
【愛妻家珈琲】旧鈴村邸 「思い出の陶芸展示会」を見に行く
はじめに
「愛妻家珈琲」の入る古民家・旧鈴村邸にて、陶芸作品展が催されました。
「思い出の展示~老後に夫婦で始めた自宅窯の陶芸作品~」(2026.5.19~30)と題された展示は、亡きご夫婦が制作された陶芸作品を子息の手により公開するものです。


建物や愛妻家珈琲については、以前の記事で紹介しています。
愛妻家珈琲
2024年(令和6年)12月にオープンしたおいしいコーヒーと特別な時間を届けてくれるカフェです。鈴村邸の建物を利用しており、カフェの入口である通りに面した白い扉はかつての勝手口です。台所の煙突が懐かしい雰囲気をかもすアクセントになっています。



オーダーは今回もオリジナルブレンド「甲府シティ」ですがケーキはお抹茶バスクチーズケーキにしました。バスクチーズケーキはぎっしり重くてそれでいてなめらかです。抹茶味は甘さ控えめです。

思い出の陶芸展示会
「思い出の展示~老後に夫婦で始めた自宅窯の陶芸作品~」(2026.5.19~30)は、鈴村邸としては初となる展示の催しです。

会場は「ちはるばぁばの部屋」です。ちはるばぁばは、この屋敷で生まれ育った家主さんです。普段は展示交流ルームとして「言葉(ことのは)の贈り物」として日々の暮らしの中で感じた言葉を中心にこの部屋で展示しています。

展示されているのは、甲府市丸の内にお住まいだった故小野孝之・和子夫妻が自宅の窯で制作した陶芸作品です。期間中は会場へ玄関から直接入ることができます。


作品を出品された子息の順一氏が案内してくださいました。
小野孝之、和子夫妻は、定年後に陶芸を始めて、甲府市丸の内(中心部に近い住宅街)の自宅に窯を設けて陶器を焼いていたそうです。
孝之氏(昭和7年生まれ)は14年前に他界され、和子氏(昭和6年生まれ)は2025年に亡くなられています。

展示にご夫妻の写真はなかったのですが、窯の残るご自宅を拝見したときに思わぬものを見つけました。孝之氏が歌うオリジナルソング『俺の宝はお前』のCDです。どのような曲なのかは分かりません。しかし、そのタイトルだけで愛妻家だったというご主人の人柄が伝わってきます。「愛妻家珈琲」のある鈴村邸での展示を思うと、これ以上ふさわしいエピソードもないように感じました。
撮影許可は得ていますがお顔は加工しておきます。

粘土を練ることと窯で焼くことは孝之氏の担当で、作品は二人でともに制作していたそうです。

まず目を引くのは、ちゃぶ台にある急須と湯呑のセットです。こちらは孝之氏の作品です。思わず手に取ってしまいました。少し小ぶりの湯飲みは手にしっくりと来ます。

和子氏の作品でまず目に留まったのが、メインビジュアルにも使われている籠です。こうした細かい作品を得意としていたそうです。

その隣の小皿は孝之氏の作品です。

さらには、実用ではない大きさの急須と湯飲みです。あまり制作日を残さない孝之氏でしたが、これだけは蓋の裏側に「平成10年6月 孝之」と刻まれていて制作年月が分かる数少ない作品です。


作品には落款があって「孝」「和」とあるので、どちらが作った作品か分かるといいます。


桐箪笥の上にも作品が並びます。釉薬で作品に色を加えられるのですが、作品の色はさまざまで、ここでは近い色合いでまとめています。

花器の花は順一氏の娘さん(つまりご夫妻のお孫さん)が生けたものだといいます。


床の間にも作品が並びます。

和子氏の作品がまとまってありました。小野家には絶えず人が出入りしていたそうです。順一氏は「母は周りに人が集まる人だった」と評していました。


エピソードを伺うと、愛妻家のご主人と社交家の奥様というご夫婦のイメージがわいてきました。

作品を作っては気軽に人へ贈っていたそうです。それでもなお、自宅には多くの作品が残されているとのことでした。

こちらで陶芸展を行うようになった経緯を伺いました。
たまたま順一氏が親戚を甲府駅に送りながらコーヒーを飲みに来ていたとのこと。親戚の手には譲り受けた陶器がありました。陶器に気が付いたちはるばぁばが訊ねると、両親が作った焼き物で自宅にはまだたくさん残っているというお話になり、ちはるばぁばから展示を呼び掛けたといいます。

作品を展示すると聞いて、ご夫婦の知人たちが大勢やってきたようです。作品が人を呼び寄せたのです。


ちはるばぁばにとっても展示会は初めての試みでした。この空間で、大切にしてゆっくりと見てほしいという気持ちで開催したといいます。

「大勢の人が来てくれて展示会がひとつの丸になった。」ばぁばの言葉です。趣味で作った夫妻の陶芸作品を通じ、夫妻を知る人も知らない人も訪れて縁が広がっていっているように思いました。

「記憶」を残す機会に
筆者は常々、モノの「記憶」を残すことを大切に考えています。
モノには歴史や価値という「記録」があります。しかし、それ以上に失われやすいのは「記憶」です。
道具の使い方や家族との思い出、人とのつながりといったものは「記録」だけでは残りません。
今回の展示では、ご夫妻を知る人々が作品を見て思い出を語り、知らない人も作品を通してご夫妻の人柄に触れていました。作品は、ご夫妻の記憶を今に伝える媒介となっていたのです。
陶芸工房おの
展示を見学した後、順一氏のご厚意により使われていた窯を見せていただきました。防犯上の観点から詳細な情報は伏せさせていただきます。
こちらが窯です。灯油で燃焼する窯です。意外にもコンパクトでした。14年前に父・孝之氏が亡くなられてからは、窯を動かしたことはないそうです。今も使えるかは分からないといいます。

窯を開けた状態です。画像に写っておりませんが後ろに灯油タンクがついています。灯油を燃料とするタイプです。

熱勝製の灯油窯です。甲府にも店舗があり陶芸材料などを扱っている専門店のプレートがついていました。

母屋は昭和40年代~50年代の2階建住宅ですが、工房にしていた離れは戦前の建築ではないかとおっしゃっていました。筆者はこの辺りも甲府空襲で焼失した地域だと思っていましたが、この離れは焼失を免れた建物なのかもしれません。

工房で作品を制作する傍ら、近所の人に陶芸を教えたりもしていたようです。
粘土を捏ねるための板がありますが、奥に同じものが何枚もストックされています。

同じ形を複数作る場合の型も多数保管されています。

画像はありませんがろくろは電動のものが残されていました。こちらは回転する台です。

窯を動かしていたのは孝之氏でした。孝之氏が亡くなってからは窯が使えなかったことから、和子氏の創作活動は絵画や手芸へと移っていったようです。

そっと、母屋の玄関に孝之氏と和子氏の作品が並んでいました。孝之氏の陶芸作品と和子氏が装飾した蓮の花托です。

ご厚意に甘え、窯や貴重な作品を見せていただきありがとうございました。
おわりに
旧鈴村邸で行われた陶芸展示会の模様でした。趣味とは思えないほどの見事な作品であるとともに、ご夫婦の人となりを感じることができました。また、モノと「記憶」について再認識させてもらう機会でもありました。
これからも、この部屋でさまざまな展示が行われ、多くの人の思い出や記憶をつなぐ場となっていくことを願っています。
