
カート→決済のCVRが1ポイント改善、革製品・ランドセルECのチェックアウト導線アフター分析
前回(Case08)は、介護向けSaaSが「閲覧中」と「営業時間外」にも商談を取れるようにした事例を扱いました。
今回は、創業60年を超える革製品・ランドセルのメーカーが、自社ECのチェックアウトを作り直した事例です。
施策の中身は派手ではありません。会員登録を「前提」から「任意」に下げ、決済画面を「入力する場」から「確認して、提案を受ける場」に変えた。それだけで、カートに入れた人が決済を完了する割合が1ポイント上がったと公表されています。
この事例を、導線視点と運用視点の2つの表に分け、他社でも転用できる型を4つにまとめます。
事例の概要
対象:革製品・ランドセルを扱うメーカーの公式オンラインストア(実店舗と併売)
一次情報:ECプラットフォームの公式導入事例記事
成果:カート投入から決済完了までのCVRが1ポイント改善(ゲスト購入の導入とShop Payの活用による)
そのほか:チェックアウト画面でのメンテナンス用品の提案で、同用品の売上が大きく伸びた。段階別のメール配信を受けた層は購入率が高い(いずれも数値は非公開)
この会社のECは、もともと会員登録を前提にした作りでした。実店舗では、スタッフが革のお手入れ用品をセットで勧めるのが当たり前なのに、ECにはその接点がない。ランドセルは年中(4歳)のカタログ請求から翌春の販売開始、入学まで1年近く接点が続くのに、その「待ち時間」を設計できていない。チェックアウトの作り直しは、この3つの課題への答えとして読むと分かりやすくなります。
視点1:導線視点(カートから決済完了まで)

会員登録|Before:購入前に会員登録が前提。カートの次に登録フォームが立つ/After:登録なしのゲスト購入を正規の導線に。登録は任意(購入後でも可)
決済の入力|Before:初めての客は配送先・電話番号・カード番号をすべて入力/After:Shop Payで登録済みの配送先・支払い情報を呼び出し、確認だけで完了
関連商品の提案|Before:ECでは提案の接点がない(店舗ではスタッフがケア用品を声かけ)/After:決済画面にメンテナンス用品の提案ブロック(Checkout Blocks)を追加
受け取り方|Before:配送のみ。店舗と在庫・顧客情報は別管理/After:POSと在庫・顧客情報を統合。店舗受け取り(BOPIS)を2店舗でテスト
小結論:カート投入から決済完了までのCVRが1ポイント改善。「画面を増やす」のではなく、カートの次に立っていた「会員登録」という壁を外し、残った入力を「確認」に置き換えたことが効いている。1ポイントという数字は小さく見えるが、カートに入れた全ユーザーが対象なので、売上への影響は単価の高い革製品ほど大きい。
視点2:運用視点(検討期間の長い商材の「待ち時間」とデータの扱い)

検討中の接点|Before:段階に応じた配信なし(配信を受けていない層がある)/After:カタログ請求→購入→お届けの段階ごとに内容を変えて配信(Klaviyo)。配信を受けた層は購入率が高い
在庫・受注枠|Before:店舗POSとECの在庫が別。ランドセルの受注枠を毎日手動で調整/After:Shopify POSで統合。受注枠の手動調整が不要に
データの確認|Before:担当者に抽出を依頼し、戻るまで約1週間/After:Sidekickで会議中に即時確認。週次レポートはAIで自動生成
商品情報の持ち方|Before:素材名やPC収納サイズは説明文の中に埋もれる/After:メタフィールドで構造化し、AIが参照しやすい形に(AIO)
変化の本質:チェックアウトの改善と、検討中の「待ち時間」の設計は、別々の施策に見えて同じ発想でできている。ユーザーが自分で乗り越えなければならなかった摩擦(登録する・入力する・次に何を買うか考える・販売開始を覚えておく)を、1つずつサイト側が引き受けた。在庫統合やデータの即時確認は、その判断を速く回すための土台にあたる。
転用できる型
型①:会員登録を「前提」から「任意」に下げる

会員制を前提にした自社ECでは、カートの次に「会員登録」の壁が立ちはだかります。この事例では、登録は購入後でもできると割り切り、ゲスト購入を正規の導線に昇格させました。
転用のポイントは、「登録を廃止する」のではなく「順番を変える」ことです。メールアドレスだけで決済に進めるようにし、会員特典(ポイント・履歴・修理受付など)は購入完了後に案内する。登録率は下がるように見えて、購入者の母数が増えるので、結果として会員数が減るとは限りません。
型②:登録済み情報で、決済を「確認だけ」にする

ゲスト購入にすると、今度は住所やカード番号の入力がそのまま離脱点になります。他店で登録済みの配送先・支払い情報を呼び出せる決済手段(この事例ではShop Pay)を、通常フォームの上に置くことで、初めての客でも「打つ」ではなく「確認する」だけで完了できます。
Case06(美容家電EC)で扱ったAmazon Payの「入力を確認に置き換える」型と同じ構造です。決済手段そのものより、「通常フォームより上に置く」という配置が転用の要点です。下に置くと、ユーザーは入力を始めてから気づくことになります。
型③:店舗の「声かけ」をチェックアウト画面に移す

実店舗では、スタッフがクリームや防水スプレーをセットで勧められますが、ECにはその接点がありませんでした。この事例では、決済直前の画面に「お手入れ用品もご一緒に」というブロックを置き、メンテナンス用品の売上が大きく伸びたとされています。
商品ページではなく決済画面に置くのがポイントです。商品ページでの提案は「比較検討中の人」に当たるため、選択肢を増やして迷わせます。決済画面での提案は「買うことが決まった人」に当たるため、「ついでに」という判断になりやすい。店舗でレジ横に小物が置いてあるのと同じ理屈です。
型④:検討期間の長さに合わせて、段階ごとにメールを出す

