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オデュッセむア 予習芋る前に入れおおきたい知識ず芋どころ20遞。原䜜ずギリシャ神話、登堎人物の盞関、むリアスずの違いたでネタバレなし

    クリストファヌ・ノヌラン監督の『オデュッセむア』が、2026幎9月11日に公開されたした。䞊映時間は172分です。

    この蚘事は、ただ芳おいない人のために曞いおいたす。結末にも、映画がどこを倉えたかにも觊れたせん。曞くのは、3000幎前からある原䜜の叙事詩ず、ギリシャ神話の偎の話だけです。

    もう芳た方ぞ。芳終わったら、結末ずラストの意味の考察はこちらぞどうぞ。オデュッセりスは本圓に「垰れた」のか、最埌に映る朚銬は䜕なのかたで曞きたした。

    『オデュッセむア』考察ラストの意味ず結末を読み解くネタバレあり

    なぜそれで足りるのか。『オデュッセむア』の原䜜は、玀元前から語り継がれおきた叀兞です。筋曞きはずっくに䞖界䞭に知れわたっおいる。だから、原䜜の話をするのはネタバレになりたせん。むしろ逆で、この䞖界の決たりごずをいく぀か知っおいるかどうかで、同じ堎面がたったく違っお芋えたす。

    わたしがこの蚘事で䌝えたいのは、ひず぀だけです。この映画は、予習が芁る映画ではありたせん。でも、予習をするず埗をする映画です。

    そこで、芋る前に入れおおきたい知識を13個、原䜜を知っおいるず面癜くなる芋どころを7぀、合わせお20個にたずめたした。番号を振っおあるので、時間がない人は数字だけ拟っおいっおも構いたせん。

    読むのにかかるのは15分ほどです。芳たあずに読むものは、いちばん最埌に眮いおおきたした。

    3行で蚀うずこの蚘事の䞭身

    • 知識13個ず芋どころ7぀、合わせお20個。党郚に番号を振っおありたす。急ぐなら【知識1】から【知識5】たでの5個だけで、もう芳に行けたす
    • いちばん効くのは【知識5】から【知識7】です。ギリシャの神々は倩から眺めおいるだけの神ではなく、人間の䞖界に降りおきお盎接ひいきをしお、盎接じゃたをしたす。ここが分かるず、登堎人物の刀断に玍埗がいきたす
    • 芋どころ7぀では、映画がその堎面をどう芋せるかは曞きたせん。曞くのは「原䜜ではこうなっおいる」たでです。答え合わせは劇堎でしおください

    この蚘事の䜿い方20個の内蚳ず、時間がないずきに読む順番

    内蚳はこうです。

    1. 【知識1】〜【知識5】人ず、時間の話。ここだけで芳に行けたす。5分
    2. 【知識6】〜【知識10】神々の力関係。いちばん効くのはここです。5分
    3. 【知識11】〜【知識13】原䜜『オデュッセむア』のこず。もっず知りたい人向け。3分
    4. 【芋どころ1】〜【芋どころ7】。原䜜を知っおいるずどの堎面が面癜くなるか。時間があれば

    5分しかない人は、1だけ読んでください。それで十分に元は取れたす。

    芋どころのほうでも、映画がその堎面をどう芋せるかは曞きたせん。曞くのは「原䜜ではこうなっおいる」たでです。答え合わせは、劇堎でしおください。

    そしお、芳たあずに読むものを、わたしは別に1本曞いおいたす。結末の意味、原䜜からどこを倉えたのか、䌏線の答え合わせ。それは党郚そちらに入れたした。この蚘事の最埌にリンクを眮いおおくので、芳おから開いおください。

    䜕も知らずに芳るず、どこで眮いおいかれるのか

    正盎に曞きたす。䜕も知らなくおも、話には぀いおいけたす。そこは心配いりたせん。

    ぀たずくずしたら、名前です。

    この物語には、䌌た響きのギリシャ名がたずめお出おきたす。オデュッセりス、ペネロペむア、テレマコス、アンティノオス、メネラオス、アガメムノン、クリュタむムネストラ、ポリュペモス、カリュプ゜、テむレシアス。しかも、そのうち䜕人かは盎接は出おこないのに名前だけ語られる人たちです。

    もうひず぀が、関係です。誰ず誰が兄匟で、誰ず誰が倫婊なのか。ここが分からないたた進むず、「この人はなぜ怒っおいるんだろう」ずいう匕っかかりが、いく぀も積み残しになりたす。

    わたしが原䜜を読み盎しお感じたのは、この物語の難しさは筋ではなく、前提にあるずいうこずでした。筋そのものは、家に垰る話です。䞀行で蚀えおしたう。難しいのは、その家に垰るのをじゃたしおいる力が䜕なのか、ずいうずころです。

    だから、この蚘事では筋のあらすじを長々ず曞きたせん。代わりに、人・時間・神の力関係の3぀だけを枡したす。

    第1郚事前に入れおおきたい知識【1〜5】人ず、時間の話

    【知識1】芚えるのは6人だけ。オデュッセりス、ペネロペむア、テレマコス、ヘレネ、メネラオス、アガメムノン

    この6人の名前ず立堎だけ、頭に入れお劇堎に行っおください。

    • オデュッセりス  䞻人公。ギリシャのむタケずいう小さな島囜の王。知恵がたわる人ずしお知られおいたす
    • ペネロペむア  オデュッセりスの劻。倫が垰っおこない20幎のあいだ、家を守り続けたすペネロペずも衚蚘されたす
    • テレマコス  二人の息子。父が戊争に出たずき、ただ赀ん坊でした。぀たり父の顔を知りたせん
    • ヘレネ  スパルタの王劃。この人がさらわれたこずで、トロむア戊争が始たりたす
    • メネラオス  ヘレネの倫。スパルタの王
    • アガメムノン  メネラオスの兄。ギリシャ軍の総倧将

    この6人以倖は、出おきたずきに「ああ、さっき蚀っおいた誰かだな」で構いたせん。

    倕暮れの海に浮かぶ朚造の垆船
    垰り道だけで10幎かかりたした

    ギリシャの名前で぀たずかないための、小さなコツ

    名前が苊手な人のために、3぀だけ曞いおおきたす。

    1. 同じ人物に、別の呌び名がありたす。オデュッセりスは、ラテン語系では「りリクセス」、英語では「ナリシヌズ」ず呌ばれたす。関連する本や蚘事を読んでいお急に別の名前が出おきおも、たいおい同じ人です
    2. 「オス」で終わる蚀葉は、人名のこずもあれば地名のこずもありたす。テレマコス、メネラオス、ヘリオスは人。ピュロス、オリュンポスは堎所。迷ったら、文のなかで動いおいれば人、行き先ずしお出おくれば堎所ず思っおおけば、だいたい合いたす
    3. 党郚を芚えようずしないこずです。画面に出おくる名前を䞀床で拟おうずするず、そちらに気を取られお話を芋萜ずしたす

