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こちら埌宮、華の薬湯屋【第䞀話】


    あらすじラストたで

    䞭華颚異䞖界に来おしたった安田海里は、歳の薬剀垫。宊官去勢枈みの男に間違われ、埌宮内の湯屋に売り飛ばされおしたう。男性の裞䜓が恥ずかしい海里は顔に麻袋を被っお働き始める。
    同僚の南照、むケメンの楊星やモフモフの芇倩、効のような劃嬪・春鈎ず出䌚い、ここで前向きに暮らしおいこうず決意。知識を生かしお薬湯や湯治を始めるず湯屋は倧盛況。お忍びの皇倪子・華遌たで蚪れるように。
    無口で䞍愛想な華遌だが、傷だらけの身䜓を心配した海里が薬を調合しおいくうちに二人は惹かれ合う。埌宮での流行り病を解決したこずで海里は薬官に昇栌し、皇垝の呜も救う。
    海里が女だず知った華遌は、圌女に結婚を申し入れるのだった。

    補足みどころキュン・゚モさ

    ①    䞻人公・海里は䞭性的な矎人なのですが、男性に免疫がないため男湯を芋るのが恥ずかしく、「顔に醜い傷があるから」ず嘘を぀いお麻袋を被っお湯屋の仕事をしおいたす。
    アクシデントが起こっお、麻袋が脱げた海里の顔に顔を赀くしおしたう男性陣のシヌンはずおも゚モいず思いたす  

    ②    たた、海里は宊官ずいうテむで働いおいたす。それゆえ海里にドキドキしおいる男性陣は、「自分はそういう性癖BLだったのか  」ず悶々ずしおしたいたす。
    女バレしそうなハラハラシヌンも随所に盛り蟌んでいきたす。

    ③    勘のいいキャラクタヌ楊星は途䞭で海里が女だず気が぀きたす。海里にちょっかいを出し぀぀も、ピンチでは陰から助けたす。奜意を自芚しおからは䞀途にアプロヌチしたすが、結局「䞀番の友達」の域を超えるこずができず、献身むなしく最埌は身を匕く切なさがありたす。

    ④    南照・春鈎ずいった幎少組や、芇倩ずいうモフモフなど、和み芁玠も盛り蟌んでいきたす。

    ⑀ 党䜓的にはラブコメっぜい感じですが、湯屋や薬剀垫ずいったお仕事的な偎面もメリハリを぀けお読者の感情を揺さぶるように描いおいきたいです。䜜者は薬剀垫なのでガッツリ本栌的にするこずも可胜です。

    補足䞻芁キャラざっくり玹介

    安田海里
    幎霢
    性別女
    芋た目長い黒髪、茶目。䞭性的な矎人。仕事䞭は顔に袋を被っおいる
    䞻人公、薬剀垫。
    田舎の挢方薬局の䞀人嚘ゆえ、箱入り気味に育おられる。男性に免疫がない。背が高くたな板のような䜓型が灜いし、宊官だず間違われる。
    䞖間に疎く単玔なずころがあるが、前向きで頑匵り屋。

    華遌
    幎霢
    性別男
    芋た目黒髪・赀目。
    軍神ずも呌ばれるむケメン皇倪子。愛想がなく無口なのは、物心぀いたずきから戊堎に駆り出され続けたせい。
    臣䞋を守るため、い぀も最前線で戊う。そのため服の䞋は傷だらけ。
    海里の裏衚ない性栌ず薬によっお、次第に心を開いおいく。

    楊星
    幎霢
    性別男
    芋た目銀髪、金目
    華遌の偎近兌護衛の歊官。自身も皇族。
    穏やかなむケメン。海里をいじるず面癜いので、よく姿を珟す。
    芇倩ずいう神獣を乗り物にしおいる。

    南照
    幎霢
    性別男宊官
    芋た目赀毛、灰目
    湯屋の埓業員。しっかり者。
    海里にドキドキするが、自分はそういう性癖なのかず苊悩する。

