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月9ドラマ 爬虫類の全て 第五話

    前回までのあらすじ

    第1話

    第2話

    第3話

    第4話

    第5話「月面上場 ~君はもう、株主なんだ~」

    ワニ次郎の衛星「クロコ・ムーン1号」が観測ステーションへ激突しかけた、その瞬間。

    太郎は非常用ハッチを蹴り開け、宇宙空間へ飛び出した。
    スーツの裾が無重力に揺れる。
    ネクタイは真空の中なのに、なぜか異様にキマっている。

    「次郎……お前との因縁、ここで終わらせる」

    だが次の瞬間、太郎の目の前に広がったのは、破壊された宇宙ではなかった。

    そこには、月面にそびえ立つ巨大なガラス張りのビル群。
    無数の発光パネル。
    回転する証券ティッカー。
    そして、月面に堂々と建てられた看板。

    “LUNAR STOCK EXCHANGE(月面証券取引所)”

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    「なに……?」

    通信越しに、ワニ次郎が勝ち誇ったように笑う。

    「驚いたか太郎!
    この衛星衝突はただの攻撃じゃない。
    月面上場セレモニーの鐘を鳴らすための演出だ!」

    「演出だと……?」

    「俺はもう地球の企業幹部じゃない。
    月面経済圏の創業者にして、初代CEOにして、筆頭株主だ!」

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    その瞬間、観測ステーション全体が変形を始める。
    壁が開き、床がスライドし、巨大なモニターがせり上がる。
    さっきまでの宇宙施設は、ほんの数秒で株主総会会場へと姿を変えた。

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    カメ博士が遠くを見つめながら、重々しくつぶやく。

    「来てしまったか……月面資本主義の時代が……」

    「そんな時代あるんですか!?」と美咲。
    「今できたのよ」と麗香。
    「早いな」と太郎。

    会場には、なぜか既に大量の月面投資家たちが集まっていた。
    ヤモリ系ベンチャーキャピタル。
    ヘビ系アクティビストファンド。
    トカゲ系個人投資家インフルエンサー。
    全員が酸素ボンベを背負いながら、タブレットで気配値を見ている。

