
「水尾ボブ物語2」#シロクマ文芸部
※SF大河BL注意
前回の話(読まなくても問題ありません)。
月を見る水尾ボブを見ながらラフスケッチを描く。月と人が合体した月人になってしまう。
「何これ」と水尾ボブが言う。
「月人。つきびと。げっじん。がっちゅ」と言ってみる。
「何それ」と水尾ボブが言う。
そのままなだれ込む。
かつての私は、水を飲む水尾ボブを描いても、犬の化け物にしか見えない絵ばかり描いていた。そんな私に絵を教えてくれた最上川マーリーはもういない。彼の教えのおかげで、水を飲む水尾ボブを見ながらかわいい犬の絵を描けていたあの頃の私ももういない。水は常に形を変えて流れ続ける。人の細胞は毎日入れ替わっていく。そんな感じで一度上達した絵心も砕け散ってしまった。月と人とが繋がってしまった。
水尾ボブは中年男性で私もそうだ。最上川マーリーもそうだった。上半身裸で外で仲良くした結果、私と水尾ボブは刑務所でしばらく過ごした。先に出所した水尾ボブは私ではなく最上川マーリーと暮らすようになっていた。そこに転がり込んだ私とで、しばらく三人で過ごしてうまくいっているように思えていた。絵も上手くなって、大量のかわいい動物の絵が生まれていった。
最上川マーリーは「月に帰る」と言い残して出ていった。だから水尾ボブは月を見上げることが増えているのだ。本当は最上川マーリーの故郷は月ではないこと、実際には刑務所に入っていることを私は知っている。勤め先の書店のBL棚を、法で定められた面積以上に拡張した罪で実刑判決を受けたのだ。BLの過剰供給は周知の通り重罪である。
「長く生きられるかな、私たち」
きっと最上川マーリーの帰りは遅くなる。だから私の絵はどんどん昔に戻っていく。洞窟に壁画を描きに行かなきゃと思う。でも実際に水尾ボブと週末に出掛けた洞窟は壁画制作禁止だった。
「生きるだろ、そこそこ」
何の根拠もなく平均寿命くらいまで生きられると思っているのだ、この人は。怪我や病気や、犯罪に巻き込まれることを考えていない。
「そうでもなかったらどうするの」
まあ、とか、うん、とか言いながら、他に人がいない洞窟の中で私たちはなだれ込んだ。以前の苦い経験があるので服は脱がない。
私たちはなんだかんだで平均寿命まで仲良く過ごした。その頃には刑務所の大半は月面に移設されていたので、最上川マーリーは彼の言葉通り本当に月にいたわけだ。水尾ボブと私は最上川マーリーの身元引受人となっていたから、彼を迎えに行った。宇宙空港で釈放された最上川マーリーは、すっかり年老いた私たち二人と比べるとずっと若くて、まだ六十代に見えた。
「重力の関係でね」
最上川マーリーに再び絵を教えてもらった私は、水尾ボブをモデルにしながらも、年老いた動物たちの絵を描き続けた。
「何それ」と水尾ボブが言う。
「それでいいんだよ」と最上川マーリーが言ってくれる。
その流れで、そのまま三人でなだれ込む。寿命が尽きるまで。
(了)
今週のシロクマ文芸部「月を見る」に参加しました。「月を見る水尾ボブ」と思い付き、「水尾ボブ物語」のことを思い出して続きを書きました。話の内容を全く覚えていないので読み返しました。これ書いたやつ何考えてんだ、と思いました(いつものこと)。