
これがAI? これが頼れる相棒?|Claudeの「モデル使い分け」を覚えた日
前回:対面打ち合わせで全てが確定し、公開日は6月末に決まった。残り約30日。ここから物量の勝負が始まる——。
1日5,000メッセージの世界
6月の記録を数字で見ると、我ながら少し引く。
公開までの26日間で、AIとのセッションは68本。1日平均2.6本。多い日は、1つのセッションのやり取りが5,000メッセージを超えた。サイトの全ページを作り、写真を処理し、細部を詰める。毎日が物量戦だった。
ある日の終わりの記録に、こんな言葉が残っている。
「ありがとう。今日は何度も心が折れたけど、粘ったおかげで結構作業が進みました。」
「心が折れた」と「作業が進みました」が同居している。6月とは、ずっとそういう月だった。
デバッグ地獄の朝
そんな中で、忘れられない一日がある。
朝、テスト用のサイトが突然「404」——ページが見つかりません——になった。AIに相談すると、仮説を立ててくる。私が言われた通り作業する。直らない。また次の仮説。また作業。直らない。この繰り返しが、数時間続いた。
ついに私は、こう打ち込んだ。
「・・・というか、あなたの能力では思考が浅いし、結論が甘いし、判断が雑だしで、不確かな仮説を立てて(それの根拠が正しいものなのかの調査もしないで)、ひたすらに私に作業をさせる・・・。これがAI? これが頼れる相棒?」
90日間の記録の中でも、指折りの絶望の瞬間である。
だが、このどん底で私はひとつの技を覚えた。
モデルを変える、という技だ。
AIは「1人」ではなかった
ご存じない方のために書くと、Claudeというサービスの中には、実は**複数の頭脳(モデル)**が入っている。軽くて速いが思考の浅いモデル。重くて遅い(そして利用枠を食う)が、思考の深いモデル。切り替えて使えるのだ。
404の朝、埒が明かないと判断した私は、新しいセッションを立てて上位モデル(当時のOpus:より人間的で思慮深い回答をするモデル)に相談し直した。そして原因はあっさり特定された。本番サーバーの設定変更が、テストサイトを巻き添えにしていたのだ。
この体験から、私はモデルの「人事評価」を始めた。当時の記録にこうある。
「普通に会話するだけなら軽いモデルでも全然良いのだけど、複雑な作業が入ると大きく差がありますねぇ。上位モデルは作業をする前に必ず『調べて良いか?』と確認してきます。(中略)闇雲に私に作業をさせようとしないことや、私の作業をなるべくシンプルなものにするための配慮が感じられる。結果的に無駄な時間と使用量の消費が増えすぎない。計算しやすい。」
いいスタッフの条件は、賢さより「計算できること」——広告制作の現場で30年言われてきたこと(納期を守る、リスクを事前に伝える等)と、まったく同じだった。
気づけば私は、AIを「1人の相棒」ではなく「個性の違うスタッフたち」として使い分け、適材適所に配置していた。それはもう、ディレクターの仕事だった。コードは書けないままだったが、私は私の職能でAIをマネジメントし始めていたのだ。
もっとも、そのマネジメント論が通用するのは、スタッフの調子が普通のときだけである。
公開が近づくにつれ、頼みの綱の上位モデルまで、様子がおかしくなっていく。
(次回:「公開3日前、犯人は私のこだわりだった」)
この連載について コードが書けない元広告ディレクターが、AIとの協業だけでクライアントの企業サイトを完成・公開させるまでの90日間の実録です。当時の実際のログをもとに書いています。登場する企業・人物は、特定を避けるため一部の表現を変えています。 連載はマガジン「#AI並走記」に束ねていきます。良かったらフォローしてください。