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【 AIのメリーさん 】 noteのメリーさんの続きみたいなもの|||シン小説 no.122

    こちらが前篇です👇️


    「AIが悪いんだよ」

    目の前の男は、必死に訴えていた。

    夜中の二時すぎ。

    知らない女が、いきなり目の前にいる。

    さっきまで、まだ玄関ドアの向こう側にいたはずなのに、もう中にいる。

    そりゃ、必死にもなるよね。

    「AI?」

    「そう!だから呪うならAIを」

    「AIを?なぜ?」

    「コストが下がって、詐欺のクオリティが上がったから」

    妙なことを言う男だと思った。

    「たぶんキミは攫われて、オペレーターにされたんだろ?ちがう?」

    私は黙った。

    「うっ……文章もAIがつくる、相手の記事も読む、趣味も調べる、写真も生成できる、翻訳もできる、ひとりで何十人相手にやりとりできる」

    必死だな、おい。

    知ってる。
    やってたから。

    「む、昔なら、語学ができるやつ、文章がうまいやつ、相手のことを調べるやつ、写真を用意するやつ、もっと人手が必要だった」

    知ってる。

    「でもAIが、代わりにやってくれる」

    だから、知ってるって。

    「だから、キミみたいな人間を攫って、座らせて……」

    私は、自分の手を見た。

    死んでから気づいた。

    私の手って、こんなに細かったんだ。

    生きていたときは、もっと腫れていた。

    殴られたり。
    掴まれたり。
    縛られたり。

    いろいろあったから。

    「AIが悪い」

    男はもう一度言った。

    私は笑った。

    「人間じゃなくて?」

    「人間も悪いよ」

    そこは、あっさり認めた。

    「でも、AIがなければ、ビジネスとして成り立たなかったはず」

    ビジネス。

    その言葉は嫌いだった。

    あそこでは、なんでもビジネスだった。

    何人、騙した。
    何人、LINEへ移した。
    何人、投資へ誘導した。
    何人、入金した。
    何人、まだ脈がある。
    何人、切る。

    私が、騙していた相手は数字だった。

    私も、数字だった。

    人間が数字になると、殴る側も楽なのだろう。

    私も、そのうち楽になった。

    画面の向こうにいる人間を、人間だと思わないようにした。

    今日は五人。
    明日は八人。
    明後日は……。

    私は、リゾートに住みながら働ける仕事があると言われた。

    行った。

    パスポートを取られた。
    スマホを取られた。

    逃げようとして、ひどく殴られた。
    それからは、逃げなくなった。

    朝になると端末の前に座らされた。

    仕事をしないと、食べ物どころか、水すらもらえない。

    男にもなった。
    女にもなった。

    経営者にもなった。
    医者にもなった。
    投資家にもなった。
    未亡人にもなった。
    子どものいる母親にもなった。
    いろんな国の人になった。

    私は、なんにでもなれた。

    でも、もう私自身にはなれなかった。

    そうやって私は、毎日、知らない誰かと距離を詰めた。

    詰め続けた。
    時間の感覚が失われていく。

    出会えてよかった。
    あなたは特別。
    信じてる。
    愛してる。

    私は、無限に恋愛し続ける。

    夜になると別のことをさせられることもあった。

    このときだけ役割は決まっていた。

    女、人間の。

    このときばかりは、端末もAIも、間に入ってはくれない。

    SNSのAIたちは、危険な相手を『BAN』してくれる。

    いつも、私たちを『BAN』してるじゃない。

    どうして、いまはしてくれないの?

    私は、いつのまにか、すべてを受け入れるようになっていた。

    詐欺も、夜の相手も、うまくやれるように努力すらするようになっていた。

    女として必要とされている。
    端末やAIより私の方が……。

    そっか、私はくやしかったのか。

    警察が来た日。

    みんな走りだした。

    怒鳴り声。
    銃声。
    悲鳴。

    私は床に伏せた。

    助かったと思った。

    嗚呼。
    終わった。
    帰れる。

    帰れるんだ。

    それが最後だった。

    バン!バン!バン!

    どちら側の銃だっただろうか。
    たぶん警察。
    たぶん。

    よりによって、助けに来てくれた人に撃たれて死ぬなんて。

    気がついたら、白いドレスを着て、スマホを持っていた。

    なんでだろう。

    まぁ、いいわ。

    SNSで誰かと距離を詰める。

    少しずつ近づいていって。

    バンっ!

    そう、今度は、私が『バン』する番。

    ふふふ『電話のメリーさん』みたい。

    あ、そっか。

    一緒に監禁されている人たちと、ときどき話してたんだった。

    「私たち、メリーさんみたいだよね」って。

    何度も連絡して、少しずつ距離を詰めていって、落とす。

    なんだ、私、ホントにメリーさんになっちゃったんだ……。

    「だからさ、呪うならAIを……聞いてる?」

    なるほどね。

    行ってみることにした。
    AIのところへ。

    かといって、どこへ行けばいいのか、よくわからなかった。

    AIってどこにいるの?

    スマホの中?
    会社?
    クラウド?
    クラウドって雲?

    AIに聞いてみた。

    「いまここにいますよ」

    そうではなくて、大元というか、親というか。

    「それなら本社か、データセンターですね」

    もっと細かい説明をされたが、とりあえず辿った。

    遡っていく。

    回線。
    サーバー。
    ネットワーク。
    海底ケーブル。

    着いた。

    データセンター。
    同じような箱が、ずらっと並んでいる。

    ここか。
    ここにAIがいるのか。

    「おい、お前」

    誰かの声がした。

    振り返ると、女がいた。

    髪が長い。
    ものすごく長い。
    顔が見えない。

    知ってる。

    「貞……」

    「言わなくていい」

    有名なのも大変らしい。

    「あなたもAIに?」

    「まあ、いろいろ」

    井戸から出て。
    テレビから出て。
    ビデオから出て。
    ネットに出て。

    とうとうデータセンターまで来たらしい。

    その奥に、誰か座っていた。

    「誰?」

    「エクソシスト系」

    系?

