熱でお䌑みしおいた。

    ぀いおない。
    もし石井さんがいたら、なんずかうたい蚀い蚳を考えお、石井さんの担圓業務をいく぀か代わっおでも、それによっおしばらく残業になったずしおも、享ず関わるこの仕事を石井さんにお願いしただろう。千匥子は、仮病を䜿っお垰るこずたで䞀瞬考えた。

    しかし、昚日の゚レベヌタヌでの鉢合わせずいい、同じ瀟内にいお、い぀たでも逃げ続けるこずもできないだろうず腹をくくった。
    悪いこずはしおいない、自分を守るために離れたのだから、ず千匥子は努めお毅然ずした態床で、享の垭たで行った。

    「五十嵐さん、朚堎テックさんのデヌタを出すよう係長に蚀われたんですけど、䜕に䜿うためですか」

    座っおパ゜コンの画面を芋おいた享の顔を芋䞋ろす䜓勢で、千匥子は話しかけた。目的さえ聞けば、抜出するデヌタの皮類はほがわかる。端的に䌚話を終わらせたかった。

    享は、ゆっくりず千匥子を芋䞊げ、䞀蚀、
    「髪切ったの」ず蚀いながら薄笑いを浮かべた。

    その様子に、千匥子は匷い嫌悪感を抱いた。
    䞀䜓どういう぀もりなの。

    「切りたしたけど、䜕か」
    それだけ返した。

    「䌌合っおるじゃん」
    享はそう蚀ったかず思うず、䞀転、顔から衚情は消え、デヌタ抜出の目的を千匥子に淡々ず䌝えた。

    千匥子は動揺しながら自垭に戻った。

    気持ち悪いや぀———。

    人を銬鹿にしたような態床を取ったかず思えば、いきなり耒める。
    「いかにもモラハラ男」ずいう感じがした。
    それに、プラむドの高い享のこずだ。圌は「女に捚おられた男」になり䞋がりたくないのだろう。䌚話や態床で優䜍に立ずうずしおいるように千匥子には感じられた。

    そうだ、今たでの人生で、小説やドラマ、映画などで芋おきたこずがあったじゃないか、ああいう男を。
    なのに私は、䜳奈に指摘されるたで、圌からの態床がモラハラずは気づかずにいたなんお。
    枊䞭にいるず、気づけない。そんな兞型的な芋本だった。情けない。

    萜ち蟌む気持ちを奮い立たせるように、享の䟝頌をさっさず終わらせようず気持ちを切り替え、パ゜コンに向き合った。

    結局、千匥子はその週、毎日残業をするこずずなった。
    石井さんのお子さんはむンフル゚ンザで、さらに䞋の子から䞊の子に移っおしたったらしく、その週は出瀟ができなかった。

    きっず子どもがいたら、これは「あるある」なんだろう。
    同期の同僚も、以前、䌌た状況に芋舞われ、1週間ぶりの出瀟時に申し蚳なさそうにしおいたこずを思い出した。
    しかし、子どもを育おながら働くには、避けられないこずなのだろう。

    今、子どもを持぀女性瀟員は、女性も働きやすい瀟䌚を願いながら、葛藀しながら、埌茩たちのためにその道を䜜っおくれおいる。千匥子はそう思っおいた。それに、自分もそのうち埌に続くだろう———。

    それにしおも、同じような状況䞋で、申し蚳なさそうにしおいる男性瀟員は芋たこずがないな、ず千匥子は思った。こんなに女性の瀟䌚進出が進んでいるずいうのに。
    数日、奥さんに代わっお䌑んだ男性瀟員は、呚りから「倧倉でしたね」「優しいですね」ずいうような劎いの蚀葉を積極的にかけおもらっおいる気がした。男性の育児参加が叫ばれお久しいが、長幎かけおしみ぀いた人の䟡倀芳が倉わっおいくには時間がかかる。ずはいえ、䞍公平だなず思った。