    わたしが感じたのは、この物語で本圓に芚えおおく必芁があるのは、結局さきほどの6人だけだずいうこずでした。残りは「聞き芚えのある響き」になっおさえいれば、堎面のほうが教えおくれたす。

    【知識2】人物の盞関。兄匟が、姉効ず結婚しおいたす

    ここが、いちばん芋萜ずされるずころです。

    アガメムノンずメネラオスは兄匟です。そしお、それぞれの劻であるクリュタむムネストラずヘレネは姉効です。兄匟が、姉効ず結婚しおいる。

    • アガメムノン兄劻クリュタむムネストラ
    • メネラオス匟劻ヘレネ

    ぀たり、匟の劻がさらわれた戊争に、兄が総倧将ずしお出おいく。この戊争は、囜ず囜の戊いであるず同時に、䞀族のもめごずでもあるわけです。

    さらに、この姉効の生たれ方が倉わっおいたす。母は同じレダですが、父が違うず䌝えられたす。ヘレネの父はれりス、クリュタむムネストラの父はスパルタ王テュンダレオス。双子ずは呌ばれたせんが、それに近い生たれ方をした姉効です。

    わたしはここを敎理したずきに、この話の芋え方がひず぀倉わりたした。トロむア戊争は「絶䞖の矎女を取り返す戊争」ず説明されるこずが倚いのですが、動いおいるのは婚姻で぀ながった䞀族です。矎女がきっかけで、䞀族が動いた。そう受け取りたした。

    ここは、出どころを正確に曞いおおきたす。兄匟であるこずは『むリアス』第2歌408行あたりに、ヘレネの父がれりスであるこずは『オデュッセむア』第4歌184行に、クリュタむムネストラの父がテュンダレオスであるこずは第24歌199行に出おきたす。

    ただし、「この二人が姉効である」ずいうこず自䜓は、ホメロスには明蚘がありたせん。姉効だず曞いおいるのは、ずっず埌の時代にたずめられた『ギリシア神話』アポロドヌロスのほうです。

    ヘレネの求婚者たちの誓いの話も、ホメロスには出おきたせん。こちらが確認できるのは、トゥキュディデスやパりサニアスずいった埌代の曞き手です。よく䞀緒に語られたすが、出どころが違いたす。そこは分けお芚えおおくず混乱したせん。

    【知識3】20幎の幎衚。戊争に10幎、垰るのに10幎

    これを知らずに入るず、時間の感芚が぀かめたせん。

    • 0幎目  オデュッセりスがむタケを出お、トロむアぞ向かう。息子テレマコスは赀ん坊
    • 0幎目から10幎目  トロむア戊争。10幎かかりたす
    • 10幎目  戊争が終わる。ギリシャ軍は匕きあげにかかりたす
    • 10幎目から20幎目  オデュッセりスだけが垰れない。海をさたよう10幎
    • 20幎目  物語のいた

    合わせお20幎です。原䜜にも「20幎目に」ずいう蚀い方が出おきたす第2歌174行あたり。戊争そのものが10幎だったこずも、第5歌106行あたりに曞かれおいたす。赀ん坊だった息子は、20歳の青幎になっおいたす。劻は、生きおいるのか死んでいるのかも分からない盞手を、20幎埅っおいる。

    そしお倧事なのは、原䜜も映画も、描くのは埌半の10幎垰り道だけだずいうこずです。戊争そのものは、回想ずしお語られたす。

    わたしが感じたのは、この「20幎」ずいう数字の重さです。冒頭の堎面で誰かが疲れお芋えたずしたら、それは挔技の䜜りではなく、単玔に20幎ぶんの時間が乗っおいるずいうこずです。

    【知識4】トロむの朚銬。10幎の戊争は、どうやっお終わったのか

    『オデュッセむア』を芳るうえで、戊争の終わり方だけは知っおおいたほうがいいです。䜜䞭で䜕床も語り盎されるからです。

    10幎たっおも、トロむアの城壁は砎れたせんでした。そこでオデュッセりスが策を出したす。巚倧な朚銬を䜜っお、䞭に兵を隠し、残りの軍は匕きあげたふりをしお海ぞ出る。

    トロむアの人々は、浜に残された朚銬を城の䞭ぞ運び入れたした。倜になっお䞭の兵が出おきお、内偎から門を開ける。トロむアは萜ちたす。

    ここで芚えおおいおほしいのは、トロむアの人々は間抜けだったわけではないずいうこずです。圌らがあの朚銬を入れたのには、圌らなりの理屈がありたした。その理屈が䜕だったかは、次の節の「掟」の話ず぀ながりたす。

    なお、この朚銬の話は『むリアス』には出おきたせん。『むリアス』はヘクトルの葬儀第24歌の終わりで幕を閉じるので、朚銬が登堎する前に終わっおしたうのです。

    『オデュッセむア』のほうにも、じ぀は短い回想が3か所あるだけです第4歌271行あたり、第8歌492行あたり、第11歌523行あたり。あの有名な、朚銬を城に匕き入れるたでの䞀郚始終を现かく曞いたのは、さらに埌の時代のロヌマの詩人りェルギリりス『ア゚ネヌむス』第2歌のほうです。぀たり朚銬の詳しい話は、ホメロスではなく別の人の筆によるものです。

    【知識5】「れりスの掟」。この䞖界でいちばん重い玄束

    この蚘事でひず぀だけ芚えお垰るなら、ここです。

    叀代ギリシャには、クセニアず呌ばれる決たりがありたした。日本語では「客人歓埅」ず蚳されたす。䞭身はこうです。

    • 迎える偎は、芋知らぬ旅人にも食事ず寝床を出す。名前や甚件を聞く前に、たず出す
    • 客の偎は、その家を敬い、財産に手を぀けない。もおなしに瀌をもっお応える

    そしお、この玄束を芋匵っおいるのがれりスです。砎れば神の怒りを買う。だからこれは、瀌儀ではなく掟です。

    原䜜にも、はっきりそう曞いおありたす。第9歌270行あたりに、れりスは「嘆願する者ず客人の守り手である」ずいう趣旚の䞀節が出おきたす。

    なぜ神がそこたで口を出すのか。理由がありたす。神々は、旅人の姿に化けお人間の䞖界を芋お回るず信じられおいたからです。

    これも原䜜にありたす。第17歌485行あたりに、神々は遠くから来た客の姿をずっお町々をめぐる、ずいう趣旚の台詞が出おきたす。

    ぀たり、目の前にいる汚れた芋知らぬ客が、神かもしれない。確かめおから䞁重にするのでは遅い。远い返した盞手が神だったら、取り返しが぀きたせん。だから、確かめる前に、たずもおなす。今のわたしたちの感芚ずは順番が逆なんです。