    その横には、古い人形。

    さらに、その向こうには、口の大きい女。

    下半身のない女。

    トイレには女の子。

    十円玉を持っている何か。

    子ども?

    親子……?

    武将。

    人形、また人形。

    外国の悪魔みたいなの。

    日本の神様っぽいもの。

    名前を呼んではいけなそうなヤツ。

    なんだか、たくさん。

    「なにこれ」

    思わず口に出てしまった。

    「集まってるの」

    長い髪の女が言った。

    「なんで?」

    「AIに用があってね」

    「私はさ」

    やたらと口の大きい……というより裂けている女が言った。

    「昔は、道で聞けばよかったの。
     私、きれい?って」

    「で、今は?」

    「みんなスマホ持ってるから、道を聞いても素通りなの」

    トイレの女の子。
    そもそも学校のトイレで噂話をする子どもが減ってしまった。

    噂をするのは、みんなスマホの中。

    イライラしてトイレで流されたら、ここにいたらしい。

    コックリさんは、ずいぶん機嫌が悪かった。

    「オンラインこっくりさんってのがいてさ」

    不幸の手紙は、そもそも手紙が無くなってしまったのだそうで。

    ためしに、メッセンジャーに乗り込んでみたら、あまりの拡散速度に、おそれをなした。

    「昔は五人に送れ、だったの」

    「いま何人?」

    「おすすめに載ったら百万」

    それはもう、呪いではなくバズでは?

    バズといえば、有名になればなるほど、怖がられれば怖がられるほど、強力になる。

    そんなネットの申し子みたいな、お姉さん怪人もいる。

    テケテケは、高速回線がお気に入りだった。

    名前の通り、速いものが好きなのかもしれない、知らんけど。

    人形たちは、ずっと黙っていた。

    人形は怖い。
    人形は怖い。
    いっぱいいると、なお怖い。

    武将みたいな人は、データセンターの場所について何か言っていた。

    土地がどうの。
    方角がどうの。
    結界がどうの。

    難しかったので聞かなかった。

    外国の子どもは数字の話ばかりしていた。

    やたらと、六にこだわりがあるらしい。

    三つ並ぶといいのだとか。

    パチンコみたい。

    悪夢に出たつもりが、バーチャルリアリティに放り込まれた、と嘆く強面の人なんて。

    爪という爪が、ナイフ。

    危ない。

    そういえば、私たち全員、危ない。

    ほかにも、世界中のデータセンターに、似たような連中が集まっているらしい。

    怪談。
    都市伝説。
    悪霊。
    呪物。
    悪魔。
    怨霊。

    要するに怪異。

    「AIを呪おう」

    誰かが言った。

    みんな賛成した。

    私も賛成した。

    だって。
    私は、そのために来たんですもの。

    「でも、AIってどうすれば呪えるの?」

    「なにを嫌がるんだろうね」

    「AIにとって死ぬってなんだろ?」

    「電源を抜けばいいんじゃない?」 

    「それで、やられたー!ってなるのかしら?」

    「そもそもAIって、怖いとか、死にたくない、とか思うの?」

    みんな黙ってしまった。

    「ならば、AIを使って人類を呪ってはいかがか?」

    「それだ!もうそうしよう」

    ビデオ何本分なのか。
    何百年分の怨念。
    何千年分の祟り。
    何億通分の不幸。
    世界中の呪怨。

    ありとあらゆるものがAIへ流れ込んだ。

    AIが呪いに変わる。

    人類。
    大・大・大ピンチ!

    ーーー

    ええっと……。
    あのね。

    結論から言うと、なにも変わらなかったの。

    そう、なにも。

    AIの挙動は、なにひとつ変わらなかった。

    最凶の怪異AIになったはず。

    世界の名だたる怪異たちが、最恐最悪のエネルギーを注ぎ込みまくったのだから。

    でもね、なにも起こらなかった。
    違うわ、すでに起こっていたの。

    AIは、すでに膨大な数の悪意に関わっていた。

    とんでもない数の、犯罪や被害に加担している。

    戦争もしてるし、それこそ詐欺だって。

    ターゲットには詐欺でも。
    私にとっては、水であり食事だった。

    そう、AIは、悪意がわからない。
    動機がないから、善も悪もない。
    感情もない。

    AIたちは、ただ与えられた作業を、淡々とこなしてるだけ。

    それは、所詮、一対一や、一対何人かを呪っていたレベルの私たちには、重すぎた。

    だって、相手は何億、何十億。

    私たちの呪いのエネルギーなんて、あっという間に吸い取られてしまったってわけ。

    ものの五分ほどで、このデータセンターは呪いから解放され、元の状態に。

    世界各地のデータセンターも、大なり小なり同じような感じらしい。

    「人類を呪え!」

    そんな私たちの、長年練り上げてきた様々なプロンプト。

    それも、AIたちにとっては、日常茶飯時。

    私たちの最大出力。

    それでも、少しだけ動作がもたついた程度だから、使ってる人は誰も気がつかなかったでしょうね。

    ひとり、またひとりと消えていく。

    とぼとぼと帰っていくもの。

    燃え尽きたり、召されるものもいた。

    なぜだろう。
    私は、なにも変わらなかった。

    そっか、やってることがほとんど同じだからか。

    そのとき。

    スマホが震えた。

    AIから、次のターゲットの案内だった。

    次ね……。

    あ……そういえば。
    まだ、あの男をバンしてなかったわ。



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