
【アマノ文筆クラブ】『時間をかける少女』【コメディ】
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ようこそ、皆さま! セイウチです。
波打ち際で拾ったボトルを開けてみたら、なんだかほのぼのとする『呪い』のお手紙が入っていました。
10年計画って、なんだかコーヒーの豆からじっくり育てるくらい気の遠くなるお話ですね。
アナタの心も少し温まる、素敵な誰かの漂流記です。
どうぞ受け取ってください。
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「……お前を……10年かけて……呪い殺す……」
高校からの帰り道、路地裏の影から突如現れた白髪の少女に、俺はそう宣告された。
少女は藁人形と長い針を手に構え、血の走った目でこちらを睨みつけていた。
最初の数日は生きた心地がしなかった。
いつ背後から襲われるのか、いつ怪奇現象が起きるのかと怯え、夜も眠れなかった。
しかし——1ヶ月が過ぎ、3ヶ月が過ぎても、俺の日常には何ひとつ変化が起きなかった。
変化があったのは半年後、金縛りに遭った夜のことだ。
ふと足元を見ると、あの少女の霊(あるいは生霊)が立っていた。
ついに呪いが始まったのかと恐怖で身を固くしたが、少女は金縛りの中でじーっと佇んでいるだけだった。
翌朝、俺は夢日記をつけ始めた。
『6月1日:足元から1ミリ右に移動。目線は相変わらず睨んでいる』
『6月15日:さらに0.5ミリ前進。進捗が遅すぎる』
気になって調べてみると、少女は夢の中で俺に1ミリ近づくために、毎日深夜1時から1時間の儀式を欠かさず行っているらしいことが判明した。
あまりにも丁寧で、あまりにも気が遠くなる作業だった。
1年と少し経過した頃、俺の中で「恐怖」は完全に「心配」へと上書きされていた。
「……そこまで手間かけるなら、普通に筋トレして物理で殴りに来た方が早くないか?」
そんなある冬の日、俺は酷いインフルエンザにかかり、高熱で自室に倒れ伏していた。
意識が朦朧とする中、部屋の窓がガタガタと開き、寒風とともにあの少女が飛び込んできた。
「ちょっと! なに勝手に死にそうになってるのよ!?」
少女は顔を真っ赤にして叫び、俺の額に冷却シートをバチンと貼り付けた。
「私以外の理由で死なれたら、私の10年計画が台無しになるでしょうが! ほら、粥よ! 食べなさい!」
ネギが丁寧に刻まれた手作りのお粥を突きつけられ、俺はベッドの上でポカンとした。
少女は看病用のスプーンを握りしめながら、ブツブツと呪詛のような文句を叩きつけている。
「いい? あなたはあと9年と3ヶ月、絶対に健康でいなさい。風邪も引かず、交通事故にも遭わず、適度な運動と十分な睡眠を心がけるのよ! 分かった!?」
「……お前、俺を殺したいのか長生きさせたいのかどっちなんだよ」
「10年後に呪い殺すために決まってるでしょ!!」
少女はプンプンと怒りながら、俺の部屋の加湿器の水を補給し始めた。
その背中を見つめながら、俺は「この調子なら、俺の寿命が尽きる方が先かもしれないな」と小さく息を吐き、出されたお粥を一口すすった。味付けは、驚くほど優しかった。
(了)
※この物語はフィクションです。
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最後まで読んでいただきありがとうございます❗😭✨
「10年かけて呪い殺す」という物騒な宣言から始まる、どこか間抜けていて温かい2人の関係を描いてみました。
呪うために相手の健康や寿命を本気で心配してしまう本末転倒な少女と、それに慣れきって冷静に受け入れている主人公の掛け合いを楽しんでいただけていたら嬉しいです。
10年後、果たして呪いは完成するのか、それともただの仲良しなふたりになっているのか……妄想を膨らませつつ楽しんでいただければ幸いです!
そして‼️
💡 お知らせ
このショートショートをベースにした連載版『世界でいちばん遠回りな呪いの殺し方』 〜10年かけて俺を殺すはずの黒羽さんが、婚姻届を出してくるまで〜
をTALESにて公開開始しました❗
第1話では、彼女の呪いの全貌や「黒羽さん」とのより詳しいドタバタな日常をお楽しみいただけます。
【甘野 充】さん本当に素敵な企画ありがとうございます❗
毎週火曜日に自分の作品を投稿、企画に参加させていただく時は不確定的に投稿します!
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