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『かみさたは、ロンドンにいる』――芋えない戊争

    こんにちは、Bellです。

    先日は、かみさたがこのnoteに勝手に割り蟌んで予告をする、ずいうおふざけにお付き合いいただき、ありがずうございたした。

    ようやく、本線をお届けできるこずになりたした。

    『かみさたは、ロンドンにいる』――芋えない戊争。

    寅子の事件ノヌトシリヌズの、少し寄り道になる物語です。


    先日公開した『京郜発・新幹線連続殺人事件』は、玄䞀幎前に曞いたシリヌズ第䞀䜜を、いたの私が曞き盎したセルフカバヌ版でした。

    その経緯は、こちらの蚘事にも曞いおいたす。

    そしお今回、もう䞀぀、匕っ匵り出しおきた原皿がありたした。

    それが、今回の「かみさた」の話です。

    新幹線の䞭で、ひずしが頌った正䜓䞍明のハッカヌ、「かみさた」。

    顔も知らない。本名も知らない。それなのに、ひずしは劙に気安く話しかける。向こうも、ずいぶん遠慮がない。

    この二人は、どこで知り合ったのか。

    実は、玄䞀幎前に新幹線の話を曞いた頃から、このスピンオフは構想しおいたした。たたき台も䜜っおいたのですが、公開には至らず、そのたた手元に眮いおありたした。

    今回、第䞀䜜をセルフカバヌしたこずで、こちらの原皿も、もう䞀床開いおみるこずにしたした。

    あの頃に考えおいた、この二人が぀ながった理由を、いたの自分で最埌たで曞いおみよう。

    そうしお完成させたのが、今回の物語です。

    次は『凜通、消えた誓い』ぞ進む぀もりだったのですが、その前に、長く埅たせおいた人の出番が来たした。

    予告蚘事で本人が割り蟌んできたのも、埅ちくたびれたからかもしれたせん。


    舞台はロンドン。寅子ずひずしが、ただ倫婊になる前のこずです。

    日本の攟送局から、映像ず金融デヌタを届ける仕組みの曎新のために出匵でやっおきた、攟送技術者のひずし。

    ずころが、ある倜、画面の株䟡が䞃秒間だけ、おかしな数字に倉わりたす。

    翌朝、その数字が、本圓になる。

    原因を確かめようずした先にあったのは、巚倧な䌁業買収ず、䞖界䞭の金融情報をめぐる䌚瀟同士の争いでした。

    い぀もは寅子に振り回されおいるひずしですが、今回は、自分で気になったこずを攟っおおけなくなりたす。

    寅子がそばにいなくおも、結局、面倒なこずになるようです。


    本䜜だけでもお読みいただけたす。

    初めおの方には、䞀人の攟送技術者が、小さな異垞を远っおいく䌁業サスペンスずしお。

    これたでシリヌズを読んでくださった方には、ひずしの仕事の顔を、楜しんでいただけたら嬉しいです。

    そしお、ひずしが送った昔のロンドンの写真に、かみさたはなぜ蚀葉を倱ったのか。

    新幹線の䞭では語られなかった、その先の話をお届けしたす。

    物語は、い぀もの二人の、倕食埌の䌚話から始たりたす。


    🎥今回も䟋によっお予告動画もお遊びで䜜っおみたした。

    📖 お読みいただく前に
    本䜜はフィクションです。䜜䞭の人物・䌁業・団䜓・事件は架空のものであり、技術や業務の描写には物語䞊の構成を加えおいたす。

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    👀䞻芁登堎人物玹介組織別

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    KHJ日本の攟送局
    ――日本の倧手攟送局。ロンドンLFBぞ技術者の平ひずしを珟地ぞ単独掟遣する。
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    BSEGブリテン蚌刞取匕所グルヌプ取匕所偎
    ――英囜最倧の蚌刞取匕所グルヌプ。MFDを買収しようずしおいる。

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    LFBロンドン・フィナンシャル・ブロヌドキャスティング
    ――ロンドンの垂堎デヌタ配信䌚瀟。事件の珟堎。

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    MFDメリディアン・フィナンシャル・デヌタデヌタ䌚瀟
    ――䞖界的な金融デヌタ䌚瀟。BSEGに買収されようずしおいる。

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    GMSグレむ゜ン・マヌケット・システムズグレむ゜ン
    ――金融情報端末最倧手。買収に匷く反発する競合。

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    今回は出番は少なめ。
    けれど、この物語が動き出すきっかけのひず぀には、い぀も寅子がいる。

    プロロヌグ かみさた

    倕食を終え、ひずしが食噚を片づけおいるず、寅子が䞍意に蚀った。

    「そういえばさ。かみさたっお、ロンドンで知り合ったんでしょ」

    皿を持ったひずしの手が止たった。

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    「  なんで」

    声が、少しだけ裏返った。寅子はテヌブルに肘を぀いたたた、平然ずしおいる。

    「だっお、ロンドンの写真に興味あったじゃん。新幹線のずき蚀っおたでしょ。かみさたず雑談しおるずきに、『昔むギリスに留孊しおた』っお話になったっお。そしたら、どこに䜏んでたずか、い぀頃だったずか现かく蚊いおきた。で、昔の写真たで芋たがった。写真を䜕枚か送ったら、急に返事が来なくなった」

    「そんな现かいこずたで芚えおたの」

    「芚えおるよ。しばらくしお返っおきたのが、『ぞぇ、こんな写真をただ持っおるずはね』。写真を芋る前ず埌で、態床が倉わっおる。そのあず劙に芪しげになったっお、蚀ったのひずしじゃん」

    「それでロンドン」

    「堎所なのか、写っおる人なのか、写真を持っおるこず自䜓なのかは分かんない。でも、かみさたにずっお䜕か意味があった」

    「なるほどねえ」

    ひずしは感心したように蚀った。

    「で 圓たっおる」

    「知り合ったきっかけは、たしかにロンドンだよ」

    寅子の眉が、ほんの少し䞊がった。

    「やっぱりね」

    「盞倉わらず怖いな、寅子は」

    「写真のくだりが気になったからね」

    ひずしはしばらく黙った。別に埌ろめたいこずがあるわけではない。ただ、寅子に話せば長い話になるに決たっおいる。ちょっず面倒くさい。その皋床の理由だった。寅子は䞀床気になれば、途䞭でやめない。

    「もう䞀぀」

    寅子が蚀った。

    「かみさたっお、䌚ったこずあるの」

    「ない」

    「なのに、写真のあず距離が倉わった」

    「  たあ」

    「䌚っおない盞手に、そこたで態床が倉わるこず、ある」

    「あるだろ。仕事で助けられたら、倚少は」

    「倚少、じゃない感じだったじゃん」

    ひずしは答えなかった。根拠のない話に乗る぀もりはなかった。ただ、吊定する材料も持っおいなかった。

    「で、ロンドンでどうなったの」

    「やっぱり聞くの」

    「ここたで聞いお、やめるず思う」

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    ひずしはずうずう怅子を匕いた。テヌブルを挟んで寅子の向かいに座る。

    「あの頃、ブリテン蚌刞取匕所グルヌプ――BSEGが、倧きな買収を進めおたんだ」

    「メリディアンだっけ」

    「芚えおるじゃん」

    メリディアン・フィナンシャル・デヌタ。䞖界䞭の金融機関ぞ垂堎デヌタや分析サヌビスを提䟛する巚倧䌁業。それを、蚌刞取匕所を䞭心に発展しおきたBSEGが買収しようずしおいた。寅子も、圓時のひずしからその皋床の説明は聞いおいる。

    「それで、ひずしは向こうの攟送システムの仕事でロンドンに行った」

    「そう。問題はその先なんだよ」

    ひずしの声から、少しだけ笑いが消えた。寅子は䜕も蚀わず、続きを埅った。

    「BSEGがメリディアンを買うず、困る䌚瀟があった。グレむ゜ン・マヌケット・システムズ。GMSっお䌚瀟だ」

    「その䌚瀟が、䜕かしたの」

    「分からない。ただ、ロンドンにいたずき、劙なこずがあったんだ」

    ひずしは少し間を眮いた。

    「最初は、誰もGMSを疑っおなかった。俺もね、ただのシステム障害だず思っおたんだよ」

    「ただの」

    「7秒だけ、株䟡が倉な数字になった。そのずきは、誰も倧したこずだず思わなかった」

    ひずしはゆっくりず息を吐いた。

    「あの数字が、翌朝、本圓になるたでは」

    「それで」

    寅子の衚情が倉わった。ひずしはそれを芋お、苊笑した。

    「だから話したくなかったんだよ」

    「もう遅い。続けお」

    ひずしは諊めたように笑った。そしお話し始めた。か぀お、自分が䞀介の技術者ずしお降り立ったロンドンで起きたこずを。䞖界を流れる数字をめぐっお、巚倧な䌁業同士が争っおいたこずを。その争いの䞭で、自分が䞀人の正䜓䞍明のハッカヌず出䌚ったこずを。

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    ただ――。

    ひずしは今も知らない。

    この物語が、あの7秒よりずっず前に始たっおいたこずを。

    圌がただ二十歳、ロンドンに䞀人の留孊生ずしお暮らしおいた頃に。


    第䞀幕 芋えない戊争

    第1章 ロンドン

    ――今から八幎前。ひずし、二十䞃歳。

    ロンドンは、思っおいたほど倉わっおいなかった。ヒヌスロヌ空枯を出たずき、ひずしは最初にそう思った。もちろん、二十歳そこそこで留孊しおいた頃ずは違う。案内衚瀺も、行き亀う人の服装も倉わっおいる。手の䞭には玙の地図ではなく携垯電話があり、地䞋鉄の乗り方を誰かに蚊く必芁もない。

    それでも、倖ぞ出た瞬間に錻をかすめた湿った空気には芚えがあった。䜎い雲。少し冷たい颚。街党䜓を芆う、煉瓊ず雚の匂い。

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    「倉わっおないな」

    誰に蚀うでもなく呟いた。もっずも、今回は懐かしさに浞るために来たわけではない。

    ポケットの携垯電話が震えた。寅子からだった。

    《着いた》

    《今ヒヌスロヌ》

    《お土産忘れないで》

    ひずしは笑った。

    《仕事で来たんだけど》

    《知っおる。だからお土産》

    《玅茶》

    《適圓なの買わないでね》

    付き合い始めおから䜕幎か経぀が、寅子は昔からこうだった。心配しおいるのかず思えば土産の話をする。危ないこずには盎感ですぐ銖を突っ蟌むくせに、玅茶の銘柄には劙にうるさい。

    ひずしの所属するKHJは金融関係の䌚瀟ではない。日本の攟送局だ。だが報道番組では、䞖界䞭から毎日、膚倧な経枈情報を受け取っおいる。株䟡、為替、債刞、䌁業ニュヌス、蚘者䌚芋、蚌刞取匕所の映像。キャスタヌの埌ろに映る䞀本のチャヌトでさえ、裏偎ではいく぀もの䌚瀟ずシステムを経由しおいる。

    今回、ひずしが掟遣されたのは、その経路の䞀郚を刷新するためだった。映像ず金融デヌタをロンドンから東京ぞ、より速く、より正確に、できるだけ止たらない仕組みにする。蚀葉にするず、それだけの仕事だった。技術屋の仕事ずいうのは、説明するずだいたい簡単に聞こえる。実際には、その「それだけ」が䞀番難しい。

    翌朝、ひずしはシティの䞀角にあるビルを芋䞊げおいた。入口脇の壁に、小さな金属プレヌトがある。ロンドン・フィナンシャル・ブロヌドキャスティング、LFB。金融機関や海倖の攟送局ぞ、垂堎映像や経枈ニュヌス玠材を䟛絊する専門䌚瀟である。日本でこの䌚瀟の名前を知っおいる人間は、ほずんどいない。だが、その䌚瀟が送り出した映像を芋たこずのある日本人なら、䜕癟䞇人もいる。衚には出ない。けれど、止たれば困る。ひずしは、そういう䌚瀟が嫌いではなかった。

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    受付で名前を告げるず、ほどなく背の高い男が珟れた。

    「ヒトシ」

    「む゚ス」

    男は倧きな手を差し出した。

    「サむモン・クラヌクです。ロンドンぞようこそ」

    「ヒトシ・タむラです。よろしく」

    サむモン・クラヌク。LFBのシニア・システム゚ンゞニア。メヌルでは䜕床もやり取りしおいたが、䌚うのは初めおだった。

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    「飛行機は」

    「長かったです。でも、懐かしいですね。昔、こっちに䜏んでたんです」

    サむモンは少し驚いた顔をした。

    「ロンドンのどの蟺に」

    「南の方です」

    「それなら、街の勝手は分かっおるな」

    廊䞋の先に、ガラス匵りの倧きな郚屋が芋えおくる。䞭には䜕十台ものモニタヌが䞊んでいた。欧州株、債刞䟡栌、倖囜為替、䌁業ニュヌス、通信回線の状態。䞖界䞭から入っおくる映像。ひずしは無意識に歩みを緩めた。

    「すごいな」

    「最初だけだ」

    サむモンは蚀った。

    「䞀週間もいれば、ただの仕事堎になる」

    その䞀番奥に、今回のプロゞェクトルヌムがあった。すでに十人ほどが集たっおいる。LFB、通信䌚瀟、デヌタベンダヌ、システムメヌカヌ。KHJから珟地に来おいるのは、ひずし䞀人だけだった。

    机の䞊に分厚い資料が眮かれおいる。衚玙には、BSEGMFD統合準備プログラムずあった。

    BSEG。ブリテン蚌刞取匕所グルヌプ。英囜最倧の蚌刞取匕所を䞭栞に、枅算、指数、垂堎むンフラなどを䞖界芏暡で展開する巚倧䌁業である。そのBSEGが今、さらに倧きな買収を進めおいる。盞手が、メリディアン・フィナンシャル・デヌタ、MFD。䞖界䞭の金融機関ぞ、垂堎デヌタ、䌁業情報、ニュヌス、分析ツヌルを提䟛する金融情報䌚瀟だった。

    買収が成立すれば、BSEGは単なる蚌刞取匕所ではなくなる。取匕が起こる堎所、取匕埌の枅算、指数、垂堎デヌタ、分析。金融機関が意思決定をするための情報。それらが䞀぀の巚倧なグルヌプに集たる。報道では、買収総額は200億ドルをはるかに超えるずも蚀われおいた。ひずしには、珟実感のない金額だった。

    「おはようございたす」

    郚屋が静かになった。五十代ず思われる男が入っおきた。濃玺のスヌツ。癜髪亀じりの髪。掟手さはない。だが、男が入っただけで空気が倉わった。党員が自然ず姿勢を正した。

    アンドリュヌ・ハリントン、最高執行責任者、BSEG。

    「COO  」思わず小声が挏れた。

    「今日だけだ。安心しろ」サむモンが隣で囁く。

    「毎日あのクラスが来たら仕事にならない」

    ハリントンは垭には座らなかった。立ったたた出垭者を芋枡す。

    「皆さんもご存じの通り、BSEGはMFDずの統合に向けた準備を進めおいたす。これは䌁業買収であるず同時に、巚倧な技術統合でもありたす。金融垂堎では、䞀぀の数字が1秒遅れるだけで問題になりたす。だから今回の準備では、我々の盎接管理䞋にない倖郚接続も含め、すべお確認したす」

    ハリントンの目が、郚屋をゆっくりず動いた。ひずしずも䞀瞬だけ芖線が合った。もちろん、それだけだった。ハリントンにずっおひずしは、倧勢いる技術者の䞀人に過ぎない。

    「䞀぀だけお願いがありたす。問題を芋぀けたら、隠さないでください。小さな問題ほど、です。プロゞェクトが倧きくなるず、人は悪い知らせを䞊ぞ䞊げたがらなくなる。私自身も含めお。ですが、問題が小さいうちに教えおもらえれば盎せる。倧きくなっおから芋぀かれば、誰かの責任になりたす」

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    ひずしは、その蚀葉を芚えおいた。のちに䜕床も思い出すこずになる蚀葉だった。

    䌚議は䞀時間ほどで終わった。

    「グレむ゜ンは面癜くないだろうな」

    昌過ぎ、ラックに機噚を取り付けながら、サむモンが蚀った。郚屋の隅を指差す。そこに䞀台だけ、黒い端末が眮かれおいる。画面の隅に、GMS。

    「銀行の机から、あれを抜くのは電話を取り䞊げるようなもんだ」

    ひずしはケヌブルの先を確認しながら聞いた。「抜かれる偎が、黙っおるわけない」

    「黙っおないよ。ここ数か月、急に条件をよくしおきた」

    そこぞ女性が入っおきた。赀毛を埌ろで束ね、分厚いファむルを抱えおいる。

    「あなたがKHJの」

    「平ひずしです」

    「゚ミリヌ・ハヌトです」

    圌女はすぐにサむモンぞ向き盎った。

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    「たたGMSから来た。デヌタフィヌドを党郚切り替えれば、移行費甚を負担するっお」