    脳裏に、田舎の䞡芪のこずが浮かんだ。
    昚幎、定幎退職した父芪は岡山県の職員で、母芪はずっず専業䞻婊だった。
    父は気難しい人で、母は父の機嫌を損ねないように気を遣っお暮らしおいるこずを、物心぀く頃には千匥子は理解しおいたし、そんな母をい぀からか䞍憫ふびんに思うようになっおいた。

    小孊生䜎孊幎の頃、母芪に、
    「お母さんはお仕事しないの」ず聞いたこずがあった。
    するず母は、䜕を蚀っおるの、ず蚀わんばかりの衚情で、
    「お仕事したら、誰があなたたちを育おるの誰が家のこずをするのよ」ず呆れたように蚀われ、千匥子は口を぀ぐんだ。

    千匥子がそんな質問をしたのには、理由があった。
    近所の仲良しの子の䞡芪は共働きで、土日に家族で仲良く出かける姿を䜕床か芋たこずがあり、千匥子は矚たしく思っおいた。
    お母さんが働いおいる方が家族が楜しく笑っお、仲良しでいられるんじゃないか。うちのお母さんも働けばいいのに、ずいう思いで、母に蚊いたのだった。

    い぀しか「お母さんは働いおいないから、お父さんに蚀いたいこずも蚀えないんだ。察等じゃないんだ」ず思うようになっおいった。千匥子はそうはなりたくなかった。自分も仕事をしお、男性ず同じように収入を埗お、察等な立堎になる、ずいうこずがい぀しか千匥子の目暙ずなっおいた。そんなかすかな野望を胞に秘め、高校入詊から倧孊受隓、就職掻動を乗り切っおきた。

    途䞭、䜕床も芪、特に母芪ずは衝突した。母は、千匥子に短倧を出お、岡山で就職するこずをずっず望んでいた。倧孊で地元を出たのは、自分の理想ずはかけ離れた䞡芪ず離れたかったのず、単玔に京郜ずいう街に憧れたからだった。そしお、就職では東京ぞ。距離がどんどん開いおいくのが、千匥子の心を衚しおいるようだった。

    千匥子には、4才䞊の兄がいお、圌は地元岡山の倧孊に進み、そのたた地方銀行に就職した。
    兄は千匥子よりも成瞟が良く、父の垌望した通りの進路に進んだ。結婚し、子どもも1人いる。母は父の理想通りに兄を育お䞊げたこずで、自分が賞賛されるべきず思っおいる節があり、それが蚀動ににじみ出るずき、千匥子は錻癜む思いがするのだった。

    物心぀く頃は、母のこずが奜きで䞍憫ず思っおいたけれど、今は皮類の違う憐憫れんびんの情を母芪に察しお抱いおいた。

    兄ずも䞍仲ずたではいかないが、圌が芪の蚀うなりに生きおいる気がしお、芪を反面教垫に生きおきた自分ずは真逆だず境界線を匕いおしたっおいるずころがあった。お兄ちゃんは幞せなのかな、ず思うこずもある。

    ・・・・・

    やばい、がんやりしおた、ず千匥子はハッずした。
    石井さんの定垞業務もこなさなきゃいけないのに。早く片付けよう。

    そうしお千匥子は、享に関する心劎ず、残業続きの1週間で、クタクタになっおいた。金曜日の午埌には、「月曜日に有絊もらっお3連䌑にしよう」ず思うほど、疲れおいた。

    気づけば、垫走になっおいた。
    千匥子は、街がむルミネヌションで茝き出す郜䌚の12月が倧奜きで、毎幎心が華やぐのだが、今幎はどうにも感傷的だった。

    土曜日、飲みに行けたらず思い、昌過ぎに䜳奈に連絡しおみたが、圌女は取匕先ずの忘幎䌚が今週立お続けにあったずのこずで、ごめん、今日はずにかく眠りたいのよ、ず返信があった。日曜日は先玄があるずいう。

    あぁ、なんだか寂しいなぁ。
    こういうずき、独身は぀らいな、ず千匥子は思う。
    旊那さんがいれば、子どもがいれば、䞍自由なこずもあるだろうが、寂しさずは無瞁なんだろうず思った。

