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そして誰もCoreWeaveの貸し手を確認していなかった

    OpenAIに646億ドル、CoreWeaveに500億ドルの借金、そして融資団にはDigitalBridge Creditの名前があった

    文・武智倫太郎(週刊バブルウォッチ編集長)

    AIバブルを調べていると、何度も本誌ではお馴染みのNOOトライアングルに迷い込む。

    NOOトライアングルとは、NVIDIA、OpenAI、Oracleで構成されるAI版・魔の三角地帯である。NVIDIAがGPUを売り、OpenAIが猛烈な勢いで計算能力を消費し、Oracleが巨大なデータセンターを用意する。その周囲を銀行、社債投資家、プライベートクレジット、発電会社、送電会社がぐるぐる回り、三角地帯のどこかから抜け出そうとすると、なぜか別の入口から借金地獄のSBGが姿を現す。

    最近では登場人物が増え過ぎて、NOOだけではアルファベットが足りなくなってきた。

    Microsoftもいる。

    かつて鳴り物入りで登場したBing ChatはCopilotになった。私などは、Bing ChatからCopilotへ名前を変えた時点で、家電量販店の売り場で売れ残った商品の上から新しい商品名のシールを貼ったような印象を受けたのだが、Microsoft自身はそんな私の感想には一切構わず、2026年10月にもMicrosoft 365 Copilotを更新し続けている。世間話の主役という意味ではChatGPTほど名前を聞かなくても、企業のMicrosoft 365の中では着々と領土を広げているのである。

    GoogleのGeminiも消えたわけではなく、10月13日にはGemini 4 Argonを出したばかりだ。Grokも10月14日にVoice 3.0を投入している。つまり、私が『最近あまり聞かない』と思っている間にも、向こうは勝手に新製品を出している。

    この辺りがAI業界の困ったところで、一週間ニュースを見なければ旧モデルになり、一か月見なければ会社の戦略が変わり、半年も見なければ以前自信満々に書いたAIの記事が、そのまま考古学資料になる。

    MetaのLlamaに至っては、『Llamaはどこへ行った』と書こうとしたら、最近はMuse WonderだのMuse Spark Openだの、また別の名前が出てきた。こちらがモデル名を覚える速度より、シリコンバレーがブランド名を増殖させる速度の方が速い。

    しかも、アメリカではモデル名どころか、AIそのものの名前まで変わってしまった。

    トランプ大統領は2026年9月29日、大統領令第14434号『Inaugurating the Era of Super Intelligence』に署名し、連邦政府の行政機関に対してArtificial Intelligence(AI)ではなくSuper Intelligence(SI)という呼称を使うよう指示した。さらに10月8日にはTruth Socialで、AIという旧称を使い続ける者をホワイトハウスは『THE ENEMY』とみなす、とまで書いた。

    AIと呼べば敵。

    SIと呼べば味方。

    技術用語にここまで明快な敵味方識別機能が実装されたのは、私の記憶する限り初めてである。

    もっとも、大統領令をよく読むとさらに味わい深い。新しいSuper IntelligenceおよびSIは、当面の間、既存の米国法で定義されているArtificial Intelligenceと同じ範囲の技術を意味すると書いてある。

    つまり、少なくとも法令上は、昨日までAIだったものが翌朝からSIと呼ばれるようになっただけである。名前を変えてもGPUの演算性能が二倍になるわけではなく、ハルシネーションが消えるわけでもない。電力消費量も減らなければ、データセンターの冷却水が半分になるわけでもない。

    そして、ここからが本当に驚くべき話なのだが、この『超知能』の安全性についてGoogle、Anthropic、Meta、OpenAI、xAI、NVIDIAなどの首脳が署名したホワイトハウス協定では、トランプ大統領の肩書が、President of the Unites Statesとなっていた。

    United Statesではない。

    Unites States。

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    Donald J. Trump President of the Unites States

    人類を超える知能の安全性を四重にチェックしようという協定書で、アメリカ合衆国のスペルをチェックする担当者だけが見当たらなかったのである。

    問題は、そのUnites StatesがAIという名称をSIへ変え、『AI』と呼ぶ者まで敵認定している横で、中国勢がまったくお構いなしにAIを安く売り始めていることである。