    第䞀話

    雲䞀぀ない青空に、響き枡る蝉の鳎き声。
    店先からガラス扉越しに芋えるのは、畊道ず青々ずした田んがの繰り返し。い぀もず䞀぀も倉わりない颚景に、わたしは倧きなあくびをした。

    「じゃあ、海里。お願いね。十八時には垰れるず思うから」
    「行っおくる。お客さんは来ないかもしれないが、いらっしゃったら察応を頌んだよ」

    店の奥から出おきたのは、䞡手に倧きな鞄を持った父ず母。
    高霢であるずか身䜓が䞍自由で店に――安田挢方堂に来るこずができないお客さんのために、ご自宅たで薬を届けに行くのだ。

    「わかった。行っおらっしゃい」

    店を出お駐車堎に向かう二人の背䞭を芋送る。
    ゚ンゞンをかける音がしお、砂利をタむダが螏みしめる音ず共に、店の前を䞀台の軜自動車が通り過ぎる。助手垭から手を振る母に、手を振り返す。

    関東某県にある有名な枩泉地。そこから車で分もいけば、そこはもうド田舎ず蚀っお差し支えない。
    そんなド田舎の田んがの真ん䞭にぜ぀んず立っおいる挢方薬局。それがわたしの実家、安田挢方堂だ。
    あるのは由緒だけ。売り䞊げはカツカツだし、地域の人口は幎々枛っおいるし、この先どうなるんだろうっお少し心配しおる。

    父さんも蚀っおいたけど、たぶんお客さんは来ない。ごくたたに、䜓調を厩しお高速道路を降りおきたような芳光客が来るだけ。それだっお枩泉のハむシヌズンである冬が倚くお、倏なんか誰も来ないのだ。

    「ふふふっ。じゃあ早速続きをやろうかな」

    わたしには、䞡芪がいないずきの楜しみがある。
    それは、昔の資料に出おくる挢方凊方を再珟するこずだ。ご先祖様が残した資料や、図曞通で借りた歎史曞に出おくる芋たこずもない凊方を、材料を集めお調合するのである。

    䞡芪、特に母さんに芋぀かったら「そんな暇があるなら、倕飯の䞋ごしらえずかお颚呂掃陀でもしおおいおちょうだい」っお怒られる。だからこれは自分だけの秘密だ。

    受付台の䞋に隠した朚箱を取り出し、かぱっず開ける。
    䞭には、いく぀かの生薬が入っおいた。

    「草烏頭二分、癜芷二分、圓垰二分、川芎二分。華岡青掲が開発したずいう麻酔薬、通仙散 ああ、どんな䜿い心地なのか早く詊しおみたい  」

    ここたで苊劎しお材料を集めおきた。最埌の材料である曌陀矅華も、珟圚也燥させおいるずころ。
    か぀お、通仙散を詊飲した華岡の劻はその毒性のあたり倱明したずいう。しかし華岡は開発を続け、党身麻酔の薬ずしお完成を成し遂げたのである。

    「花岡さんが人生をかけお開発したお薬。いかほどのものなのか、考えるだけでも身䜓が震えおくる  っっ」

    もちろん、倱明するわけにも昏倒するわけにもいかないので、䞀口ぺろっず舐めるだけにするけれど。
    ほくほくした気持ちで、母さんに芋぀からないように棚の䞊で也燥させおいる曌陀矅華の様子を確認するこずにする。

    「よっず」

    安田挢方堂に圚庫しおいる生薬は玄二癟皮類。それらを保管しおいる倧きな朚補の棚は暪にも瞊にも長く、ハシゎを䜿わないず䞊の方の棚には手が届かない。
    店の隅に寝かせおあるハシゎを掛け、い぀ものように右足から登り始める。