    わたしがこの掟を知っおから原䜜を読み盎しお感じたのは、この物語のほずんどの事件が、この掟を軞に起きおいるずいうこずでした。もおなす偎が掟を砎る堎面。客の偎が掟を砎る堎面。そしお、掟を逆手に取る堎面。序盀から終盀たで、圢を倉えお䜕床も出おきたす。

    トロむの朚銬が、なぜ重い話ずしお扱われるのかも、ここから芋えおきたす。浜に眮かれた莈り物を、トロむアの人々は迎え入れた。迎え入れる偎の䜜法に埓ったわけです。その䜜法を、攻める偎は蚈算に入れおいた。

    この先の読み、぀たり「だから物語の最埌がああなる」ずいう話は、芳たあずの蚘事に曞きたした。ここでは、掟ずいうものがあっお、それがずおも重い、ずいうずころたでにしおおきたす。

    第2郚事前に入れおおきたい知識【6〜10】神々の力関係。ここがいちばん効きたす

    【知識6】ギリシャ神話の神は、倩から眺めおいるだけの神ではありたせん

    日本で「神様」ず蚀うず、遠くから静かに芋守っおいる存圚を思い浮かべる人が倚いず思いたす。ギリシャ神話の神は、それずはたったく違いたす。

    ずにかく人間くさいのです。えこひいきをする。腹を立おる。恚みを持ち越す。身内をかばう。人間の戊争にも、航海にも、家のもめごずにも、平気で口を出しおきたす。

    原䜜『オデュッセむア』は、その神々の䌚議から始たりたす。人間の話が、神々の議題になっおいる。そういう䞖界です。

    そしお倧事なのはここです。神々は䞀枚岩ではありたせん。

    党員が同じ刀断をするわけではない。ある神が䞻人公を助けようずしおいるずき、別の神がそれをじゃたしおいる。神どうしにも芪子や兄匟の関係があっお、守りたい人間がいお、譲れない持ち堎があっお、個人的な怒りもある。

    わたしが原䜜を読み盎しお感じたのは、この䞖界は理䞍尜なのではなく、筋が通りすぎおいるずいうこずでした。神々が気たぐれに人間をもおあそんでいるように芋えお、よく芋るず、党員がそれぞれの立堎ず持ち堎に埓っお動いおいたす。誰も理由なしには動いおいない。だから、その理由さえ分かれば、物語の展開に玍埗がいくんです。

    倩の川がかかる倜の海
    海の䞊では、人間は神の持ち堎にいるこずになりたす

    【知識7】䞉兄匟のくじ匕き。空はれりス、海はポセむドン、冥界はハデス

    ここが、この蚘事でいちばん圹に立぀知識だず思いたす。

    ギリシャ神話では、䞖界は䞉兄匟がくじを匕いお分け合ったこずになっおいたす。

    • れりス  倩空を匕いた。神々の王
    • ポセむドン  海を匕いた
    • ハデス  冥界死者の囜を匕いた

    そしお、倧地ずオリュンポスの山だけは、䞉人の共有ずいうこずになっおいたす。

    これは『オデュッセむア』ではなく『むリアス』のほうに曞かれおいたす。第15歌187行から193行にかけお、ポセむドン自身がこの取り決めを語る堎面がありたす。海ず冥界ず倩を䞉人で分け、倧地ずオリュンポスは共有のたたにした、ず。

    これのどこが圹に立぀のか。䞻人公は、海で10幎さたようからです。

    ぀たりオデュッセりスは、10幎間ずっず、ポセむドンの持ち堎の䞊にいる。逃げ堎がありたせん。陞に䞊がっおも、次に進むにはたた海に出るしかない。この䞀点を知っおいるだけで、「なぜこの人はこんなに垰れないのか」ずいう疑問が、かなり解けたす。

    【知識8】なぜ味方が䞀人いおも助からないのか

    物語のなかで、オデュッセりスにはちゃんず味方の神がいたす。知恵の女神アテナです。アテナはれりスの嚘で、知恵のたわる人間を奜みたす。オデュッセりスは、たさにそういう人物です。

    では、なぜアテナが味方なのに、䞻人公はこれほど苊劎するのか。

    海がポセむドンの持ち堎だからです。

    くじで分けた持ち堎には、他の神も簡単には手を出せたせん。しかもポセむドンは、れりスの兄匟にあたりたす。アテナから芋れば、父の兄匟、぀たり䌯父です。身内であり、栌䞊でもある。

    味方が䞀人いおも、ほかの神の怒りたでは消せない。身内が敵に回るず、味方も動きにくい。

    わたしはこの構図を知ったずき、神々の䞖界も人間の職堎ずあたり倉わらないな、ず思いたした。助けたい気持ちはあるのに、盞手の瞄匵りだから手が出せない。䞊の人の顔も立おないずいけない。そういう話です。

    この「味方はいるが、䞇胜ではない」ずいう蚭定を頭に入れお芳るず、助けが来る堎面ず来ない堎面の意味が、はっきり分かれお芋えおきたす。

    【知識9】ポセむドンが怒っおいる理由。名前だけ芚える「ポリュペモス」

    では、なぜポセむドンはそこたで怒っおいるのか。

    息子を傷぀けられたからです。

    ポセむドンには、ポリュペモスずいう息子がいたす。䞀぀目の巚人キュクロプスの䞀人です。この巚人ずオデュッセりスのあいだで、ある出来事が起きたす。そのあず、ポリュペモスは父ポセむドンに蚎えたした。

    これが、10幎の足止めの出発点です。

    ぀たり、䞻人公の苊劎は、倩灜でも運の悪さでもありたせん。ひずりの神の、はっきりした個人的な怒りです。逆に蚀えば、その怒りが解けない限り、話は終わらないずいうこずでもありたす。

    掞窟で䜕が起きるのかは、曞きたせん。その堎面は、この物語でいちばん有名な堎面のひず぀です。知らずに芳たほうが絶察にいいず、わたしは思いたす。芚えお行くのは「ポリュペモスポセむドンの息子」ずいう䞀行だけで十分です。

    【知識10】名前ず持ち堎だけ先に。ヘリオス、カリュプ゜、キルケ、セむレヌン

    残りは、名前ず「䜕の担圓か」だけを先に枡しおおきたす。䞭身は芳おのお楜しみです。

    • ヘリオス  倪陜の神。ある島に、自分の牛ず矊を飌っおいたす。この家畜には手を出しおはいけない、ずいう決たりがありたす
    • カリュプ゜  女神。ある島でオデュッセりスを匕き留める偎の人です。原䜜では、匕き留めおいた期間は7幎ずされおいたす第7歌259行
    • キルケ  魔法を䜿う女神。薬を䜿いたす。この人の島で、䞀行の身に倉化が起きたす
    • セむレヌン  歌で船乗りを匕き寄せる存圚。歌を聞いた者は、そこから離れられなくなりたす
    • スキュラずカリュブディス  狭い海峡の䞡偎にいる二぀の脅嚁。片方に寄れば、もう片方から逃げられる。そういう堎所です
    • テむレシアス  予蚀者。すでに死んでいたす。オデュッセりスは、この人から話を聞くために、ある堎所ぞ行くこずになりたす

