
焦燥から行動へ:AIワークフローが開いた自動化の扉
この記事は、NOT A HOTELのソフトウェア開発連載「Inside the SOFTWARE TEAM」10日目の記事です。
NOT A HOTELのソフトウェア開発連載:Inside the SOFTWARE TEAMスタート|NOT A HOTEL inc.
NOT A HOTEL Business Accelerator の @enpipi です。
NOT A HOTEL では、AI を前提に業務効率化を進めています。
本記事は、反社会的勢力との取引防止チェック(以下、反社チェック)業務の自動化を題材に、AI ワークフローに目を開き、最終的に n8n の全社導入に至るまでの挑戦をまとめたものです。
1. はじめに:AIへの焦燥感から行動へ
Business Accelerator の役割は、ビジネスを推進させることです。テクノロジー・データ・AIを活用して、あらゆる業務を効率化・自動化し、各部署の業務を向上させ、社員一人ひとりがよりクリエイティブで価値の高い業務に集中できる環境を構築することがミッションです。
詳しくは先日の @kajinari の記事をご覧ください。
当時の自分は、ChatGPT や Gemini によるプロンプト工夫の域を出ず、期待に十分応えられていないという負い目がありました。コンフォートゾーンに留まってはいけないという焦燥感もありました。
また、プロンプトエンジニアリングだけでは以下のような限界があるとも感じていました。
開発・改善の工数が高く属人化しやすい
手段が目的化しやすい
そもそも運用設計を見直す必要がある
それでも、AI による業務改善がゲームチェンジャーになり得る確信はありました。
まずは解像度を上げ、アンラーニングするために、AI を活用した業務改善に踏み出しました。
2. Zapier × Gemini による初期自動化
日々ボトルネックを探索するなかで、反社チェック業務に注目しました。
本業務は宅地建物取引業法や暴力団排除条例などに基づき、不動産販売を行う事業者として法令上求められる確認プロセスです。
取引先や契約相手が適正であることを確かめるために行うもので、AIはこの確認作業を効率化する“補助役”として導入しています。反社チェックは証跡が必要なためアウトソースしていましたが、以下の課題がありました。
審査に数営業日を要し、取引開始が遅れる
営業時間外は対応不可
件数増加による対応負荷
そこで、Zapier と Gemini を用いて次のステップで一部を自動化しました。
```mermaid
flowchart TD
A[バクラク申請] --> B[APIを用いて登記簿PDF取得]
B --> C[代表者・役員情報を抽出]
C --> D[AIによる一次スクリーニング<br>(公開情報をGeminiで整理し、確認が必要な箇所を抽出)<br>例: 粉飾/横領/背任/脱税/逮捕/詐欺/暴力団 など]
D --> E[証跡を保存<br>(AI出力結果・PDF・参照サイト・確認根拠)]
E --> F[Notionの反社チェック台帳に起票]
F --> G[Slackに通知<br>(リスクスコア+根拠)]
G --> H[法務が内容を確認<br>他チェックを対応]
```Gemini を選定した理由は、外部データに基づくグラウンディングや Google 検索エコシステムとの高い親和性が、反社チェックと相性が良いためです。加えて、Google AI Studio で挙動検証やパラメータ調整が容易であることも後押しになりました。
効果は明確でした。なお、このプロセスではAIが最終判断を行うのではなく、担当者が確認すべき情報を整理・提示する補助として活用しています。
平均 1.5 日の処理時間が約 5 分に短縮。月間約 150 日分の工数を削減
24 時間 365 日の自動チェックを実現
台帳への自動記入と、クリアランス時の再実行まで自動化
3. 見えてきた限界と次の一手
大きな成果の一方で、次の壁が見えてきました。
コストの壁
反社チェックだけで月 3 万ステップを消費。Zapier はステップ課金のため、処理が複雑になるほどコストが膨らみます。上限逼迫によりステップ数を減らすというリファクタリングが必要になりました。小規模用途には適する一方、中規模以上ではコストとの戦いになり、今後の拡張に限界を感じました。
設計の壁
Zapier は基本的に直線的なフローです。複雑な分岐や並列実行が難しく、別途フロー図を用意する必要がありました。初期設計からの拡張時にツギハギ化しやすいのも課題でした。
発想の壁
AI を前提とした大規模ワークフロー基盤として制約が多かったです。
RAG による豊富なコンテキスト付与
AI Agent によるツール操作
といった設計が難しく、前述の設計の壁もあり柔軟な発想を形にしづらい状況でした。

