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🦐EBPノート|車椅子シーティング実践ガイドライン2019

    本記事は、
    「車椅子シーティング実践ガイドライン2019」を整理したものです。

    車椅子シーティングとは、
    単に「姿勢をきれいに整える」ことではありません。

    本ガイドラインでは、車椅子利用者へ快適な座位環境を提供し、
    日常生活の自立やQOLの向上を図る技術の体系として位置づけられています。

    さらに、その目的は健康上の問題の解決だけではなく、
    最適な活動・参加の獲得とQOLの向上にあります。

    🩵 一般の方向けに解説した記事はこちら👇



    1. 概要|車椅子シーティングとは?

    本ガイドラインでは、
    車椅子シーティングについて複数の団体・専門家による定義を紹介しており、

    現在も統一された定義があるわけではないとしています。

    一方、ガイドライン作成過程では、
    車椅子シーティングは特定疾患だけを対象とするものではなく、

    多様な疾患・障害に対して横断的に介入する知識・技術の体系として
    整理されています。

    重要臨床課題として設定されたのは、

    「車椅子シーティングは、車椅子利用者に対して、問題点の発生・進行を予防し、ADL・QOLの向上が図れるか」

    という問いです。

    そこから、

    • 疼痛

    • 変形

    • 嚥下

    • 上肢機能

    • 移乗

    • 駆動

    • 快適性

    • 姿勢保持

    • 褥瘡

    という9つの課題が抽出されました。

    褥瘡については日本褥瘡学会のガイドラインに準拠する方針とされ、
    疼痛は次回改訂時に追加することとなったため、
    本ガイドラインでは残る7課題についてCQが設定されています。


    2. ガイドラインの推奨を読む前に

    本ガイドラインでは、推奨の強さを

    1:強く推奨する
    2:弱く推奨する(提案する)

    の2段階で示しています。

    エビデンスの強さは、

    A:強
    B:中
    C:弱
    D:とても弱い

    の4段階です。

    推奨の強さを決められない場合は、「なし」とされています。

    今回の7つのCQを見ると、
    嚥下を除いて基本的に2C=弱い推奨・弱い根拠です。

    つまり、

    「シーティングは何にでも有効である」

    と強い根拠をもって示したガイドラインではありません。

    実際、本ガイドラインでは、
    採用された研究に介入研究が少なく、

    観察研究が多かったため、
    エビデンス総体は必然的に弱くなったと説明されています。

    ここは、
    このガイドラインを読むうえで重要な前提です。


    3. CQ1|座り心地を改善できるか?

    推奨度:2C(弱い推奨、弱い根拠に基づく)

    ガイドラインでは、

    座り心地に問題がある車椅子利用者に対してシーティングを行うことは、座り心地の問題を改善するための介入として推奨される

    としています。

    アウトカムとして設定されたのは、

    • 座り心地の改善

    • 座位時間延長

    • QOL向上

    です。

    成人の車椅子利用者を対象としたシステマティックレビューでは、
    クッションの使用が快適性に影響することが報告されています。

    また、脳血管障害・外傷性脳損傷者にアップライトな座位姿勢を促すシーティングを行ったRCTでは、

    快適性を向上させる可能性が示されています。

    そのほか、
    車椅子やクッションの変更・調整、ティルト・リクライニング、

    バックサポートの角度調整などと
    快適性との関連が観察研究で報告されています。


    4. CQ2|嚥下障害を改善できるか?

    ここは注意が必要です。

    推奨度:なし

    「明確な推奨を提示できない」

    とされています。

    ガイドラインが確認できたのは、
    症例報告1編と学会抄録2編のみでした。

    前傾保持型座位保持装置による呼吸状態の改善・吸引回数の減少、
    姿勢やティルト・リクライニング角度の調整による食事動作の改善やむせの減少などは報告されています。