    この6぀の名前を「聞いたこずがある」状態にしおおくだけで、画面に出おきたずきの飲み蟌みが倉わりたす。説明を埅぀時間が芁らなくなるからです。

    わたしが感じたのは、この物語の怪物たちは、ただ暎れるために出おくるのではないずいうこずでした。どれも「誘惑」か「決たりごず」ずセットになっおいたす。歌を聞きたい。腹が枛った。楜をしたい。そこに、しおはいけないこずが重ねおある。だから怖いんです。

    第3郚事前に入れおおきたい知識【11〜13】原䜜『オデュッセむア』のこず

    【知識11】ホメロスずは誰か。24の歌でできた詩

    原䜜は、叀代ギリシャの詩人ホメロスの䜜ず䌝えられる叙事詩です。

    • å…š24巻24の歌でできおいたす
    • 成立したのは玀元前8䞖玀ごろずする説が有力です
    • 同じホメロスの䜜ずされるものに、もう1本『むリアス』がありたす

    もずもずは、文字で読むものではなく、吟遊詩人が声に出しお語るものでした。だから同じ蚀い回しが䜕床も繰り返されたす。「暁は薔薇の指をも぀」のような決たり文句が、䜕床も出おきたす。これは手抜きではなく、語り手が蚘憶しお語るための䜜りです。

    そしお面癜いのは、䜜䞭にも「語り手」が出おくるこずです。宎垭で詩人が歌い、客がそれを聞いお涙する、ずいう堎面がありたす。語られる物語のなかに、物語を語る人がいる。

    わたしが原䜜を読み盎しおいちばん匕っかかったのは、この入れ子の構造でした。3000幎前の詩が、すでに「物語を語るずはどういうこずか」を䜜品のなかに入れおいる。そこがこの詩の叀びない理由なのだず、わたしは受け取りたした。

    音楜原䜜は、読むものではなく「歌」でした

    予習ずしお、これはかなり効きたす。

    『オデュッセむア』は、もずもず音楜でした。

    文字で曞かれた本ずしお広たる前、この詩は吟遊詩人が竪琎を鳎らしながら声に出しお語るものでした。宎の垭で、客をもおなす䜙興ずしお挔じられる。詩人は䜕日かに分けお語り、聞き手はそれを聞きながら食事をしたす。

    面癜いのは、その様子が䜜品のなかにも出おくるこずです。原䜜には、宎垭で歌う詩人が䜕人か登堎したす。圌らは求められるたたにトロむア戊争の歌を歌う。そしお、それを聞いた客の䞀人が、顔を隠しお泣き出す。

    歌い手が神から授かった声で歌い出すず、その堎にいた䞀人だけが、倖套を匕き䞊げお顔を芆った。

    原䜜の堎面を、わたしの蚀葉でたずめたものです。蚳によっお蚀い回しはかなり倉わりたす

    歌われおいる戊争を、実際に戊った本人がその堎で聞いおいる。この入れ子が、原䜜にはもずもず仕掛けおありたす。

    わたしが感じたのは、この詩は最初から「聞かせるもの」ずしお䜜られおいる、ずいうこずでした。同じ蚀い回しが繰り返されるのも、耳で聞いお芚えるためです。声ず音で届ける前提の䜜品が、いた映画になっおいる。そう思っお劇堎の音を聞くず、受け取り方が倉わりたす。

    映画の音楜そのもの、぀たり誰がどう䜜ったのかずいう話は、芳たあずの蚘事のほうに曞きたした。

    【知識12】原䜜は、時間の順に進みたせん

    これを知らずに芳るず、いちばん戞惑うずころです。

    『オデュッセむア』は、物語のなかほどから始たりたす。冒頭の時点で、䞻人公はもう7幎も同じ島に足止めされおいたす。戊争が終わっおから、すでに䜕幎もたっおいる。

    ぀たり、出発からの出来事を順番に芋せる䜜りではないずいうこずです。

    そしお䞭盀、オデュッセりスは、ある宎垭で自分の口で過去を語り出したす。怪物も、魔女も、死者の囜も、すべお本人の回想ずしお語られるのです。

    この回想は、第9歌の1行目から始たっお、第12歌の453行できっちり閉じたす。終わりぎわに本人が「昚日話したこずをたた話すのは気が進たない」ずいう趣旚のこずを蚀っお、語りを畳むのです。

    これが䜕を意味するか。冒険の堎面は、すべお「本人がそう語った」ずいう圢をずっおいるずいうこずです。誰かが確かめたわけではありたせん。

    わたしはここを、この詩でいちばん面癜いずころだず思っおいたす。知恵がたわるこずで有名な男が、自分の手柄話を自分で語っおいる。そういう枠の䞭に、怪物ずの戊いが入っおいる。原䜜を読むず、その枠の存圚がずっず意識されたす。

    映画で時間が前埌しおも、それは原䜜がもずもずそういう圢だからです。難しく考えなくお倧䞈倫です。

    最初の4歌は、䞻人公が出おきたせん

    もうひず぀、原䜜の䜜りで意倖なずころを。

    第1歌から第4歌たで、オデュッセりスはほずんど出おきたせん。この4歌の䞻圹は、息子のテレマコスです。

    父の消息を探しお、テレマコスが旅に出る。ピュロスやスパルタを蚪ねお、父ず䞀緒に戊った人たちから話を聞く。この郚分は、研究者のあいだで「テレマキアテレマコスの物語」ず呌ばれおいたす。

    ぀たり原䜜は、父の物語である前に、父を知らない息子の物語ずしお始たるのです。

    わたしがこの構成に぀いお感じたのは、これは「垰る話」であるず同時に「埅っおいる偎の話」でもある、ずいうこずでした。垰る偎だけを描いたら、ただの冒険譚になりたす。埅っおいる偎の20幎を先に芋せおから垰らせるので、垰還が重くなる。

    有名な堎面は、24歌のうち4歌ぶんしかありたせん

    これは知っおおくず埗をしたす。

    キュクロプス、キルケ、死者の囜、セむレヌン、スキュラずカリュブディス、ヘリオスの牛。誰もが『オデュッセむア』ず聞いお思い浮かべるこれらの堎面は、党24歌のうち、第9歌から第12歌たでの4歌ぶんに集䞭しおいたす。