    倩井すれすれのずころで、ようやく倧切な曌陀矅華が目に入る。新聞玙の䞊に眮いた癜っぜい花に觊れるずかさかさずした手觊りで、順調に也燥が進んでいるようだった。

    「あず䞉日くらいかな。ふふっ、楜しみ楜しみ」

    さあ、降りおもう䞀床朚箱の可愛い生薬を眺めよう。
    そう思っお右足を䞋の段におろす。――――が、右足は空を切った。

    「――――あっ」

    螏み倖した、ず気づくにはあたりに遅かった。
    どこたでいっおも右足の裏が梯子を捉えるこずはない。䞡手を䌞ばしおいるはずなのに、どんどんハシゎは遠ざかる。県鏡が吹っ飛び、芖界ががやけるず同時に頭に匷い衝撃が走った。

    そこでわたしの意識は暗転した――。

    ◇◇◇

    目を開くず、雲䞀぀ない青空が広がっおいる。芖界の隅には朚々が映り、少し肌寒い。
    店䞭に充満しおいる挢方の銙りはせず、代わりに森の新鮮な空気のにおいがする。

    「えっ   ここは䞀䜓  痛っ」

    䜓を起こすず、ズキンず頭が痛む。
    こめかみを抌さえながら立ち䞊がる。呚囲を芋回すず、やっぱり森だ。
    でも、芋芚えがない。家の近くの森なら、しょっちゅう駆け回っおいたから芚えおいるはずなのに。

    「ええ   どういうこず しかも寒いし。蝉はどこに行ったのよぅ」

    今は八月。いくら北海道だっおこんなに寒いはずがない。
    長袖の癜衣の䞋は、安田挢方堂オリゞナルの䜜務衣。この栌奜で寒いだなんお、季節が違うずしか思えない。

    さく、ず草を螏みしめお歩き出す。
    青く茂る朚々を眺めながら、明るい日が差すほうぞ向かっおいく。
    十分ほど歩いたずころで、開けた堎所に出た。

    誰かが䌑憩しおいったような跡がある。炭化した焚火の残りに、麻袋、食事のかすが散らばっおいる。

    「もしかしおキャンプ堎 そんな堎所、近くにあったっけ。  あ、あっち。森が開けおる」

    すぐそばに、朚々が終わっお空が芋えおいるずころがある。
    どうやらここは小高い堎所になっおいるらしい。そこから芋枡せば少しは珟圚地に着いおヒントがあるかもしれないず、そろりそろりず厖に近づく。

    ――芋䞋ろした先に広がっおいた光景は、日本ではなかった。

    「えっ  」

    反射的に目が芋開かれる。

    山あいの盆地。芋䞋ろす町には碁盀の目のように通りが走っおいる。䞭心郚には目立぀赀い屋根をしたお城がいく぀も建っおいお、垂街地には小さな屋根が無数に芋える。
    それらは日本家屋ではなくお、歎史の教科曞で芋た䞭囜の建物みたいだった。

    県䞋に広がる、異囜情緒あふれる街䞊み。
    膝の力が抜けお、ぞなぞなずその堎に座り蟌んだ。

    「䞭囜、䞭囜、䞭囜  」

    それ以倖の蚀葉が出おこない。
    䞀䜓党䜓、わたしはどうしお䞭囜にいるのだろう ぀いに十分ほど前たでは、実家の挢方薬局で店番をしおいたはずなのに  。

    これは倢だ。そうであっおほしい。もはやそう思うしかなかった。
    しかし、わたしの錻を぀く森の青々ずした銙り、耳に入る知らない鳥の鳎き声、そしおこちらに近づく耇数の話し声は倢にしおは珟実的すぎる感芚だ。

    「――話し音」

    ハッずしお我に返る。
    よかった ここはどこなのか、どうやったら家に垰れるのか、教えおもらえるかもしれない。
    話し声ず足音がする方に向かっお、ふらふらず歩き出す。

    「――でもよう。今回の女どもはあんたり䞊等じゃねえなあ」
    「仕方ねえだろ。どこも取り締たりが厳しくなっおんだ。皇倪子様のお陰でよお」
    「質が駄目なら数で倀を匕き䞊げるしかねえ。あず䞀人二人远加したいずころだ、䞀人でうろ぀いおる女を芋぀けたら隒がれる前に掻っ攫え。いいな」
    「「ぞい」」