ランドセルは、年中(4歳)のカタログ請求から翌春の販売開始、入学・卒業まで接点が続く商材です。この事例では、カタログ請求・購入・お届けという段階ごとに配信内容を変え、メールを受け取った層と受け取っていない層で購入率に明確な差が出たとされています。
転用できるのは「買うまでの時間が長い商材ほど、待っている間の設計が効く」という考え方です。住宅、自動車、保険、BtoBの高額商材など、資料請求から契約まで数か月あく業種では、「販売開始の一斉告知」だけでなく、「選び方」「ピーク前の予約情報」「お届けまでの準備」のように、段階に応じて内容を変える余地があります(図中のメール内容は一例で、公表されたものではありません)。
自社で試す前に:この事例を「見える」ようにする計測
この事例の成果は「カート投入から決済完了までが1ポイント」です。全体のCVRしか見ていないサイトでは、この大きさの変化は季節や広告のぶれに埋もれて見えません。型①〜④を試すなら、先に計測を3つ揃えておく必要があります。

1. 段階ごとの通過率が取れているか
カート閲覧→チェックアウト開始→配送先の入力→支払い情報の入力→購入完了の5段階を、それぞれイベントとして持っているか(GA4ならview_cart、begin_checkout、add_shipping_info、add_payment_info、purchase)。型①(会員登録を任意に)が効くなら「開始→配送先」の間が、型②(入力を確認に)が効くなら「配送先→支払い」の間が動きます。主指標は全体のCVRではなく、落ちている段階の通過率です。

2. 分けて見るための属性があるか
この事例を自社で再現したとき、「何が効いたか」を分けて見るには、次の属性が購入イベントに付いている必要があります。

型①|ゲスト購入か、会員購入か:ログイン状態をカスタムディメンションで持つ
型②|高速決済ボタン経由か、通常フォーム経由か:決済手段をpurchaseのパラメータに持つ
型③|決済画面の提案ブロックから追加されたか:追加された商品にitem_list_name(例:checkout_upsell)を付ける
型④|段階別メールを受け取った層か:配信ツール側で受信/未受信のコホートを切り、購入率を比べる
副指標として、ゲスト購入の割合、高速決済の利用率、提案ブロックの添付率(購入1件あたりのメンテ用品点数)、そして会員登録率が下がりすぎていないか(型①の副作用)を並べます。
3. レポートは「段階別ファネル表」を1枚固定で
施策前4週と施策後4週を同じ表に並べ、行を5段階、列を前後の期間と差分にします。その下に、新規/リピーター、スマホ/PCで分けた同じ表をもう1段。ランドセルのような季節商材は前年同期の列を足すと、「施策の効果」と「時期の効果」を切り分けやすくなります。週あたりのチェックアウト開始数が数百件以下なら、週次ではなく4週単位で比べるほうが安全です。表の下に「同じ期間に他に変えたこと」を1行メモする欄を付けておくと、通過率がぶれたときに原因を追えます。

計測チェックリストは、提案資料(pptx)にもCase01〜09それぞれ1枚ずつ収録しています。
まとめ
この事例の面白さは、施策のどれもが「新しい画面を作る」話ではないところにあります。

会員登録を任意に下げる(型①)
入力を確認に置き換える(型②)
店舗の声かけを決済画面に移す(型③)
待っている間を段階ごとに設計する(型④)
いずれも、ユーザーがこれまで自分で引き受けていた手間を、サイト側が引き取った形です。会員制を前提にしてきた自社ECほど、型①と②だけでも試す価値があります。
※数値の注記:「1ポイント改善」はプラットフォーム側の導入事例記事で公表された値で、対象期間は非公開です。ゲスト購入の導入とShop Payの活用が同じ文脈で述べられているため、それぞれの寄与は分けて示されていません。メンテナンス用品の売上増と、段階別メールによる購入率の差は、数値が公表されていません。導入年については記事内で2018年と2019年の両方の記載があります。本記事の表は公表内容と公式サイトの現在の構造から再構成したもので、画面キャプチャではありません。
出典
Shopify 導入事例「土屋鞄製造所」(数値・背景の一次情報)
https://www.shopify.com/ee/case-studies/tsuchiya-kaban
土屋鞄製造所 公式オンラインストア(現在のサイト構造の確認)
https://tsuchiya-kaban.jp/
提案資料(pptx)のご案内

本記事の型①〜④は、Before/Afterのワイヤーフレーム図解として提案資料(pptx)にまとめています。社内説明やクライアントへの提案にそのまま使える形式で、Case01から今回のCase09までを1つのファイルに蓄積しています。
Case01 学校法人|CVR改善約140%(フォーム導線×CTA配置)
Case02 健康食品EC|CVR改善率約217%(お客様の声のUGC風改修)
Case03 サブスクレンタル|CVR約2.5倍(広告コピーとLPの温度合わせ)
Case04 物流SaaS採用サイト|応募者約2.5倍(施設訴求→人物訴求)
Case05 旅行予約OTA|ROI約3倍(予約導線の途中に判断材料)
Case06 美容家電EC|CVR+1.5〜2%(カート画面を飛ばす)
Case07 コーヒーマシン定期便|CVR改善(不満を裏返して訴求軸に)
Case08 介護向けSaaS|自動で決まる商談約3.6倍(閲覧中・営業時間外の商談設定)
Case09 革製品・ランドセルEC|カート→決済のCVR+1pt(会員登録を任意に、決済画面で提案)
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