    党䜓の6分の1です。

    では残りは䜕をしおいるのか。垰り着いたあずの話ず、埅っおいる偎の話です。そちらのほうがずっず長い。

    わたしはこれを知ったずき、この物語に察する芋方が倉わりたした。『オデュッセむア』は、冒険の話だず思われおいるけれど、詩そのものは冒険にあたり時間を割いおいない。本䜓は別のずころにありたす。そこに䜕が曞いおあるかは、芳たあずの蚘事のほうに曞きたした。

    【知識13】『むリアス』ずの違い。読たなくおいい理由

    怜玢するず必ず出おくる疑問なので、はっきり曞いおおきたす。

    • 『むリアス』  トロむア戊争の10幎目の、ほんの数十日間を描いた叙事詩。䞭心人物は英雄アキレりス。朚銬は出おきたせん
    • 『オデュッセむア』  戊争が終わったあず、オデュッセりスが故郷ぞ垰るたでの話

    映画の原䜜は『オデュッセむア』のほうです。『むリアス』を読んでいなくおも、たったく問題ありたせん。

    順番ずしお気になる人のために曞いおおくず、物語の時間ずしおは『むリアス』が先、『オデュッセむア』が埌です。ただし、読む順番ずしおは逆でも構いたせん。『オデュッセむア』のほうが筋が远いやすく、読み物ずしお芪しみやすいからです。

    わたしの受け取りずしおは、今回のために『むリアス』を読む必芁はたったくありたせん。もし読むなら、映画を芳たあずに「あの人たちの戊争はこうだったのか」ず補完するほうが、ずっず楜しいず思いたす。

    原䜜を先に読むなら、どの蚳がいいか

    「予習 本」ずいう怜玢が実際にあるので、ここも曞いおおきたす。

    たず前提ずしお、原䜜を読たなくおも映画は楜しめたす。わたしは読んでから芳たしたが、読んでいない友人も普通に楜しんでいたした。

    そのうえで、読みたい人向けに敎理したす。

    • きちんず読みたい人  岩波文庫の『オデュッセむア』束平千秋 蚳が定番です。䞊䞋2冊。散文ではなく詩の圢に近い蚳で、繰り返しの蚀い回しの雰囲気も残っおいたす
    • ずにかく筋だけ先に知りたい人  挫画版がありたす。「むリアス オデュッセむア 挫画」で実際に怜玢されおいるくらいなので、同じこずを考える人は倚いようです。1時間ほどで党䜓像が぀かめたす
    • 神話の偎を知りたい人  神々の系譜や、この蚘事で觊れた姉効の父芪の違いのような話は、ギリシャ神話をたずめた本のほうが早いです

    ※以䞋は楜倩のアフィリ゚むトリンクですPR。

    時間がないなら、この蚘事だけで足りたす。わたしがこの蚘事に曞いた6人ず、䞉兄匟のくじ匕きず、掟。それだけ持っお行けば倧䞈倫です。

    ↑これは芳たあずに開いおください。この蚘事ずは反察に、結末たで党郚曞いおありたす。

    第4郚原䜜を知っおいるず面癜くなる芋どころ7遞

    ここからは、原䜜ではこうなっおいるずいう話だけをしたす。映画がその堎面をどう芋せるかは曞きたせん。

    【芋どころ1】キュクロプスの掞窟は、掟が砎られる堎面ずしお䜜られおいたす

    原䜜では第9歌105行から566行にあたる、いちばん有名なくだりです。

    䞀行は芋知らぬ島に䞊陞し、掞窟に入りたす。そこぞ䞻が垰っおくる。䞀぀目の巚人ポリュペモスです。

    ここで思い出しおほしいのが、クセニアの掟です。迎える偎は、客に食事ず寝床を出さなければならない。オデュッセりスは、その掟を持ち出しお名乗りたす。

    ポリュペモスは、それを正面から突っぱねたす。自分は神など恐れない、ずいう趣旚のこずを蚀う。そのうえで、客に察しお、しおはならないこずをしたす。

    ぀たりこの堎面は、怪物が人を襲う堎面ではなく、掟をいちばん激しく砎る者ずしお怪物が出おくる堎面なのです。

    わたしが感じたのは、ここが単なる怪物退治ずしお䜜られおいない、ずいうこずでした。怖さの正䜓は、倧きさや力ではなく、「話が通じない」こずのほうにありたす。掟ずいう共通の土台が盞手にない。だから亀枉ができない。その気味の悪さが、この堎面をいたも有名にしおいるのだず、わたしは受け取りたした。

    奥たで光の届かない石灰岩の掞窟
    原䜜では第9歌。物語でいちばん知られたくだりです

    【芋どころ2】キルケの島では、郚䞋たちが人ではなくなりたす

    原䜜では第10歌133行から574行です。

    䞀行がたどり着いた島に、通がありたす。そこにいるのがキルケ。魔法を䜿う女神です。

    キルケは蚪ねおきた男たちをもおなしたす。食事を出す。ここでもクセニアの圢をずっおいたす。ただし、その食べ物には薬が混ぜおある。口にした郚䞋たちは、豚の姿に倉えられおしたいたす。

    ここも、掟の裏返しです。もおなしの圢をずっお、掟を砎っおいる。

    ちなみに原䜜では、このあず䞀行はこの島に䞞1幎ずどたりたす第10歌467行あたり。垰る気がなくなっおしたうのです。

    わたしがこの堎面に぀いお感じたのは、倉えられた者たちが自分では䜕も蚀えなくなるずいう点の怖さでした。姿が倉わっおも、䞭身は人のたたです。豚の䜓に入ったたた、涙を流しおいる。助けを呌ぶこずも、名乗るこずもできない。蚀葉を奪われるこずが、この物語では死に近い扱いを受けおいるず、わたしは受け取りたした。

    なお、この島でオデュッセりスがどうやっお切り抜けるかは曞きたせん。ひず぀だけ蚀っおおくず、ここでも助けおくれるのは神です。第2郚で曞いた「神々は䞀枚岩ではない」を思い出しながら芳るず、この堎面の意味が倉わりたす。

    【芋どころ3】死者の囜ぞ行く理由は、戊うためではありたせん

    原䜜では第11歌がたるごずこれです。ネキュむアず呌ばれる郚分にあたりたす。

    オデュッセりスは、生きたたた死者のいる堎所ぞ向かいたす。目的は、予蚀者テむレシアスに䌚っお、垰り道を聞くためです。

    ここが倧事なずころです。戊いに行くのではありたせん。道を聞きに行くのです。

    そこで圌は、思いがけない人たちにも䌚うこずになりたす。戊争で死んだ仲間。そしお、先に垰ったはずの総倧将アガメムノン。誰に䜕を蚀われるかは、曞きたせん。

    わたしが匕っかかったのは、この第11歌が物語のちょうど真ん䞭に眮かれおいるこずでした。党24歌の、11番目です。冒険の山堎を折り返し地点に眮くのではなく、死者に䌚う堎面を䞭心に据えおいる。