    どくり、ず心臓が跳ねた。
    粗野な蚀葉遣いに、野倪い倧声。この男たちは、女性を攫っお売りさばくこずを生業ずしおいるようだ。

    ――芋぀かっおはいけない。わたしの脳内でうるさいほどに譊報が鳎りたくっおいる。

    「急いで逃げなきゃ  」

    ――ずはいえ埌ろは厖だ。音が近づくのは巊方向。
    であれば、逃げ道は右方向しかない。男たちの進行方向にあたるが、倧䞈倫だろうか。走る音に気付かれお远いかけられれば、運動音痎のわたしに勝ち目はない。

    「仕方ない。  隠れよう」

    䞀瞬で決断する。どんどん声が近づいおくる。これ以䞊考えおいる時間はない。
    わたしは近くに萜ちおいた麻袋を頭からかぶり、腰ほどの高さの茂みに身を隠した。どうか気づかれずにやり過ごせたすように。そう必死に祈りながら。

    かくしお男たちの話し声はすぐそこたで来た。息を殺し、早く時よ過ぎろずぎゅっず目を぀むる。

    「ったくよヌ。劓楌に行く足しにもならねえなあ。おい宇軒、女どもが遅れおるぞ。早く歩くように蚀え」
    「あい おらお前ら、もうちっず早く歩けねえのか。埌宮たであず二刻はかかるんだ、もたもたすんなあ」

    どうやら男たちに捕たった女性たちも䞀緒に歩いおいるらしい。党く声が聞こえなかったから分からなかったけれど、可哀そうなこずだず胞が痛くなる。

    ――ずいうか、ちょっず埅お。今この人、劓楌だの埌宮だのっお蚀った そんなもの珟代の䞭囜に無いよね えっ、もしかしおここ、そもそも珟代ですらないっおこず

    すうっず血の気が匕いおいく。
    そしお、悪いこずは続くものだ。

    「埅お。あれは䜕だ」

    近くでぎたりず足音が止む。

    「  癜い垃、ですかね なんか䞍自然な出方をしずりたすが」
    「茂みから垃が生えおいる、なんお銬鹿なこずがあるか   ひひっ、倩は俺らを哀れに思っおくれたらしい。  おい克軒、芋おこい。あの震える垃をな」
    「ぞいっ」

    そこでわたしは初めお気が付いた。
    長い癜衣の裟が、隠れおいる茂みからはみ出しおいるこずに。

    ひえっ お、終わった  っ

    頭隠しお尻隠さず。緊急事態にもかかわらず、そんなこずわざが頭に浮かんだ。
    ガサガサッずいう荒々しい音がしお、誰かがわたしの肩を掎んだ。その力匷さから、自分はもう逃げられないのだずいう絶望が胞を芆い぀くしおいく。

    「おいおい、柔けえぞ。こりゃあもしかしお女か さあ、こっちぞ出おこい」
    「ひええっ」

     勢いよく茂みから匕きずり出される。
     恐る恐る顔を䞊げた先には、にや぀く䞉人の男がいた。

     薄汚れた麻服を身にたずい、がさがさの髪に無粟ひげ。ろくでもない人間であるこずが䞀目で分かるなりである。
    そしおその埌ろには、数名の女性たちが暗い衚情で䜇んでいる。

    み、芋぀かった   殺される 売られる どうしよう  っ

    こんなずころで死にたくない。
    苊劎しお薬剀垫になっおただ䞀幎。わけもわからない䞖界でこんな人たちに殺される最期なんおあんたりだ。

     ぎり、ず歯に力が入る。
     男たちを睚んでいるず、にや぀いおいた男たちの衚情が、䞀転぀たらなさそうなものに倉化した。

    「――――なんだ。男か」
    「ですねえ。女にしおはデカいし、乳も尻もねえ」
    「それにしおも倉な服を着おるなあ。初めお芋たぞ、こんな栌奜。もしかしお異民族か」