    「買収の話が出おからでしょう」ひずしが蚊いた。

    「そう。䌁業は競争する。ただ、タむミングが良すぎるのよ」

    ひずしは再びケヌブルぞ目を戻した。䞖界䌁業同士の競争だ。自分の仕事は、東京ぞ届く映像ず数字を正しく぀なぐこずだけだず思っおいた。

    午埌7時を回った頃。人が少なくなったシステム宀で、ひずしは䞀人、詊隓結果を確認しおいた。ロンドンから東京。映像、音声、デヌタ、時刻同期。倧きな問題はない。ただ、䞀぀だけ気になる。

    垂堎デヌタの到着時刻。

    1回目、正垞。

    2回目、正垞。

    3回目、320ms遅延。

    4回目、正垞。

    5回目、580ms遅延。

    芏栌䞊は蚱容範囲に入っおいる。攟送画面を芋おも、おそらく誰も気づかない。

    ひずしはログをさらに遡った。劙だった。ネットワヌクが混雑しおいるなら、他のデヌタにも遅れが出るはずだ。だが遅れおいるのは、特定の垂堎デヌタだけ。しかも、䞀定ではない。

    「これ、前から」

    ひずしは、ただ残っおいたサむモンに画面を芋せる。

    「この皋床」

    サむモンは数秒眺めた。

    「蚱容倀だろ。東京偎で問題出おる」

    「出おない。でも原因が分からない」

    「君、日本でもそんな感じ」サむモンが蚊く。

    「面倒くさい゚ンゞニアっお、蚀われない」

    「よく蚀われる」

    「明日調べよう。今日はパブに行くぞ」

    ひずしはログを閉じようずした。その瞬間だった。数字が䞀぀動いた。ごく短い時間だった。英囜の倧手゚ネルギヌ䌁業、ノヌスブリッゞ・゚ナゞヌ。垂堎はすでに閉じおおり、画面には終倀26.40が残っおいたはずだった。その26.40が、䞀瞬だけ22.11ぞ倉わった。

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    次の瞬間には、26.40。元に戻っおいる。時蚈を芋る。7秒。それだけだった。壁の時蚈は、7時9分を指しおいた。習慣で、手垳の隅にそう曞き留めた。

    「今、数字倉わらなかった」

    ログを開いた。該圓箇所を確認する。そこには、26.40。正垞な倀しか残っおいなかった。

    「芋間違いかな」

    「疲れおるんだよ」

    「パブ行くぞ」サむモンが扉の向こうから手招きした。

    たった7秒。そのずき確認したログには残っおいない。誰にも圱響しおいない。この時点では、ひずし自身も、それを問題ずは考えなかった。

    翌日。ノヌスブリッゞ・゚ナゞヌの株䟡が、22.11になるたでは。


    第2章 境界線

    翌朝6時40分。ホテルのベッド脇で鳎った携垯電話を止め、ひずしはしばらく倩井を芋おいた。昚倜はサむモンに連れられおパブぞ行き、それが二杯、䞉杯ずなり、ホテルぞ垰った頃には日付が倉わっおいた。

    眠い。もう䞀床目を閉じようずしたずき、昚倜の数字を思い出した。26.40。22.11。たった7秒。

    「  なんだったんだろ」

    ベッドから起き䞊がり、䜕ずなく携垯電話を手に取った。ノヌスブリッゞ・゚ナゞヌ。怜玢する。最初に出おきたニュヌスを芋お、眠気が消えた。

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    【ノヌスブリッゞ・゚ナゞヌ、予定倖の業瞟修正を発衚】

    予定されおいなかった業瞟芋通しの修正。北海油田の䞀郚蚭備で重倧な問題が芋぀かり、生産蚈画の匕き䞋げず远加損倱の蚈䞊を発衚した、ずある。発衚されたのはロンドン時間の午前6時。垂堎はただ開いおいない。

    昚倜、LFBのモニタヌに衚瀺されおいた䟡栌は26.40。そこから22.11たで䞋がれば、16パヌセントを超える䞋萜になる。あり埗ない数字ではない。

    「いやいや」ひずしは自分に蚀った。ただ䜕も起きおいない。

    それでも、その数字が頭から離れなかった。

    午前7時半、LFBのプロゞェクトルヌムは、い぀もより隒がしかった。壁のモニタヌの䞀぀に、ノヌスブリッゞ・゚ナゞヌのニュヌスが映っおいる。

    「芋たか 運が悪いな」サむモンがコヌヒヌを片手に近づいおきた。

    「昚日お前が倉な数字を芋た䌚瀟だろ。そこたで䞋がったら、お前を予蚀者ずしお売り出しおやるよ」

    垂堎が開くたで、あず䞉十分。ノヌスブリッゞ・゚ナゞヌには売り泚文が集たっおいるらしい。金融ニュヌスの解説者が、10パヌセントを超える䞋萜もあり埗る、ず話しおいる。

    午前8時。取匕開始。26.40だった株䟡は、䞀気に䞋ぞ飛んだ。

    24.82。

    24.05。

    23.61



    サむモンも仕事の手を止めお芋おいた。

    「ひどいな」

    偶然だ。ひずしはそう思おうずしおいた。

    22.36。

    22.24。

    そしお――

    22.11

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    数字が止たった。ほんの䞀瞬。次の玄定で22.13ぞ倉わった。垂堎は動き続けおいる。だが、ひずしにはそこから先が芋えおいなかった。

    「22.11」

    「芋た」

    今床は、サむモンも笑わなかった。

    「偶然だよ」サむモンが先に蚀った。

    「株䟡なんお现かく動く。22.11を䞀回通ったくらいじゃ䜕の意味もない。それに昚日の数字はログにない」

    理屈ではサむモンが正しい。26ポンド台から22ポンド台たで䞋萜した株䟡なら、その途䞭で22.11ずいう䟡栌を぀けるこずはある。だが䞀぀だけ匕っかかった。昚日から出おいた、あの䞍芏則な遅延だ。

    午前11時。ひずしはサむモンず䞊んで、システム構成図を芋おいた。LFBが扱う金融デヌタには、二぀の経路がある。䞻回線はMFD。もう䞀぀がGMSで、契玄䞊の範囲は限定されおいるが、緊急時のバックアップずしお䞀郚の垂堎情報を受け取っおいる。通垞はMFDの倀が採甚される。だがMFD偎から䞀定時間デヌタが来なければ、自動的にGMSぞ切り替わる。

    「切替条件は」

    「500ms」サむモンが答えた。

    前日のメモを芋る。580ms遅延。

    「だったら、このずきGMSぞ切り替わっおるはずですよね」

    「理屈では」サむモンが端末を操䜜する。数秒埌、銖を傟げた。

    「ない。昚日は䞀床も切り替わっおないこずになっおる」

    䞻系統MFD。ずっずそのたただ。

    「切り替わっおないのに、別系統のデヌタが混ざるこずは」

    「それはない」サむモンは即答した。

    「そんな蚭蚈じゃないからだ。二぀のフィヌドが勝手に混ざったら、このシステムは䜿い物にならない」

    「だから確認したいんです」

    二人で別の端末ぞ移り、問題が起きた時刻の前埌30秒だけを抜き出した。

    「タむムスタンプ」ひずしが指した。䞀぀だけ間隔が開いおいる。583ms。昚日ひずしが芋぀けた遅延ずほが䞀臎した。

    「GMS偎は」

    別の蚘録を開く。デヌタは来おいる。途切れおいない。

    「だったら500msを超えたずころで――」

    ひずしは止たった。画面に䞀぀の蚘録があった。

    SOURCE : GMS-B

    時刻は、昚倜ひずしが22.11を芋た時間ず䞀臎しおいる。党郚で7秒。サむモンが倉換ツヌルを起動する。銘柄コヌド、通貚、時刻、䟡栌。ノヌスブリッゞ・゚ナゞヌ。そしお、22.11。二人ずも声を出さなかった。

    「  芋間違いじゃなかった。でも、おかしい。切替呜什がない」

    統合装眮は、MFDを䞻系統ずしお認識したたただ。それなのに実際の出力偎には、7秒間だけGMS-Bず識別されたデヌタが流れおいる。

    午埌3時、緊急の技術ミヌティングが開かれた。LFBからサむモンず゚ミリヌ、MFDから二名、通信事業者、KHJからひずし、そしおBSEGからセキュリティ担圓のマヌカス・ベネットが加わった。

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    「MFDの送信偎には異垞はありたせん」MFDの技術責任者、リチャヌド・ロスが蚀った。四十代半ば。県鏡の奥の目が、明らかに䞍機嫌だった。

    「583ms空いおたす」ひずしが蚀った。

    「IPネットワヌク䞊では起こり埗る範囲です」リチャヌドが答える。

    「じゃあ遅延はあった」

    「  583msの間隔はありたす」

    サむモンが説明する。「蚭定䞊、500msを超えた堎合はバックアップぞ切り替わる。でも切替ログはない。なのにGMS-Bず識別されたデヌタが出力された。7秒間だけ」

    リチャヌドが眉をひそめた。「それはMFDの問題ではないでしょう」

    「ただ誰の問題ずも蚀っおたせん」ひずしは䞉぀のログを芋た。

    「MFDは正垞。回線も正垞。LFBの切替装眮も正垞。でも、昚日の倜には本来出ないはずの数字が7秒間出た。少なくずも䞀぀は、正垞じゃないですよね」

    倕方、GMSから回答が来た。短かった。圓該時間垯に、GMSの本番垂堎デヌタサヌビスでノヌスブリッゞ・゚ナゞヌの䟡栌22.11を配信した事実は確認できない。SOURCE:GMS-Bず蚘録されたデヌタに぀いおも、GMS偎の送信蚘録は確認できない。したがっお、自瀟サヌビスに問題はない。以䞊。

    「䟿利な答えだな」サむモンが吐き捚おた。

    ひずしは回答文をもう䞀床読んだ。劙な感じがした。

    「GMS、詳しすぎない 最初に俺たちが蚊いたのは、22.11を配信したかどうかですよね。なんで、GMS-Bの話を知っおるんです」

    郚屋が静かになった。゚ミリヌがメヌルを芋盎した。確かに曞いおある。貎瀟システムでSOURCE:GMS-Bず識別されたデヌタに぀いお。マヌカスが自分の端末を開いた。送信枈みの照䌚文を確認する。「送っおない」

    サむモンが近づく。「LFBからは」

    「最初のメヌルは、22.11に぀いおしか蚊いおない」゚ミリヌが答えた。

    SOURCE : GMS-B。それを知っおいるのは、今日ログを解析した人間だけのはずだった。単なる情報共有の行き違いかもしれない。しかし、たた䞀぀、説明の぀かないものが増えた。

    マヌカスがすぐにハリントンぞ確認を入れた。折り返し、短い指瀺が戻っおきた。「問い合わせ履歎を党郚確認しおください。電話も」

    GMSは、BSEGずMFDの買収を止めたいはずだ。それなら、この劙な䞀臎は䜕を意味するのか。ひずしはそう思ったが、口には出さなかった。ただ、GMSが䜕かをした蚌拠はない。むしろ䜕もない。ただ、ひずしの頭の䞭で昚日からバラバラだったものが、少しず぀同じ方向を向き始めおいた。

    583msの遅延。

    7秒間だけ混じった22.11。

    翌朝、本圓に22.11たで萜ちた株䟡。

    切替ログには䜕もない。

    そしお、自分たちが䌝えおいないはずのGMS-Bを知っおいたGMS。

    偶然。蚭定ミス。情報共有の行き違い。どれもあり埗る。だから、ただ疑うべきではない。

    そのずきだった。゚ミリヌの端末が鳎った。営業郚門からの、LFB向けの新しい提案曞。

    「垂堎デヌタ配信の信頌性に懞念が生じた堎合、GMSは二十四時間以内に代替フィヌドを提䟛できる」

    ゚ミリヌが読み䞊げた。

    「送信時刻は」

    マヌカスが蚊いた。

    「午埌7時9分。昚日」

    ゚ミリヌが答えた。マヌカスは、手元の障害報告を芋た。

    「こちらの怜知蚘録は7時12分。䞉分前か」

    「それ、譊告が出た時刻ですよね」

    ひずしは手垳を開いた。

    「俺が数字を芋たのは、7時9分です。壁の時蚈を芋お曞きたした」

    ゚ミリヌが顔を䞊げた。

    「じゃあ、メヌルず同じ時刻」

    「その可胜性はありたす。ただ、メヌルの時刻ず、こっちの蚘録をきちんず突き合わせたいです」

    マヌカスは報告曞に曞き蟌んだ。

    「衚瀺が倉わった時刻ず、システムが譊告を出した時刻は分けよう。GMSには、元の配信蚘録も求める」

    みな、黙り蟌んでいた。メヌルが異垞の前だったのか、それずも同時だったのか。そこも、確かめなければならなかった。

    倜、ひずしの机に、䞀枚の報告曞が眮かれた。

    統合詊隓むンシデント報告曞

    ゚ミリヌが䜜ったものだった。抂芁には「䞀時的な垂堎デヌタ衚瀺異垞。顧客圱響なし。再珟性なし。珟圚は正垞皌働」ずあり、最埌に「重倧な問題は確認されなかった」ず結ばれおいる。

    「これ、明日の朝たでにサむンお願い」

    ひずしは玙を読んだ。

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    「原因は」

    「ただ調査䞭」゚ミリヌが答えた。

    「分かっおないですよね」

    「分かっおない」

    「なのに問題なし」

    「重倧な問題なし、よ」

    「同じじゃない」

    ゚ミリヌは少し黙り、それから小さく息を吐いた。「  同じよ。違わない」

    ひずしはペンを取り、少し考えおから、報告曞の䜙癜に䞀文を曞き加えた。

    『原因未解明。異なるデヌタ系統の混入を排陀できない。』

    そのたた無蚀でサむンした。

    ゚ミリヌは玙を受け取るず、少しだけ眉を寄せた。

    「これ、䞊がった先で嫌がられるわよ」

    「分かっおないこずを、分かったこずにしたくないだけです」

    「  分かっおる」

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    圌女はファむルを閉じた。

    「だから、この䞀文は消さない」

    その玙が、その倜のうちにどこたで䞊がっおいくのか。ひずしは知らなかった。


    同じ頃。BSEG本瀟。アンドリュヌ・ハリントンの机に、䜕十枚もの進捗報告曞が積たれおいた。MFD統合案件だけで、䞀日に䞊がっおくる資料は数癟ペヌゞになる。ハリントンは普段、そのすべおを読むわけではない。

    その䞭に、䞀枚だけ黄色い印の぀いた報告曞があった。

    「これは」

    郚䞋が答える。「LFBの倖郚接続詊隓です。軜埮な衚瀺異垞です」

    ハリントンは䞀番䞋を芋る。手曞きで远加された䞀文。

    『原因未解明。異なるデヌタ系統の混入を排陀できない。』

    ハリントンの指が止たった。

    「これは誰が曞いた」

    「KHJの技術者です」

    「この男を」ハリントンは報告曞を机に眮いた。

    「明日の䌚議に呌んでくれ」

    「問題を芋぀けたら隠すな、ず昚日私が蚀った」

    わずかに口元を緩めた。

    「䞀人だけ、それを真に受けたらしい」


    第3章 グレむ゜ン

    翌朝9時10分。ひずしはBSEG本瀟の受付で、自分の名前が印刷された来蚪者甚カヌドを眺めおいた。HITOSHI TAIRA KHJ。それだけだった。

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    「堎違いだな」思わず呟いた。

    「タむラさん」受付の女性が顔を䞊げた。

    「ハリントンのオフィスでお埅ちです」

    その蚀葉に、少しだけ緊匵した。案内された䌚議宀には、すでに八人ほど座っおいる。LFBの゚ミリヌ、MFDのリチャヌド、BSEGのシステム責任者、情報セキュリティ、法務、統合プロゞェクトの担圓者。そしお、䞀番奥に、アンドリュヌ・ハリントンがいた。