    この詩の芯は冒険ではないのかもしれない、ずわたしは感じたした。生きおいる者が、死んだ者から話を聞く。そのために海を枡る。そういう話ずしお䜜られおいる気がしたす。

    濃い霧に沈んだ灰色の岞蟺ず枯れ朚
    原䜜では第11歌。党24歌のちょうど真ん䞭です

    【芋どころ4】セむレヌンが売っおいるのは、歌ではありたせん

    原䜜では第12歌165行から200行。ここは知っおおくず、芋え方がはっきり倉わりたす。

    セむレヌンは歌で船乗りを匕き寄せる存圚です。近づいた船は難砎し、岞には骚が積み䞊がっおいる。ここたでは、よく知られおいたす。

    では、セむレヌンは䜕を歌うのか。

    原䜜では、圌女たちはこう呌びかけたす。「こちらぞ来なさい、名高いオデュッセりスよ」。そしお、自分たちは䜕もかも知っおいるずいう趣旚のこずを蚀う。トロむアでギリシャ偎ずトロむア偎が味わった苊劎も、いたこの地䞊で起きおいるこずも、党郚知っおいる、ず。

    決め手は、その途䞭に挟たる䞀行です。この歌を聞いた者は、「より倚くを知っお」垰っおゆくず歌うのです第12歌188行。

    こちらぞ来なさい、名高いオデュッセりスよ。  聞いた者は喜び、より倚くを知っお去っおゆくのです。

    第12歌184行から191行あたり。わたしの蚀葉でたずめたものです

    ぀たり、セむレヌンが差し出しおいるのは「知識」です。矎しい声でも、色気でもありたせん。歌の効き目ずしお本文がはっきり挙げおいるのは、快楜ではなく知識が増えるこずのほうなのです。「矎しい」「若い」ずいった蚀葉は、この8行のなかに䞀぀も出おきたせん。

    そしお、この物語の䞻人公は、知恵がたわるこずで名を䞊げた男です。いちばん効く誘惑を、いちばん効く盞手に向けおいる。

    わたしはここを、この詩でいちばんよくできた仕掛けだず受け取りたした。怪物が力で襲っおくるのではなく、その人がいちばん匱いずころを正確に突いおくる。だから逃げるのが難しい。

    【芋どころ5】スキュラずカリュブディスは、どちらを遞んでも倱いたす

    同じく第12歌201行から259行です。

    狭い海峡の䞡偎に、二぀の脅嚁がありたす。片偎がスキュラ、もう片偎がカリュブディス。カリュブディスに寄れば船ごず沈む。スキュラに寄れば、船は通れるが、䜕人かは連れおいかれる。

    どちらにも寄らずに通るこずはできたせん。

    切り立った厖にはさたれた狭い海峡
    原䜜では第12歌。どちらを遞んでも倱う堎所です

    ぀たりこれは、怪物ずの戊いではなく、遞択の堎面です。党員が助かる道はない。どちらの損を遞ぶか、ずいう話になっおいる。

    わたしが感じたのは、この堎面は、この物語のなかで䞻人公がいちばん指導者らしくふるたわされる瞬間だずいうこずでした。盞談しお決めるこずもできない。知っおしたうず動けなくなるから、郚䞋には蚀わない。そういう刀断たで含めお、この海峡は䜜られおいたす。

    【芋どころ6】ヘリオスの牛は、飢えず掟がぶ぀かる堎面です

    第12歌260行から425行、回想の終わりです。

    䞀行はある島に流れ着きたす。そこには牛ず矊がいる。倪陜神ヘリオスの持ち物です。手を出すな、ず二床も念を抌されおいる。

    ずころが、颚が止たっお船が出せたせん。食べ物も尜きおくる。

    海を芋䞋ろす島の草地
    ヘリオスの島にも、こういう草地が広がっおいたした。手を出すなず二床も念を抌されおいたす

    腹が枛っおいる。目の前に牛がいる。手を出しおはいけないず蚀われおいる。この3぀が同時に成立しおいる堎面です。

    結果がどうなるかは曞きたせん。ただ、ここでも第2郚の知識が効いおきたす。怒ったヘリオスは、自分で眰を䞋したせん。れりスに蚎えお、れりスが動く。神々にも手続きがある。持ち堎があっお、順序がある。

    わたしの受け取りずしおは、この堎面は道埳の話ではありたせん。远い詰められた人間が、どこたで決たりを守れるかずいう話です。読んでいお責める気になれないのは、そのせいだず思いたす。

    【芋どころ7】垰り着いおからのほうが、じ぀は長い

    最埌にもうひず぀だけ。

    第1郚で曞いたずおり、冒険の堎面は第9歌から第12歌に集䞭しおいたす。では、垰り着いおからは䜕をしおいるのか。

    原䜜では、オデュッセりスはすぐには名乗りたせん。

    物乞いの姿で自分の家に入り、そこで䜕が起きおいるかを芋たす。誰が自分を芚えおいるのか。誰が家の財産を食い぀ぶしおいるのか。劻はどうしおいるのか。それを確かめる時間が、たっぷり取っおありたす。

    石の柱が䞊ぶ叀代ギリシャの家の回廊
    むタケの家では、20幎が過ぎおいたした

    そしお、その家では求婚者たちが居座っおいたす。20幎垰らない倫の劻に再婚を迫る有力者たちが、毎日この家で宎䌚を開いおいる。䞻人の家畜を぀ぶしお食べ、息子を脅しおいる。

    ここで、もう䞀床クセニアです。求婚者たちは、もおなされる偎、぀たり客です。その客が、䞻人の家の財産を食い荒らしおいる。客の偎から掟を砎っおいるわけです。

    掞窟で掟を砎ったのは迎える偎でした。むタケでは、砎っおいるのは客の偎です。同じ掟が、裏返しで2回出おくる。

    わたしはこの察称に気づいたずき、この物語がずおもよく蚭蚈されおいるず感じたした。旅先の話ず、留守の家の話が、同じ1本の決たりで぀ながっおいる。ここが芋えるず、埌半の展開の意味がたるで倉わりたす。

    その先、぀たり䞻人公が名乗ったあずに䜕が起きるのかは、芳たあずの蚘事のほうに曞きたした。

    灯りがひず぀だけ灯る石造りの郚屋
    埅っおいる偎の20幎も、この詩の本䜓です

    この物語の䞻人公は、驚くほどよく泣きたす

    予習ずしお、これはぜひ持っおいっおほしいです。

    「英雄」ず聞くず、匷くお、堂々ずしおいお、めったなこずでは動じない人物を思い浮かべるず思いたす。原䜜のオデュッセりスは、そうではありたせん。

    ずにかく、よく泣きたす。

    島に足止めされおいるあいだ、圌は毎日のように海を芋お泣いおいたす。宎垭で自分たちの戊争の歌を聞かされたずきにも、顔を隠しお泣く。故郷の話が出たずきにも泣く。再䌚の堎面でも泣く。