    ――――――はいっ

     ――「男」。
     男だず思われおいる

     ごろ぀き䞉人組は茪になっお議論を続ける。

    「残念ですね、頭領」
    「銬鹿。えらく敎った顔぀きだし、金にはなるぞこれは」
    「そ、そうですね 連れおいきたしょう」

    ちょっず埅っお。男ずしお捕たるわけ

     話の方向性が怪しくなっおきたこずに戞惑いを隠せない。
     でも、男ず間違う気持ちも分からなくはなかった。
    圌らの指摘通り、わたしは胞も尻も薄っぺらだ。身長はもあるし、声も䜎め。顔も䞭性的なほうだず自負しおいる。
    䞀応髪は長いけれど、いたどき長髪の男性だっおいるしなあ。こうしお考えおみるず、女性らしさっお䜕だろうずいう問いは非垞に難しい――。

    わたしが哲孊しおいるず、男の䞀人がガハハず䞋品に笑った。

    「ははっ。驚いお声も出ねえようだな。初々しい坊ちゃんだ。おい宇軒、芋たずころ倧䞈倫そうだが、䞀応確認しろ」

     リヌダヌ颚のごろ぀きが、頭の匱そうな宇軒に指瀺を出す。

    「ぞいっ」

     返事だけは癟点の宇軒。
     右手をわきわきさせながらこちらに近づいおくる。

    確認 䞀䜓䜕を

     確認ずいうからには、危ないこずではなさそうだけど。
     身を固くしおいるず、宇軒はえいやっずわたしの股間を掎んだ。

    「―――――――― ちょっず 䜕すんの」

    なんだこい぀ 倉態なの

     顔に熱が集たり、慌おお宇軒の右手を振り払う。
    しかし、圌は平然ずした様子でリヌダヌに報告する。

    「぀いおたせん。自宮去勢枈みみたいですな」
    「ふん。どこかの屋敷で働いおいたのか たあ、取る手間が省けおいいな。すぐに売れる」
    「少々声が高いが、そういうのが奜きな奎もいるからな。あそこでは女みたいなや぀も需芁がある」

    ――䜕を蚀っおいるの この人たちは

     女なんだから付いおいる蚳がない。ずいうか、男だず思っおいるのに付いおないほうがいいっおどういう意味なの
     色々ず蚳が分からないけど、䜙蚈なこずを質問したらたずい気もする。

      話しおいた内容からするず、女だずバレたら埌宮に売られおしたう

     そんなの真っ平ごめんだ。こちずら䞭高倧ず女子校育ちで、ろくに男性ず話したこずもないのに。奜きでもない人ず、それ以䞊のこずを日垞的にするようになるなんお、絶察に無理

    男のたたやり過ごせば、少なくずも埌宮入りは免れられそう。劎働力ずしお売られるんだろうけど、その方が逃げ出すチャンスはありそうじゃない

     はい決たり。
     わたしは男です。
     アレは付いおたせんが、それでいいみたいなので奜郜合。

     そう腹を決めれば、気持ちも萜ち着いおきた。
     ここはどこなのか、これからどうなるのか。分からないこずが倚すぎるけど、今は流れに身を任せるこずにした。

     腹を決めたわたしは、暗い衚情をした女たちの列に䞊ぶ。抵抗はしない、ずいう意志衚瀺の぀もりだった。
     その様子を芋たごろ぀きたちは䞋品に笑った。

    「おっ。分かっおいるようだな」
    「賢い遞択だぜ兄ちゃん。宊官の力じゃ俺らに敵いっこねえからな」
    「じゃ、出発するぞ」

     ざっ、ざっず草を螏みしめながら、䞀行は䜕凊かを目指す。
     ――ふず空を芋䞊げれば、青から茜色ぞず続く穏やかなグラデヌションになっおいた。

    もうすぐ倕暮れか  。父さんず母さんは倖回りから垰っおきたころかな わたしがいなくお怒っおるかな  

     はあ、ず深くため息を぀く。前をゆく女の人が、気の毒そうな衚情でちらりず振り返った。

    「  ありがずうございたす」

     心配しおくれたように思えたので、お瀌を䌝えおおく。圌女は䜕も蚀わずに前を向き盎った。

    どこだかもわからないこの䞖界。
    けれど、その倕焌けは、日本のそれより䞍思議ず矎しく芋えたのだった。

    ◇◇◇

    わたしたちが連れお行かれたのは、厖の䞊から芋えたお城のような堎所だった。
    韍の圫刻が斜された正面の赀い門ではなく、裏口のような堎所を通っお䞭に入るず、すぐにみすがらしい小屋があった。
    そこでわたしたちは売り飛ばされた。

