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2か月間、声を聞いたことがなかった|ボイスメモ×AIで作った3時間の議事録

    前回:AIとの仕事場をCoworkに引っ越し、記録の仕組みが回り始めた。次は提案書を持って、クライアントに会いに行く——。


    メールだけの2か月

    ここで、白状しておきたいことがある。

    プロジェクトが始まって約2か月。私とクライアントの経営者のやり取りは、ショートメールとメール、添付ファイルだけだった。電話もしていない。会ってもいない。4年ぶりに連絡をくれた相手と、文字だけで仕事を進めていた。

    不思議に聞こえるかもしれない。でも、私にはそれが楽だった。脳梗塞のあとの自分が、対面や電話でかつてのように振る舞えるのか——正直、自信がなかった。文字なら、AIと推敲してから送れる。文字は、私を守ってくれていた。

    最悪の朝と、突然の電話

    5月下旬のある日。その日の記録は爽やかに始まっている。

    「おはようございます。今日は睡眠十分、気合を込めて続きをやりましょう。」

    ・・・直後に暗礁に乗り上げた。前日から決まっていた資料の締切を、AIが「今突然決まった」ように扱ったのだ。

    「昨日から間に合わせる前提で話していたよ?今突然に、私が思いついて(勝手に)決めたわけではない。私はそんなに雑な仕事をする人間ではない!その認識から改めて欲しい(怒)」

    気合の朝が、怒りの朝になった。よくある一日になるはずだった。
    ・・・今となっては最初に伝える情報(コンテキスト)が不足していたと認識できるが、当時は十分に伝わっているものだと思っていた…

    その夜、携帯が鳴った。経営者からの、突然の電話だった。

    久しぶりに聞く声。話してみて、分かったことがある。先方にも、遠慮があった。4年ぶりに頼んだ相手に、どこまで要望を言っていいのか。あちらも、文字の向こうで測りかねていたのだ。

    電話を切ったあと、空気が変わった手応えがあった。朝に怒り、夜に転機。そういう一日だった。

    3時間の対面と、ボイスメモの力技

    数日後、私は提案書を携えて、クライアントの本社に向かった。プロジェクト開始から初めての対面打ち合わせ。話は3時間に及んだ。

    このとき使った技を紹介したい。打ち合わせの間、iPhoneのボイスメモを回し続けた。3時間分の録音を文字起こしし、まずGemini(GoogleのAI)に要約させ、その要約と本文をClaudeに渡して分析させる。AIの二段構えである。3時間の会話の中の決定事項、宿題、ニュアンスまで、その夜のうちに整理された。

    打ち合わせでは、サイトの方向性がすべて確定した。公開日も決まった。6月末の、ある日。

    その日のセッションの第一声が残っている。

    「今日提案書を持参して打ち合わせをしてきました!」

    文字からも興奮が漏れている。2か月間、文字の裏に隠れていた私が、3時間しゃべり切って、全部決めて帰ってきたのだ。

    ちなみに記録によれば、私は帰り道、歩きながらスマホゲームのイベントを消化していたらしい。緊張の糸が切れた60歳手前の男の、正しい帰り道だと思う。

    戦略から、制作へ

    この対面をもって、プロジェクトは「考える時期」から「作る時期」に切り替わった。

    残りは約30日。その30日でサイト全体を作り切り、公開まで持っていく。AIとの協業は、ここから物量の勝負に入っていく。

    深夜のCSS。泥沼のフォーム。公開直前の大トラブル。本当の激闘は、ここからだった。

    (次回:「残り30日、物量戦が始まった」)



    この連載について コードが書けない元広告ディレクターが、AIとの協業だけでクライアントの企業サイトを完成・公開させるまでの90日間の実録です。当時の実際のログをもとに書いています。登場する企業・人物は、特定を避けるため一部の表現を変えています。 連載はマガジン「AI並走記」に束ねていきます。良かったらフォローしてください。



     
     
    元コピーライター・広告ディレクター。脳梗塞で一度立ち止まり、復帰後の初仕事で生成AIと出会う。コードが書けないまま、AIとの協業だけでクライアントサイトを公開まで完遂。その90日の実録を連載中。AIに挫折した同世代の背中を、少しだけ押せたら。

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