    「LFBの接続詊隓で起きた垂堎デヌタの異垞に぀いお、昚日、報告を受けたした」壁に22.11の数字が映し出された。

    「これに぀いお、事実だけ確認したす。掚枬はいりたせん。タむラさん、あなたが最初に芋぀けた」

    「衚瀺を芋たのは僕です。7秒くらい。厳密には違うかもしれたせん」

    「そういう答えでいい」

    「アプリケヌションログにはありたせん」BSEGのシステム責任者が答えた。

    「ただしネットワヌク偎の蚘録にはGMS-Bを送信元ずするデヌタが存圚したす」

    ハリントンは少し間を眮いた。「異垞衚瀺の翌朝、同じ䟡栌が実際の垂堎で぀いた。それ自䜓に意味があるず思いたすか」

    「珟時点では、関連づける根拠はありたせん」リチャヌドが口を開いた。

    「同意したす」ハリントンはあっさり蚀い、ひずしを芋た。

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    「あなたも」

    「はい。22.11が翌朝の株䟡を予枬しおいたずは曞いおたせん。出るはずのないデヌタが出たこずです。MFDが䞻系統。500ms以䞊止たればGMS系ぞ切り替わる。でも切替ログはない。それなのにGMS-Bず識別されたデヌタが7秒だけ出力されおいる。それだけです」

    ハリントンはしばらく黙った。「十分です。我々は未来を予枬する必芁はない。正垞なシステムで、正垞ではない動䜜が起きた。それだけを調べればいい」

    ずころが、リチャヌドが口を挟んだ。「ただし、MFD偎には異垞は確認されおいたせん」

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    「ロスさん」ハリントンの声は穏やかだった。

    「私は責任者を探しおいるんじゃありたせん。原因を探しおいたす」

    ひずしは思わずハリントンを芋た。昚日、自分が蚀ったのずほずんど同じだった。ハリントンは資料を䞀枚めくった。「GMSから远加回答は」

    「ただです」゚ミリヌが答えた。

    「正匏に芁求しおください。BSEGから出したす」

    郚屋の空気が少し倉わった。これは、昚日たでの技術問い合わせずは違う。䞖界最倧玚の金融垂堎むンフラ䌁業が、巚倧な金融情報䌚瀟ぞ正匏な説明を求める。意味が倉わる。

    「それから」ハリントンはひずしを芋た。

    「あなたは今日から、この件の技術レビュヌに入っおください」

    「僕がですか KHJですけど。今回の統合プロゞェクトの担圓でもありたせん」

    「それも知っおいたす」ハリントンは少し笑った。

    「BSEGの人間はBSEGを芋る。MFDの人間はMFDを芋る。LFBはLFBを芋る。あなたは」

    「KHJを芋たす」

    「昚日はそうじゃなかった。あなたは䞉瀟のログを芋た。境界で問題が起きたずき、自分の䌚瀟の境界から出ない人間は圹に立たない」ハリントンが続ける。

    「ただし、勘で話さないこず。分からないものは、分からないず蚀う。そしお、誰かを疑うなら蚌拠を持っおくる」

    「なんで、俺なんです」

    「あなたは、自分の䌚瀟の利害を背負っおいない」ハリントンは蚀った。

    「BSEGの人間はBSEGの利益を考える。MFDの人間はMFDの利益を考える。あなたには、それがない」

    「GMSにずっお、この買収はそんなに倧きい話なんですか」

    ハリントンは少し考えた。「䞖界䞭の金融垂堎で、䞀番䟡倀のあるものは䜕だず思いたす 私は、時間だず思っおいたす。他人より1秒早く知る、刀断する、取匕する。BSEGは、情報が生たれる堎所を持っおいる。MFDは、その情報を敎理しお届ける胜力を持っおいる。二぀が䞀緒になれば、GMSが長幎売っおきた1秒に、我々が先に入り蟌むこずになるかもしれない」

    「じゃあ敵ですね」

    「競争盞手です」ハリントンはすぐ蚂正した。

    「競争盞手が自分たちの利益を守ろうずするこずは悪ではない。ただし――競争には線がありたす。越えおいい線ず、越えおはいけない線です。それを芋極めるには、境界の倖に立おる人間が芁る」

    䜕か特別なこずを任された気はしなかった。だが、その日から、ひずしの入通カヌドで入れる堎所が䞀぀増えた。


    昌、゚ミリヌずサむモンに連れられ、BSEG近くの小さな店に入った。

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    「昇進おめでずう」サむモンがビヌルを持ち䞊げた。

    「しおないよ」

    「少し気を぀けた方がいい」゚ミリヌが蚀った。

    「あなた、GMSのこずをどれくらい知っおる」

    「金融情報の倧手。端末が匷い。MFDの競争盞手」

    「グレむ゜ンは、単にデヌタを売っおる䌚瀟じゃない」゚ミリヌは少し考えた。

    「端末がある。ニュヌスがある。分析がある。䞖界䞭のトレヌダヌが、朝たず觊るものを持っおる」

    「それで営業攻勢」

    「それなら健党よ」゚ミリヌが蚀った。

    「垂堎では、競争盞手が嫌がるこずをするのは普通。でも、買収を止める方法は営業だけじゃない。芏制圓局よ。『BSEGずMFDが䞀緒になれば競争が阻害される』ず䞻匵するの。それも普通の手口よ」゚ミリヌは肩をすくめた。

    「だから誰も、GMSが悪いこずをしおるなんお蚀っおない。ただ、タむミングが良すぎるのよ。嫌な予感がするだけ」


    食事を終え、䞉人で歩いおBSEGぞ戻る途䞭だった。

    「ヒトシ、昔ロンドンに䜏んでたっお蚀っおたよな。どこ」

    「南の方。ケント寄り」ひずしは少し考えた。

    「チェルスフィヌルドの蟺り」

    サむモンが眉を䞊げた。「ずいぶん郊倖だな」

    「ホヌムステむだったから」

    「孊校は」

    「ロンドンたで出おた」

    「毎日」

    「毎日」

    「よくやるな」

    「若かったからね」ひずしは笑った。

    通りの向こうに地䞋鉄の入口が芋えた。その瞬間、ずっず忘れおいた光景が頭をよぎった。駅。人混み。癜い杖。困ったように立っおいた少女。腕は掎んでいない。行き先を、向こうに遞ばせおいる。ほんの䞀瞬だった。

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    「どうした」

    ゚ミリヌが蚊いた。

    「いや。昔、この近くで、人を案内したこずがあっお」

    「恋人」

    サむモンが笑う。

    「違う。道が分からなくなっおる人がいお」

    「助けたのか」

    「案内しただけだよ」
    特別なこずをした぀もりはなかった。今も、そう思っおいる。

    名前たでは思い出さなかった。いや、思い出そうずもしなかった。留孊しおいた頃の蚘憶なんお、いくらでもある。駅で困っおいた人を助けた。その皋床の出来事なら、なおさらだ。


    第4章 「正垞」ず曞け

    「偶然です」

    その蚀葉を、ひずしはその日のうちに二床聞くこずになる。

    午埌4時。BSEGの䌚議宀に、ロンドン、ニュヌペヌク、東京を結んだオンラむン䌚議が蚭定された。画面の向こうに珟れたGMSの担圓者は䞉人。その䞭倮に座っおいた男だけが、肩曞きからしお少し違った。

    ゚ドワヌド・ハルデン、戊略垂堎郚門・欧州担圓゚グれクティブ・バむスプレゞデント。五十代前半。きれいに撫で぀けた灰色の髪。现い銀瞁の県鏡。声を荒らげるような人間には芋えなかった。むしろ、必芁以䞊に穏やかだった。

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    画面の埌ろに、叀い端末が䞀台写っおいた。今のGMSの補品ではない。筐䜓の隅に、小さく初期のロゎがあった。

    「LFB向けの営業提案は、今回の事象ずは䞀切関係ありたせん」ハルデンは蚀った。

    「我々は毎日、䞖界䞭の顧客ぞ提案を行っおいたす。そのうちの䞀通が、ある技術事象の3分前に送信された。それだけです」

    隣のGMS営業責任者が、前週から予定されおいた自動配信キャンペヌンの蚘録を提瀺した。確かに、これだけなら説明は぀く。

    「では、SOURCE:GMS-Bに぀いお説明しおください」ハリントンが蚀った。

    䞀瞬だけ、ハルデンの衚情が止たったように芋えた。

    「少なくずも、我々の本番系から送信された蚘録はありたせん。名称だけなら、第䞉者が任意に぀けるこずができたす」

    「぀たり停装だず」マヌカスが蚊く。

    「それを調査するのは、埡瀟の仕事でしょう」

    ハルデンは䞀床氎を飲み、初めおひずしぞ芖線を向けた。

    「タむラさん、あなたが発芋されたそうですね。金融垂堎システムの専門家ではない」

    「専門は攟送システムです」

    「であれば、通垞の詊隓では理解しにくい動䜜もあるでしょう。この件は専門家に任せた方がよろしいのでは」

    「専門家が原因を説明できれば、ですけど」ひずしは資料を開いた。

    「MFDが䞻回線だった。切替呜什は出おいない。それなのに7秒間だけ別系統のデヌタが出た」

    「それは、埡瀟のシステム偎の問題ではありたせんか」

    ハルデンが蚀った。ひずしは少し銖をかしげた。

    「LFBのこずですか」

    「デヌタを受け取っおいる偎です」

    「受信偎に原因がある可胜性はありたす。ただ、僕はLFBの人間じゃありたせん。日本の攟送局、KHJから来おいたす」

    ハルデンは黙った。ひずしは続けた。

    「LFBを庇うために調べおるわけじゃないんです。MFDも同じですし、GMSに原因があるず決めおいるわけでもありたせん。ただ、出ないはずの数字が出た。その理由が知りたいだけです」

    「偶発的な技術䞊の䞍具合だったずしおも」

    「それなら、原因を確かめお盎せば終わりです」

    「我々を疑っおいるのでは」

    「GMSから来たデヌタなのかは、確認したいです。でも、ただ分かりたせん。だから、正垞だったずも蚀えたせん」

    「慎重な方だ」

    ハルデンは埮笑んだ。だが、ひずしにはなぜか耒められた気がしなかった。


    倕方、MFDから远加報告が届いた。583msの遅延は障害ず評䟡しない。GMS-BはLFB内郚の識別子である可胜性が高い。結論は、障害を瀺す蚌拠なし。

    サむモンが画面を芋た。

    「きれいに終わったな」

    「原因は分かっおない」

    「分かっおないたた閉じる案件なんお、いくらでもある」

    ゚ミリヌが怅子を寄せた。

    「今は、閉じたい偎の声の方が倧きいの」

    ひずしは返事をしなかった。閉じたい理由は理解できた。理解できるこずず、眲名できるこずは別だった。

    そのずき電話が鳎った。東京からだった。「平、もういいだろ」KHJ技術局の䞊叞の声。日本は深倜だった。

    「お前をロンドンぞ送ったのは、BSEGの買収調査をさせるためじゃない。GMSを远及させるためでもない。だったら、自分の仕事をやれ」

    「東京ぞデヌタを正しく送るのが、僕の仕事ですよね。じゃあ、正しいか分からないものを、正しいっお曞けたせん」

    「䌚瀟員っおのはな、自分が玍埗するたで党郚調べられる仕事ばっかりじゃないんだ。どこかで線を匕く」

    「その線、誰が決めたんです うちですか。それずもGMSですか」

    「屁理屈蚀うな。明日の正匏レビュヌで、KHJずしお反察はするな」

    「反察はしたせん。正垞ずも蚀いたせんけど」

    長いため息が聞こえた。「  お前、昔からそうだったな」


    翌朝。正匏レビュヌ。BSEG、MFD、LFB、通信䌚瀟、法務、リスク管理、合蚈二十数人。ハリントンもいる。議題は、LFB倖郚接続詊隓で発生した異垞事象を重倧むンシデントずしお継続管理するか、軜埮な事象ずしお閉じるか。

    MFDが最終報告を行った。「珟時点でシステム䞊の故障を瀺す蚌拠はありたせん」最埌のペヌゞには、終了掚奚ずあった。

    「LFB」

    「異議ありたせん」

    「通信事業者」

    「異議なし」

    「KHJ」

    ひずしは顔を䞊げた。反察はするな。東京の䞊叞の声が頭に残っおいた。だが、正垞だず蚀う玄束はしおいない。

    「接続詊隓の継続には反察したせん」

    そこで䞀拍眮いた。郚屋の空気が、わずかに緩む。

    「ただし、この事象を正垞ず評䟡するこずには同意できたせん」

    動きが止たった。リチャヌドが露骚に嫌そうな顔をした。ひずしは続けた。
    「重倧障害じゃないこずず、正垞だったこずは同じじゃないです。正垞なら、7秒間の22.11がどこから来たのか説明しおください」

    「それは調査枈みです」リチャヌドが答えた。

    「分からなかったんですよね」

    「――」

    「だから、“分からない”でいいじゃないですか」ひずしは続けた。

    「どうしお、“分からない”を“正垞”に倉えなきゃいけないんです」

    「タむラさん、未解決のたた残れば、次のゲヌト審査に圱響したす」

    統合䌁画責任者が蚀った。

    「審査ず、システムが正垞かどうかは、別だず思いたす」

    「審査では䞡方が問題になる」統合䌁画責任者が蚀った。

    「だからこそ、技術的に分かったこずず、審査ぞの圱響は分けた方がいい」ひずしは答えた。

    郚屋の空気が倉わった。蚀いすぎたのは自分でも分かった。戻せないこずも分かった。

    「もう十分だ」ハリントンが蚀った。倧きな声ではなかった。それでも党員が黙った。

    「タむラさん、あなたの結論は」

    「接続詊隓は進めおいいず思いたす。この事象は未解決。今の蚌拠では、重倧障害ずたでは蚀えたせん。7秒間、出ないはずのデヌタが出た。それだけです」

    ハリントンはしばらく黙っおいた。「分かりたした。本件は未解決事象ずしお残したす」

    「アンドリュヌ、それでは――」

    「プロゞェクトは止めたせん。重倧障害ずは評䟡しない。クロヌズもしない。調査を継続する。それだけです」

    誰も反論しなかった。䌚議宀を出ようずしたずき、「タむラさん」埌ろから呌ばれた。ハリントンだった。二人だけになった。窓際で足を止める。

    「昚日、私はあなたに蚀いたしたね。分からないものは、分からないず蚀え、ず」

    ハリントンは笑った。

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    「本圓に蚀うずは思わなかった」

    「蚀わない方がよかったですか」

    「逆です。ただ、䞀぀芚えおおいおください。正しいこずを蚀えば、正しい結果になるずは限らない」

    ひずしは黙っおいた。ハリントンが続けた。

    「それでも蚀う」

    「分からないものは、しょうがないじゃないですか」

    ハリントンは数秒、ひずしの顔を芋おいた。それから、小さく笑った。

    「明日から、正匏にマヌカスの調査チヌムに入っおください」

    「でも、KHJの仕事があるんですけど」

    「LFBずの調敎は、そのたた続けおください」

    「忙しくなるんですけど」

    「嫌ですか」

    ひずしは少し考えた。

    「残業代、出たす」

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    ハリントンは䞀瞬、蚀葉を止めた。それから声を出しお笑った。

    「費甚はこちらで持ちたす。KHJには私から話したしょう」

    その倜。ホテルぞ戻ったひずしの携垯電話に、寅子からメッセヌゞが届いた。《仕事どう》

    《なんか面倒なこずになっおきた》

    《ひずしが》

    《仕事が》

    《ひずしもでしょ》

    結局、《玅茶買っお垰る》ずだけ送った。

    そのずき、メヌルの着信音が鳎った。差出人は、マヌカス・ベネット。
    件名、緊急。本文は䞀行だった。ログの䞀郚を倱った。もう䞀通。今床はLFBからだった。耇数システムが利甚䞍胜。ランサムりェア攻撃の可胜性。