    しかし、
    ガイドラインはこれらをシーティングの効果を示す十分な根拠とはしていません。

    そのため、

    「嚥下障害があるならシーティングを行うべき」と、
    このガイドラインを根拠に一般化することはできません。


    5. CQ3|上肢機能を改善できるか?

    推奨度:2C

    上肢機能に問題がある車椅子利用者へのシーティングは、
    上肢機能の問題を改善するための介入として推奨されています。

    アウトカムは、

    • 机上動作

    • 食事

    • 書字

    などです。

    座位保持装置による身体支持によって、
    脳性麻痺者の電動車椅子ジョイスティック操作や食事動作の効率が改善した研究があります。

    一方、ティルト角度やリクライニング角度と上肢機能の関係については、
    有意な関係を示していない研究もあります。

    また、パーキンソン病患者に対する簡易的シーティングでは、
    STEFによる上肢機能の改善が報告されています。

    つまり、単純に「姿勢を変えれば上肢機能が改善する」という話ではなく、
    身体支持や車椅子と身体寸法の適合なども含めて考える必要があります。


    6. CQ4|移乗を改善できるか?

    推奨度:2C

    移乗に問題がある車椅子利用者へのシーティングは、
    移乗の問題を改善するための介入として推奨されています。

    アウトカムは、

    • 介助量軽減

    • 離床機会増加

    • 離床時間増加

    です。

    脳血管障害者を対象としたランダム化クロスオーバー試験では、
    車椅子上の座位姿勢が鉛直に近づく設定は、

    後方へ傾く設定と比較して、
    FIMの移乗得点が高く、移乗介助量が軽減したことが示されています。

    そのほかにも移乗介助量の軽減を示す報告がありますが、
    その多くは症例集積・症例報告や学会抄録です。


    7. CQ5|車椅子の駆動を改善できるか?

    推奨度:2C

    駆動に問題がある車椅子利用者へのシーティングは、
    駆動の問題を改善するための介入として推奨されています。

    アウトカムは、

    • 活動範囲の拡大

    • 主観的満足度の向上

    • 社会参加の促進

    • 速度・耐久性の向上

    です。

    ガイドラインでは、

    • 座角度

    • 車椅子の種類

    • 身体に適合したシート

    • バックサポート

    • ティルト・リクライニング

    • 駆動輪の空気圧

    など、
    さまざまな条件と駆動能力との関係が取り上げられています。

    たとえば対麻痺者を対象としたランダム化クロスオーバー試験では、
    座角度5度と12度を比較し、12度で駆動効率が有意に高かったことが報告されています。

    一方で、身体寸法に合わせたモジュラー型車椅子によって、
    対象者によっては駆動速度が向上する一方、低下した例もあります。

    そのため、
    「この設定なら誰でも駆動しやすい」と考えるのではなく、個別評価が重要です。


    8. CQ6|座位保持を改善できるか?

    推奨度:2C

    座位保持に問題がある車椅子利用者に対するシーティングは、

    座位保持の問題を改善するための介入として弱く推奨される

    とされています。

    アウトカムとして、

    • 座位時間

    • 離床

    • 費用

    • 姿勢安定性

    が取り上げられています。

    特に姿勢安定性については、
    他のアウトカムと比較して関連する論文が多く、
    ガイドラインでも重要なアウトカムとされています。

    身体寸法に合わせた座奥行きの調整、モジュラー型車椅子、クッション、体幹支持など、

    さまざまなシーティングと姿勢安定性との関連が報告されています。

    ただし、
    ここでも研究の中心は観察研究です。


    9. CQ7|変形・関節可動域制限を予防・改善できるか?

    推奨度:2C

    このCQは、
    対象者によって推奨が分かれます。

    脳性麻痺者・筋ジストロフィー者

    👉 変形・関節可動域制限を予防・改善するためのシーティングが推奨されています。

    一方、

    その他の対象者

    👉 推奨する根拠は十分とはいえない、とされています。

    脳性麻痺では、
    股関節外転位を促す座クッション、バックサポートやシートクッションの形状・角度調整、膝ブロック、体幹の側方支持などが検討されています。

    筋ジストロフィーでは、
    リクライニング、モールド型シート・バックサポート、胸椎・骨盤ベルトなどが報告されています。

    ただし、ガイドライン自身が、
    研究対象は脳性麻痺や筋ジストロフィーなどの小児疾患が多いため、

    その他の疾患・年齢への効果は慎重に検討する必要があるとしています。


    10. シーティングは「姿勢を整える」だけではない

    7つのCQを並べてみると、
    本ガイドラインが対象としているのは単なる姿勢ではありません。

    快適性 → 上肢活動 → 移乗 → 駆動 → 座位保持 → 変形・関節可動域

    と、車椅子上での姿勢から活動へ、
    さらに生活へとつながる問題を扱っています。

    ガイドラインのアルゴリズムでも、

    目標設定 → 評価 → 介入 → 目標に到達したかを確認 → 未到達なら再評価・再介入

    という流れが示されています。

    また評価では、

    • 快適性

    • 疼痛

    • 姿勢保持

    • 変形

    • 移乗

    • 上肢機能

    • 嚥下

    • 駆動

    • 褥瘡

    などの問題を確認し、
    必要に応じて直接的介入、間接的介入、リスク管理につなげます。

    つまりシーティングは、
    車椅子そのものを調整することを目的とするのではなく、対象者と共有した目標に向けて評価と介入を繰り返すプロセスとして捉えることができます。


    11. EBPとして特に重要なところ

    このガイドラインには、とても重要な記載があります。

    ガイドラインは画一的な車椅子シーティングを推奨するものではない

    という点です。

    シーティングにはまだ解明されていないことが多く、
    ガイドラインは知識や経験に基づく意思決定・臨床判断を否定するものでもありません。

    そして、

    対象者の個別性と人間性を尊重し、最終的な判断は提供者と対象者との協働と合意に基づいて行う

    ことが求められています。

    これはEBPを考えるうえでも重要です。

    外部エビデンスだけで
    「正しいシーティング」を決めるのではなく、

    エビデンスを参照しながら、
    対象者の状態、生活、目標、希望を踏まえて臨床判断する。

    車椅子シーティングは、
    そのような実践が特に求められる領域だと考えられます。


    12. まとめ

    「車椅子シーティング実践ガイドライン2019」では、

    ✔ 座り心地:2C
    ✔ 嚥下:明確な推奨なし
    ✔ 上肢機能:2C
    ✔ 移乗:2C
    ✔ 駆動:2C
    ✔ 座位保持:2C
    ✔ 変形・関節可動域制限:2C
    ※変形・関節可動域制限は、脳性麻痺・筋ジストロフィーとその他の対象者で扱いが異なる

    とされています。

    多くの領域でシーティングが推奨されていますが、
    その根拠は強くありません。

    だからこそ、

    「ガイドラインに書いてあるから、この姿勢にする」

    ではなく、

    何を改善したいのかを明確にし、
    対象者を評価し、シーティングを行い、その結果を再評価する。

    このプロセスが重要になります。

    車椅子を見るのではなく、
    その車椅子で生活する人を見る。

    シーティングをEBPとして実践するうえで、
    忘れてはいけない視点だと思います。

    最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
    ※ご質問・ご意見はコメント・メッセージにてお気軽にどうぞ😊


    参考文献

     
     
    臨床・研究・教育・管理と 理学療法の現場を長く歩んできました。 EBP、臨床推論、アウトカム設計、 入院~地域・介護、組織実装, etc. 専門職〜市民向けまで 勉強会・講演・執筆等のご相談も承っています。

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