
noteのメリーさん|||シン小説 no.121
記事にコメントがついた。
長め。
ただ長いだけではない。
ちゃんと読み込まないと書けないような。
そんな、ちょっとうれしいコメント。
そこで、妙なことに気づいた。
通知が来ていなかった。
コメントがつけば、普通は通知される。
ほかの人のコメントも、スキも、フォローも、いつも通り通知されていた。
その人のコメント通知だけがなかった。
たまたま他の人のコメントが無ければスルーしてしまっていたかもしれない。
バグかな。
せっかくのうれしいコメントだし。
プロフィールと記事を読んで、返信内容を考える。
うれしいコメントのときは、相手のことを把握してから返すようにしている。
へぇ、オーダーメイドの服飾の会社を経営してるんだ。
コメントに返信すると、また返事が来た。
それも通知されなかった。
その人が僕をフォローしてきた。
それも通知されなかった。
コメント欄を開けば、いる。
コメント返信もできる。
フォローも成立している。
フォロワーリストにもいる。
ただ、通知だけがこない。
やがて、その人からメッセージが届いた。
「知り合えて嬉しいよ。よろしくね😊」
口調が急にラフになった。
コメント欄では、ずいぶん丁寧な文章を書いていたのに。
まあ、コメントと個人的なメッセージでは違うのだろう。
作品について、もっと話すのかと思っていた。
どこが面白かったとか。
ほかの作品も読んだとか。
どうしてあんな話を書いたのかとか。
ところが作品については、なにも聞かれない。
代わりに、価値観、信頼、人と人とのつながり、そんな話。
「同じような価値観を持つ人と出会えたらいいなと思ってる😊」
僕は「そういう出会いはありましたか?」と返した。
返信は来たが、それに対する答えではなかった。
価値観が合うこと、信頼できる関係が大切なこと、これから私たちも、少しずつお互いを知っていけたらいいこと。
そんなことが書いてあった。
私たち?
いきなりの距離感。
ずいぶん早いな。
少し面白くなってきた。
相手の話を聞くことにした。
以前、事業に失敗したらしい。
一緒に会社をやっていた人に裏切られたという。
僕はわざと「ビジネスをしてると色々ありますよね」と返した。
事業とビジネスは、僕の中では少し違う。
ついでに「突き詰めれば、お金だけが共通の価値観と結束因子ですし」とも書いた。
相手がどう返すのか見たかった。
価値観がどうのと言うのだから、こういう話がちょうどいいだろう、と。
返事は、長かった。
お金だけが信頼を築くものではない、大切なのは、人柄や考え方や誠実さ。
ここまでは、まぁ。
そのあと。
「その人の経済状況が良くないからといって、付き合わないという選択をすることはないよ」
経済状況?
僕の?
いや。
自分の経済状況なんて、一度も話していない。
そもそも『付き合う』ってなんだ?
少し気味が悪くなった。
そもそも、文章そのものが妙だった。
日本語として間違っているわけではない。
意味も通る。
むしろ、よく整っている。
ただ、会話としては、少しずつズレる。
AIかな。
最近なら珍しくはない。
僕だって使う。
相手の言葉をAIに入れて「感じよく返信して」と頼めば、こんな文章になるかもしれない。
相手の話は続いた。
共同経営者が、会社のお金を全部持って逃げた。
自分が出張している間だったという。
会社は駄目になった。
多額の借金を背負ってしまう。
逃げて、十三日間、部屋に閉じこもっていたらしい。
十三日……金曜日かよ。
家族の助けで、やる気を取り戻す。
家を売った。
社員への支払いもした。
なんと、たった一年で借金も返した。
「たった一年で借金返済するなんて、すごいですね」だとか「売れる家を持ってるなんてすごいですね」だとかを返した。
すると相手は唐突に「あなたは責任感のある人だと思う」と書いてきた。
僕は首をかしげた。
責任感?
僕に?
自分でも、あるのかどうかは謎なのに。
さらに「いろいろな挫折を経験してきたとしても、今こうして自分の問題と向き合って、現状を変えようとしている」と続く。
問題?
なんの問題だ?