    正垞かどうか。そんな議論をしおいた時間は、もう終わっおいた。


    第5章 面癜そうだからやっおあげたす

    ホテルを出たずき、雚が降り始めおいた。タクシヌの䞭からサむモンぞ電話をかける。

    「状況は」

    『最悪』

    その䞀蚀で、眠気が党郚消えた。

    『配信管理ずアヌカむブが䜿えない。監芖系も䞀郚萜ちおる。それから、KHJ向けのゲヌトりェむも』

    「東京偎にも広がっおる」

    『ただ分からない。今、東京ずの接続を切っおる』

    サむモンの声の向こうで、誰かが叫んでいた。

    『ひずし、あの異垞が出た日のログも䞀郚消えおる』

    「  すぐ着く」

    通話を切り、ひずしはタクシヌの窓から前方を芋た。

    画像

    LFBに着くず、そのたたシステム宀ぞ向かった。前日たでずは別の堎所のようだった。いく぀かのモニタヌが黒く沈み、あちこちで電話の声が重なっおいる。

    サむモンが端末の前から顔を䞊げた。

    「東京ずの接続は切った」

    画像

    「向こうの被害は」

    「東京偎で確認しおる。今のずころ、感染の報告はない」

    ひずしは隣の垭に座った。KHJのロンドン偎蚭備を管理する端末。その画面には、芋慣れた監芖衚瀺の代わりに、短い文が出おいた。

    あなたのファむルは暗号化された

    画像

    兞型的な身代金芁求だった。

    「いくら芁求しおる」

    ひずしが隣のサむモンに蚊いた。

    「ビットコむンで払えずさ。ポンドにするず、200䞇くらい」

    「バックアップは」

    「ある」

    「なら戻せる」

    サむモンは別のモニタヌを指した。バックアップサヌバヌにも、同じ身代金芁求が衚瀺されおいた。

    「こっちもやられおる。䜿えるものが残っおないか、確認䞭だ」

    ひずしは口を閉じた。

    マヌカス・ベネットが近づいおきた。

    「先ほどの、ログが消えおいる件ですが。暗号化で読めなくなっただけではありたせんでした」

    「どういうこずです」

    「暗号化が始たる玄40分前に、監査ログの䞀郚が削陀されおいたす」

    マヌカスが端末に蚘録を衚瀺した。削陀されたログの時間垯を芋お、ひずしの手が止たった。

    画像

    「ここ、あの異垞が出た時間ですよね」

    「ええ。その前埌を含む6時間です」

    あの7秒間に䜕が起きたのか。ただ説明が぀いおいない。その時間垯の蚘録が、今床は倱われおいた。

    「ほかの時間垯は」

    「確認䞭です。たず、削陀された範囲を掗いたす」

    「あの異垞に関係するものだけが消えおいるのか、ずいうこずですか」

    「そこも含めおです。今はただ、結び぀けられたせん」

    ひずしは画面の時刻をもう䞀床芋た。気にはなった。だが、今は東京ぞの配信を戻す方が先だった。

    午前4時を過ぎた。感染端末は増えおいない。だが、暗号化されたファむルが戻せない。東京では、次の経枈番組の攟送が迫っおいた。
    ひずしは東京偎ずの電話を終え、サむモンに䌝えた。

    「映像は別回線で送りたす」

    「デヌタはどうする」

    「GMSのバックアップは䜿えない」

    「GMSの配信自䜓は生きおる。ただ、い぀もの倉換・配信系が䜿えない。別の環境で、そっちの番組CGに枡せる圢たで組み盎す。早くお六時間だ」

    ひずしは時蚈を芋た。

    「間に合わないな」

    結局、東京のスタッフが数字を確認し、手入力するこずになった。

    午前5時12分。LFBが契玄しおいるセキュリティ䌚瀟から解析結果が来た。未知の亜皮。既存の埩号ツヌルでは察応䞍胜。200䞇ポンド。払っお戻る保蚌はない。ログも戻る保蚌はない。

    ひずしは、届いた解析報告をもう䞀床開いた。

    「既存のツヌルでは察応できない」ずある。その先に䜕が必芁なのかは、曞かれおいなかった。

    末尟の参考資料を開いた。今回のものに近いランサムりェアの解析蚘事だった。そこから公開されおいる埩号ツヌルのペヌゞぞ進む。察応する皮類の䞀芧に、今回のものはない。

    利甚者からの報告をたどった。同じように埩号に倱敗したずいう曞き蟌みがいく぀もあった。回答は、ほずんど同じだった。別の亜皮には䜿えない。元のファむルを保管し、察応を埅っおほしい。

    埅おるなら、こんな時間に読んでいない。

    䞀件だけ、別の技術フォヌラムぞのリンクがあった。ひずしは開いた。

    半幎前の議論だった。暗号化されたファむルを戻せないずいう盞談に、䜕人かが解析結果を寄せおいる。その途䞭で、䞀人の投皿者が、暗号そのものではなく、鍵を䜜る凊理を調べるべきだず曞いおいた。

    専門的な説明のすべおは分からなかった。ただ、ほかの参加者が最初は吊定し、その埌、怜蚌結果を持ち寄り始めたこずは分かった。

    数日埌、その投皿者が埩号ツヌルを公開しおいた。

    ひずしは最埌たで読んだ。盞談者から、戻ったずいう報告があった。別の参加者も、自分の環境で確認できたず曞いおいる。

    今回も戻せるずは限らない。だが、既存のツヌルが䜿えないずころから、先ぞ進んだ人間ではあった。

    投皿者の名前を抌した。

    「KAMISAMA」

    画像

    プロフィヌルはほずんど空欄だった。囜籍も、所属も、性別も分からない。ほかの投皿も開いおみた。質問に答えるこずもあれば、途䞭で返事をやめおいるこずもある。それでも、解析の指摘を別の誰かが確かめた蚘録が、いく぀か残っおいた。

    時蚈を芋るず、䞀時間近く経っおいた。

    「䜕なんだ、こい぀」

    「日本人」サむモンが蚊く。

    「かみさた」

    「意味は」

    「ゎッド」サむモンが笑った。

    「ずいぶん倧きく出たな」

    ひずしはメッセヌゞ欄を開いた。
    そしお、半幎前の解析投皿を読んだこず。ロンドンの攟送関連䌚瀟でランサムりェア被害が出おおり、既存の埩号ツヌルでは察応できないこず。サンプルを提䟛するので盞談に乗っおもらえないか。ひずしは英語で曞き、日本の攟送局KHJに所属する技術者だず、名前ずずもに添えた。送信した。
    返事が来るずは思っおいなかった。

    十分。二十分。䞉十分。通知音が鳎った。


    《サンプル芋せおください》

    日本語だった。ひずしは、自分が送った英文を読み返した。

    《日本語で倧䞈倫なんですか》

    《眲名に日本の攟送局ずあったので。英語の方がよければ、そちらでも》

    《いえ、日本語の方が助かりたす。日本の方ですか》

    《サンプルは出せたすか》

    日本人かどうかには、答えおくれなかった。

    ひずしはマヌカスに声をかけた。提䟛しおよい範囲を確認し、個人情報や瀟内情報を陀去したサンプルを甚意した。

    《解析をお願いした堎合、費甚はいくらですか》

    《いりたせん》

    《なぜ》

    《面癜そうだからやっおあげたす》

    画像

    「  なんだこい぀」

    画像

    「200䞇ポンドより怪しくない」サむモンが蚀った。

    サンプルを送った。時刻は午前6時48分。そこから返事がなくなった。

    午前8時、東京から連絡が入った。番組は人海戊術で䜕ずか乗り切ったずいう。䞀時間あたり経っおいる。ひずしはコヌヒヌを飲んだ。そのずき通知音が鳎った。

     

    《芋぀けたした》

    《埩号できたす》

    サむモンが画面ぞ寄っおきた。ひずしは届いた文を英語で䌝えた。
    かみさたから、続けおメッセヌゞが来た。

    《暗号化する前に、ログを探しお消す凊理がありたす》

    《党郚じゃない。時間垯を指定しおたす》

    ひずしはマヌカスを呌び、やり取りを説明した。

    《こちらでも、異垞衚瀺の前埌6時間のログが消えおいるず分かっおいたす。戻せたすか》

    《サンプルだけでは分かりたせん。消された領域に䜕が残っおいるか、確認したいです》

    マヌカスは、保党枈みの耇補から調査に必芁な郚分を取り出すよう指瀺した。提䟛範囲を確認し、远加で共有する。

    しばらくしお、返事が来た。

    《断片は残っおたす》

    《戻せそう》

    《党郚は無理かも。調べたす。面癜くなっおきたしたね》

     

    䌚瀟䞭が培倜で埩旧しおいる。200䞇ポンドを芁求されおいる。こちらにずっおは、少しも面癜くない。だが画面の向こうにいる人間だけは、楜しんでいるらしい。

    《埩号ツヌル、二時間ください》

    新しいメッセヌゞが届いた。それが、ひずしず「かみさた」が亀わした、最初の䌚話だった。


    第6章 消された6時間

    二時間埌。本圓に届いた。ファむル名は、restore_01。説明曞もない。

    《これ、どうやっお䜿うんですか》

    《隔離環境ありたす》

    《ありたす》

    《そこで実行しおください》

    「先に我々でコヌドを確認する」マヌカスが蚀った。圓然だった。正䜓も分からない盞手から送られおきたプログラムを、䌁業のシステムでいきなり動かすわけにはいかない。䞉十分、四十分。

    「少なくずも、劙な通信はしない」

    埩号察象ずしお、感染したテストサヌバヌの耇補を甚意した。実行。暗号化されおいたファむルの䞀぀が開いた。次々ずファむルが埩元されおいく。

    「本圓に戻しおる  」

    䞉十分埌、怜蚌甚サヌバヌの倧半が埩旧した。

     

    《動きたした》

    《でしょうね》

    《どうやったんですか》

    《鍵の䜜り方に癖がありたした》

    《それ以䞊聞いお分かりたす》

     

    腹が立぀。ただし、腕は本物だった。問題は、消されたログだった。ランサムりェアによる暗号化ずは違い、削陀されたデヌタは埩号すれば戻るわけではない。

    《残っおるっお蚀っおたしたよね》

    《断片です》

    《6時間党郚は無理。倧事なずころは拟えるかも》

    《倧事なずころっお、どうやっお分かるんですか》

    《消した人が教えおくれおたす。同じ堎所ばかり䞁寧に壊しおるので。党郚消したい人は党郚消したす。でもこの人は、芋られたくないものを遞んで消しおる》

    マヌカスが怅子を寄せた。「なるほど。ログ削陀にも癖が出る」

    「じゃあ消された堎所を远えば、攻撃者が䜕を隠したかったか分かる」

    埩元可胜な断片の䞀芧が送られおきた。ほずんど壊れおいる。だが、䞀぀の傟向だけははっきりしおいた。ノヌスブリッゞ・゚ナゞヌの22.11が衚瀺された前埌。そこだけ、異垞に削陀が集䞭しおいる。

    「やっぱりランサムりェアじゃない」サむモンが䜎く蚀った。

    「正確には、ランサムりェアでもある」マヌカスが蚀った。

    「金を取るためだけずは限らない。ログを消すための煙幕かもしれない」

    午埌、BSEGの䌚議宀に再び関係者が集められた。埩旧䜜業そのものは順調だった。「身代金を払わずに埩旧できる芋蟌みです」マヌカスが説明した。宀内に安堵が広がる。

    「もう䞀぀ありたす」壁の画面が切り替わった。消されたログの分垃。

    「今回の攻撃では、暗号化開始前に監査ログが遞択的に砎壊されおいたす。䟋の垂堎デヌタ異垞に関係する時間垯です」

    「぀たり」ハリントンが蚊く。

    「二぀の事件が぀ながっおいる可胜性がありたす」

    「どこたで分かっおいたすか」ハリントンが蚊いた。

    「異垞衚瀺に関係するログが狙われたずころたでです。誰が削陀したかは、ただ分かりたせん」マヌカスが答えた。

    「埩元したのは」ハリントンが蚊いた。

    「倖郚協力者です。個人です。匿名のセキュリティ研究者です」

    「そんなものを蚌拠に䜿う぀もりか」統合䌁画責任者が呆れたように蚀った。

    「私が蚱可した」マヌカスが遮った。

    「責任は私にありたす」

    「名前は」ハリントンが蚊いた。

    「かみさた、です。ハンドルネヌムです」

    「KAMISAMA」

    「ゎッド」サむモンが暪から蚀った。

    ハリントンは数秒黙った。「  なるほど。少なくずも、我々が契玄しおいる業者より早く埩号したした」ハリントンは画面の消倱箇所を芋た。

    「同じ時間垯だけが狙われたのなら、調べる䟡倀はある。買収日皋ずは切り離しおください」

    その倜。ひずしずマヌカスは、埩元されたログを䞀぀ず぀確認しおいた。かみさたはオンラむンで぀ながったたただ。

    《そこ違いたす》

    《時刻》

    《そのサヌバヌだけ時蚈が0.8秒ずれおたす》

    《なんで分かるんですか》

    《別のログず比范したした》

    芋慣れない文字列があった。LFB-GW04 / AUX-MD-B。「AUX 補助系統」サむモンを呌ぶず、眠そうな顔でやっお来お、画面を芋た瞬間に眠気が消えた。

    画像

    「昔のテスト系かもしれない。8か月以䞊前だったかな。バックアップフィヌドの切替詊隓をやった。GMSず」叀い図面を探す。GMSのテスト環境から、LFBの補助ゲヌトりェむぞ。AUX-MD-B。

    「今は閉じたはず」

    䞉人でシステム宀ぞ向かった。補助ゲヌトりェむは、䞀番端のラックに残っおいた。電源ランプが点いおいる。「動いおるじゃん」ケヌブルを远う。生きおいる。蚭定を確認する。

    画像

    「倖から到達できる」誰が残したのか。認蚌情報、蚌明曞。そしお、䞀぀の叀いサヌビスアカりントが有効なたただった。

    gms_migration

    マヌカスは、認蚌情報を含む接続蚭定も保党した。蚭定の解析に必芁な範囲を確認し、かみさたにも共有するこずにした。

    「名前だけなら」マヌカスは慎重だった。

    「名前では蚌拠にならない」バックアップフィヌド詊隓のずき、LFBずGMS、それず倖郚ベンダヌが参加しおいた。オルダヌブリッゞ・システムズ。金融むンフラの接続や移行を専門ずする小芏暡な技術䌚瀟。

    かみさたから通知が鳎った。《芋぀けたみたいですね》

    《これ䜿われたず思う》

    《可胜性は高いです》

    《蚌明できる》

    《それは私の仕事じゃないですね。ひずしさんの仕事でしょ》

    「䜕で俺なんだよ」

    しばらくしお、別のメッセヌゞが来た。

    《さっきの、補足したす》

    《䜕を》

    《この接続が䜿われたずしおも、䜿ったのがGMSだずは限りたせん。アカりント名だけで決めない方がいい》

    《神様にも分からない》

    《神様じゃないです。面癜いログを芋おいただけです》

    《それに》

    少し間が空いた。

    《この消し方、䞊手いけど、急いでたす。急いでる人は、わざず分かりやすい足跡を残すこずがある》

    芋぀けるこずず、蚌明するこずは違う。匿名の誰かが「ここが怪しい」ず蚀ったずころで、巚倧䌁業は動かない。ただ、その倜に限っおは、かみさたの方が先に「分かりやすすぎる」ず疑っおいた。ひずしは、そのこずに少しだけ意倖な気持ちになった。

    翌朝、マヌカスが机に䞀枚の玙を眮いた。「オルダヌブリッゞ・システムズを調べた。LFBずの契玄は8か月前に終了。GMSずは珟圚も取匕がある」もう䞀枚。オルダヌブリッゞからLFBぞ掟遣されおいた技術者の䞀芧。そのうち䞀人、マヌティン・コヌル。補助ゲヌトりェむの構築担圓。

    「この男が、gms_migrationのアカりントを䜜っおいる。オルダヌブリッゞにはいない。半幎前に蟞めおる」

    移った先の䌚瀟名を、ひずしは読んだ。グレむ゜ン・マヌケット・システムズ。

    「偶然」

    マヌカスは答えなかった。「君、この数日でその蚀葉をずいぶん聞いたな」

    GMSで働いおいる。それだけでは犯眪でも䜕でもない。だが、偶然が増えすぎおいる。マヌカスの電話が鳎った。「GMSが回答した。関係ないそうだ」

    「たた」

    「それからもう䞀぀。゚ドワヌド・ハルデンが、盎接説明に来る。䞀時間埌だ」

    GMS。

    オルダヌブリッゞ・システムズ。

    マヌティン・コヌル。

    gms_migration。

    そしお、7秒間だけ珟れた22.11。

    バラバラだったものが、少しず぀䞀本の線になろうずしおいた。だが、その線の先にいる男が、本圓に゚ドワヌド・ハルデンなのか。それを蚌明するものは、ただ䜕もなかった。


    第7章 3分前

    ゚ドワヌド・ハルデンは、䞀人で来た。予定時刻の五分前。秘曞も法務担圓も連れおいなかった。それが逆に、この男の自信を感じさせた。

    「オルダヌブリッゞ・システムズは、GMSの取匕先です。マヌティン・コヌルは珟圚GMSの瀟員です。入瀟時期は半幎前。ただし、圌が8か月前に別䌚瀟の業務ずしお行った䜜業に぀いお、珟圚のGMSが責任を負う理由はありたせん」

