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【回復の記録㉖】雲の上に浮かぶ|安心という土台で、存在ごと愛される

    回復の記録|鎧を脱ぎ、愛へ還るまで 26話目。

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    BGMを流しながらどうぞ。


    私はずっと、 快感を味わうことは「溺れること」だと思っていた。
    どこか汚れて、堕ちていく。そんなイメージがあった。

    確かに、安心できる関係や境界線がなければ、人は簡単に流されてしまう。
    けれど、安全な場所で、互いの意思が守られているとき。
    そこにあるものは、私が思っていた「溺れること」とは、まったく違っていた。

    そもそも、男女の交わりの中で、 女性が満たされたり、気持ちよくなれたりするということをよく知らなかった。

    ただ我慢するもの。
    相手を受け止めるための時間。
    ずっと、そう思っていた。

    私はずっと、愛されることに自信がなかった。
    自分の身体にも、深いコンプレックスを抱えていた。

    女性らしくない。 肉付きもよくない。
    顔だって可愛らしいタイプではない。
    口は悪く、性格も曲がっていて、怒りっぽい。
    ご飯を作らず、夫を困らせてばかりいる。

    だから私は、愛される資格なんてない人間なのだと思っていた。
    一人で生きていくしかない。
    感情が不安定な私なんて、きっと誰も手におえない。
    恋愛も疲れてよくわからないし、結婚もきっとできない。

    そう思っていたのに。
    そんな私が結婚できた。
    今振り返っても、それは私にとって奇跡のようなことだった。

    でも。
    安心できる人と結婚したからといって、すぐに全部が自由になったわけではない。
    10年近く、私は自由になれていなかった。

    私たちは二人とも基本的に仕事人間。
    やるべきことがあると集中してしまう。
    そして、夫婦関係が二の次三の次になってしまう。

    生きること。働くこと。
    店を続けること。目の前のことをこなすこと。
    そういうことに必死で、夫婦のことは、いつも後回しになっていた。

    「安心できる人がいる」と「その安心を、自分の身体でも受け取れる」は、別のことだったのだと思う。


    バレンタインの日。
    私たちは、初めて本当の意味で向き合った。

    けれど、あれはまだ始まりに過ぎなかった。
    そこから首を痛めたり、夏の繁忙期に入ったりして、また少し距離ができた。

    しばらく寂しい思いをしていた間、私は、夫に嫌われてしまったのかと思っていた。心当たりしかなかった。
    やっぱり愛される資格なんてないのかな。そう思い始めていた。

    でも、彼は私を拒絶していたわけではなかった。
    ただ、仕事に追われて、疲れていただけだった。


    夏が終わり、静けさが戻ってくる。
    シルバーウィーク直前の、そんな夜のことだった。

    官能小説を書いていたこともあり、 私の内側には、静かな熱がくすぶっていた。
    夫と触れ合いたかった。 けれど、疲れて早く寝てしまう彼を横目に、寂しい日が続いていた。

    2日間の休みでしっかり睡眠をとれた夫は、ようやく元気を取り戻したようだった。

    もう何年も美容院に行っていない彼の髪を、 私がいつものようにカットし、ヘナ染めをする。
    ボウルに残ったヘナを見て、ふと思った。 「私にも、塗って」

    夫の膝の上に座る。
    彼にヘナを塗ってもらうのは、初めてのことだった。

    ヘナの香り。膝から伝わる体温。いつもの家の中。

    塗り終わったあとも、膝の上に座り続けた。
    後ろから彼の両手が私の胸を包み込む。
    私もまた、手を伸ばして彼の股に触れる。
    言葉なんて、要らなかった。 それだけで、始まるのには十分だった。

    お互いに急いでシャワーを浴び、バスローブを羽織る。
    濡れた髪を乾かし、ベッドを整える。

    ベッドに座った彼の膝の上に、私が座る。
    バスローブの隙間から、するりと温かい手が差し込まれた。

    そのまま、ベッドへ倒れ込み、いつも通りの交わりのはずだった。
    けれど、いつもと違っていたのは、私の方だった。

     
     
    夫婦で飲食店を営みながら、実体験をもとに創作と記録のあいだを綴っています。 スキとフォローの返しはしておりません、すみません。 INTP-T / Cool Winter(旧名:深海のアンコウ女)

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