    DeepSeek、Moonshot AIのKimi K3、AlibabaのQwen。

    アメリカがArtificial Intelligenceという看板をSuper Intelligenceへ掛け替えている間に、中国勢は名称論争にはあまり興味がないらしく、AIモデルを作り、APIを公開し、値段を下げ、世界中の利用者を取りに来ている。

    しかも『安いだけの中国製』と片づけるには、少々具合が悪くなってきた。Intel CEOのLip-Bu Tanは、中国のDeepSeek、Kimi、GLMなどのフロンティアモデルについて、導入が『very fast』に進んでおり、多くの用途では既に『good enough』だと述べている。Kimi K3はアメリカでも低コストの自動化用途などで利用が広がり、ワシントンポストによればDoorDashやAirbnbなどでも採用例が出ている。

    ここは『中国AIの方がアメリカAIより優秀だ』などという単純な話ではない。最先端能力全体では依然として米国勢が優位とする評価もあり、セキュリティ、データガバナンス、輸出規制、国家安全保障、知的財産まで考えれば、企業がAPI単価だけを見て採用を決められるものでもない。

    だが利用者というものは残酷であり、思想ではなく、まず自分の仕事に使えるかどうかを見る。そして使えるなら、次に値段を見る。

    DeepSeekの公式APIでは、DeepSeek V4.1 Flashがピーク時でも100万入力トークン0.30ドル、100万出力トークン1.20ドル。オフピークならさらに半額である。

    その一方、アメリカではAIデータセンターを造るために数百億ドル単位の社債を発行し、GPUを購入するためにSPVを組み、電力が足りないから発電所までデータセンターの横へ持ってこようとしている。

    その横で中国勢が、『APIですか。100万トークンですね。安くしておきますよ』とやって来る。

    AI企業が『我々のモデルは世界最高のベンチマークを達成しました』『人類より賢いSIを作ります』『数千兆のエージェントが世界を変えます』と説明している横で、企業の情報システム部長と経理部長は、もっと地味な質問をする。

    『それで、うちの仕事には十分ですか』

    そして、『一回いくらですか』である。

    同じ仕事が十分な精度でできるのなら、月500ドルより50ドル、50ドルより5ドルの方がよい。最新ベンチマークで3%負けていても、利用料が10分の1なら、企業によってはそちらを選ぶ。

    ここには、アメリカの巨大AI投資が抱える少々厄介な問題がある。

    数百億ドルを借りてGPUを買い、巨大データセンターを建て、電力網を増強し、その設備投資を回収するためには、ある程度高い利用料を長期間取らなければならない。ところが、その設備投資を回収している最中に、別の国から『性能は十分、料金は数分の一』というモデルが入ってくれば、収益計画の前提そのものが変わる。

    データセンターは完成している。GPUも並んでいる。銀行から借りた金も残っている。

    そこへAPI単価だけが下がる。

    設備投資型ビジネスにとって、これはあまり嬉しい話ではない。

    そして驚くべきことに、OpenAIがAIをSIと呼び始めてもAPIの価格競争から免除されるわけではないし、トランプ大統領がAIと呼ぶ者を『THE ENEMY』に指定しても、DeepSeekのサーバーがその投稿を読んで自主的に値上げしてくれるわけでもない。

    そして、ここからが本当に驚くべき話なのだが、会社を倒産させるのは、ベンチマークで二位になったことではない。

    性能競争に負けても、すぐに会社が潰れるわけではない。多少値下げしても、赤字が出ても、投資家や銀行が待ってくれる間は生き延びられる。

    本当に会社を止めるのはもっと地味な話で、給料を払えない、電気代を払えない、社債の利息を払えない、借入金の返済日が来たのに手元資金が足りない、といった資金繰りである。