    理屈は通っおいた。「圓瀟のネットワヌクから、このアカりントを利甚しおLFBぞ接続した蚘録はありたせん」

    「どの範囲で調べた」マヌカスが蚊いた。

    「盎近3か月」

    「半幎は」

    ハルデンは少し笑った。

    「もちろん調査したす」

    䜙裕がある。ハリントンが口を開いた。「では、あなたの結論は」

    「極めお単玔です」ハルデンは䞡手を組んだ。

    「LFBに叀いテスト甚接続が残っおいた。その構築に携わった技術者が、埌にGMSぞ転職した。そしお別件ずしお、LFBがサむバヌ攻撃を受けた。それらを䞀぀に぀ないでいるものは 印象です。人間は、偶然が䞉぀䞊ぶず物語を䜜りたくなる。特に技術者はそうです。だから、無関係な事象にも因果関係を芋぀けようずする」

    「でも、原因があるものにも原因を探したすよ」ひずしが蚀った。

    「偶然かどうかも、ただ分からないですよね」

    「その通りです」ハルデンは吊定しなかった。

    「だから蚌拠が必芁なんです。蚌拠が出れば、我々も協力したす」

    「出なければ」

    「そこで終わりです」

    静かな声だった。それだけに、匷かった。疑うなずは蚀わない。調べるなずも蚀わない。ただし、蚌明できなければ存圚しない。巚倧䌁業の幹郚ずしお、これ以䞊正しい態床はない。だからこそ厄介だった。

    䌚議は䞀時間で終わった。ハルデンは垰り際、ひずしの前で立ち止たった。

    「あなたは面癜いですね。GMSを疑っおいる」

    「ただ䜕も決めおたせん。数字の出所が分からないので、調べおいたす」

    「慎重ですね。それは結構です。ただ、䞀぀忠告しおおきたす」

    ハルデンの声が少し䜎くなった。

    画像

    「倧きな䌁業買収では、無数の噂が生たれる。競争盞手が劚害した。内郚者が情報を挏らした。ほずんどは、埌から䜜られた物語です。あなたはただ若い。䌚瀟同士の争いに深入りする必芁はありたせん」

    「䌚瀟同士の争いは、俺には分かりたせん。ただ、数字の出所を調べおGMSに行き着いたら、そちらにも説明を求めたす」

    「蚌拠があれば、我々も調査に協力したす。先ほど申し䞊げた通りです」

    ハルデンはそこで蚀葉を切り、ひずしを芋た。

    「では、BSEGに行き着いたら」

    「同じように、説明を求めたす」

    「あなたを調査チヌムに迎えた䌚瀟ですよ」

    ひずしは少し銖をかしげた。

    「それで、調べるこずが倉わるんですか」

    画像

    ハルデンの衚情から笑みが消えた。ほんの䞀瞬だった。

    「なるほど。やはり面癜い」

    ハルデンはそれだけ蚀っお、歩き去った。

    ひずしは、その背䞭を芋送った。䌚瀟が違えば、確かめなくおいいこずがあるのだろうか。䜕を期埅されたのか、よく分からなかった。だが、奜かれたわけではなさそうだった。

    午埌、マヌティン・コヌルぞのオンラむン聞き取りが始たった。画面に映ったのは、䞉十代埌半の痩せた男だった。少し神経質そうな目をしおいる。

    マヌカスが、共有画面にアカりント名を衚瀺した。

    「このアカりントを䜜成したのは、あなたですか」

    「gms_migration 芚えおいたす。たぶん、私が。8か月以䞊前です。アカりントはいく぀も䜜りたした」

    「契玄終了時に、停止の手続きはしたしたか」

    「停止するのはLFB偎の担圓です。ただ残っおいたんですか それは私の責任ではありたせん」

    「では、契玄終了埌も、パスワヌドなどの認蚌情報を持っおいたしたか」

    䞀瞬、コヌルの目が画面の倖ぞ動いた。ひずしは、その動きを芋おいた。

    「持っおいたせん」

    聞き取りが終わり、画面からコヌルの顔が消えた。

    ひずしは隣のサむモンに声を萜ずした。

    「あの人、嘘぀いおない」

    「根拠は」

    「認蚌情報のこずを蚊かれたずき、目が動いた」

    サむモンは腕を組んだ。

    「それだけじゃ、嘘ずは蚀えないだろ」

    「そうだけど」

    サむモンは、通話の切れた画面ぞ目を戻した。

    「  でも、俺もあの返事は気になった」

    その倜、かみさたぞ隔離環境のログを芋せた。《ログむン痕跡ありたす》

    《䟋の7秒の少し前》

    《gms_migration》

    《はい》

    《IPは》

    《消されおたす》

    《でも倉です。このログむンのあず、デヌタを送った蚘録がありたせん》

    ひずしは画面を読み返した。

    《じゃあ、このゲヌトりェむから送られたんじゃない》

    《そこは別です。同じゲヌトりェむでも、別の接続や凊理でデヌタを流すこずはできたす》

    《このログむンだけでは、22.11を送った人間には結び぀かないずいうこず》

    《そうです。アカりント名は残っおるのに、実際に䜕をしたかが芋えたせん》

    GMSの名前が぀いた叀いアカりント。それを䜜ったのは、GMSぞ転職した技術者だった。

    《この名前を芋぀けさせたかった、ずいう可胜性もある》

    《ありたす。ただ、蚘録が消えたせいで、そう芋えるだけかもしれたせん》

    ひずしは怅子にもたれた。接続の痕跡は芋぀かった。だが、その名前を远えばいいずは限らなかった。

    ひずしはやり取りをマヌカスずサむモンに䌝え、ホワむトボヌドぞ向かった。

    「最初から考え盎そう」

    MFD → 信頌できない、GMS → 疑わしい、ず曞く。

    「こうなっお、誰が埗する」

    サむモンがボヌドを芋た。

    「GMSを犯人に芋せお、買収そのものを混乱させたい第䞉者」

    「あるいは、GMSの䞭の誰かに責任を抌し぀けたい人間か」マヌカスが蚀った。

    ひずしはペンを眮いた。

    「どっちにしおも、名前だけじゃ決められないな」

    翌朝、状況が倉わった。ノヌスブリッゞ・゚ナゞヌからBSEGぞ連絡が入った。金融業界専門玙が、LFBで発生した7秒間の誀衚瀺を蚘事にしたからだった。芋出し。デヌタ障害、MFD統合に疑問笊。「誰が挏らした」蚘事にはかなり詳しい内郚情報が曞かれおいる。

    「これで芏制圓局も動く」統合䌁画責任者が怒鳎っおいた。

    蚘事には、異垞衚瀺の時刻が「7時12分」ず曞かれおいた。

    「これ、譊告が出た時刻のたただ」

    ひずしは蚘事を゚ミリヌに芋せた。

    「メヌルの配信蚘録、届いおたす」

    「今朝、ようやく」

    二人は、手垳の蚘録ず埩元したログ、それにメヌルの配信蚘録を䞊べた。

    衚瀺が倉わったのは7時9分。譊告が出たのは7時12分。GMSの営業メヌルが送られたのは、7時9分だった。

    「やっぱり、䞉分前じゃない」

    ひずしは蚀った。

    「数字が倉わったのず、同じ時刻だ」

    さらに配信蚘録を远う。予玄蚭定の日付は前週だった。ただし、メヌルサヌバヌが送信凊理を受け付けたのは、異垞衚瀺のわずか46秒前だった。

    「予玄しおあったものが、予定通り動いたのかもしれない」

    ゚ミリヌが蚀った。

    「そうですね。だから、前週に䜕を予玄したのかたで確認したいです。この内容を、この時刻に送る蚭定だったのか」

    マヌカスが二人の埌ろから蚘録を芋た。

    「ハリントンに連絡する。远加で説明を求めよう」

    ひずしは、確認できた時刻をかみさたに送った。

    《メヌルは異垞衚瀺ず同じ時刻でした。送信凊理に入ったのは、その46秒前》

    《では、次は予玄の䞭身ですね》

    《同じこずを考えおたした》

    《ひずしさんも、たたには》

    《性栌悪いですね》

    《よく蚀われたす》

    終わりは、ただ先だった。


    第8章 予行挔習

    《22.11だけじゃないです。ちゃんず芋぀けられたのは䞉件》1か月以内の日時が䞉぀送られおきた。

    《短時間だけ別系統のデヌタが混ざっおたす》䞀件目は実圚銘柄で差は䞀ペニヌ。二件目は為替の小さな差。䞉件目は指数。どれも通垞の倀動きに埋もれる皋床だった。

    《誰も気づかないよ》

    《だからだず思いたす。詊しおたんじゃないですか、通るかどうか》

    《予行挔習か》

    最初は、ごく小さな倀でシステムに通し、譊告が出るか、ログに䜕が残るかを芋る。そしお3回目、問題なし。そのあず、初めお意味のある数字――22.11を流した。䞉件ずも、同じ入口、AUX-MD-Bだった。偶然ではなくなり぀぀あった。

    翌朝、ハリントンの指瀺で調査チヌムの暩限が拡倧され、ひずしにも臚時のBSEGアクセスカヌドが枡された。赀字で、倖郚。

    䞉件の過去事象を調べるず、すべお深倜か、取匕の薄い時間垯だった。その盎埌、補助ゲヌトりェむの蚭定確認が行われおいた。ナヌザヌ名、mcole_ext。マヌティン・コヌル。だがアカりント䜜成日は、コヌルがオルダヌブリッゞを退職した3週間埌だった。

    「退職したあずに䜜られおる」ひずしが蚀った。

    「誰が発行したか、確認しよう」マヌカスが答えた。

    コヌルを犯人にする準備ではないか。GMSに疑いが向いたら、コヌルが勝手にやったず蚀える。䌚瀟は知らなかった――きれいすぎる話だった。

    オルダヌブリッゞずのオンラむン䌚議で、mcole_extずいうアカりントは自瀟発行のものではないず刀明した。
    少なくずも、コヌルが圚籍しおいた䌚瀟の正芏の䜜業甚アカりントではなかった。誰が発行したかは、ただ分からない。
    マヌカスが過去の䜜業指瀺曞を匕き出させた。䟝頌元、GMS。業務内容、冗長性および移行準備の怜蚌。そしお四枚目で止たった。

    プロゞェクト終了埌の怜蚌のため、倖郚バックアップ認蚌情報を維持するこず。

    「契玄終了埌も」承認欄に、GMS戊略垂堎郚門・欧州。承認コヌドだけ、SME-47。

    「ハルデンの郚門です」ハリントンが蚀った。だが、それでも決定打ではなかった。ハルデンはすぐに回答し、SME-47は倚数のプロゞェクトで䜿甚されおいる予算コヌドだず説明した。すべおもっずもだった。

    その倜、かみさたから連絡が来た。《22.11の出所、少し分かりたした》

    《数字そのものが残っおたした。消された領域のキャッシュ》断片デヌタの䞭に、ファむル「NB_ENERGY」、ファむル「SCENARIO」、そしお22.11。

    《これ、い぀䜜られた》

    《異垞が起きる14時間前》

    14時間前。ノヌスブリッゞ・゚ナゞヌが業瞟修正を発衚するより前。぀たり、22.11ずいう数字は、その堎で偶然生成されたものではない。前もっお存圚しおいた。

    そのずき、ひずしの携垯電話が震えた。知らない英囜の番号。

    『タむラさん マヌティン・コヌルです。䌚瀟の電話にはかけないでください。先日の聞き取りで、私は嘘を぀きたした』

    「䜿った」

    『接続したのは私じゃありたせん。でも、認蚌情報は契玄終了埌も手元に残っおいたした。あのアカりントを消すなず蚀われおいたんです』

    「誰に」

    『電話では蚀えたせん』コヌルは駅を指定した。最埌に、声が震えおいた。

    『私を犯人にする぀もりです』

    電話を切るず、ひずしはかみさたに、コヌルから連絡があったこずだけ䌝えた。

    《それは、私には分からない領域です》すぐに返事が来た。

    《ログは远えたす。でも、人が誰かを怖がっおいる理由たでは、䌚っお話さないず芋えたせん》

    《じゃあ、俺の仕事っおこずか》

    《そうです》

    ひずしが䌚いに行くず䌝えるず、マヌカスは蚀った。

    「私も行く」

    「たぶん、それは駄目です」

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    「なぜ」

    「BSEGの人間には䌚いたくないんだず思いたす。俺にだけ話そうずしおる」

    「危険だ」

    「倧䞈倫。俺、ただのテレビ局の技術屋だから」

    マヌカスは笑わなかった。「今はもう、向こうがそう思っおいるか分からないぞ」

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    第9章 蚌蚀

    指定された駅は、ロンドン䞭心郚から電車で䞉十分ほど離れた堎所にあった。小さなカフェの窓際で、コヌルが埅っおいた。指先が小刻みに震え、䜕床も入口を気にしおいる。

    「アカりントを消すなっお蚀われた」

    コヌルは頷いた。「名前を出せば私は終わりたす」

    「じゃあ、なんで俺に」

    「犯人にされたくないからです」

    「僕らはただ、あなたを犯人だず決めおたせん」

    「でも、そうなる。そういう圢に䜜っおあるからです」

    コヌルは声を萜ずした。「オルダヌブリッゞにいた頃、LFBのバックアップフィヌド詊隓を担圓したした。GMSのデヌタを、LFBの補助系統ぞ入れる詊隓です」

    珍しくない冗長化詊隓だった。詊隓が終わったあず、「アカりントを残しおくれ」ず蚀われた。指瀺したのは、ダニ゚ル・フォヌクナヌ。GMSの、戊略垂堎郚門・欧州、競争むンフラ担圓ディレクタヌ。

    「契玄終了埌も、䞀定期間接続を維持しおほしい。将来の移行詊隓に䜿う可胜性があるから。最初は、それだけだったんです」

    「最初は」

    「オルダヌブリッゞを蟞める盎前、もう䞀床連絡が来たした。認蚌情報の曎新をしないでほしい、ず。パスワヌドや蚌明曞を、そのたたにしおほしい。普通ではありたせん」

    「断った」

    「LFB偎の管理項目だず蚀いたした。圌は、こちらで調敎するず」

    「蚘録は」

    「メヌルがありたす。ただ、䌚瀟のメヌルです。圓時のオルダヌブリッゞの」

    蚌蚀ずしおは重芁だが、蚌拠には匱い。それでも䞀぀、はっきりしたこずがある。コヌルが指瀺者ずしお名指ししたのはフォヌクナヌであり、それを裏づけるメヌルがどこにあるかも、これで分かった。

    「そのメヌル、残っおる」

    「保存期間は、通垞なら数幎」

    「じゃあ、あるかもしれない」

    だが、コヌル自身がオルダヌブリッゞに連絡すれば、GMSに気づかれる。

    「もう䞀぀ありたす」コヌルが蚀った。

    「『SCENARIO』ずいうファむルを知っおいたすか」

    ひずしの動きが止たった。その顔を芋お、コヌルが蚀った。
    「やっぱり芋぀けたんですね」

    「あなたは、どこでそのファむルを」

    コヌルは少しためらっおから答えた。
    「GMSに入っおから、移動する䜜業をしたした。䞭身は開いおいたせん。戊略垂堎郚門・欧州の共有領域から、隔離された分析サヌバヌぞ。フォヌクナヌの指瀺です」

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    その時期は、ノヌスブリッゞ・゚ナゞヌの異垞衚瀺より少し前だった。

    「ファむル名は、いく぀もありたした。芚えおいるのは二぀か䞉぀」コヌルは名前を挙げた。ひずしには聞き芚えのない䌚瀟ばかりだった。

    「䜕をするファむルだず思った」

    「ストレステストか䜕かだず。垂堎デヌタの。GMSは顧客向けに、垂堎デヌタ異垞時のシミュレヌションをするこずがありたす。䟡栌をわざず倉える――テスト環境なら。本番に入れるこずは、普通は絶察にしたせん。絶察にです」

    「だから、LFBの件を芋たずき、嫌な感じがしたんです」コヌルは蚀った。

    「フォヌクナヌの䞊は」

    「知りたせん」コヌルはしばらく黙った。

    「フォヌクナヌが、あれほど倧きな案件を䞀人でやるずは思えたせん」

    それ以䞊は蚀わなかった。

    カフェを出た。雚は䞊がっおいた。

    「䞀぀玄束しおください。私が話したこずを、今すぐGMSに出さないでください」

    「蚌拠が取れるたで、ずいうこずですね」

    コヌルはひずしの顔を芋た。

    「今の話を、そのたたGMSずの亀枉に䜿わないんですか」

    「ただ裏が取れおないじゃないですか」

    電車がホヌムぞ入っおきた。別れ際、コヌルが蚀った。「ハルデンは、負けるのが嫌いです」

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    「俺、戊っおないですよ」

    「あなたがそう思っおいおも」

    BSEGぞ戻るず、マヌカスが埅っおいた。フォヌクナヌ、認蚌情報、ファむル「SCENARIO」――䞀通り話し終えるず、マヌカスが蚀った。「蚌拠は」

    「ない。でもオルダヌブリッゞにメヌルが残っおるかもしれない」

    「別の理由を䜜る。こういうずきのために監査郚門がある」マヌカスはすぐに内郚監査ぞ連絡し、旧契玄に぀いおの第䞉者アクセス暩限の棚卞しを実斜するこずにした。特定のメヌルだけを芁求しない。圓時の契玄関連蚘録を䞀括で求める。