    「女が人ず、自宮枈みの男が人だ」
    「あいわかった。これが報酬だ」

    チャリンチャリンずいう硬貚の音に頬を緩たせた人組は、芁は枈んだずばかりにさっさず去っおいった。
    わたしたちを買い取った胡散臭そうな男は、こちらに向き盎っお面倒くさそうに蚀う。

    「女どもは埌宮の䞋働きずしお入れ。䞋女房はこのすぐ裏手だ。おたえは、そうだなぁ  」

    わたしに目を留めお少し考える男。

    「  ああ、湯屋だな。婆さんが死んで困っおるっお蚀っおたから、それがいい。おたえは埌宮の湯屋番だ」
    「ゆっ、ゆやばん」
    「そうだ。この道を真っ盎ぐに行っお、぀目の角を右に曲がれ。その突き圓りが湯屋だ。今は南照っおのが䞀人でやっおるから、仕事はそい぀に教われ」

    男はそこたで蚀うず、ひらひらず右手を振っお小屋に戻ろうずしたので、慌おお匕き留める。

    「あっ、あのっ わたし、埌宮じゃなくお倖で働きたいんですけど」
    「あぁ いたさらそんなこず蚀われたっおこっちも困るよ。だっおお前はここに売られたんだから。俺じゃなくお自分の䞍運を恚みな。  それずも䜕か 埌宮でなんにもせずに、野垂れ死ぬこずを垌望しおいるのか」

    男が胡乱げに目をぎら぀かせたので、反論の蚀葉はぐっず喉に詰たる。

    「いいか。䞀床ここに入ったら、勝手に逃げ出すこずはできない。売られた瞬間から、お前は皇垝陛䞋の所有物になったんだ。自分で汗氎たらしお金を皌いで、ここで暮らしおいくしかないんだ」

    それはどこか、男が自分自身に蚀い聞かせおいるようにも聞こえた。

    「分かったならさっさず行け。俺はメシを食うからな」

    小屋の扉は無情にもバタンず閉たる。

    残されたわたしず女性たちは、特に蚀葉を亀わすわけでもなかった。
    それぞれに深いため息を぀いお、う぀むきながら、自分の働く堎所ぞず向かっおいったのだった。

    ◇◇◇

    「ここが湯屋かぁ  」

    目的の堎所には迷うこずなくたどり着いた。
    城内も碁盀の目のように道が走っおいるから、ある意味わかりやすい。

    新しい職堎ずなった湯屋は、あずき色をしたそこそこ立掟な二階建お。建物の隙間から、もうもうずした湯気が倜空に立ち昇っおいる。
    䞭からは背䞭を流すような氎音や、時折笑い合うような声がかすかに聞こえおくる。

    埌ろからやっおきた男性陣が、わたしを远い越しおどんどん䞭に入っおいく。
    䞀人がわたしの肩にぶ぀かっお眉をしかめる。

    「おい、がさっず立っおんじゃねえよ。邪魔だ邪魔だ」
    「すっ、すみたせん」

    チッ、ず舌打ちをする圌らは桶ず垃を小脇に抱えおいる。

    「  日本でいう銭湯みたいな堎所なのかしら」

    どうもそんな感じだった。
    たったく知らない職業ではなかったこずに少しだけ安心しお、わたしは湯屋ののれんをくぐる。

    「こんばんは。今日からここで働くこずになった海里で――」
    「あっ 新人の方ですか うわぁ、助かった ありがずうございたすっ ずりあえず番台をお願いしたす」

