
【能登フィールドワーク(後編)】能登から始まる、団結と新たな決意
前編はこちら「能登フィールドワーク(前編) 震災から2年。能登の水産業と食の今」
【懇親会】「mebuki-芽吹-」に灯る火。地域と世代を超え、プロの魂が混ざり合う夜
「mebuki -芽吹-」に込めた、再起の願い
視察の熱も冷めやらぬまま、一行は輪島市内の居酒屋レストラン「mebuki -芽吹-」へと集結し、懇親会が始まりました。ここは、震災で自店「ラトリエ・ドゥ・ノト」(輪島)を失った池端隼也シェフが、「能登の街に再び明かりを灯したい」という一心で、仲間と共に立ち上げた再出発の場所です 。震災、そして豪雨で被害を受けた料理人や漁師、生産者の方々と共にこのお店は始まり、池端シェフをはじめ皆が一丸となって能登の未来に向けて前進しています。
池端シェフは、オーベルジュの立ち上げを決断した覚悟を語りました。「観光が戻らないと地域はダメになる。でも、これは新しく作り直せるチャンスです。必ずいい未来が待っていると信じています」と、不屈の信念を明かしました。そして、「能登には素晴らしい生産者がたくさんいる。今回の交流をきっかけに、ぜひ能登の食材を使って料理していただきたい」と語り、集結したシェフからは、惜しみない拍手が送られました。
今回の案内人である平田シェフもまた、「高い意識を持つ料理人が能登を訪れることは、生産者が自分たちの仕事や土地に誇りを持つきっかけになる」と、この訪問の意義を強調しました。


生産者と料理人、能登で生きる覚悟と希望のフルコース
供されたのは、メジマグロや鯨の刺身、大きなブリカマの塩焼き、サワラの天ぷらなど、能登の豊かさあふれる料理の数々でした。中でも、輪島で育てられた「阿岸の七面鳥」のローストや、先ほど漁港で平山さんが締めたばかりのタコの刺身は、震災の苦難を乗り越えて生きる生産者と料理人の覚悟と希望を象徴するものでした。
能登の復興を自ら牽引する地元の作り手たちの熱量に、会場の空気は一気に熱を帯びていきました。




地域と世代を超えた新たなつながり
懇親会には、能登のシェフや生産者を鼓舞するために、福岡から駆けつけ「ソラ」の吉武広樹シェフをはじめ、東京、京都のトップランナーたちが地域を超えて顔を揃えました 。吉武シェフは今回初めて、C-Blueの活動に参加しました。
「自分は福岡なので石川県とは正直あまり縁がなく、今日ここに来る意味はあるのかと、正直、半信半疑で参加させていただきました。しかし、やっぱり生産地に来てたくさんのことを勉強すること、そしてみなさんの熱き想いと責任感に圧倒され、来てよかったとすごく実感しています」と語る吉武シェフ。
「九州でも資源の問題は同じ。一人では大変だが、九州にも絶対熱い料理人の人たちはたくさんいると思います。少しずつ仲間を集めて、自分たちにできることから始めようと思います。今日は本当に参加させていただいてすごく勉強になりました」と九州での活動の意欲を語りました。

C-Blueのメンバーシェフたちも次々と今回のFW、そしてこれまでの活動と未来に向けた想いを語りました。
「シンシア」(東京)の石井真介シェフは、能登のシェフや生産者に初めて会えた喜びを語ると共に、「C-Blueが今まで積み重ねてきた活動により、今まさにジャンル、地域、世代を超えて想いを共有し合う場ができていることは、本当に未来しかない」と力説しました。
また、「日本橋蛎殻町すぎた」(東京)の杉田孝明親方は、鮨職人として魚を使う葛藤と、C-Blueとして仲間と連帯していく重要性を伝えました。
「僕は鮨屋なので、魚を使わないってことが選択できない。魚卵も使わせてもらうし、小さい魚も使わせてもらうこともある。それがC-Blueの足かせになってしまうのではないかと思っていました。
しかし、足並みを完全に揃えることはできなくても、同じような夢や未来を語り、共有していくことが本当に大事だと感じています。今まで何もできなかったのが、少しずつでも何かやろうよと、できることからやっていこうよという気持ちになる。そしてお寿司屋さんの仲間を集めて少しずつ巻き込んでいけば、明るい未来ができるのではと思っています。」