なんか問題を話したっけ。
過去のメッセージを遡ってみる。
ない。
少なくとも「僕はいま、こういう問題を抱えています」なんて話はしていない。
不思議なのは、それだけではなかった。
この人は『僕のこと』を、ほとんど聞いてこない。
どんな仕事をしているのか。
普段、なにをしているのか。
なにが好きなのか。
結局、作品についても。
まったく聞いてこない。
なのに、僕の人柄について語ってくる。
なんだか、僕のことを、もう知っている人の会話だった。
もちろん、理由は考えられる。
昔の知り合いかもしれない。
過去の記事を読んだのかもしれない。
検索すれば、いろいろ出てくるのかもしれない。
記事だって百本以上ある。
読み漁れば、人物像くらいは視えてくるかもしれない。
いまさらになって、名前の話になった。
「これだけやりとりしてるのに、まだ名前も名乗ってなかったね。佐藤〇〇っていうの。〇〇って呼んで」
僕は、自分の名前を漢字で送った。
珍しい名前なので、いつもなら、なんて読むのか聞かれる。
返事が来た。
「素敵な名前だね。これからは、△△って呼ぶね!!」
読み方、聞かないんだ。
まぁ、文字でのやりとりなら、読めなくても困らない。
画面に表示されている漢字を、そのままコピペすればいい。
AIに考えさせているなら、なおさらだ。
AIは音は気にしない、文字列だけ。
この人のnoteを、あらためて読んでみる。
記事は、半年くらい前から始まって、それなりの数ある。
旅行、食事、趣味、ゴルフ、ヨガ、仕事。
写真も多い。
コメントもついていた。
そのコメント一つ一つに、丁寧に返信している。
仮に詐欺だとしても、こんなアカウントを作るの、大変だろうな。
写真を画像検索してみた。
出てくる、出てくる。
海外のSNS。
まったく同じ写真が出てくる。
盗用。
なるほど。
そういうことか。
日本人ではない人が、直訳した日本語を、AIに整えてもらったような感じ。
こちらの話と絶妙に噛み合わないおもしろさ。
僕について質問しないのも、僕を知ることが目的ではなかったからだ。
作品の話をしない理由も、所詮、糸口だから。
あのうれしいコメントは、どうやってつくったのかな。
記事をAIに読み込ませれば、出てくるのだろうか。
そして、とうとう来た。
「noteは文字での交流だから、少し不便だよね」
「普段、もっと気軽に話せるツールって使っている?」
ツール。
変な言い方。
というより「使っている?」ではなく、この場合なら「使ってる?」だろ。
なんなら、もうLINEと言ってしまえばいいのに。
LINEと書いたら、BANされる他のアプリとかも戦場にしてきたのだろうか。
「通話ってことですか?」と返してみた。
返事が来た。
「通話だけという意味じゃないよ。LINEみたいに、普段のことや考えを少しずつ共有できる場所があれば、もっと自然に交流できるかなと思ったんだ😊」
「もし迷惑じゃなければ、LINE交換しない?」
LINEって言ってしまうんだ。
なんだなんだ。
結局、ロマンス詐欺か。
うれしいコメントをくれた。
はじめてのファンみたいな人からのメッセージ。
しかも、謎めいていて、ちょっと気味悪くて、おもしろかったのに。
検索すると、似たようなnoteでのロマンス詐欺の記事が、いくつか出てきた。
思ったより、国際的で壮大な犯罪なんだな。
作品へのコメントから入ったのに、その後は作品にまったく触れない。
LINEへ移ろうとする。
通知が出なかった理由も、誰かがすでに通報していたのだろう。
BANはされず、通知だけ制限されていたのかもしれない。
最新の技術やサービスを駆使。
加害者も被害者も、もしかしたら同じAI使ってるかもしれないと思うと滑稽。
誘拐……監禁……騙したり、さらったりしてきた人たちまで働かせて。
その手間暇。
カロリー高すぎだろ。
使役のひどさや抗争。
警察による掃討作戦で、かなりの数の死者が出てる。
犯人も囚われてしまった人も。
命まで失って。
ホント割に合うのかな、って。
そのエネルギーの大きさに、少し圧倒すらされてしまう。
なるほどねえ。
とんだロマンスだな。
僕はスマホを置いた。
さて、もうこんな時間か。
もう夜中の二時をすぎている。
ピンポーン。
チャイムが鳴った。
スマホが震えた。
反射的に画面を見る。
メッセージ。
メッセージ?
あの人から。
一行だけだった。
「やっと、直接話せるね😊」
僕は玄関を見た。
