
迎え火オペラ【毎週ショートショートnote】
古い洋館に、顔を隠して暮らす女がいた。
かつてこの館には、オペラ座の怪人と呼ばれた男が住んでいたという。
女は毎年、迎え火を焚く。
赤ワインに火を注ぐようにして、静かに炎を灯した。
炎が揺れるたび、大きな鏡の奥に、仮面の男が浮かび上がる。
彼は何も言わない。
ただ、女に深く頭を下げる。
その夜、男は星に願った。
――俺の声をやろう。
――この顔も、もういらない。
――どうか、彼女を幸せに。
炎が、すっと消えた。
コン、コン。
扉を開けると、そこには美しい男が立っていた。
女はただ、静かに彼を見つめた。
男は声を失っていた。
ゆっくりと女の顔を覆う布を外し、傷跡に唇を重ねる。
女の顔から、傷が消えていく。
その瞬間、
鏡の中から――
仮面だけが、床に落ちた。
女は初めて、自分の顔を見た。
そして、男の頬に触れる。
指先が、なぞる。
――同じ場所に、同じ形で。
男は微笑んだ。
声のない、最後のオペラが始まった。
あとがき
オペラ座の怪人をふと思い出した。
こんな彼を、愛する女性がいてもいいよね。
そう思って、この物語を書きました。
田原 にかさんのお題『迎え火オペラ』
に参加させていただきました。
いつもありがとうございます😊
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