また、C-Blueメンバーシェフに加え、懇親会には地元のシェフ、生産者も参加されました。七尾で被災し、現在休業を余儀なくされている日本料理「一本杉 川嶋」(七尾)の川嶋享シェフは、来春の営業再開に向けた希望を語りました。輪島で農家を営む上田農園さんは、農家の震災被害による土壌問題の難しさ、そして野菜作りにかける想いを伝えました。そして日中に訪問したタコ漁の平山さんも参加し、生産者とシェフ、地域、世代を超えた語らいはまさに、「mebuki-芽吹-」にまた新たな火が灯る瞬間でした。

「mebuki -芽吹-」を後にしたシェフたちの熱量は、宿に戻ってからもさらに続きました。誰からともなくロビーに集まり、自然と始まったミーティング。定置網漁への出発を数時間後に控えながら、寝る間も惜しんでその日の学びについて話し合い、飲食業界、水産業界、そして能登への想いを語るシェフ達の目には、その確かな未来と、彼ら自身の覚悟がありました。

【(有)日の出大敷(定置網漁)】深夜1時の出航。極寒の海で体感する漁業の現場
宴の余韻も束の間、シェフたちは深夜1時、能登町の港へと向かいました。向かった先は、(有)日の出大敷の定置網漁の現場です。まだ漆黒の闇に包まれた極寒の海、作業を妨げぬよう見守るシェフたちの前で、漁師たちの掛け声と波音が激しく響き渡ります。それは、日々の食卓に並ぶ魚たちが、いかに過酷な現場から届けられているかを肌で感じる瞬間でした。


丁寧な処理と鮮度管理、価値を高める工夫
日の出大敷は、日本海側の定置網漁の中でも早くから、「丁寧な仕立て」を心掛けてきた漁師集団です。獲れた魚はできるだけ丁寧に扱い、魚種によっては船上で即座に神経締めを施します。さらに加工場も併設し、冷凍技術などを駆使した鮮度管理を徹底し、市場やレストランへと獲れた魚を出荷します。また、網目を工夫して小型の魚の混入を防ぐといった、資源の管理も行われています。


獲れたての魚たちを味わう
漁を終え、港に戻ったのは夜明け前。身体が芯まで冷え切ったシェフたちが次に向かい合ったのは、獲れたばかりのマアジやウマヅラハギ、そして、事前に用意してくださったブリやメジマグロでした。シェフ自らが包丁を握り、獲れたばかりの魚を丁寧に捌いていきました。


「担当してくれたシェフたちが、指を真っ赤にして捌いてくれた魚の刺身は、心に染みる味でした」と「モトイ」(京都)の前田元シェフ。 その一切れ一切れには、海と生産者への敬意、そして料理人としての誇りがにじんでいました。


能登のつながりを未来へ
定置網漁の見学を終えたあと、その足で金沢駅まで戻り、時間にして約24時間のフィールドワークは幕を下ろしました。
今回のフィールドワークで印象に残ったのは、ジャンル・地域・世代を超えた交流と熱い想いの共有でした。能登をはじめ、生産地の現場では生産者とシェフは二人三脚であり、地域に根ざしたコミュニティのもとで深くつながっています。その現場に東京・京都・福岡のトップシェフたちがC-Blueの旗印のもとに集い、その魅力や課題、現状を知るとともに、新たなつながりが生まれたことには大きな意義があります。
また、今回のフィールドワークにはブルーキャンプの1期生、2期生のメンバーも一部参加しました。ブルーキャンプを経た世代を超えたつながりは、シェフたちにとっても刺激となりました。
そして、地域や世代を超えて、農作物や水産資源、食文化、飲食業界への熱い想いを語り合う姿は、まさにC-Blueのゴールである「日本の豊かな海と、食文化の未来を守る」ことに向けた大きな一歩となりました。
私たちの2026年の活動は、ここ能登から始まりました。今年もさまざまな活動を通して、海と食文化の未来を守る取り組みの裾野を、着実に広げていきます。

文 藤野佑一朗