
鼻のシリコンは40年後に出てくる〜豊胸が辿った道を、今度は鼻が辿る〜
前回、豊胸の話を書いた。安全とされながら、警告が強化され、リコールが起き、長期安全性は今も確定していない。数十年かけて、ようやくそこまで来た分野だ。
次は鼻だ。
豊胸が通った道を、鼻のシリコンがこれから辿ろうとしている。違うのは、まだ誰もそれを問題として扱っていないことだ。
鼻尖という弱点
ピノキオアップノーズ、と呼ぶらしい。鼻先を高く、上向きに持ち上げる。
ややこしいのは、この名前が特定の術式を指していないことだ。クリニックによって、中身が違う。溶ける糸で吊り上げるだけのもの。自分の軟骨を移植して支柱を立てるもの。そして、シリコンプロテーゼで鼻背から鼻尖までを突き上げるもの。同じ名前で、入っている物が違う。患者がその違いをどこまで分かって選んでいるかは、心もとない。説明と実態のズレは、名前の曖昧さから始まっている。
ここで形成外科の世界には、古くからの定石がある。鼻尖の挙上には自分の軟骨を使い、シリコンは鼻背に留める。
理由は単純だ。鼻先の皮膚は、体の中でも特に薄く、血流に乏しい。そこをシリコンの先端で持続的に押し上げ続ければ、皮膚は耐えきれない。菲薄化し、透け、赤くなり、最後は破れる。露出だ。医学的にはextrusionと呼ぶ。
かつて主流だったL型のシリコンは、まさにこの鼻尖を突き上げる形だった。それがI型へと移っていったのは、露出の反省があったからだ。術式は、失敗を踏んで変わってきた。
それでも、鼻尖を持ち上げたいという需要は消えない。
皮膚は薄くなる
ここに、施術の説明では語られない変数がある。
人は歳をとると、皮膚が薄くなる。鼻先だけの話ではない。真皮のコラーゲンも、皮下の脂肪も、全身で年単位に減っていく。施術の時点で十分な厚みがあっても、土台そのものが、これから痩せていく。
つまり、入れたときは問題がなくても、二十年、三十年と経つうちに、皮膚のカバー力が落ちる。下のシリコンが透けてくる。先端が押し出されてくる。施術時点では起こらなかったことが、加齢という時間をかけて起こる。
施術を受けるのは、たいてい二十代から三十代だ。露出が最も顕在化しやすいのは、五十代から六十代になる。施術する世代と、ツケを払う世代が、同じ一人の人間の中でずれている。若いうちに入れて、老いてから壊れる。間の数十年は、何も起きていないように見える。
「今フィットしている」ことは、「これからもフィットする」ことを保証しない。施術は、施術時点の体に最適化される。だが体は、その後も変わり続ける。
そして、その変化が露見する頃には、施術側の経過観察はとうに終わっている。