
北京で食べた16 - 什刹海の「武吃」と小さな軍師
二日酔いで目覚めた朝。既に腹を空かせた家族二人は、近所の饅頭屋から朝食を取り寄せていた。
どう考えても買い過ぎだが、デリバリーの最低注文額を満たすには仕方なかったのだと連れは言う。実に便利な制度である。買い過ぎに理由がつく。

袋の中身は、饅頭と花巻。中国語の「饅頭」は、餡を包まず、小麦粉の発酵生地だけを蒸し上げたもの。花巻は、その生地を薄くのばし、ひねったり折ったりして層を作る。葱などを加えることも多いが、これは何も入れない潔い姿だ。
どちらもみっしりと目が詰まり、噛むほどに小麦が香る。これぞ北方の味。我々が住む上海ではふっくら柔らかな生地に出会うことが多いが、我が家は断然、この歯を押し返してくるような生地が好きなのだ。

「うますぎ!北京最高!」
我が子が叫んだ。具もない饅頭でここまで喜べるのが、ほほえましい。

食後のおやつは、昨日后海のほとりで買っておいた、老舗・稲香村の山楂鍋盔。山楂の餡を生地で包んだ、丸く平たい焼き菓子だ。甘酸っぱい餡と、ぽそっとほどける生地の相性がいい。持参したプーアル茶をすすり、ほっと一息つく。

ただ、稲香村の菓子は、支店によって結構味が違う気がする。
「これは、もっと上がある気がするね。以前食べたものには及ばない」
中華菓子にうるさい連れがつぶやいた。これは、支店を見かけるたびに買って試すぞという予告だろうか。
腹を満たして、景山公園へ。園内の東屋では、アコーディオンを伴奏に、ご老齢の皆さんが大合唱していた。これまた昔から変わらぬ北京の光景。よく通る声が木陰に響き、見事な歌いっぷりにしばし足を止める。
北京篇予告動画3 pic.twitter.com/QHQ4XSnJrF
— 酒徒 - 「あたらしい家中華」&「中華満腹大航海」 (@shutozennin) October 7, 2026
景山のてっぺんから望む紫禁城は、僕が北京で最も好きな景色だ。果てしなく連なる黄金の甍を眺めていると、歴史学を志して初めてこの街を訪ねた、十八の夏を思い出す。

「おお……いいねえ」
隣で我が子がつぶやいた。三歳のときにも連れてきたが、当時の記憶はおぼろげらしい。あの夏、胸を躍らせて眺めた景色を、今は我が子と並んで見ている。なんだか、嬉しかった。
北京篇予告動画2 pic.twitter.com/HY7QDpkpAb
— 酒徒 - 「あたらしい家中華」&「中華満腹大航海」 (@shutozennin) October 7, 2026
景山を西へ下り、そのまま北海公園へ。空と湖の青に挟まれ、緑の丘に白塔が輝いている。ここも大好きな景色だ。清の順治帝の時代に建立されたチベット仏教の塔で、その独特の姿にも、この国の文化の多様さを感じる。

それにしても、青空がまぶしい。二十年前、北京に暮らしていた頃は、大気汚染で空がかすむ日も多く、こんな青さをいつも望めたわけではなかった。


やはり、北京には青空が似合う。
そのまま北上し、昨日遊覧船に乗った后海へ戻った。ずいぶん歩いて、腹も減ってきた。歴史と景色を堪能し、昼食への準備も万全だ。