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    壇上に立ったワニ次郎は、両手を広げて叫ぶ。

    「諸君!
    今ここに、クロコダイル・インダストリーは月面市場への上場を果たす!
    コードは……**2525(ニコニコ)**だ!」

    なぜか拍手が起きる。
    意味は分からないが、ノリで市場が動いていた。

    そのとき、美咲の端末に緊急IRが表示される。

    【適時開示】イグアナ太郎、保有感情の大幅上方修正のお知らせ

    「えっ……!?」

    美咲の体色が一気に虹色へ変わる。
    麗香は細い指で画面をなぞり、妖しく笑った。

    「ふふ……ついに恋心まで開示資料になったのね」

    太郎は眉をひそめる。

    「誰がこんなものを……」

    カメ博士が静かに手を挙げた。

    「わしじゃ」

    「博士ぃ!?」

    「恋は情報開示が遅れると、市場が混乱する……」

    「市場ってなんなんですか!」
    「今は恋愛の話してたはずですよね!?」
    「もう同じことなのよ」と麗香。

    だが本当の地獄はここからだった。

    ワニ次郎がステージ中央のベルを鳴らすと、巨大スクリーンに新たな資料が映し出される。

    公開買付け開始のお知らせ(TOB)
    対象:美咲の心
    買付者:ワニ次郎
    買付価格:愛情 1株あたり 12,000円

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    会場がどよめく。

    「ふざけるな!」太郎が叫ぶ。
    次郎は薄く笑う。

    「資本の世界ではな、太郎。
    好きだの嫌いだのではない。
    最後に心を取得した者が勝者なんだよ」

    「最低……!」と美咲。
    「でも発想は強いわね」と麗香。
    「褒めるな」と太郎。

    そこへさらに、想定外の第三波。

    突然、会場の奥のVIPゲートが開く。
    金色の月面用ロングコート。
    巨大なサングラス。
    無駄に長い専用通路。
    そして現れたのは――

    イグアナ太郎の父、イグアナ大三郎。

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    誰もが凍りつく。

    「……親父?」

    「久しぶりだな、太郎」

    その声だけで、会場の株価ボードがなぜか上下する。
    美咲が震える声でつぶやく。

    「この人が……伝説の……」

    麗香すら目を細める。

    「知ってるわ。
    地球市場を三度崩壊させ、四度立て直した男……“冷血の相場師”」

    太郎は低く言う。

    「十年前に死んだはずだ」

    大三郎は鼻で笑う。

    「死んだことにしたんだ。上場準備で忙しくてな」

    「理由が雑すぎるだろ!」

    大三郎は壇上へ進み、次郎の肩を軽く叩く。

    「よくやった、次郎。
    私の計画通りだ」

    「なっ……?」

    今度は次郎が固まる。
    なんとワニ次郎すら、ただの駒だったのだ。

    大三郎はスクリーンを切り替える。
    そこに映ったのは、衝撃の企業再編図。

    地球本社 → クロコダイル・インダストリー → 月面市場 → 最終親会社:イグアナホールディングス

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    「この月面上場は、恋でも経営でもない」
    大三郎は静かに告げる。
    「家族再編だ」

    「意味が分からない!」
    会場の全員が、ついに同じ気持ちになった。

    大三郎は太郎を見つめる。

    「太郎。お前に選ばせてやる。
    美咲を取るか。
    会社を継ぐか。
    それとも……月そのものの支配権を取るか」

    「選択肢のスケールがおかしいんだよ!」

    その瞬間、美咲が前へ出る。
    虹色の体色が、見たこともない白金色へと変わっていく。

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    「もうやめてください!」

    会場が静まる。

    「私、誰かのTOB対象でも、買収案件でもありません。
    私は私の意志で色を変えるんです」

    その言葉に呼応するように、月面証券取引所の床一面に色彩の波紋が走る。
    美咲の感情変化が、なぜか取引システムと同期してしまったのだ。

    カメ博士が息をのむ。

    「まさか……カメレオン因子が市場アルゴリズムに干渉しておる……!」

    「そんな設定ありました!?」
    「今生えたのよ」と麗香。
    「本当にこの世界、後付けが強いな……」と太郎。

    暴走する相場。
    乱高下する月面指数。
    パニックになる投資家たち。

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    次郎は叫ぶ。

    「やめろ美咲! 俺の初値が!」

    大三郎は腕を組む。

    「面白い。実に面白い。
    やはりお前たちの感情は、資本を超えるか」

    太郎はゆっくり前へ出る。
    そして、ステージ中央の上場ベルを掴む。

    「俺は選ばない」

    「何?」と大三郎。
    「美咲も、会社も、月も。
    全部守る。
    それが、俺の答えだ」

    次の瞬間、太郎はベルを思い切り叩き壊した。

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    鐘の音が月面に響く。
    ありえないのに響く。
    でもこのドラマでは響く。

    砕けたベルの破片が宙に舞い、取引システムが停止。
    月面市場は一時閉鎖。
    次郎のIPOは中断。
    大三郎の再編計画も凍結。
    そして無重力の中で、美咲の白金色の体色だけが静かに残った。

    静寂。

    その中で、ヤモリ健の通信が入る。

    「兄貴! 大変だ!」

    「今度は何だ」

    「地球本社が勝手に火星支店設立を発表した!」

    全員が固まる。

    「は?」

    スクリーンに速報が流れる。

    【超速報】新会社設立のお知らせ
    社名:Mars Reptile Holdings
    代表取締役:不明
    なお、創業メンバーに“タマゴから孵った謎の人物”を含む

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    麗香が、初めて本気の顔になる。

    「……まずいわね」

    「何がだ」と太郎。

    麗香は低い声で言う。

    「その“謎の人物”、たぶんあなたの弟よ」

    「弟ぃぃぃ!?」

    ナレーション(コブラの渋い声)

    「月で始まった上場劇は、親子再編へ。
    そして次なる舞台は、まさかの火星。
    次回、第6話――
    『火星から来た弟 ~タマゴは敵か、身内か~』
    恋も経営も、もはや戸籍では追えない……お楽しみに!」

     
     
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