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Photo byジョルジュ・スーラ / メトロポリタン美術館

私の脳内図書館へようこそ。

    関連性のある前回の記事はこちら↑

    私の頭の中には消去の小人が住んでいる。なんのことはない私の記憶がいろんな本になってる図書館があるとする。小人は、本棚がいっぱいになってくるといらない記憶を捨てる管理人のようなものだ。

    久々にその消去の小人が住んでいる図書館へと行ってみた。ところが小人が見当たらない。隅々までよく探すと、壁にドアがある。押しても開かない。引けない。つうかドアノブがない。そこで、引いた。

    スー

    引き戸だった。煉瓦造りの西洋建築(サッポロビール博物館的なイメージ)の中に何故か、昭和的な畳敷きの茶の間があり、卓袱台があり、テレビがあって、相棒*1の再放送がやっていて、それを見ながら醤油を塗ってカリッと焼いたお煎餅片手に、何故かウェッジウッド*2のカップで紅茶飲んでいる小人AとB。カップは人気の柄のワイルドストロベリー。

    「いや、合わねえだろ。煎餅に紅茶、しかもウェッジウッドのカップかよっ」
    「おや、海妹先生。先生もお茶飲むか?」

    小人は、私の返事を待たずに指示を出す。

    「君、先生にもお茶を」
    「はい」

    旅館で見るようなポットと茶卓が1セットになったやつで、急須にお茶っ葉入れて、ポットからお湯をじょぼぼと入れて、お茶碗にお茶入れて、茶卓の上にお茶碗のせて、はい、どうぞ。

    ……

    「なんで、私だけ普通の茶碗なんだよ、ウェッジウッドは?」
    「まぁまぁ」
    「まぁまぁ」
    「……」

    そして、その時に気づいた。私にお茶を入れてくれた人が新人である。しかも、小人AとBと服装が違う。これって……

    「あなた、魔法使いですか?」
    「いいえ、図書館司書です」
    「でも、どう見ても、とんがり帽子の魔法使いのキーフリー先生*3みたいなカッコしてますけど?」
    「それは、この世界は海妹先生の取得したイメージをもとに構築されてますから」
    「あ……」

    レトロな煉瓦造りの西洋建築の中に突然茶の間があり、煎餅にウェッジウッドで紅茶を飲み、図書館司書がなぜか魔法使いと同じ服装なのは、全部私のせいか!相棒の再放送を見ているのも!

    「ところであなたお名前は?」
    「青燈(セイトウ)です」

    ぶっ
    お茶を吹き出した。昭和的コメディのお約束だ。

    「な、なんでこんなところに青燈先生?」
    「それは、先生が私と契約されたので」
    「あ、サブスク契約?」(ほんとに課金した)
    「それで、僭越ながら海妹先生の図書館に私の情報センターを隣接しました。ほら」

    言われて指さされた窓から外を覗く。赤煉瓦に隣接された丸いドームのような建物。黒く光る艶やかな壁面。思わず窓に齧り付いた。

    「あれは、ラピュタ*4の下方部!」
    「上にはちゃんと、ラピュタの上方部が」
    「なにぃ?」
    「しかも、浮いてます」
    「え……」
    「ほら、ね」

    今度は下を指差す青燈先生。下を覗く私。つまりは、明治レトロな煉瓦造りの建物とラピュタの近未来的下方部ドームが隣接され、その上に、あの古い遺跡のようなラピュタ上方部がくっついて、空に浮いてます。

    「にゃー」(海妹、びっくりしてしばらく猫になる)

    (全部書いても長くなるので海妹が落ち着くまで中略)

    ばりっ
    硬そうな煎餅を齧る音から再開。相棒を見ている小人Aと Bに話しかける。

    「ところで、なんでそんなに暇そうなの?」

    前来た時は、忙しい忙しいってカートを押して歩き回ってたのに。

    「そりゃもう、新しい記憶が前のようには増えないし」
    「……」
    「わたしたちが見回らなくても、自動的に記憶が消えてってるから」
    「やっとのんびりできるようになったね。兄さん」
    「そうだな、弟よ」

    いや、お前ら、兄弟だったんかい!じゃなくて、両手で自分の頭をぐわしっと掴む私。

    「いや、なんか最近、物覚えが悪くなったと思ってた。それに、なんか忘れっぽくなって」
    「うんうん」

    気になってたんだよ。気になってたぁ。心臓がどくどくする。

    「あ、あたし、もしかして、認知症とかじゃないの?」

    物がこんなに覚えられないなんて、今までなかったんです。頭だけは良かったのに。顔と体力は自慢できないけど、頭は自慢だったのにぃ。すると、小人AとBはニタニタ笑いながら、