    AIがどれほど賢くなっても、返済期日は自動的に延長されない。

    こうしてテクノロジー企業の名前だけでも収拾がつかなくなっているところへ、今度は金融屋が入ってくる。

    Blackstone、BlackRock、Pimco、Carlyle、Magnetar、Coatue、DigitalBridge。

    AIモデルの性能比較表を眺めていたはずなのに、気がつけばプライベートクレジットの運用会社一覧を読んでいる。

    いったいどこで道を間違えたのかと思うが、どうやら間違えてはいない。

    AIを追いかけると、最後は金融に着くのである。

    ある会社はAI企業に出資する。別の会社はGPUを売る。そのGPUを買った会社は計算能力をAI企業へ貸し出し、AI企業は何年も先までその計算能力を予約する。ところが、計算能力を提供する会社は契約書を額縁に入れて眺めているだけではGPUを買えないので、GPUそのものや将来のキャッシュフローを使って金融市場から金を借りる。

    そして、その貸し手の一覧を一枚ずつめくっていると、『あれ、この名前、さっき別のところで見なかったか』となる。

    最近のAI産業は、産業地図を見るより巨大な相関図を作った方が分かりやすいのではないかと思う。

    NVIDIAからOpenAIへ線を引き、OpenAIからOracleへ引く。SoftBankからOpenAIへ、NVIDIAからCoreWeaveへ、OpenAIからCoreWeaveへ、銀行やプライベートクレジットからCoreWeaveへ線を伸ばしていくと、DigitalBridgeの名前も出てくる。

    しかも、そのDigitalBridgeを今度はSoftBankが買っている。

    線を一本引くたびに話が分かりやすくなるはずなのに、実際には線を引けば引くほど何も見えなくなっていく。

    おそらく我々が子供の頃に使っていた赤青鉛筆では、色が足りない。

    今回、その巨大な相関図の真ん中に出てきたのがCoreWeaveだった。

    CoreWeaveはNVIDIA製GPUを大量に集め、その計算能力をMicrosoftやOpenAIなどへ提供する、いわゆる『ネオクラウド』企業である。AWSやGoogle Cloudのような巨大な総合クラウドを一から作るのではなく、AI計算に必要なGPUを猛烈な勢いで買い集め、それを必要とする企業へ計算能力として貸し出す。

    そして需要は、桁外れにある。

    CoreWeaveの2026年第2四半期末のRevenue Backlog、つまり将来売上として契約されている残高は1,042億ドルに達していた。その後、第3四半期入り後にも250億ドルを超える新規コミットメントを獲得したと会社は説明している。

    1,042億ドル。1ドル150円なら15兆円を超える。

    この数字だけを見れば、客がいない会社どころか、入口に長蛇の列ができている会社に見える。

    ところがCoreWeaveには、別の方向に同じくらい巨大な数字がある。

    借金、約500億ドル。

    2026年の設備投資計画は350億~390億ドル。年間売上高は約130億ドルが見込まれる一方、約21億ドルの赤字が予想されている。

    つまりCoreWeaveは、将来の売上契約を大量に抱えている一方、その将来へ辿り着くために、現在もっと巨大な設備を先に造らなければならない会社でもある。

    これはAIインフラという商売の性格そのものだ。

    レストランなら、客が増えればテーブルを追加し、厨房を広げればよい。AIデータセンターでは、客が本格的に計算を始める前に、数千億円分のGPUを買い、建物を建て、電力を引き、変電設備を整え、冷却設備を用意しなければならない。

    しかもGPUは、予約客が来るまで倉庫で新品の価値を保ったまま待ってくれる商品ではない。新しい世代が出れば旧世代になり、中古価格は下がり、計算効率でも見劣りするようになる。

    驚くべきことに、GPUが古くなっても、それを買うために借りた借金の元本まで一緒に古くなって値下がりしてくれるわけではない。

    そこでCoreWeaveは、金融市場から大量の資金を集めてきた。

    10月15日、ロイターがCoreWeaveの大型契約と資金調達先を一覧にしてくれたので眺めていると、私がここ数週間ずっと追いかけてきた名前が、融資団の中からひょっこり顔を出した。

    DigitalBridge Credit。

    2023年8月、CoreWeaveはNVIDIA製GPUを担保に23億ドルを調達した。その融資にはMagnetar Capital、Blackstone、Coatue、BlackRock、Pimco、Carlyleなどの錚々たる名前とともに、DigitalBridge Creditも参加していた。

