メインコンテンツへスキップ
見出し画像

次の電車まで|駅のホーム|地図にない灯り



    私は駅のホームのベンチに座っていた
    ノイズキャンセリングのヘッドフォンで
    外の世界を遮断し、家から持ってきた
    古い文庫本を読んでいた。

    電車が来るまで、あと30分。
    一本前の電車に乗り損ねたせいで、
    もう遅刻は確定していた。
    すっかり諦めた私は、隣に目をやる。

    同じ学校の制服を着た生徒会長が、
    参考書を読んでいた。
    いつもの電車に私がいなかったから、
    一本見送ったのだという。


    余計なお世話だ。
    別に、待っていてほしいなんて頼んでいない。

    私はベンチから立ち上がり、
    自動販売機へ向かった。

    甘い炭酸ジュースと、ミネラルウォーター。
    二本の飲み物を買って戻る。

    ヘッドフォンを外し、会長に差し出した。
    会長は少し迷ってから、甘い缶ジュースを選んだ。
    参考書を閉じ、プルタブを開けて一口飲む。

    へえ、意外。
    なんとなく、水を選ぶと思っていた。
    私はペットボトルの封を開けた。

    電車が来るまで、あと15分。
    私は文庫本。
    彼は参考書。
    お互い何も話さないまま、
    時間だけが過ぎていく。

    「あのさ」
    私は文庫本から目を離さずに言った。
    「今日はありがとう」
    会長は驚いたようにこちらを見た。
    少し間があって、
    「別にいいよ」
    そう答えると、また参考書に目を戻した。

    私もヘッドフォンをつけ直し、文庫本を開いた。
    電車が来るまで、あと5分。

    ふと、先日ネットで見つけた
    胡散臭いおまじないを思い出した。

    願いが一つだけ叶うという。
    そんなもの、信じていない。

    それでも。
    もし今、一度だけ魔法が使えるなら。

    電車が来るまでの時間が、
    もう少しだけ、止まらないかな。


    あとがき

    今回は、2つの企画に
    参加させていただきました。
    「駅のホーム」と「一度きりの魔法」という
    二つのお題から、日常の中にある
    小さな感情の変化を描いてみました。

    何気なく過ぎていく時間も、
    誰かと一緒にいることで、
    少しだけ特別なものになるのかもしれません。

    素敵な企画をありがとうございました。

    最後までお読みいただき、
    ありがとうございました。

    今回参加させていただいた企画です。
    素敵な企画に参加できて光栄でした。


    共同マガジンでお世話になっております。
    ネロ🌙王子のメンバーシップでも
    交流させていただいている

    雪綴ゆきさん

    毎週水曜日は素敵なお題が届きます

    #地図にない灯り



    こちらもネロ🌙王子のメンバーシップで
    交流させていただいています。

    賢者スタンさんの企画

    今回は短編小説部門で応募します。
    #1度きりの魔法



    画像
     
     
    ホームセンターの日常を、音楽と物語に。 ホームセンターで働く4人組「FCS」。 売場で起きる何気ない毎日を、物語にしたり、曲にしたり。 ときどき販売員目線のコラムも書きます。 AIを使って、好きな音楽を好きなように。 FIGHTING CUSTOMER SERVICE.

    あなたへのおすすめ