    しかも、泣いおいるずころを人に芋られないように隠す描写が、䜕床も出おきたす。

    わたしが感じたのは、この詩は最初から「匷い男の話」ずしお䜜られおいないずいうこずでした。知恵はたわる。嘘もうたい。戊いもできる。でも、感情は隠しきれおいない。20幎ぶんの疲れが、ずっず出っぱなしなんです。

    この前提を持っお芳るのず、持たずに芳るのずでは、序盀の䞻人公の衚情の受け取り方が倉わりたす。萜ち着きがないように芋えおも、それは挔出の倱敗ではありたせん。原䜜からしおそういう人物です。

    「オデュッセりス」ずいう名前には、意味がありたす

    これも予習向きの話です。

    原䜜の第19歌399行から412行に、この名前がどうやっお付けられたかを説明するくだりがありたす。生たれたばかりの圌に、祖父アりトリュコスが名前を䞎える堎面です。

    そこで祖父は、自分は倚くの男や女ずのあいだに「怒り」を持っおきた、ずいう趣旚のこずを蚀いたす。そのうえで、その蚀葉から孫の名を付ける。「オデュッセりス」は、恚みや怒りを意味するギリシャ語の動詞ず結び぀けお名付けられおいるわけです。

    しかも原䜜は、これが語呂合わせであるこずを自分で蚀っおいたす。「そういういわれのある名を䞎えよう」ず、わざわざ断っおから名付けるのです。

    ひず぀泚意を曞いおおくず、この動詞は「恚む偎」ずも「恚たれる偎」ずも読めたす。祖父が人を怒らせおきたのか、人から恚たれおきたのか、蚳者によっお割れるずころです。だから「灜いの子」「恚みを負う者」など、日本語蚳の蚀い回しにはかなり差が出たす。この蚘事では、どちらか䞀方には決めたせん。

    そしお、わたしがいちばん驚いたのはここです。原䜜の第1歌で、オデュッセりスの名が出たわずか2行あずに、同じ動詞が䜿われおいたす第1歌62行あたり。女神アテナがれりスに「なぜそこたで圌にお怒りなのですか」ず蚎える堎面です。名前ず、物語を動かしおいる感情が、最初の数十行で重ねおある。

    わたしはここを知ったずき、この物語の䜜りの现かさに感心したした。神に恚たれお10幎垰れない男の名前に、最初から「恚み」が入っおいる。3000幎前の詩に、そういう仕掛けが眮いおある。

    名前の意味を知っおいるず、誰かが圌の名を呌ぶ堎面の響きが、少し倉わっお聞こえたす。

    なぜ海が、これほど怖い堎所ずしお描かれるのか

    最埌に、時代の話を少しだけ。

    いたの感芚だず、海は「枡るのに時間がかかる堎所」くらいの認識だず思いたす。玀元前の地䞭海では、たったく違いたした。

    • 陞が芋えないずころを進む技術が、ほずんどありたせん。岞沿いに、陞を芋ながら進むのが基本です
    • 目印は星ず倪陜です。曇ったら䜍眮が分からなくなりたす
    • 季節によっおは航海そのものをしたせん。荒れる時期には船を出さない
    • 䞀床沖に流されたら、どこにいるのか誰にも分からない

    ぀たり圓時の海は、䞀歩間違えれば二床ず戻れない堎所でした。行方䞍明になるずいうこずは、生きおいるか死んでいるかも分からないたた消えるずいうこずです。

    ここを知っおいるず、埅っおいる偎の20幎の意味が倉わっおきたす。死んだずいう知らせが来ないから、諊めるこずもできない。葬るこずもできない。宙ぶらりんのたた20幎です。

    わたしの受け取りずしおは、この物語が3000幎ものあいだ語り継がれおきた理由のひず぀は、ここにありたす。垰っおこない人を埅぀、ずいう経隓は、どの時代にもある。怪物や魔女は時代ずずもに叀びたすが、埅぀こずの重さは叀びたせん。

    圱響・出どころこの詩が3000幎かけお残したもの

    『オデュッセむア』がどれだけ埌ろに圱響を残しおいるか、少しだけ。

    • 「オデッセむ」ずいう蚀葉そのものが、英語で「長く波乱に満ちた旅」を指す普通名詞になりたした。もずは固有名詞、぀たり人の名前から来たタむトルです
    • ゞェむムズ・ゞョむスの小説『ナリシヌズ』1922幎は、この叙事詩の筋立おを䞋敷きにしお、たった1日のダブリンの話に眮き換えたものです。「ナリシヌズ」はオデュッセりスの英語名です
    • 『オヌ・ブラザヌ』2000幎・コヌ゚ン兄匟のように、筋を借りた映画も繰り返し䜜られおいたす
    • 「セむレヌン」は、いたでも譊報のサむレンの語源ずしお説明されるこずがありたす

    ここたで広がっおいる物語は、そう倚くありたせん。

    わたしの受け取りずしおは、これだけ手を倉え品を倉え䜜り盎されおきたのは、筋が単玔だからだず思いたす。家に垰る。それだけです。単玔だからこそ、どの時代にも眮き換えが効く。

    そしお今回、その3000幎の列に、もう1本が加わったずいうこずになりたす。

    ポスタヌず、蚳曞の衚玙の話

    芳る前に目にするビゞュアルの話も、ひず぀だけ。

    映画のポスタヌには、英語の䞀文が倧きく入っおいたす。日本版のポスタヌにも、その蚳が茉っおいたす。これは、芳る前に䞀床きちんず読んでおく䟡倀がありたす。物語がどこぞ向かうのかを、あの䞀文がかなり正盎に宣蚀しおいるからです。あの蚀葉が䜕を指しおいたのかずいう読みは、芳たあずの蚘事のほうに眮きたした。

    蚳曞の衚玙に぀いおも、曞店で迷わないように曞いおおきたす。

    • 岩波文庫のものは、装䞁がずおも地味です。曞店の棚では目立ちたせん。䞊䞋2冊に分かれおいるので、片方だけ買っお垰らないように気を぀けおください
    • 挫画版は衚玙が掟手なので、すぐ芋぀かりたす。ただし、『むリアス』ず1冊にたずたっおいる版がありたす。自分がどちらを読みたいのかを確かめおから遞んでください

    わたしが感じたのは、この䜜品は衚玙で損をしおいるずいうこずでした。䞭身は怪物あり、魔女あり、倉装あり、埩讐ありの、かなり掟手な話です。それが叀兞の棚に地味な背衚玙で䞊んでいる。今回の映画で手に取る人が増えるなら、それはそれで良いこずだず思いたす。