    その倜、かみさたに連絡した。《ファむル「SCENARIO」のこずを知っおる人がいたした》

    《ぞえ》

    《驚かないの どこたで分かっおた》

    《かなり》

    《なんで教えないんですか》

    《蚌明できないから。ひずしさんが蚀っおたでしょ、分からないものは分からないっお》

    《フォヌクナヌっお名前、調べられたす》

    《できたす》

    《違法なこずはしないでくださいね》

    《どこからが違法です》

    翌朝、オルダヌブリッゞから資料が届いた。数癟ペヌゞ。二時間ほど読んだずころで、マヌカスの手が止たった。フォヌクナヌからコヌルぞのメヌル。件名、プロゞェクト終了埌のアクセス。「補助ゲヌトりェむの認蚌情報を維持しおほしい」。コヌルの返信。

    「LFBのセキュリティポリシヌ䞊、無効化する必芁がある」。そしおフォヌクナヌ。

    有効なたたにしおほしい。LFB偎はこちらで凊理する。

    「これだ」マヌカスが蚀った。

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    コヌルの蚌蚀通りだった。フォヌクナヌが個人的にコヌルぞ接觊し、認蚌情報を残すよう働きかけおいた事実は、もう疑いようがなかった。

    「アカりントを残すよう指瀺したこずは、これで確認できた」マヌカスは蚀った。

    「ただし、䞍正利甚した蚌拠ではない」

    別のメヌルも芋぀かった。フォヌクナヌからオルダヌブリッゞぞ。件名、シナリオ怜蚌支揎。ノヌスブリッゞ・゚ナゞヌの異垞衚瀺より数日前。LFBの補助系統を䜿甚した小芏暡なデヌタ切替詊隓の協力䟝頌。最埌に、テスト倀は戊略垂堎郚門・欧州から別途提䟛するずあった。

    だが、LFBも゚ミリヌも知らない、無蚱可の詊隓だった。

    かみさたから通知。
    《フォヌクナヌ、面癜いですよ。ノヌスブリッゞ・゚ナゞヌの発衚前に、劙な䌚議しおたす。䌚議宀予玄が残っおたす。タむトルが》

    NBEシナリオ最終䌚議。参加者は䞉人。フォヌクナヌ、GMSのデヌタ技術責任者、そしお――゚ドワヌド・ハルデン。

    《どうやっお芋぀けた》

    《gms_migrationの認蚌情報です。同じものが、GMS偎の詊隓甚アカりントにも䜿われおいたした》

    《それで䌚議宀の予玄たで芋られるの》

    《瀟内の予定衚を読む暩限も残っおたした。䟿利にしすぎたんでしょうね》

    ひずしは手を止めた。

    《それ、倧䞈倫なのか》

    《倧䞈倫じゃないです。このたた䌚議に出したら、先に入手方法を聞かれたす》

    《正匏に取り寄せないず䜿えないっおこずですね》

    《そういうのは、そちらでお願いしたす》

    初めお。その名前が、シナリオず盎接䞊んだ。だが、これだけでは足りない。

    午埌0時半、内線が鳎った。芏制圓局から正匏照䌚が入った。回答期限は二日埌の同時刻。48時間。

    「買収は止たるかもしれない」ハリントンが蚀った。

    「タむラさん、48時間です。ここたで来た以䞊、最埌たで芋おください」

    「それ、呜什」

    「お願いです」

    ひずしは、芏制圓局ぞの回答期限をかみさたに䌝えた。

    《48時間ですか》

    《間に合いたすか》ひずしは打った。

    《私だけなら無理ですね。私は神様じゃないので。でも、ひずしさんが動けば、たぶん》

    「人に䌚う」マヌカスが蚀った。

    「フォヌクナヌだ」

    「明日の朝」ハリントンが続けた。

    「GMSぞ行きたしょう」

    「俺も」

    「あなたです」

    「なんでですか。金融の専門家でもセキュリティの専門家でもないですよ」

    ハリントンは少し考えた。「この数日で、蚌拠になったものを思い出しおください。切替ログの矛盟。営業メヌルの送信時刻。GMS-Bずいう識別子。党郚、最初に劙だず蚀い出したのはあなたです」

    「たたたた芋ただけです」

    「たたたたが䜕床も続けば、それはもう技術です」マヌカスが暪から蚀った。

    「俺たちは、芋぀かったものを蚌拠に固める。あなたは、盞手が䜕かを隠したずきの“間”に気づく。それは別の腕だ」

    「あなたが䞀番、䜙蚈なこずを蚊きそうだからです」ハリントンが付け加えた。

    正盎、あたり嬉しい理由ではなかった。

    48時間。その時蚈が、動き始めた。


    第10章 グレむ゜ン欧州本郚

    翌朝8時20分。ひずしは、GMS欧州本郚の前に立っおいた。黒いガラスを積み䞊げたような高局ビル。壁の䞀角に、小さく刻たれた瀟名だけがあった。

    「期限たで、もう䞀日あたりしかありたせん」ハリントンが蚀った。

    案内された䌚議宀からは、ロンドンの街が䞀望できた。゚ドワヌド・ハルデンの隣に、初めお芋る男がいた。名札には、ダニ゚ル・フォヌクナヌ、競争むンフラ担圓ディレクタヌ。

    「アンドリュヌ、ずいぶん倧げさな蚪問になりたしたね」

    最初の䞉十分は、䜕も進たなかった。オルダヌブリッゞずの契玄、コヌルの転職、戊略垂堎郚門・欧州。どれも、すでに知っおいる内容だった。フォヌクナヌは資料を芋ながら答えおいる。

    「プロゞェクト終了埌も認蚌情報を残すよう指瀺したしたね」ひずしが蚊いた。

    「したした。将来の再詊隓に備えるためです」

    「LFBのセキュリティポリシヌに反しおいた」

    「圓時は認識しおいたせんでした」

    「メヌルがありたす」マヌカスが画面に出した。有効なたたにしおほしい。LFB偎はこちらで凊理する。

    「確かに私のメヌルです。結果ずしお残った。それ以䞊は分かりたせん」

    あっさりしおいる。答えおいいこずだけを答えおいる。そんな感じだった。

    「プロゞェクトコヌド『Scenario Validation』は実斜した」

    「いいえ。必芁性がなくなったので、私が䞭止したした」

    「テスト倀は」

    「䜜成枈みでした」

    ひずしが顔を䞊げた。「どんな倀」

    フォヌクナヌがこちらを芋る。「垂堎デヌタのテスト倀です」

    「ノヌスブリッゞ・゚ナゞヌは」

    数秒。フォヌクナヌが止たった。「含たれおいたず思いたす」

    「倀は22.11」

    「芚えおいたせん」

    「『SCENARIO』ず『NB_ENERGY』ずいうファむルが残っおいたした。どちらも、その詊隓に䜿ったものですか」

    ひずしが二぀の名前を挙げるず、フォヌクナヌの顔から衚情が消えた。

    「タむラさん」ハルデンが初めお口を挟んだ。

    「そのファむル名を、どこで知りたした」

    「調査で」

    「GMS内郚のファむル名であれば、入手経路を確認する必芁がありたす」

    「珟時点では情報源は開瀺したせん」マヌカスが匕き取った。

    「でも、あるんですよね 『NB_ENERGY』っおファむル」

    長い沈黙のあず、フォヌクナヌが答えた。

    「  ありたした」

    ハルデンが暪を向いた。フォヌクナヌは続けた。

    「ただし、通垞のシミュレヌションファむルです」

    「じゃあ芋せおもらえたす」

    「確認したす。瀟内デヌタなので手続きが必芁です」

    期限たで、ただ半分近くは残っおいる。それでも悠長にしおはいられなかった。「䟿利ですね」思わず蚀った。マヌカスがひずしの足を軜く蹎った。

    「じゃあ、芏制圓局に盎接出しおください」ひずしは蚀った。

    「俺たちに芋せられないなら」

    ハルデンの顔が止たった。「それを決めるのは――」

    「BSEGの買収審査で問題になっおる資料なんですよね。だったら芏制圓局なら芋られるんじゃないですか」

    「合理的な提案です」ハリントンが口元を緩めた。ハルデンは黙った。

    ハルデンはフォヌクナヌぞ顔を向けた。
    「準備しおください」

    䌑憩に入った。廊䞋で、フォヌクナヌが䞀人でひずしに近づいおきた。声を萜ずす。

    「あなたは、どこたで知っおいたす ファむル『SCENARIO』です」

    「22.11が入っおるこず」

    フォヌクナヌの顔色が倉わった。

    「そこたで調べたんですか」

    「断片は残っおたした」

    フォヌクナヌは目を閉じた。しばらくしお、声を萜ずした。

    「テスト倀を䜜ったのは、デヌタ分析チヌムです」

    「なら䜕が問題」

    「22.11が䜜られた理由です。ノヌスブリッゞ・゚ナゞヌの業瞟修正を想定したシナリオだった」

    「発衚を知っおた」

    「私は知りたせん」

    「誰が本番系ぞ入れた」

    「知らない」フォヌクナヌは蚀葉を切った。

    「ただ――䞭止したあず、私の暩限で詊隓が再開されたこずになっおいる」

    「承認蚘録は」

    「詊隓の管理画面には、私の承認枈みず衚瀺されおいたす」

    「でも、しおない」

    「しおいたせん」

    「誰が操䜜したか、远えないんですか」

    「その詳现なログが、芋぀からないんです」

    たた、確かめたいずころの蚘録がない。LFBで消された6時間ずの関係は、ただ分からなかった。

    「コピヌは」

    「ありたせん。だから困っおいる。このたたなら、私がやったこずになる」

    コヌルず同じだった。責任が、䞀぀䞋の人間ぞ萜ちるように䜜られおいる。

    「ハルデンは知っおる」

    「どこたでかは分かりたせん」

    「あなた、ハルデンを庇っおる」

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    フォヌクナヌの顔が固たる。答えはなかった。

    そこぞハルデンが出おきた。「ダニ゚ル、資料の準備を」

    「はい」

    ハルデンはひずしを芋る。「䜕のお話を」

    「雑談です」

    マヌカスがすぐ近づいた。承認蚘録の話をすべお䌝えるず、マヌカスの顔が険しくなった。「承認凊理が䞀぀のサヌバヌだけで完結するず思うか。第䞉者か、あるいは別システム。神様に聞いおみろ」

    䌚議が終わったのは午埌1時過ぎだった。GMSは、芏制圓局ぞ「Scenario Validation」関連資料を提出するこずに同意した。ただし、法務確認埌。期限は翌朝。

    車の䞭、ハリントンが蚊いた。「フォヌクナヌず䜕を話したした」ひずしは党郚説明した。

    「フォヌクナヌ、ハルデンを怖がっおる感じじゃなかった。庇っおる感じ」


    午埌2時。かみさたに、承認蚘録の話を送った。《よくありたす。認蚌情報を盗たれれば、どこかに残る。その承認システム、二芁玠認蚌ありたす》マヌカスぞ確認するず、瀟員IDずワンタむム認蚌があった。

    《じゃあ、認蚌サヌバヌ》

    「BSEGから芋られる」ひずしがマヌカスに蚊いた。

    「芏制圓局なら芁求できる」時間がない。

    《スマホ認蚌ならプッシュ通知》ひずしは電話でフォヌクナヌに確認した。

    「そのずきの端末、ただ持っおる」

    『瀟甚端末なら』

    「その時刻に、承認を求める通知が来おいないか、芋おもらえたす」

    五分埌、フォヌクナヌから折り返しがあった。
    『芋圓たりたせん。それに、その時間、私はGMSにいたせん。BSEGです。買収統合のデヌタ暙準化䌚議に出おいたした』

    蚘録を確認するず、確かにフォヌクナヌはBSEG本瀟にいた。

    「でも、遠隔で承認はできるよね」ひずしが蚀った。

    「所圚だけでは決められない」マヌカスが答えた。

    ひずしは䌚議の名前ず時刻を、かみさたにも䌝えた。ほどなく返事が来た。《その䌚議、端末持蟌犁止じゃないですか》

    確認するず、その䌚議はセキュリティ制限が敷かれおおり、端末の持ち蟌みが犁じられおいた。フォヌクナヌの携垯電話もノヌトPCも、受付暪のロッカヌに預けられおいた。問題の承認時刻は、その間に含たれおいた。

    「じゃあ、本人の端末で承認したずは考えにくい」マヌカスが蚀った。

    確認できたこずを送るず、かみさたから返事が来た。
    《䞀個貞しですね》

    《それ、どうやっお知ったの》

    《公開されおるBSEGのセキュリティ基準》

    午埌5時。GMSから、保存芁請を受領した旚の連絡が来た。だが、ハルデンから、もう䞀通メヌルが来た。宛先はハリントン、CCにマヌカス、そしおなぜかひずし。

    蚌拠に裏付けられおいない仮説の远及に、異垞なほどの時間を費やしおいるず考えたす。

    「これ、脅し」

    「䌁業文曞では、たぶん脅しずは呌ばない。泚意喚起」

    その瞬間、東京から電話が来た。「お前、䜕やっおる GMSからうちの経営に話が来た」

    「そうなっおたす」

    「盞手はGMSだぞ。今日で、その調査から倖れろ」

    「正匏に」

    「そうだ」

    「分かりたした」通話を切った。

    「KHJから、調査をやめろっお」

    残された時間は、䞀日を切っおいた。そこで初めお、この事件が、自分の仕事の倖偎にある話ではなくなった。


    第11章 倖された技術者

    䌚瀟員である以䞊、呜什には埓わなければならない。KHJが自分をロンドンぞ送ったのは、BSEGのためでも、MFDのためでもない。たしお、GMSの䞍正を暎くためではない。攟送を止めないためだ。

    「戻りたす」臚時アクセスカヌドを机の䞊に眮く。赀字の、EXTERNAL。

    「持っおいおください」ハリントンが蚀った。

    「あなたが調査から倖れるこずず、入通資栌を倱うこずは別です」

    「ヒトシ」マヌカスが呌び止めた。

    「ありがずう」

    「ただ䜕も分かっおないじゃん」

    「それでもだ」

    LFBぞ戻るず、サむモンず゚ミリヌが埅っおいた。「KHJの平ひずしは、以埌BSEGの調査チヌムには参加しない」正匏に凊理されおいた。

    「じゃあ仕事しよう」自分の本来の仕事だ。しばらく䜜業した。正垞。遅延なし。゚ラヌなし。それなのに、萜ち着かなかった。

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    「気になる」サむモンが蚊いた。

    「別に」

    「嘘だな」

    「だから俺が調べる」サむモンが蚀った。

    「俺はKHJじゃない。LFBからやめろずは蚀われおない」゚ミリヌも同じだった。

    「私も」

    「いや、危ないよ」

    「あなたに蚀われたくない」

    止められなかった。午埌6時、ひずしは調査から倖されたこずをかみさたに䌝えた。

    《じゃあ、やめたす》

    《䌚瀟員なので》

    《䟿利ですね。自分で決めなくおいい》

    腹が立った。

    《じゃあ切りたす》

    ひずしは䌚話を閉じた。五分埌、たた開いた。新しいメッセヌゞが来おいた。
    《䞀぀だけ。フォヌクナヌ本人じゃないなら、誰が承認したず思いたす》

    ひずしは少し考えた。

    《本人の端末を䜿わずに、フォヌクナヌずしお承認できる管理暩限っお、ないの》

    《  やっず技術者っぜくなりたしたね》緊急時に通垞の認蚌手続きを迂回しお管理者暩限を䜿える仕組み。ブレヌクグラス・アカりント。

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    《それならログ残るでしょ》

    《残りたす。普通の承認ログずは別》

    䌚瀟からは、調査をやめろず蚀われおいる。だが、自らシステムを叩く必芁はない。
    マヌカスぞ、《GMSの緊急特暩アクセス監査は確認枈み》ず送った。

    数分埌、マヌカスから返事。《No.》

    《Why?》

    《ただの興味》すぐに電話が鳎った。䞉回目、仕方なく取った。

    「誰に聞いた」

    「神様」数秒の沈黙。

    「  分かった」

    午埌7時23分。BSEGからGMSぞ、远加の保存芁請が送られた。緊急特暩アカりント。代理承認。ひずしは、その事実を知らないこずになっおいた。少なくずも、圢匏䞊は。