4. n8n との出会い:社内ハッカソンの転機
転機は社内ハッカソンでした。機関投資家からの質問に AI で回答する Bot を n8n で構築したところ、Zapier では着想しづらかった AI ワークフローを短時間で形にできました。

n8nとは
n8n(エヌエイトエヌ)は、ノードベースのビジュアルエディタでワークフローを構築し、アプリやデータ、AIをつないで業務を自動化できるワークフローオートメーションプラットフォームです。クラウド提供とセルフホストの両方に対応し、ドラッグ&ドロップとコードの柔軟性を併せ持ちます
n8n の技術的優位性
実行回数ベースの課金:
ワークフロー全体で 1 回とカウント(Zapier は各処理ごと)。大規模化しても実行回数が増えにくい。Canvas 上での柔軟設計:
全体を俯瞰しながら設計可能。複数トリガー、変数定義、分岐後の Merge など柔軟性が高い。JSON 操作が容易:
JavaScript 構文+ n8n 拡張で柔軟に操作可能。日付時刻の操作を簡単にする Luxon 、JSONデータを簡単に検索・抽出・変換できる JMESPath も利用可。
決定的だったのは、AI を自在に組み込めることでした。
条件分岐の判断を AI に委ねたり、AI Agent が特定ツールを操作する設計が可能で、従来の iPaaS の制約から解放されました。

5. 発想の転換:AI を「主体」にする
余談になりますが、司馬選手が葦人に伝えるこのシーンは『アオアシ』の中でも私にとって特に印象的な場面です。今回の取り組みを進める上でも心の拠り所になっていました。社内で n8n 導入とワークショップをシェアする際も、この画像を用いて Why を訴求し、メンバーを鼓舞しました。
従来は、人の判断や手作業が発生する手前までが自動化の限界でした。AI ワークフローでは、判断以外の入力や出力を AI が担える可能性があります。
例:
問い合わせが依頼か相談かを AI が判定し、ワークフローを分岐
メールの返信文を AI が下書きし、人が最終確認
上記のようなワークフローにより、これまで人が担っていた領域のうち「情報整理や一次判断の補助」を AI に任せられるようになります。最終的な判断は人が行うため、安心感とスピードを両立できます。
これまで:人が叩きを作り → AI が推敲
これから:AI が叩きを作り → 人が仕上げ
6. 社内展開:誰もが n8n を使えるように
n8n の浸透に向け、次の取り組みを行いました。社内でも n8n 活用事例が増えています。
全社ワークショップ
AI でワークフローを考えるには着想支援が有効です。
事例共有のうえで、AI と親和性の高い問いから課題抽出するワークショップを実施しました。

StarterKit 配布と勉強会
学習用の n8n ワークフローを配布。StarterKit は意図的に不完全な構成とし、記載の手順に沿って作業することで、躓かずにキャッチアップできる設計にしました。忙しい方や新入社員でも、勉強会なしで自己学習できるようにしています。

7. まとめ:半年で変わったこと
半年前の自分は、ChatGPT で壁打ちする程度の知識でした。今は AI ワークフローの設計者として、社内展開をリードしています。
n8n は、運用そのものを見直し、従来の iPaaS 以上に柔軟なワークフローを実現し得る基盤です。冗長で整理されていない運用では高いコンテキストが必要になり、仮に優れた AI があっても表層的な課題しか解けません。
重要なのは、AI を銀の弾丸として盲信することでも丸投げすることでもなく、運用設計を見直し、最適な「手段」として AI を組み込むことです。
NOT A HOTEL では n8n Enterprise を導入しました。
今期はさらにアクセルを踏み、事業を加速させ、日本の価値を上げるというミッションに貢献していきます。
ぜひ一緒に、NOT A HOTEL で働きませんか。
カジュアル面談も大歓迎です!