    橙色の䜜務衣を着た小さな子が、チラッずこちらを振り返っお叫んだ。
    そしおすぐに、慌ただしく仕事に戻っおいく。

    「忙しいのねえ。あんな小さな子たで働くなんお、そうずう人手䞍足なのね」

    ちょっず気の毒になり、わたしはすぐそこの番台にのがる。
    この湯屋は日本の銭湯ず同じような぀くりになっおいお、入り口のすぐそこに番台がある。男ず女が巊右に分れおいお、それぞれの脱衣所の先に济堎があるずいった䜍眮関係だ。

    ふぅ、ず䞀人甚のボックス垭のような番台に腰を䞋ろすず、ずんでもない光景が目に入った。

    「――――男湯うっっ」

    裞、裞、裞
    いや、銭湯だから圓たり前なんだけどっ
    なぜか女湯の脱衣所はガラガラで、男湯のほうは倧勢の男性でにぎわっおいた。もちろん、衣類は身に着けおいない。どこもかしこも肌色だらけだ。

    「ちょっずちょっず こんなの無理無理」

    慌おおポケットに入れおいた麻袋をズボッず被る。ここに来る前、森で拟ったや぀を捚おずに持っおいおよかった。
    目の郚分の垃目を指で少しだけ広げお芖界を確保する。さすがに䜕にも芋えないず仕事にならない。

    「はぁ。びっくりした。ろくに男子ず絡んでこなかったのに、いきなりこれはハヌドルが高いっお  」

    芖界がかなり狭められたこずで、バクバクいっおいた心臓は萜ち着きを取り戻しおいく。

    わたくし安田海里、二十五歳。自慢じゃございたせんが、男性経隓は皆無でございたす。
    過保護な䞡芪によっお、䞭孊高校倧孊ず女子しかいない孊校に通っおたしたからね
    就職したのも実家の小さな挢方薬局だから、私の䞭での男子の姿は小孊校で止たっおいる。

    ここ十幎以䞊、父芪以倖の男性ず䌚話したこずすらないのに、いきなり成人男性の裞䜓の矀れを目の圓たりにするのは刺激が匷すぎる。

    ――ずはいえ、よくよく目を薄くしお確認しおみるず、男性ずはいえ股の間にあるべきものがないように芋えた。

      ああ。きっずこれが自宮枈み、っおや぀なのね

    ぀たり、物理的に生殖噚を陀去しおしたうずいうこずだ。
    䜕でそんなこずをするのだろうず䞀瞬考えたが、ここは埌宮。぀たり皇垝の奥さんたちが䜏たう堎所だずいうこずを思い出す。
    皇垝以倖の男はいらない、ずいうこずなのだ。

    すごい考えよね。ブツを切っお取っおしたうなんお。すごく痛そう

    小孊校の男子は、野球ボヌルが股間に圓たっただけですごく苊しんでいたけど。
    それを切り取るだなんおこずをしたら、気絶じゃ枈たないのではないだろうか。

    考えおいるず自分たで痛みを感じ始めたため、たあいいやず思考を攟棄する。

    男の裞をなるべく芋ないようにしながら番台で仕事をする。
    湯屋に入っおきた客は、麻袋を被ったわたしをみるずみんなギョッずした顔をするものの、

    「新入りです。顔に醜い傷跡があるので、皆さんを䞍快にさせないためこれを被っおたす。よろしくお願いしたす」

    ず䌝えれば、なんずなく玍埗した顔をしおそのたた脱衣所に進んでいく。湯屋の䜿甚人の事情など、誰も気にしおいないのだ。
    我ながらうたい理由を思い぀いたずホクホクしながら、必芁以䞊に男性の裞を芋ずに枈むこずにほっずした。

    客の流れが䞀段萜したずき、先ほどの橙色の䜜務衣を着た子がちょこちょこずやっお来た。
    賢そうな男の子だけど、栄逊が足りおいないのか手足は现い。
    そしおもしかしたら、男の子だけど、男性じゃないのかもしれない。こんな小さな子にそんなこずを考えたくないけど  。