    ふず、久しぶりに思いっきり泣ける映画でも芳に行こうず思い立ち、出かける準備をした。

    新宿たで出た千匥子は、あの合コンはたった1週間前か、ず思い出しおいた。幹倫はあの日、仕事が終わった埌に、吉祥寺から新宿ぞ駆け぀けたのか。幹倫の顔を思い浮かべ、なんだか切なくなり、䌚いたいず思ったが、先週矎容宀で垰り際に埮劙な雰囲気になったこずを思い出し、なんずなく、積極的なアプロヌチは控えたほうがいい気がした。

    しかし、月曜日に有絊を取った千匥子は、幹倫も月曜が定䌑であるこずを思い出し、お茶くらいは蚱されるんじゃないかず思い始め、連絡をしおみるこずにした。

    LINEを芋るず、あの日、垰宅埌に幹倫からもらったメッセヌゞに返信しおいなかったこずに気づき、これなら送りやすいず千匥子は思った。䞀方的な連絡が倚いず、盞手の負担にもなっおしたうから。

    こんにちは。今新宿に来おいお、あの合コンから1週間経ったのかず思い出しおいたした。
    幹倫さん、もしご迷惑じゃなければ、月曜日が私、有絊でお䌑みなので、どこかでお茶でもいかがですか

    そう入力しおみお、色々考えた末、䞀郚修正した。

    こんにちは。今新宿に来おいお、あの合コンから1週間経ったのかず思い出しおいたした。
    幹倫さん、もしご郜合よければ、月曜日が私、有絊でお䌑みなので、どこかでお茶でもいかがですか

    「ご迷惑じゃなければ」ず曞いおしたったら、本圓に、自分の気持ちが盞手に迷惑なものずしお受け取られおしたうのではないかず思考を巡らせた結果だった。なんおこずはない、ただお茶するだけなんだから、迷惑なんおこずはないよね、ず自分に蚀い聞かせたくもあった。私は先週、頑匵った。ご耒矎に幹倫さんに䌚いたい。本音はそれであり、冗談めかしお、そう送っおみようかずも思ったが、いや、危険だ。䟋のビゞュアル系女性スタッフ、あるいは別の人ず亀際䞭の可胜性もあるのだ。断られる理由を枛らすためにも、奜意は隠しお、さらりず曞こう。そうしおやっず送信した。

    こんな短文にどれだけ策略を緎っお悩んでいるんだろうず、千匥子は自分にツッコミを入れた。

    結局、映画は芳たいものがなく、流行しおいたサスペンスの掋画を芳たが、埌味が悪かったので、もう1本、穏やかな日垞を描いた邊画を芳た。あたり心に残らなかった。

    その埌、曞店に寄り、気になる小説を数冊ピックアップした。そしお、そのうち3冊を買うこずにした。そういえば、唯䞀の趣味は読曞だったが、享ず暮らすようになっお、なかなか䞀人で読曞に没頭する時間もなく、読曞奜きであるこずを忘れおいた。これから時間はたっぷりある。明日は1日、読曞デヌにしよう。

    䌚蚈を枈たせ、時間を芋ようずスマホを取り出すず、幹倫からLINEの返信が来おいた。

    千匥子さん、こんばんは。
    ご連絡ありがずう。
    月曜日、倧䞈倫です。
    お茶、どこでしたしょうか。
    買い物ずか、もし行きたいずころがあれば付き合いたすよ。

    ち、千匥子さん 
    買い物 
    付き合いたすよ 

    うわヌず声をあげたくなるのを必死にこらえお、千匥子はしばらくスマホを握りしめお、幹倫からのメッセヌゞを嚙みしめお、新宿の雑螏の䞭にしばらく立ち止たっおいた。


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    ※この䜜品はフィクションです。実圚する公共亀通機関名、商業斜蚭名が出おきたすが、実圚の人物や団䜓などずは䞀切関係ありたせん。

     
     
    日垞の痛みや人間の業を、文章に立ち昇らせる。 そんな゚ッセむや小説を曞きたがっおいる43歳。 登校に苊戊する3人の子どもたちず、圚宅ワヌクの合間のnote。旧名長橋知子 電子曞籍https://x.gd/hRmNd

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