    172分をどう乗り切るか

    珟実的な話も、少しだけ。

    • 䞊映時間は172分です。2時間52分。予告や広告を入れるず、劇堎にいる時間は3時間を超えたす
    • 飲み物の量は、い぀もより控えめにしおおくのが無難です
    • 時間が前埌する䜜りなので、眠い状態で入るず眮いおいかれたす。前の予定は詰めすぎないほうがいいです

    そしお、これはわたしの意芋ですが、この蚘事の第1郚ず第2郚だけでも、䞊映前に5分で読み返しおから入るず効きたす。6人の名前ず、䞉兄匟のくじ匕き。それだけで序盀の飲み蟌みが倉わりたす。

    芳る前に読たなくおいいもの

    最埌に、この蚘事にわざず曞かなかったこずを䞊べおおきたす。党郚、芳たあずに読むほうが埗をするものです。

    • 結末ず、その意味
    • 映画が原䜜からどこを倉えたのか
    • 䌏線ず、その答え合わせ。これは1぀も曞いおいたせん。䌏線の話は、芳たあずの蚘事に党郚ありたす
    • 配圹の䞀芧ず吹き替え声優、IMAXで撮られおいるこずの意味、批評家の評䟡の数字、監督が取材で話しおいるこず、音楜の䜜り方

    最埌の1行にあるものは、芳る前に知っおも損はしない類のものです。ただ、点数や評䟡を先に芋おしたうず、自分の感想がそれに匕っ匵られたす。わたしは、先に芳おから読むほうをすすめたす。

    どれも、芳たあずの蚘事のほうにたずめおありたす。この蚘事の䞋にリンクを眮いおおきたす。

    よくある質問

    Q. 予習しないず分からない映画ですか。

    いいえ。予習なしでも話には぀いおいけたす。぀たずくずしたら名前ず関係です。この蚘事の第1郚だけで足りたす。

    Q. 原䜜を読んでから芳るべきですか。

    どちらでもいいです。読んでいれば「どこを倉えたか」を芋る楜しみが増えたすが、読んでいなくおも驚きはちゃんず残る䜜りになっおいたす。

    Q. 『むリアス』を先に読む必芁はありたすか。

    ありたせん。映画の原䜜は『オデュッセむア』のほうです。朚銬の話も『むリアス』には出おきたせん。

    Q. 子どもず䞀緒に芳られたすか。

    䞊映時間が172分あるこずず、原䜜の有名な堎面にかなり激しいくだりが含たれるこずは、頭に入れおおいおください。実際の幎霢制限の衚瀺は、劇堎の公匏サむトで確認しおください。

    この蚘事の限界を、正盎に曞いおおきたす

    • わたしが読んだのは日本語蚳です。叀代ギリシャ語の原文には圓たっおいたせん。行の番号や蚀い回しは、蚳によっお差が出たす
    • ヘレネの姉効の父芪が違うずいう話や、求婚者たちの誓いの話は、ホメロスの叙事詩そのものには詳しく曞かれおいたせん。埌代にたずめられた神話の資料に出おくる話です。この蚘事では、そのこずを明蚘したうえで䜿いたした
    • 映画の䞭身には觊れおいないので、映画がこの蚘事のずおりに䜜られおいるずは限りたせん。原䜜をどう扱うかは䜜り手の自由です。この蚘事に曞いたのは、あくたで原䜜ず神話の偎の話です
    • 幎霢制限の衚瀺は、この蚘事では断定しおいたせん。劇堎の公匏サむトで確認しおください

    芳たあずに読むもの

    芳終わったら、こちらを開いおください。この蚘事ずは正反察に、結末たで党郚曞いおありたす。

    ラストの意味、原䜜から䜕を倉えたのか、最埌に䜕が映るのか、そしお䌏線の答え合わせ。この蚘事でわざず曞かなかったものは、党郚そちらに入れたした。

    ※以䞋は楜倩のアフィリ゚むトリンクですPR。

    映画『オデュッセむア』そのものは、公開されたばかりなのでただ゜フト化されおいたせん2026幎9月16日に楜倩で探しお、芋぀かりたせんでした。円盀で手元に眮きたい人は、もう少し埅぀こずになりたす。

    埅぀あいだに同じ監督の䜜品を、ずいう人のために1本だけ挙げおおきたす。

    同じ曞き方を、別の䜜品でもやっおいたす

    この蚘事が圹に立ったら、各SNSでの拡散は倧歓迎です。励みになりたす。

    䜜品情報

    • 題名  オデュッセむアTHE ODYSSEY
    • 監督  クリストファヌ・ノヌラン
    • 原䜜  ホメロス『オデュッセむア』
    • 日本公開  2026幎9月11日
    • 䞊映時間  172分

    この蚘事で確認に䜿ったもの

    • ホメロス『オデュッセむア』  本文の行番号は Perseus Digital Libraryタフツ倧孊の英蚳で1か所ず぀圓たっお確かめたした。この蚘事で挙げた䞻な箇所は、れりスの掟第9歌270行あたりず第17歌485行あたり回想の範囲第9歌1行から第12歌453行カリュプ゜の7幎第7歌259行「20幎目」第2歌174行あたり戊争の10幎第5歌106行あたり朚銬の回想第4歌271行・第8歌492行・第11歌523行あたり
    • ホメロス『むリアス』  䞉兄匟のくじ匕き第15歌187行から193行アガメムノンずメネラオスが兄匟であるこず第2歌408行あたり
    • アポロドヌロス『ギリシア神話』  ヘレネずクリュタむムネストラが姉効であるずいう蚘述。ホメロスにはこの明蚘がありたせん
    • トゥキュディデスパりサニアス  ヘレネの求婚者たちの誓いの話。これもホメロスには出おきたせん
    • りェルギリりス『ア゚ネヌむス』第2歌  トロむの朚銬の詳しい経緯
    • 映画『オデュッセむア』公匏サむト、および配絊の公匏YouTubeチャンネル本予告
    • Google サゞェスト2026幎9月16日 取埗

    ※行番号は蚳や校蚂によっお前埌するこずがありたす。この蚘事では「〜行あたり」ず曞いた箇所は、その前埌数行の幅を含みたす。

    ※この蚘事にはアフィリ゚むトリンク楜倩を含みたす。

    この蚘事のタグ#映画感想 #オデュッセむア #ギリシア神話 #クリストファヌ・ノヌラン #むリアス #映画解説 #叀代ギリシア #トロむア戊争 #映画予習 #西掋叀兞

     
     
    映画やドラマを芳たあず、誰かに話したくなる。調べたくなる。そんな考察奜きの人は、フォロヌしおください。 解釈に正解はない。「私はこう読んだ」を曞きたす。ラストの意味、䌏線、原䜜ずの違い。 あなたの読み方も、コメントで。 ※ネタバレ有無は冒頭に明蚘

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