    「すみたせん、今は男湯のピヌク時間でしお。ご挚拶が遅れたした。僕は南照ず蚀いた――。っお、海里さん なにを被っおるんですか」
    「あなたが南照 この湯屋を䞀人でやっおるっお本圓 すごい激務じゃないの」

    南照に顔を隠す理由はないので、わたしは麻袋をずる。
    驚き顔の南照に笑いかけるず、圌はなぜか顔を赀くした。

    「ちょっず事情があっお、あんたり男湯の方を芋たくないんだよね。でも、女湯の方ばかりを芋おいるのも倉でしょう。だから仕事䞭はこれを被るこずにした。倧䞈倫、お客さんには顔に醜い傷跡があるっお説明しおるから」

    顔バレはいいが、女だずバレおはいけない。男性颚の口調を意識しながらわたしは答えた。
    南照はもごもごず口を小さく動かしおなにか蚀いたそうにしおいたけど、わたしは「これからよろしく」ずそれを勢いで抌し流した。

    「それで、もう店じたいの時間 明日は䜕時に起きたらいい わたしの郚屋はあるのかな」

    壁に掛けられた時蚈を芋るず、もう日付が倉わりそうだ。
    今日は色んなこずがありすぎたからすごく疲れおいる。身䜓の方ではなくお、䞻に心の方が。
    垃団に入っお、ゆっくり状況ず心の敎理をしたかった。

    しかし、南照はため息ずずもにずんでもないこずを口にした。

    「䜕を蚀っおるんですか。この湯屋は二十時に開いお、翌朝八時たで営業ですよ。そのあず湯の掃陀や薪割りなどをしお、僕らが寝るのは昌选の埌です。起床は  そうですね。仕事に慣れるたでは十䞃時にしたしょう」
    「時間劎働に時間睡眠 ぶっ、ブラック䌁業じゃん」
    「なんですか、それ」

    銖をかしげる南照だが、わたしは思わず意識が遠くなりかけた。
    日本にもあるような銭湯なら、どうにか働くこずもできそうだず思ったけれど。ここは予想以䞊にハヌドな職堎っぜい。

    再び湯屋の入り口が開いた音がしお、わたしは勢いよく麻袋をかぶる。
    仕事終わりの宊官のピヌクが終わるず、朝方は勀めを終えた劃嬪のピヌクがやっお来る。

    たぶしい陜の光に目を现めながら入口ののれんを䞋ろすころには、党身くたくただった。

    「あのヌ  。倧䞈倫ですか 海里さん。残り湯、浞かっおいいですよ。僕はい぀も男湯に入っおたすから、すみたせんけど女湯でいいですか」
    「  ああ、うん。ありがず」

    哀れなものでも芋るような、遠慮がちな南照の声。
    最埌の力を振り絞っお盞槌を打ち、ゟンビのように女湯ぞ向かった。

    無心で身䜓を掗い、湯船に身を沈める。
    薪はもう消しおあるから、ちょっずぬるいけど。それでもやはり、お颚呂はいい。身䜓ず心の奥の方から、熱いものがじわりず溶けおいく感芚になる。

    「  わたし、これからどうなっちゃうんだろう」

    挠然ずした、しかし倧きな䞍安。
    けれども、それより䜕より今の自分が求めおいるのは睡眠だった。
    湯を出たわたしは階の寝宀に䞊がり、垃団に入っお秒も経たずに倢の䞭ぞ萜ちおいったのだった。

    第二話以降の蚘事リンク

    第二話
    https://note.com/emimarusan/n/n01e62a3cf52f

    第䞉話
    https://note.com/emimarusan/n/n00ed18acf62c

    この蚘事が受賞したコンテスト

     
     
    2022幎にデビュヌした駆け出しの䜜家兌薬剀垫。ドラマチックで突き抜けた物語づくりを目指しお奮闘䞭 質問箱⇒https://note.com/qa/emimarusan 詳现な経歎、実瞟⇒https://x.gd/uH5P0 仕事のご盞談⇒https://x.gd/EsoKt

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