    翌2024年5月には、さらに75億ドルの大型融資を実施した。

    そこにもDigitalBridge Creditがいた。

    DigitalBridge。

    最近どこかで見た名前である。

    SoftBank Groupは2026年9月30日、DigitalBridge Groupの全普通株式を約31億ドルで取得し、子会社化した。DigitalBridgeはデータセンター、通信タワー、光ファイバー、エッジインフラなどを対象とするオルタナティブ資産運用会社であり、買収後もMarc Ganziの下で独立した投資プラットフォームとして運営される。

    DigitalBridge CreditがCoreWeaveへ23億ドルや75億ドルを単独で貸したわけではない。23億ドルと75億ドルは融資総額であり、DigitalBridge Creditは多数の投資家の一社として参加したにすぎない。DigitalBridge自身がいくら引き受け、その債権を現在もどれだけ保有しているのかは、今回のロイター報道だけでは分からない。

    さらに、この融資はSoftBank GroupによるDigitalBridge買収の二年以上前に行われている。

    したがって、『孫正義がCoreWeaveに金を貸していた』という話ではないし、『SoftBankがOpenAIへ出した金がCoreWeaveへ流れ、そのCoreWeaveにSoftBankがまた貸していた』という循環が確認されたわけでもない。

    しかし、それぞれ別々に行われた取引を同じ地図の上へ置いていくと、ピンとピンの間隔がだんだん短くなってくる。

    SoftBank GroupはOpenAIに累計646億ドルを投じた。

    OpenAIはCoreWeaveと複数の長期契約を結んでおり、その総額は約224億ドルに達する。

    CoreWeaveは、その計算能力を用意するために数百億ドル規模の負債を積み上げている。

    その過去の大型GPU担保融資にはDigitalBridge Creditが参加していた。

    そして2026年9月30日、そのDigitalBridge GroupそのものをSoftBank Groupが買収した。

    時期も違えば契約も違う。当事者も違い、法律上も会計上もそれぞれ別の取引である。

    だからこそ、一本の矢印で全部を結ぶのではなく、一本ずつ確認しなければならない。

    CoreWeaveとOpenAIの関係だけを見ても相当大きい。

    2025年3月に最大119億ドル、同年5月に最大40億ドル、さらに9月には65億ドル。合計すると両社の契約規模は約224億ドルになる。

    CoreWeaveから見れば、OpenAIは将来の売上を支える巨大顧客である。そのOpenAIに世界最大級の資金を投入しているのがSoftBank Groupであり、SoftBank Groupが買収したDigitalBridgeの信用投資部門は、SoftBankが買収するはるか以前からCoreWeaveの大型融資団に参加していた。

    この辺りまで来ると、文章だけで説明するより本当に相関図を描いた方が早い。

    しかもCoreWeaveの相関図には、NVIDIAというさらに大きな丸を描かなければならない。

    NVIDIAはCoreWeaveの初期投資家で、約10%を保有する第2位株主でもある。そして2025年には、CoreWeaveが販売しきれなかった計算能力を2032年まで最大63億ドル購入する契約まで結んだ。

    NVIDIAはGPUを売り、CoreWeaveはそのGPUを買う。買ったGPUをデータセンターへ並べて計算能力としてOpenAIやMicrosoftへ売る。一方のNVIDIAはCoreWeaveの株式も持ち、CoreWeaveの計算能力が余れば、契約の範囲内で自ら買い取る。

    ただし、驚くべきことに、NVIDIAがCoreWeaveのGPUを全部買い取ってくれるわけではない。さらに驚くべきことに、最大63億ドルの計算能力購入契約があるからといって、CoreWeaveが抱える約500億ドルの負債までNVIDIAが保証してくれるわけではない。

    NVIDIAのジェンスン・フアンCEO自身、CoreWeaveの財務状態は改善しており、NVIDIAが追加で財務的なバックストップを提供する必要はないとの認識を示している。