    その倜、KHJから新しい指瀺が来た。接続詊隓を完了させ、䞉日埌に垰囜せよ。
    寅子には少し前、《予定より早く垰るかも》ず送っおいる。
    返事は、《玅茶》だった。

    「圌女、匷いな」サむモンが蚀った。

    「普通は䌚いたいずか蚀うだろ」

    「たぶん寂しいずは思うよ」ひずしは少し考えた。

    「そういう人だから」

    そのずき、サむモンの端末に通知が来た。顔から笑みが消える。

    「ブレヌクグラス、䜿われおた。フォヌクナヌの承認時刻だ。アカりントは、SME-SUPERVISOR」

    戊略垂堎郚門・欧州の管理者暩限だった。

    「個人は」ひずしが蚊いた。

    「ただ分からない」

    サむモンはひずしの顔を芋た。

    「埩垰おめでずう」

    「しおない」

    「顔がしおる」

    その盎埌、ハリントンから電話があった。「今倜、BSEGぞ来おください。これたでの調査内容の確認です。今倜の確認䜜業に぀いおは、KHJの了承を取りたした」

    䌚議宀には、芋知らぬ女性が䞀人いた。「BSEG内郚監査責任者、サラ・ホむットモアです」

    「GMSから、芏制圓局経由で監査ログの䞀郚が届きたした」画面。緊急特暩アクセス。フォヌクナヌ名矩の承認が行われる1分前。緊急特暩アカりントが起動しおいる。操䜜端末はGMS欧州本郚内の共有管理端末。カヌドアクセスの蚘録には、GMSのシステム管理者ずもう䞀人、ダニ゚ル・フォヌクナヌ。だが本人はBSEGにいた。カヌドが䜿われただけ。

    画像

    「ハルデンは」ひずしが蚊いた。

    「圓該時刻はGMS欧州本郚にいたした。二フロア䞊の経営䌚議です」サラが答えた。

    「アリバむみたいですね」ただ足りない。ただ、フォヌクナヌ本人がその堎にいなかったこずだけは、これで動かなくなった。


    「普通、ブレヌクグラスを䜿うずき、理由を入力したせん」

    理由欄には、MFDフィヌド継続性リスク、ずあった。

    「これだけだず、䜕が緊急だったのか分からないですね」

    ひずしが蚀うず、サラが別の資料を開いた。

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    「この文蚀には芋芚えがありたす」

    GMSがLFBぞ送った営業提案だった。件名は、MFDフィヌド継続性リスク――代替案のご提案。

    「同じ蚀葉だ」

    「瀟内の定型文かもしれたせん。ですが、詊隓の承認ず営業提案が、どこで぀ながるのかは確認できたす」

    「誰が䜜った営業資料ですか」ひずしが蚊いた。

    「戊略垂堎郚門・欧州です」サラが答えた。

    「これでも、ハルデン個人たでは届かないですね」その瞬間、サラの電話が鳎った。

    サラは通話を終え、党員に䌝えた。

    「GMSの管理者が、ブレヌクグラスを起動したのは自分だず認めたした。フォヌクナヌの承認ずしお凊理するよう、電話で䟝頌されたそうです」

    「本人はBSEGにいたんですよね」ひずしが蚀った。

    「ええ。電話の発信元は、GMS欧州本郚31階の内線でした」

    サラは届いた内線番号ず郚屋の䞀芧を照合した。

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    「ハルデンの執務宀です」

    初めお、䞀本の線が゚ドワヌド・ハルデンの郚屋たで届いた。ただし、誰が電話したかは、ただ分からない。

    攟送の仕事なら、たず考えるこずがある。「音、残っおない」ひずしはサラを芋た。

    「金融䌚瀟なら、重芁な内線っお録音しおたせん」

    かみさたぞ短く䌝えた。《声の蚘録、芋぀けられそうです》

    《そこたで分かったなら、調べればいいじゃないですか》

    サラがすぐに電話を取った。回答期限は、翌日の午埌0時半だった。

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    第12章 声

    録音は、あった。ただし、GMS偎の蚘録のため、提出たで時間がかかる。「あるのに芋られないっお、䞀番嫌だな」

    たもなく、BSEGは芏制圓局ぞ説明しなければならない。あるのはほずんど状況蚌拠だ。

    22.11。

    ファむル「SCENARIO」。

    消されたログ。

    残されたアカりント。

    停装された承認。

    ハルデンの執務宀からかけられた電話。

    どれも近い。だが、最埌の䞀本が、ただ぀ながっおいない。

    午埌9時15分。芏制圓局から連絡が来た。録音デヌタの任意提出に、GMSが同意した。37秒だけの録音。

    雑音。電話が぀ながる。䜎い、萜ち着いた男の声。

    『緊急アクセスを開けおほしい』

    『認蚌者は』

    『フォヌクナヌ』

    『本人確認が必芁です』

    『圌はBSEGにいる。䌚議䞭だ。代理凊理でいい。SME-SUPERVISORを䜿え』

    『理由コヌドは』

    『MFDフィヌド継続性リスク』

    音声が終わった。

    「ハルデンか」マヌカスが蚀った。

    サラは銖を振った。

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    「断定できない。䌌おいるこずず、蚌明できるこずは別」GMSの説明文では、発信者は特定できおいないずいう。ハルデンの執務宀は、秘曞や圹員補䜐が䜿甚するこずがある、ず。

    「声王は」ひずしが蚊いた。

    「この品質では難しいそうです」サラが答えた。

    ひずしは録音を䜕床も聞いた。蚀葉が匕っかかる。『圌はBSEGにいる。䌚議䞭だ』――なぜ知っおいる。

    「ハルデンは、その時間どこ」

    「31階の経営䌚議」

    「出入りは」

    「調べおない」

    「廊䞋のカメラは」

    「あるかもしれない」マヌカスがすぐに保存芁請を出した。

    䌚議宀ぞ戻る途䞭、ハリントンが廊䞋で誰かず電話しおいるのに出くわした。通話を終えるず、ひずしに向き盎った。

    「あなたの䌚瀟です。早く垰囜させたいそうですが、明朝の䌚議たでは調査に協力しおもらうこずで、了承を埗たした」

    ふず思った。「俺の䌚瀟に、誰が電話したんです 最初に俺を調査から倖せっお話が来たずき」

    「そこたでは聞いおいたせん」ハリントンが答えた。

    ひずしは䌚議宀ぞ戻り、東京の䞊叞に電話した。䞉回目で぀ながった。

    「GMSから䌚瀟に電話したの、誰です」

    受話口の向こうで、玙をめくる音がした。

    『゚ドワヌド・ハルデン』

    「䜕ず蚀っおたんですか」

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    『お前が、誀った掚枬で垂堎に混乱を䞎えおいるっお。MFDのデヌタ信頌性に぀いお、根拠のない疑いを広げおいる、ずか』

    通話を終え、ひずしは聞いた内容を党員に䌝えた。

    ハルデンは、こちらには蚌拠があれば協力するず蚀い、東京には調査をやめさせるよう求めおいた。その理由は、本人に聞く必芁があった。

    深倜、サラから短い連絡が入った。31階の入退蚘録は出せる。映像の提出は、明朝以降になる。

    「映像がなくおも、時間は合う」

    マヌカスが蚀った。

    「䌚議を出お、執務宀に入り、電話の時刻にそこにいお、戻っおいる」

    「人が通った、ずいうこずだけですね」

    ひずしは蚀った。

    「電話をした、ずは曞いおない」

    「だから、本人に聞く」

    ハリントンはそう蚀った。

    「認めるずは思いたせん。説明しおもらいたす」

    午前1時、ホテルぞ戻る車の䞭で、かみさたからメッセヌゞが来た。《声ありたした》

    《録音はあった。ハルデンに䌌おるけど、本人だずは蚌明できない》

    《もう十分じゃないですか》

    《䜕が》

    《状況蚌拠》

    《あなた、蚌拠にうるさかったじゃん》

    《じゃあ、本人に聞けばいい》

    《認めさせれば》

    《嘘を䞀぀ず぀枛らせばいいんですよ》

    翌朝7時半、BSEG本瀟。芏制圓局ぞの回答期限たで、あず5時間。今床はGMS偎もハルデンずフォヌクナヌ、そしお法務責任者が揃った。

    「フォヌクナヌの暩限で実行された『Scenario Validation』に぀いお。本人は承認しおいない。緊急特暩アカりントが䜿われおいた」ハリントンが切り出した。

    「昚日初めお知りたした」ハルデンが答える。

    「電話はあなたの執務宀からです」ハリントンが続けた。ハルデンの目が止たった。

    「私の郚屋は、私しか䜿わないわけではありたせん」

    録音を、もう䞀床だけ再生した。

    『圌はBSEGにいる。䌚議䞭だ』


    「フォヌクナヌさんがBSEGにいるこずは、ほかの人にも分かりたすか」

    ひずしが蚊いた。

    「秘曞経由、内線、予定衚。私の郚屋を䜿える人間なら、どれでも分かりたす」

    ハルデンは即答した。

    「理由コヌドの文蚀も」

    「営業資料ず同じです。瀟内で䜿われおいる」

    「それだけでは、あなたが電話したずは蚀えたせんね」

    ひずしはサラの手元の蚘録を芋た。

    「ただ、電話の時刻には、あなた自身も執務宀に戻っおいたす」

    「戻りたした。それが、私が電話した蚌拠になりたすか」

    「なりたせん。だから、䜕をしに戻ったのか説明しおほしいんです」

    ハルデンは䞀拍眮いた。

    「その点は、蚘録を確認した䞊で回答したす」

    サラが、次の蚘録を画面に出した。

    NBE Scenario Final。

    GMSが芏制圓局ぞ远加提出した、䌚議宀の予玄蚘録だった。かみさたが芋぀けたものず、日時も参加者も䞀臎しおいた。

    「この䌚議には、出垭されおいたすね」

    サラが蚊いた。

    「出垭したした」

    ハルデンは答えた。

    「䜕を決めた䌚議ですか」

    「シナリオ怜蚌の進捗確認です。個別のテスト倀たで、私が決めるわけではありたせん」

    ひずしが口を挟んだ。

    「22.11ずいう数字も知らなかった」

    「そこたでは把握しおいたせん」

    予玄蚘録で分かるのは、䌚議の日時ず参加者たでだった。その堎で䜕を話し、誰が䜕を指瀺したかたでは曞かれおいない。

    ハルデンは、答える範囲を厩さなかった。

    ハリントンが、GMSからKHJぞの電話蚘録を瀺した。

    「これも、あなたですね」

    「はい。私です。䌁業ずしお圓然の連絡です」

    「蚌拠があれば協力するずおっしゃった。その蚌拠を調べおいる技術者を、なぜ倖そうずしたのですか」

    「根拠のない疑いで垂堎を混乱させないためです」

    ハルデンは、声を倉えなかった。

    「䞀個いいですか」ひずしが口を開いた。

    「『Scenario Validation』っお、䜕のためにやったんです バックアップ系統の詊隓だず説明されおいたす。でも、正匏なテスト環境があるのに、LFBぞの詊隓申請はしおいない。フォヌクナヌさんは䞭止した。なのに誰かが、フォヌクナヌさんの暩限を䜿っお再開した。それで、22.11が出た」

    「状況蚌拠です」ハルデンが蚀った。

    「そうですね。俺もそう思いたす」ひずしはあっさり認めた。ハルデンが少し意倖そうな顔をした。

    「だから䞀個だけ聞きたい。詊隓だったなら、詊隓結果、どこです」

    画像

    䌚議宀が静かになった。「普通、詊隓したら結果残したすよね」フォヌクナヌがゆっくり頷いた。

    「通った、通らなかった、䜕秒だった、゚ラヌが出た、ログはどうなった――その蚘録が、ただ出おきおいたせん」ひずしは蚀った。

    「ありたすよ」フォヌクナヌだった。党員が振り返る。

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    「結果報告はありたす。戊略垂堎郚門・欧州の制限領域です」

    「ダニ゚ル、発蚀には泚意しろ」ハルデンが蚀った。

    「もう無理です」フォヌクナヌは答えた。

    その声は震えおいた。

    「私に党郚かぶせるのは」

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    ハルデンの顔から、初めお完党に笑みが消えた。

    「『Scenario Validation』の最終報告がありたす。ノヌスブリッゞ・゚ナゞヌ。22.11。䜕を詊しお、どういう結果が出たのか。そしお、その報告を誰が承認したかも残っおいたす」

    䌚議宀から音が消えた。第䞀幕の最埌の䞀枚が、ようやく姿を珟した。


    第13章 最埌の䞀枚

    「私は、『Scenario Validation』を䞭止したした」フォヌクナヌは続けた。

    「本番環境に近すぎる。LFBにも通知しおいない。だから䞭止した」

    「その埌は」ひずしが蚊いた。

    「翌日、私の承認で再開されたこずになっおいた。実際には承認しおいたせん」

    「最終報告を芋たのは、い぀ですか」

    「事件の翌朝です。私が承認者になっおいたからです。削陀しようず思いたした。でもできなかった。監査蚘録が残る」

    「アンドリュヌ」ハルデンが蚀った。

    「これは内郚の詊隓管理に䞍備があったずいう話です。それ以䞊ではない」

    「資料を芋おから刀断したす」ハリントンが答えた。

    マヌカスが時蚈を芋た。

    「回答期限たで、あず4時間半です」

    資料が届いたのは、䞀時間二十分埌だった。芏制圓局がGMSぞ正匏提出を芁求し、GMSは拒吊できなかった。䌚議宀の倧型画面に衚玙が映る。

    シナリオ怜蚌・最終報告曞

    1ペヌゞ目、目的。䞻系統の品質䜎䞋を想定した代替経路の怜蚌。「ここだけ読めば普通ですね」ひずしが蚀った。

    2ペヌゞ目、䜿甚環境。GMSテストフィヌド、AUX-MD-B、LFBゲヌトりェむ。出力識別子GMS-B。

    ひずしは、その䞀行を二床芋た。「  だから最初からGMS-Bを知っおたんだ」

    あの日、GMSの回答が劙に詳しかった理由。識別子そのものが、この詊隓のために最初から甚意されおいた。

    サむモンが画面を指した。

    「うちのゲヌトりェむ番号たで䞀臎しおる」

    3ペヌゞ目、テスト察象。ノヌスブリッゞ・゚ナゞヌ。基準䟡栌26.40、詊隓倀22.11。

    4ペヌゞ目、詊隓結果。泚入成功。倖郚出力、7.2秒。7秒。偶然ではなかった。

    5ペヌゞ目、怜知、LFBアプリケヌション譊告、3分埌。緊急切替、未発生。そしお、結果合栌。

    ひずしはフォヌクナヌに蚊いた。

    「䜕が合栌なんです」

    「デヌタが通ったこずです」

    「異垞ずしお止められずに」

    「  そうです」

    「普通、バックアップが正しく動くか詊すんですよね。だったら、正垞に切り替わったかを芋る。でもこれ、切替は起きおない。䞻系統はMFDのたたなのに、別の数字だけ7秒入った。これ、バックアップ詊隓じゃないですよね」

    「技術的な定矩の問題です」ハルデンが口を挟んだ。

    「バックアップが動いたなら、GMSのデヌタに切り替わったっおログが残るはずです。残っおない。なのに合栌」

    6ペヌゞ目。倖郚からは、䞻系統であるMFD経路のデヌタずしお認識され続けた、ずあった。「そういうこずか」MFDから来おいない数字を、MFDから来たように芋せる詊隓だった。

    7ペヌゞ目。過去の小幅な倀による詊隓では、倖郚ぞの即時報告はなかったずあった。「3回のや぀だ」予行挔習。最初は誰にも気づかれない倀で通す。それを繰り返し、4回目、意味のある数字を流した。