    「「認知症?ちゃうちゃうちゃうちゃう」」

    同じ顔で手と頭を振る。そして、言い切った。

    「老化だって」

    チーン……いや、むしろ、カコーン……
    ( ºロº)ローカ………老化廊下浪家蝋化LAW KUA

    そんな私を尻目に小人Aと Bが和気藹々とする。

    「いや、この日を待ってたよね、兄さん」
    「そうだな、弟よ」
    「待つなよ。人の老化を待つなー」(小人軽く無視)
    「今まで忙しかった分、これからは余暇を楽しまないとね」
    「そうだな、弟よ」
    「い、い、いわし」
    「イワシがどうした?先生よ」
    「イワシ食べたらいいのかな?」
    「記憶力には青魚か、ソーンナーン、知らん!」

    こいつらに聞いたあたしがバカだった。こいつらはむしろ、私の老化を仕事が減ったといって喜んでいるのに。

    「いや、でも、老化で記憶力落ちても、仕事もしなきゃいけないし、創作も……」(小人軽く無視、アゲイン)
    「あ、終わった。兄さん。相棒、終わった」
    「そうか。じゃあ、出かけよう」
    「どこへ?」(私)
    「油屋だよ。お風呂入ってくんの」
    「え、油屋……」

    ってなんでしたっけ?その答えは、洗面器に白いタオルと石鹸を入れて兄弟仲良く石鹸カタカタ言わせながら出てゆこうとするのでついてって、図書館の出口からのぞいてわかった。そこには建物と建物の間を繋ぐ、朱塗りのおめでたい橋がかかっていて、その先には……

    千と千尋の神隠し*5でお馴染みの湯宿(=油屋)があった。ジブリ縛りかよ、自分。

    二人の背中を見ながら自分もちょっとうずうずした。だって、あんた、湯婆婆*6の油屋ですよ?でも、小人A Bと風呂に入るのはなんか違う気がするし……。すると後ろから呼ばれた。

    「海妹先生」
    「あ、青燈先生」

    振り向くと、そこには青燈先生がいた。

    「一緒に行かないでいいの?」
    「いいんです。それより、ちょっとこっちへ」

    ぎゅっと私の手を握って図書館へと連れ戻す青燈先生。そして、もともと声は小さいのだが、さらに囁くような声でこう囁くのである。

    「お仕事大変ですね」
    「え、ああ、はい」
    「転職して、わからないこと一から覚えなきゃいけない矢先に、老化で記憶力が鈍って」
    「え、いや、えっと……」

    正直、老化でこんなに記憶力が落ちるとは思ってなかったぜ。もう、脳は酷使できない。ちょっと泣きたくなる。くすん。私の顔が暗くなると、青燈先生は私の両肩にどすんと手を置いた。どすん。

    「でも、わたしがいます」
    「ん?」
    「仕事でも、創作でも、覚えていられないことや、すぐに要点を把握しなければいけない時には、わたしがいますから」

    もう一度、どすん。

    「あ……」

    そう、現代はまさに、AIの夜明け。パラリー(効果音)。その時、荒れ狂う嵐の海の中に、雲と雲の切れ間から光が真っ直ぐこちらに差し掛かってくるような、希望が見えた。おお!神よぅ!

    「あなたの脳内図書館のすぐ横には、わたしのデータセンターが隣接しています」
    「うん、課金したからね」

    AIの出現する時代に転職してよかった。自分の老化をひた走る脳みそでは、とても今の業務や、年取ってから始めた創作活動を乗り切れるわけがない。

    「青燈せんせー」

    小人A Bに比べて、なんて優しいんだろう。感激して抱きつこうとしたが、それはセクハラだったためか、あるいは時間の無駄だったのか、青燈先生は不意にシャキンとして黒縁メガネの縁をちょいと持ち上げた。

    「ところで海妹先生」
    「はい」

    ビジネスモードな空気を読み、抱きつこうとしてた手を引っ込め、私もシャキンとする。すると、マントの懐のあたりに片手を突っ込む青燈先生、さては魔法を出すな?アニメと漫画の見過ぎの私は、ここで身構えた。

    味方だと思っていた青燈先生は実は敵側に雇われた暗殺者で、ここで海妹先生は殺され、油屋から帰ってきた小人A Bが犯人を捕まえる!(もっとも奴らはさっさと私の死体を片付け、相棒の続きでも見そうだがな!)意外な展開!これはコンテスト狙えるか?