    ここで区別しなければならないのが、売上契約と債務保証である。

    1,000億ドルを超える受注残があるのは強い。しかし、その1,000億ドルが今日、銀行口座に現金で入っているわけではない。

    2032年までの長期契約があるのも強い。しかし、2032年まで現在のGPUが現在と同じ価値を保つと保証しているわけではない。

    NVIDIAが余剰計算能力を一定額まで買う契約も心強い。しかし、それはCoreWeaveの社債元本をNVIDIAが代わりに返済する契約ではない。

    驚くべきことに、契約書というものは契約書に書いてある範囲のことしか保証してくれない。

    そして、これは契約書としては何も驚くべきことではない。

    ところが信用市場は、この当たり前の違いを急に気にし始めた。

    CoreWeaveの2031年償還社債の市場利回りは一時約16%まで上昇し、CDS、つまり債務不履行リスクを移転する保険料に相当する指標も約1,000ベーシスポイントに達した。

    CDSが1,000ベーシスポイントだからCoreWeaveが明日倒産する、という話ではない。それでも、市場が数カ月前よりはるかに高い信用リスクを価格へ織り込み始めたことは確かである。

    CoreWeaveのMike Intrator CEOは社員向けメモで、1,042億ドルの受注残は債務を十分に支えられるとして、市場が誤解し、ときには非合理的に動くことがあると説明した。

    それも分かる。

    1,000億ドルを超える契約残高を持ち、第3四半期入り後にも250億ドル以上の新規コミットメントを獲得した会社に対して、『借金が500億ドルあるから明日倒産する』という話ではない。

    ただし、債券市場が聞いている質問は『仕事はありますか?』ではない。

    『その仕事から入ってくるキャッシュフローで、この金利を払い、設備投資を続け、それでも期限までに元本を返せますか?』なのである。

    私はここ数週間、この問題をBankability(投融資可能性)、Executability(事業実現可能性)、Profitability(収益性)、Repayability(返済可能性)という順番で説明してきた。

    受注残は投融資可能性を支える。契約があれば金融機関も金を貸しやすい。資金を集めればGPUを買い、データセンターを造り、設備を完成させる事業実現可能性が高まる。設備が予定通り稼働し、契約通り売上が立てば収益性の議論へ移る。

    しかし、売上が立つことと十分な利益が残ることは同じではなく、利益が出ることと元利金を契約通り返せる返済可能性も同じではない。

    AI産業は、昔からあるこの当たり前の順番を、かつて見たことのない巨大な数字で実験している。

    しかも、CoreWeaveだけの話ではなくなってきた。

    10月15日のロイター報道では、AIデータセンター関連企業の資本市場にも変化が表れ始めている。NVIDIAが支援するFirmusのIPOは取りやめられ、Blackstoneが支援するAirTrunkのREIT上場は延期され、SoftBankが支援するSB Energyの上場計画も現在は一時停止・延期組に入っている。

    だからといってAI需要が消えたわけではないし、データセンターが余り始めたわけでもない。OpenAIが突然『もう計算しません』と宣言したわけでもない。

    市場が聞く質問が変わり始めたのである。

    これまでは、『AIはどこまで成長するのか』だった。

    今はそこへ、『その成長を作るために、いくら借り、いくら利息を払い、最後にいくら残るのか』という、ごく普通の質問が戻ってきた。

    2026年のアジアにおけるデータセンターM&Aは、10月半ばまでに213億ドルへ達し、既に2025年通年の100億ドルを大きく上回っている。

    金はまだ動いている。案件もある。需要もある。

    だからバブルが今日終わったという話ではない。

    むしろ面白いのは、需要が依然として猛烈に強いにもかかわらず、信用市場と株式市場が少しずつ『値段』を気にし始めたことである。

    これはSoftBank Groupにも無関係ではない。

    SoftBankは9月、OpenAIへの追加投資などを目的に総額111億ドル規模のハイイールド社債を発行した。最も高いクーポンは9.75%。

    SoftBank Investment AdvisersのAlex Clavel CEOは、OpenAIのこれまでの企業価値上昇を考えれば、この9.75%という調達コストも合理的だと説明している。

