
⭐︎百合の君 1623
凄く目立つわけでもないのに、視線を外せなくなり、ついつい目で追ってしまう。
立ち姿とか歩き方とか仕草とか。
「立てば芍薬、座れば牡丹、歩く姿は百合の花」という言葉があるけれど、彼女を喩えるならどの花が相応しいだろう。
白のイメージだから百合かな。
……という人がいる。
たまに職場でお見かけする顧客のおひとり。
スタイル抜群とか絶世の美女というわけではないけれど、目が合ったときや会釈を交わすときにふと見せる表情が堪らない。
私からは好き好き光線が出ちゃってると思う。
といっても、恋愛感情とは違う。
彼女の方はどうだろう?
「あの会社に居る人」くらいの認識はしてくれてるんじゃないかな。
だといいな。
知らんけど。
あの表情を見ていたいと思う。
鏡を見て笑顔の練習をするときには彼女の表情を思い浮かべる。
年代もビジュも違うけれど、目標にしたっていいでしょ?
道は遠く険しいけれど、千里の道も一歩から。
先月末、今夏最後のサンダルになるかもしれないと、ひらひらワンピ&サンダルで外出。
帰りは荷物が増え、かなり重い。
ベンチに座れるといいなあ、荷物だけでも置ければいいなあ、無理だろうけど、と思いながらバス停に向かう。
予想通りの行列。
しかもこのベンチ、なぜだか隙間を空けて座りたくなるらしい。
未だにソーシャルディスタンス?



初めから詰めて座ればいいのに(これは3月に撮影)
大きな荷物をちらりと見ても、誰も詰めてくれない。
私は自称も他称もオバサン。
オバサンは厚かましい。
ゆえに私も厚かましい。
The三段論法。
端の人に声をかけても、せいぜい私1人分の隙間ができるだけ。
真ん中辺りの人に詰めてもらえば、私の後から来る人だって座れるよね。
最後尾を離れ、下を向いてスマホを見ている女性に狙いを定める。
「少し詰めていただけませんか?」
いつもなら「恐れ入りますが」とクッション言葉を入れるところ。
疲れと重さで、ちょっと端折った。
周りを見て気づいてよという気持ちも、ちょっとあった。
はっと顔を上げた彼女は、ママが小さな子どもに声をかけられて「なあに?」と訊き返すような、周囲の空気を一瞬で温かくするような、そんな笑顔のあの人だった。
「え?あ、ああ‼︎
こんにちは。
こんにちはじゃなくてこんばんはですよね。
もう9時過ぎてますもんね、すみません
いつもどうも……」
1人でアワアワする私の滑稽なことといったら。
彼女が詰め、隣の人が詰め、その隣の人が詰め……
私も、私の後から来た人も座ることができた。
職場とはまるで違う服装の私を、彼女は認識していないかもしれないのに、なんであんなにアワアワしちゃったんだろう。
今日に限って「恐れ入りますが」と言わなかったことが悔やまれる。
剣のある口調になってなかったかな。
いっそ、声をかけなきゃ良かったかな。
膝の上に荷物を置き、1人反省会絶賛開催中。
車内での席は離れ、彼女は私のひとつ手前のバス停で降車。
会釈されたような気がしないでもないけれど、乗客が多かったので定かではない。
もし職場で見かけることがあったら、あの時はどうも、と私の方から言いたい。
まさかあそこでお会いするとは思わなかったので慌ててしまいましたと言いたい。
アワアワした自分を自分で茶化してしまいたい。
なんでだ。
こんなときに限って、ちっとも会わない。
早く笑い飛ばしたいのに。
解ってる。
気にしてるのは私だけ。
彼女にすれば、あなた誰?だろうし、そんなことありましたっけ?だと思う。
それでもいい。
あの表情を見られたら嬉しい。
いつも微笑んでいるような笑声を聞けたら嬉しい。
今度から詰めて座ろうと思ってくれたら、それも嬉しい。
だから早く来て♡
2026.9.9.水
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