
続・ある平和なひとときの記録
荒船又右衛門は悲しんだ。
日課である広大な庭での昼寝に、邪魔が入ったのだ。
庭の南側に高層マンションが建ち、日陰ができてしまった。
全身に陽光を浴びて寛いでいたのに、日陰で寝ていては風邪をひいてしまう。
又右衛門は苦慮の末、日陰になった部分の土地を売却することにした。
残された日向で、又右衛門は相変わらず昼寝を楽しんでいた。
数年後、かつて売却した土地にも新たな高層マンションが建ち、残りの庭まで日陰で覆われてしまった。
世を儚んだ又右衛門は、庭に日焼けマシンを設置し、人工の日向ぼっこを楽しむことにした。
しかし、過度に紫外線を浴びたため、又右衛門は持病の高血圧が悪化して、身体の自由がきかなくなり、日焼けマシンから出ることができなくなってしまった。
ある日、そこに一匹の猫が迷い込んできた。
猫は、日焼けマシンの中で心地よさそうに横たわる又右衛門を見つけると、お腹の上に乗ってすやすやと寝息をたてはじめた。
又右衛門は白日夢をみた。
怖い夢だった。
目が覚めてお腹が重いことに気が付いた。
はじめ胃もたれかと思ったが、見ると猫がお腹の上で気持ち良さそうに寝ているではないか。
お腹の上に手を乗せて寝ると怖い夢を見ることを思い出して、又右衛門は苛立った。
猫をベルトで縛り動けなくしてしまった。
猫は目を覚ますと、自分の置かれている状況を察知して声を荒げた。
「おい、又右衛門。お前はどうしてオレを縛ったんだ?」
又右衛門は動ぜず、同じくらいの苛立ちを込めて返事をした。
「わしが動けないので、お前にも同じ思いをさせてやろうと思ってな」
「ふん、そうかい。それでオマエが満足ならそれでいいんだ」
猫はふて寝を決め込んだ。
幸いなことに、手を伸ばせば届く場所に完全栄養食チュールペットが大量に用意してあった。
又右衛門は猫とチュールペットを分けあって、もはや苦痛でしかないお昼寝を続けた。
その後は体力勝負の様相を呈してきたが、猫の方が先に衰弱した。
「おい、ネコ」
「なんだよ、又右衛門」
「ベルトを外してやったから、オマエは帰ってもいいぞ」
「そうか。でも、もう動けないんだ」
「ダメなのか?」
「ああ、もう、ダメそうだ」
猫が言った。
「でも……」
猫はか細い声で続けた。
「今でもべつにおまえのことを怒ってはいないんだ」
奇しくもそれは、
岩場に閉じ込められたカエルが、自分を閉じ込めた山椒魚に最後に放った言葉とかぶっていた。

※調べたら、山椒魚のラストは全集収録にあたり、この台詞ごと削られてしまったようです🥵
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