    値上がりすると考えている資産を売るより、金を借りて持ち続けた方がよい。

    OpenAIの企業価値が年20%、30%、あるいは数年で何倍にも上昇するなら、年9.75%で借りても保有を続けた方が得になる可能性は十分にある。

    ところが驚くべきことに、OpenAIの企業価値が上がらない年でも9.75%の利息は発生する。

    OpenAIのIPOが延期されても利息は発生する。Arm株が下がっても発生する。CoreWeaveの社債利回りが16%になっても発生するし、AIデータセンター企業のIPOが延期されても、既に発行した社債の利払日まで延期されるわけではない。

    未来の企業価値は未来にならなければ分からないが、利払い日はカレンダーを見れば今でも分かる。

    金融とは、夢の実現時期には比較的寛容なのに、支払日には妙に几帳面なのである。

    10月16日、SBG株は4,944円で取引を終え、前日の9.33%急落から1.90%反発した。

    株価画面だけを見れば、市場は少し落ち着いたようにも見える。

    しかし、CoreWeaveが投げ掛けた問題は、株価が一日反発したからといって消える性質のものではない。

    AI需要があるから巨大な長期契約が結ばれる。その契約を根拠に金を借り、借りた金でGPUを買い、GPUをデータセンターへ並べて計算能力を提供し、顧客から売上を得る。そして次世代GPUを買うために、また金を借りる。

    この循環自体は理解できる。

    ただ、循環が巨大化し、何周も回り始めると、誰が投資家で、誰が顧客で、誰が設備を売り、誰が金を貸し、誰が余剰能力を買い取り、誰が担保を持ち、最後に誰が信用リスクを引き受けているのかが、一枚の決算書だけでは見えなくなる。

    OpenAIへ646億ドルを投じるSoftBank。

    OpenAIへ224億ドル規模の計算能力を提供するCoreWeave。

    CoreWeaveへGPUを売り、株式を持ち、余剰計算能力の一部を買い取るNVIDIA。

    そのCoreWeaveの過去の大型GPU担保融資に参加していたDigitalBridge Credit。

    そして、そのDigitalBridge Groupを9月30日に買収したSoftBank Group。

    どの矢印にも、それぞれ理由がある。

    出資には出資の理由があり、融資には融資の契約があり、計算能力の購入には需要があり、買収には戦略がある。

    同じ企業名が何度も登場するというだけで循環取引だと決めつけることはできない。

    しかし、関係が複雑になればなるほど、相関図を描く必要は大きくなる。

    投資なのか、融資なのか。長期購入契約なのか、最低購入保証なのか。担保なのか、リースなのか。エクイティなのか、クレジットなのか。

    外から見れば、どれも『AIに巨額の金が流れた』という一文にまとめられてしまう。

    しかし、その違いによって、最後に損失を引き受ける人間が変わる。

    私はここ数週間、OpenAI、SoftBank、Arm、GPU、データセンター、発電所、社債、ブリッジローンを追いかけてきた。

    そしてCoreWeaveの融資先一覧を見ながら、AIバブルを理解するために本当に必要なのは、企業価値ランキングでもGPU性能表でもないような気がしてきた。

    必要なのは、巨大なホワイトボードである。

    OpenAIを書き、その横にSoftBankを書く。CoreWeaveを書く。NVIDIAを書く。DigitalBridgeを書く。Microsoftを書く。銀行、保険会社、プライベートクレジットを書く。

    そこへ色の違うペンで、出資、融資、購入契約、保証、担保、リース、社債と書き分けながら一本ずつ矢印を引いていく。

    そして、その矢印の一番最後に『誰が元本を返すのか』と書く。

    驚くべきことに、AIは非常に高度な技術である。

    さらに驚くべきことに、そのAIを動かす金融も恐ろしく高度になった。

    ところが、ここからが本当に驚くべき話なのだが、金を貸した相手と、最後に誰が返すのかを確認するという作業そのものは、メソポタミアで粘土板に借金を書いていた頃から、それほど変わっていないのかもしれない。

    そして誰もCoreWeaveの貸し手を確認していなかった。

    ― 完 ―

     
     
    情報工学者/週刊バブルウォッチ編集長/『哭きの禿』原作者。 AI、金融、国際政治から日常の珍事まで、真面目に調べて、おかしく書く。 代表作『ボルガレナのボルチンスカヤ』 https://note.com/aiethics496/n/n8d4f9aef7c04

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