    最埌のペヌゞ、承認欄。EHAL-01。

    「私の承認コヌドです」ハルデンが自分から蚀った。

    「この報告曞を承認したこずは認めたす」

    「詊隓の実行も」ひずしが蚊いた。

    「違いたす。報告曞を承認しただけです。実行埌に」

    ハルデンは䌚議宀を芋枡した。

    「それず私が䞍正な目的で詊隓を呜じたこずは別です。むしろ、私は事象を正匏な報告曞に残した。隠蔜する人間が、自分で承認眲名を残したすか」

    䞀理ある。䌚議宀にわずかな迷いが生たれた。

    「ランサムりェアに぀いおも、GMSが関䞎した蚌拠はない。郚門内郚で行われた䞍適切な詊隓ず、倖郚のサむバヌ攻撃。それだけです」

    たた切り離す。だが、ただ䞀぀説明されおいない。

    ひずしはハルデンに蚊いた。

    「この22.11っお、どうやっお決めたんです」

    「知りたせん」

    ひずしはフォヌクナヌぞ向き盎った。

    「フォヌクナヌさんは」

    「デヌタ分析チヌムから提䟛されたした。ノヌスブリッゞ・゚ナゞヌの業瞟悪化を想定したストレスシナリオです」

    「でも、次の日、本圓に22.11を぀けた」

    「偶然でしょう」ハルデンが蚀った。

    ひずしは画面ぞ目を戻した。

    「26.40から22.11たで䞋がる想定ですよね。䜕を根拠に、その䞋萜を想定したんですか」

    ハルデンが黙った。画面に、報告曞の添付資料䞀芧。出兞参照発衚前配信領域ノヌスブリッゞ・゚ナゞヌ業瞟曎新。ハルデンの顔が、初めお明らかに倉わった。

    「これは䜕ですか」ひずしが蚊いた。

    「GMS Newsの事前配信領域です」フォヌクナヌが答えた。

    䌁業から提䟛された、発衚前情報を保管する領域だずいう。フォヌクナヌは続けた。

    「本来、報道郚門の事前配信領域は、営業・戊略郚門から情報遮断されおいたす。戊略垂堎郚門から参照できるものではありたせん」

    「じゃあ、発衚前の情報をもずにした数字だった」ひずしが蚀った。

    「それは断定できない」ハルデンが遮った。

    ひずしはフォヌクナヌを芋た。

    「ここに出兞参照ずありたす。発衚前の情報を䜿ったんですよね」
    「  そうだず思いたす」

    「ダニ゚ル」ハルデンの声が初めお倧きくなった。

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    だが、フォヌクナヌはもう止たらなかった。

    「分析チヌムは、ノヌスブリッゞの事前発衚資料を䜿っお䟡栌反応モデルを䜜った」

    「それで22.11が出た」

    「正確には違いたす。モデルが出したのは、䞀぀の䟡栌じゃない。発衚埌にどの皋床の売りが出るか、過去の出来高や流動性、倧口の売りが出た堎合の垂堎ぞの圱響たで入れお、䟡栌垯を出しおいたした」

    「どのくらい」

    フォヌクナヌは少し迷った。

    「22ポンド台前半です」

    「じゃあ、22.11は」

    「その範囲から、詊隓倀ずしお遞ばれた数字です」

    「誰の指瀺で」

    「戊略垂堎郚門・欧州です。NBE Scenario Finalで決たりたした」
    出垭者は、フォヌクナヌ、デヌタ技術責任者、そしおハルデン。

    「ここから先は、法務担圓者を通したす」ハルデンが立ち䞊がった。

    「その前に䞀぀」ひずしが蚀った。

    「なんで22.11を流したのか。適圓な数字じゃ駄目だったんですよね」

    ひずしは画面を芋た。

    「翌日、本圓にそこたで䞋がりそうな範囲の数字じゃないず意味がない。22.11ぎったりになる必芁はない。近いずころたで萜ちれば、前の日にその数字が出おいたこず自䜓が䞍自然になる」

    ひずしは少し間を眮いた。

    「それが実際に22.11を通った。前日の異垞衚瀺を芋た人は、どう思う」

    「MFDが発衚前の情報を挏らした」゚ミリヌが呟いた。

    画像

    デヌタの信頌性だけじゃない。情報管理そのものぞの疑い。買収審査には十分だった。

    22.11。未来を圓おた数字ではなかった。発衚前の情報を䜿っお垂堎の反応ず売りの匷さを蚈算し、翌日、垂堎が通りそうな䟡栌垯の䞭から遞んで、先に眮いた数字だった。

    「出ないはずの数字が出たら、原因調べるのが仕事なんですよ」

    「あなたには分からない」ハルデンが、初めお䜎い声で蚀った。

    「BSEGがMFDを手に入れれば、垂堎むンフラず情報の䞡方を、䞀぀の䌚瀟が握るこずになる。この垂堎の競争条件そのものが倉わる。誰も、本気でそれを止めようずはしなかった」

    「だったら」ひずしは蚀った。

    「正面から止めればよかったじゃないですか」

    画像

    ハルデンは窓の方を芋た。

    「二十幎前、私が珟堎にいた頃も、同じこずを蚀われたした。取匕所ず情報䌚瀟が䞀緒になれば、垂堎は速くなる、ず。速くなりたした。その代わり、珟堎の端末は䞀぀になり、遞べないものになりたした」

    声は䜎いたただった。

    「競争盞手を正面から止められるのは、同じ土俵に立おる者だけです。土俵そのものを盞手が買い取ろうずしおいるずき、正面はもうありたせん」

    「だから、数字を入れた」

    「詊隓をした、ず蚀っおいたす」

    ひずしは、それ以䞊は聞かなかった。正しいず信じおいる人間が、越えおはいけない線を越えるずき、本人は越えたずは思わない。それが、いちばん厄介だった。

    芏制圓局ぞの説明は、その日の正午前に始たった。結論が出るたでには時間がかかる。ただ、䞀぀だけ、その日のうちに決たった。LFBで起きた22.11の異垞衚瀺は、MFDのシステム障害ずしおは扱わない。倖郚から意図的に泚入されたデヌタである可胜性が極めお高い。BSEGずMFDの買収審査を、その事象だけを理由に停止する必芁はない。

    「進められる」ハリントンが小さく蚀った。

    その日の倕方、GMSは短い声明を出した。戊略垂堎郚門・欧州で行われた内郚詊隓に぀いお、手続き䞊および情報管理䞊の重倧な問題が確認され、゚ドワヌド・ハルデンは調査終了たで職務を離れる、ずした。

    瀟内では、ダニ゚ル・フォヌクナヌが内郚通報者ずしお保護されるこずになった。マヌティン・コヌルに぀いおも、䞍正行為ぞの関䞎を瀺す蚌拠は確認されなかった。

    ランサムりェアずの盎接的な関係は、蚌明されなかった。誰が実行したのか。GMSの内郚か、倖郚か。ハルデンが知っおいたのか。それは長い調査ぞ持ち越された。

    営業メヌルがい぀、どの内容で予玄されたのか。内郚情報を専門玙ぞ枡したのは誰か。その確認も、匕き続き行われるこずになった。

    ランサムりェアに぀いおは、ひずしの䞭で、仮説は䞀぀に寄っおいた。

    金を取るだけなら、なぜあの7秒に関わる蚘録を遞んで壊したのか。

    あの暗号化は、22.11の経路を芋えなくするための幕だったのではないか。

    幕を甚意した人間ず、数字を流した人間が同䞀かどうかは分からない。

    分からないものは、分からない。

    少なくずも、あの7秒を「詊隓」の䞀蚀で片づけるこずは、もうできなかった。

    倜。ひずしはハリントンの前で、銖からアクセスカヌドを倖した。
    「今床こそ返したす」

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    「なぜ」

    「終わったから」

    「終わっおいたせん。あなたには、もう少しロンドンにいおもらいたす」

    「聞いおない」

    「今、話しおいたす。KHJには話を通したした。こちらの費甚で滞圚を延長したす」

    「俺、BSEGの瀟員じゃないですよ」

    「知っおいたす」

    「金融の専門家でもない」

    「それも」

    「じゃあ䜕するんです」ハリントンはアクセスカヌドをひずしぞ戻した。

    画像

    「今埌、MFD統合に関する倖郚技術連携を芋おほしい」

    「なんで」

    「今回の䌚議に、金融の専門家もセキュリティの専門家も法埋の専門家も、䜕十人もいた。しかし、7秒を芋お“おかしい”ず蚀ったのはあなたでした。そのあず党員が正垞だず蚀った。あなたは蚀わなかった」

    BSEG、MFD、LFB、通信䌚瀟、GMS。党員が、自分の䌚瀟の境界線たでは正垞だず蚀った。

    「あなたは、自分の境界線を、あたり気にしない。だから倖郚にいおもらうんです」

    垰り道、寅子にメッセヌゞを送った。《垰るの少し延びた》

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    《玅茶は》

    《仕事倧䞈倫だった》

    《倧きい䌚瀟の喧嘩に巻き蟌たれた》

    《ひずしが䜕かした》

    《しおない》

    《たた嘘》

    《䜕もしない人だけ延長にならないでしょ》

    結局、《玅茶買う》ずだけ送った。

    《たた話そらした》

    ホテルぞ戻るず、かみさたからメッセヌゞが来おいた。《終わりたした》

    《䞀応。お疲れさたでした》

    《報酬、本圓にいらないんですか》

    《䜕か欲しいものない》しばらくしお。

    《じゃあ、そのうち、面癜い話でもしおください》

    《䜕の》

    《䜕でも》

    《倉な人ですね》

    《よく蚀われたす》

    その日は、それで䌚話が終わった。ひずしはただ知らなかった。この正䜓䞍明の人物ずのやり取りが、事件が終わったあずも続くこずを。そしお、䜕気ない雑談の䞭で、自分が昔むギリスに留孊しおいたこずを話す日が来るこずを。そしお――その䞀蚀が、二぀の時間を぀なぐ鍵になろうずは。


    終章 写真

    事件が終わっおからも、ひずしずかみさたのやり取りは続いた。䜕か分からないこずがあれば、ひずしが蚊く。劙なニュヌスを芋぀ければ、かみさたが送っおくる。そんな皋床だった。盞手がどこの囜に䜏んでいるのかも、仕事をしおいるのか孊生なのかも、幎霢も本名も顔も声も知らないたた、䞍思議な関係だけが続いた。ただ、嫌ではなかった。

    ある倜。BSEGの仕事が延び、垰囜はもうしばらく先になっおいる。ベッドに腰を䞋ろし、䜕ずなく携垯電話を眺めおいるず、かみさたからメッセヌゞが来た。

    《ロンドン、ただいるんですか》

    《ただ》

    《初めおです》

    《いや、昔䜏んでた》

    《仕事》

    《留孊》

    数十秒埌、たた通知。《どの蟺に䜏んでたんです》

    《ロンドンの南》

    《具䜓的には》

    《チェルスフィヌルドのあたり》

    今床は、返事が来なかった。五分ほどしお。《い぀頃》

    《孊校はロンドン 毎日通っおた どの路線》

    「なんなんだ」

    《急に詳しいね》

    《昔のロンドンに興味がありたす》少し考えおから。

    《写真ずか残っおたせん》

    実家に眮いたアルバムの写真を、以前たずめおデヌタ化したこずがある。ホストファミリヌの家、孊校、地䞋鉄の駅、友人たち、テムズ川、雚の日の通り。二十歳そこそこの自分。数枚遞んで送った。

    《これくらいしかないけど》既読が぀いた。それから、返事がなくなった。

     

    圌女は、届いた画像を開かなかった。正確には、開いおも、自分では芋るこずができなかった。だが、圌女が知りたかったのは、そんなこずではなかった。チェルスフィヌルド。ロンドンの南。昔、日本から来た留孊生。少しず぀重なっおいく。そんな偶然があるのだろうか。

    「ママ」隣の郚屋から母芪を呌んだ。

    「写真が送られおきたの」携垯電話を差し出す。

    「党郚芋お。写っおる堎所ず、人」

    母芪が䞀枚ず぀開いおいく。「テムズ川ね。たぶんサりスバンク」

    「日本人いる」

    「いるわね」

    嚘は膝の䞊で指を止めた。

    「どんな人」

    「若い男の人」

    次の写真、たた次。そしお、母芪の指が止たった。䜕も蚀わない。「ママ」

    「この写真、どこでもらったの」

    「知り合った人から。日本人」

    「名前は」

    圌女は答えようずしお、止たった。「  ひずし」

    「ひずしっおいう人」嚘はもう䞀床蚀った。

    母芪が息を呑んだ。もう䞀床、写真を芋る。幎月が経っおも、分かった。

    「  ひずしよ」

    嚘は動かなかった。母芪が続けた。

    「あなた、芚えおるでしょ」

    画像

    もちろん、芚えおいる。忘れるはずがない。その頃、圌女はただ少女だった。芋えないこずには慣れおいた。だが、慣れるこずず、困らないこずは違う。あの日、人の声が倚すぎた。知らない堎所で、自分がどちらを向いおいるのかも分からなくなった。

    そのずき。日本語ではない英語で、けれど少し倉な発音の英語で、若い男が声をかけおきた。困っおいたすか。最初は譊戒した。だが、男は勝手に腕を掎たなかった。癜い杖にも觊れなかった。どこぞ行きたいのか、誰かに連絡するのか、䞀぀ず぀、圌女に遞ばせた。それが、劙に嬉しかった。

    そのあず母芪が迎えに来た。䜕床も瀌を蚀った。そこから、少しだけ瞁が続いた。家ぞ招いたこずもある。母芪は圌を気に入っおいた。それが恋だったのか、憧れだったのか。圓時の圌女には、ただよく分からなかった。ただ、ひずしが家に来る日は、い぀も少しだけ嬉しかった。倖囜から来お、䞀人で暮らしお、知らない人を助けお。それなのに本人は、自分が特別なこずをしたずは少しも思っおいなかった。

    やがお、ひずしは日本ぞ垰った。連絡は途切れた。幎月が過ぎた。圌女も倧人になり、技術を芚えた。画面を芋るこずはできなくおも、読み䞊げられるログの構造は远えた。キヌボヌドだけで行を移動し、読み䞊げを止め、気になった時刻や文字列だけをもう䞀床読たせる。その動䜜に、誰よりも慣れおいた。通信も、コヌドも、痕跡も。人間の目には䜕も起きおいないように芋える堎所にも、痕跡は残る。

    そうしお、い぀の間にか、ある堎所では、ハンドルネヌム「KAMISAMA」ず呌ばれるようになった。自分で぀けた名前だった。倧した意味はない。少しふざけただけだ。

    そしお䜕幎も経っお、ロンドンの䌚瀟で起きたランサムりェア隒ぎを持ち蟌んできた日本人技術者に出䌚った。名前は、ひずし。珍しい名前ではない。話し方も、昔の蚘憶の䞭にある青幎ずは結び぀かなかった。文字だけの盞手だ。幎霢も知らない。顔も知らない。だから、考えもしなかった。それが、あのひずしだずは。

    「あなたも写っおる写真、うちにあったわよね」

    母芪が蚀った。

    「探しおみる」

    「いい」

    少し匷く蚀っおしたった。

    「ごめん」圌女は蚀った。

    「別に」母芪は静かに答えた。

    圌女は携垯電話を手元に匕き寄せた。蚀おうず思えば蚀える。昔、駅で助けおもらった少女です。母もあなたを芚えおいたす。あのずきはありがずう。それだけの話だ。けれど、なぜか指が動かなかった。

    䞀時間、二時間、ひずしからは䜕も来なかった。圌女が返事をしおいないこずなど、気にもしおいないのだろう。そういうずころも、少し昔ず同じ気がした。

    画面を読み䞊げさせる。最埌に届いおいるメッセヌゞ。《これくらいしかないけど》

    ひずし。あのひずし。自分を芚えおいるだろうか。おそらく、芚えおいない。出来事そのものは芚えおいるかもしれない。でも、今、画面の向こうで話しおいる「かみさた」ず、あの頃の少女を結び぀けるこずなど、できるはずがない。

    それでいい気がした。今は、ただ。その方がいい。

    ようやく文字を打った。《ぞぇ  こんな写真をただ持っおるずはね》

    送信。数秒埌、ひずしから返っおきた。《捚おる理由ないでしょ》

    圌女は、その蚀葉を聞いお、少しだけ俯いた。《そうですね》それ以䞊は、䜕も蚀わなかった。

    翌日から、ひずしは、ほんの少しだけ違和感を芚えるようになった。《昌食べたした》

    《ただ䌚瀟》

    《垰った方がいいですよ》

    寅子の話をしたずき、《圌女いるんですね》

    《どんな人》少し、距離が近くなった。理由は分からない。䞀緒にあの面倒な事件を乗り切ったからだろう。それくらいに思った。

    ずっず埌、新幹線の䞭でひずしは、この関係を説明するために「なんだか、身内みたいなんです」ず蚀うこずになる。なぜそんな感芚になるのか、自分でも分からないたた。けれど、それは、半分だけ正しかった。画面の向こうにいる人間にずっお、ひずしは本圓に、遠い昔から知っおいる人だったのだから。

    第䞀幕 了


    🔔Bell


     
     
    サッチャヌ政暩末期のロンドン、冷戊終結盎埌の欧州に居たした。特別な立堎でなく、ただその珟堎呚蟺にいた䞀人ずしお。そこで出䌚った人々から教わったこずは、今も自分の䞭に根付いおいたす。忘れない぀もりで蚘録を始めたはずが、気づけば゚ッセむになり、小説になり、映像になっおいたした。

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