
神社散歩#29(阿豆佐味天神社)
阿豆佐味天神社(あずさみてんじんしゃ)
所在地
東京都立川市砂川町4-1-1
主な御祭神
少彦名命(すくなひこなのみこと)
天児屋根命(あめのこやねのみこと)
猫返し神社として有名なこちら。
タイミングが合えばいつかお参りしたいと思っていた。
縁あって青梅に行くことができ、立川に寄る時間もなんとか作ることができた。

凛々しいタイプの狛犬

横長で開放感がある
社務所が閉まる少し前だったこともあってか、人影もまばら。
時折吹く強い風に葉の擦れる音が聞こえる。
重厚で静かな雰囲気の漂う境内は、厳かだがどこかのんびりした空気が流れていた。
普段はジャズピアニストの山下氏が奉納した越天楽が流れているらしいのだが、この時は流れていなかったのか耳に入っていなかったのか、全く記憶にない。
ただただ風と葉の音だけが印象に残っている。


前述の通り、間もなく社務所が閉まろうかという時間だったため、拝殿でご挨拶した後は取り急ぎ御朱印をいただく。
その後ゆっくり境内を回った。

境内の説明書きによれば、「あずさみ」という名称は「安心して生活できるとても良い所」という意味だそうだ。
なるほど確かにどっしりと落ち着きのある素敵な神社だ。
天神社とあるので菅原道真公を祀っているのかと思ったら全くそんなことはなく、「あまつかみのやしろ」という意味での天神社だそうだ。

丸みを帯びた優しいフォルムの狛犬氏
境内社は全部で九社。
単独で社が存在するのは、神社名にも併記される立川水天宮のみ。
箱庭のような小路を通った最奥に鎮座している。
歯固め石納め所などもあり、七五三などでは大いに賑わうのだろう。

豊之泉と立て札のある手水鉢

その昔、青梅周辺は桑畑が多かったのだそうだ。
青梅にほど近いこの地も、以前は養蚕業が盛んだったのだろう。
蚕影神社の存在が、在りし日の面影を今に伝えている。
そしてその養蚕業の益獣たる猫様も、願いの中身こそ移り変わりはすれど、いまだ篤く信仰されている。

かわいい
撫でてあげるといいらしい
猫返し神社と呼ばれるようになったのは、ジャズピアニストの山下洋輔氏の飼い猫が行方をくらませてしまい、蚕影神社に神頼みをした実体験が元ネタであるのは非常に有名な話だ。
境内で流されている越天楽は、猫が無事に戻ってきたことへのお礼として奉納されたという逸話がある。
氏がメディアで猫返し神社として紹介したことを契機に、多くの人が猫の願掛けをしに訪れるようになった。
この「ただいま猫」の石像は猫を愛する人間の想いの象徴と言えるだろう。
周囲に掛けられた膨大な数の絵馬には、猫に関する様々な願いやお礼が描かれているのがその証左だ。
幸い、飼い猫が行方不明になってしまった経験が私にはないので、我が家の老いた愛猫の健康を願った。
もし、今この瞬間も何らかのアクシデントで家に帰れなくなってしまった子がいるのであれば、そんな事故が少しでも減ることを切に願う。
この蚕影神社のお社は合祀社となっていて、この他に八雲神社・疱瘡社・稲荷社・金刀比羅社・浅間神社などが合祀されている。
帰り道、保護猫活動に携わる相棒が言った。
「引き渡す側としてはただいまされたら困るけど、もっと幸せになれる家族のところに行けるんなら、ただいまされてもいいかも知れない」
保護猫の引き取り希望者は、そこそこ厳しめの審査を経て許可が出れば引き取ることができる。
が、様々な理由で保護猫施設に戻ってきてしまう子もいる。
審査の厳しさが不満という形でSNSなどにあげられることがあるが、引き渡し側はペットショップではないし、引き取り希望者はそのお客さんではない。
引き取ってもらいたくて審査するのではなく、動物が安全で安心して過ごせるかどうか、引き取り希望者に責任と覚悟が見えるかどうかを審査しているのだ。
娘を嫁にやる親の気持ちを具体化してシステマチックにしたもの。という表現が近い。
嘘をついて色々な目的から猫を引き取ろうとする人間もいるし、怠慢から約束した対処・対策をしない人間もいる。
猫の性格は人間同様千差万別だし、病を抱えていることもある。
そもそも猫との相性が合わない場合もある。
猫が人間に合わせることはほぼ不可能だが、人間が猫に合わせられることは多い。
猫に限らず、引き取るのならば生活を生き物に合わせる相応の覚悟が必要なのだ。
数年前に訪れた写真展で、ある一枚の写真に衝撃を受けた。
その写真は、保健所で殺処分される直前の一匹の犬を写した写真だった。
肋の浮いた痩せ細った体で力なくレンズを見つめる悲しげな瞳が脳裏から離れない。
思い出すと今でも涙が出てくる。
この子は何のために生まれたのだろうか。
この子が何をしたというのだろうか。
愛されることも、楽しいことも、美味しいものも知らずにこの子の生は終わったんだ。
そう思った。
あの怯えた瞳を忘れることは一生ない。
多種多様な生き物が気軽に飼えるようになった裏では、多くの小さな命が軽んじられている現実がある。
特に保護された動物は、多頭飼育の崩壊を始めとする生活環境の急変、悲惨な事故など、死の間際の極めて過酷な状況から救助された子も多い。
その子達が再び同じ目に遭うようなことがあってはならない。
生き物を飼うということの重さ、命の責任を負うということの重大さをよく考えて欲しいものだ。
保護動物達にとって、引き取り先が生涯の「あずさみ」となることを心から願う。
そんなことを思った帰り道は、いつの間にかマジックアワーを迎えていた。

少彦名命(すくなひこなのみこと)
医療、湯治、酒、知識、石など多くの権能を持つ神。
オオナムチ(オオクニヌシ)と義兄弟になって共に国造りを行った神としてもよく知られている。
登場時は正体不明の謎の神だったが、造化三神の一柱カミムスヒが自らの子だと伝えた。
オオナムチのオオとスクナヒコナのスクナが対の関係になっていることから、本来一柱であるとする説や、双子であるとする説などもあり、関係性については今なお議論の及ぶところ。
天児屋根命(あめのこやねのみこと)
中臣(藤原)氏の祖神として春日神とも呼ばれる。
天岩戸の伝説において、岩戸の前で祝詞を上げアマテラスが岩戸を少し開いた際に鏡を差し出す役割で登場する。
天孫降臨ではニニギに随伴した。
神事、文学、芸術の他、藤原氏の繁栄にあやかって出世の神様としても知られる。