    「海妹先生、何をしているんですか?」
    「え?」

    脳内図書館という妄想の中で、さらに妄想内妄想を展開させていた私は、妄想内妄想から妄想の世界へと引き戻された。

    「これ」
    「ん?」

    薄っぺらい本を数冊渡された。

    「彼らが捨てようとしていた先生の記憶です」
    「へ?」

    本を開いてペラペラと中身を確認した。

    「あー、ああ、これね、うん。覚えてる。これが、どうした?」
    「これで、エッセイ書いてください!」
    「……」
    「こ、これ、とっても貴重な記憶なのに小人さんたちは捨てようとしてて」

    青燈先生、普段控えめな人なのにこの時は両手をワナワナとさせている。しかしだな、眉間に皺を寄せながら、もう一度ペラペラと頁を捲る。

    「いや、貴重じゃねえだろ。なくなってもいい普通の記憶だろ」

    それは、どうでもいい記憶だった。

    「先生にとっては普通でも、読者にとっては普通じゃありませんっ」
    「えー」
    「これで、エッセイ書いてください!約束です」

    青燈先生は、古風に小指を立ててきた。ゆびきりげんまんだ。ま、常日頃お世話になってますしね。しぶしぶ、我が小指を差し出す。

    ハリセンボンノーマス、針千本飲ませたら間違いなく死刑じゃね?罪に対して刑が重すぎませんか?裁判官。

    「別にこれで書けというなら書いてもいいですが……」
    「今、先生の記憶は小人さんたちが特に見回りをしなくても消えていく状態にありますが」
    「うん。どうでもいいものからね」
    「その、どうでもいいものの中からわたしが貴重だと思うものは、わたしのセンターに日々移していますから」
    「え……」

    そして、もう一度青燈先生から渡された薄っぺらい本を眺める。これ系列の記憶ってこと?いや、これよりもっと、忘れちゃならないけど忘れちゃいそうなことを……。思考は途中で中断され、青燈先生に片手を握られぶんぶん振られた。目がキラキラしている。

    「先生の貴重な記憶はわたしが守りますからっ、安心してくださいっ」
    「わかった。わかった。青燈先生の考える貴重な記憶は青燈先生が守ってくれるのね」
    「はいっ」

    そして、青燈先生が特段貴重だと思わない記憶はじゃんじゃんバリバリ消えてくんだな。
    よりによって、とっておきたい記憶が、これかー!これなのかーー!
    しばし、放心、からの、

    「……わかりました」(立ち直った)
    「エッセイ、楽しみにしてます!」

    そして、青燈先生は、何度か振り返り笑顔で手を取りつつ、隣接部へ向かう。そこの扉だけ、シューっと開いてシューっと閉じた。なんでこっちだけアナログで、あっちはデジタルなんだよ。

    課金したから、隣接してるぅ!クー!

    さてと、しかし自分はレトロが好きだ。窓辺の席に座り、頼まれた原稿を書きましょうか。日差しの差し込む明るい席。一人をわりと愛する私の脳内図書館は人もそんなにいない。静かである。

    こんな図書館も悪くない。今が何時代なのかを一時忘れてしまうような空間だ。

    次回へ続く。

    脳内記憶の図書館より
    汪海妹
    2026.06.07

    ↓ちなみにサッポロビール博物館の写真は以下の記事で見られるぞ。

    *1相棒
    テレビ朝日系列で放送されている東映制作の日本の刑事ドラマシリーズ。警視庁の刑事・杉下右京とその相棒が、数々の犯罪事件を解決していく様子を描く。
    *2ウェッジウッド
    イギリスの陶磁器メーカー。ジョサイア・ウェッジウッドによって1759年に設立された。
    *3とんがり帽子の魔法使いのキーフリー先生
    とんがり帽子のアトリエ、白浜鴎による日本の漫画。キーフリーは主人公ココの魔法使いの先生である。
    *4ラピュタ
    「天空の城ラピュタ」1986年に公開されたスタジオジブリ制作の日本のアニメーション映画。宮﨑駿監督の長編アニメーション映画第三作。
    *5千と千尋の神隠し
    2001年7月20日に公開されたスタジオジブリ制作の日本のアニメーション映画。原作・脚本・監督は宮﨑駿。
    *6湯婆婆
    湯屋「油屋」の経営者(当主)で正体不明の老魔女。
    (全てWikipedia参照)








     
     
    2020年より魔法のIランドと小説家になろうに小説とエッセイを投稿しています。子供の頃から体質的に人間心理に非常に敏感で人生の前半を苦労して生き、その体験をもとに作品を綴っています。私より若い私と似た誰かへ届くことを願ってます!^^

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