
#27 アート空間③ 出光美術館
東京・丸の内、皇居のお濠に面した帝劇ビルの中に、出光美術館がありました。
現在はビルの建て替えに伴い、長期休館しています。
思い出のある美術館です。
1. 仙厓との出会い
江戸時代の禅僧、仙厓義梵。
初めて作品を見たとき、単純に面白いと思いました。
簡潔な線で描かれた人物や動物。
どこかとぼけた表情。
思わず笑ってしまうようなユーモアがあります。
仙厓の作品には、人を遠ざけるような難しさがありません。
禅画が人々に何を伝えてきたのか、考えるようになったのも、仙厓の作品がきっかけだったように思います。
学問に親しみのない人にも、絵や言葉を通して教えを伝える。
人々の日常に寄り添いながら、大切なことを伝えようとする。
仙厓の作品は、禅画にそんな役割もあったのだという気づきを、私の中ではっきりとしたものにしてくれました。
後になって、出光美術館を創設した出光佐三も、若い頃から仙厓を好んでいたことを知りました。
2. 出光佐三という人
出光美術館に通うようになって、創設者の出光佐三にも興味を持ちました。
さらに関心が深まったのは、『海賊とよばれた男』を読んでからです。
その後も、佐三に関する本を何冊か読みました。
私が佐三という人物に感じたのは、日本への深い愛情です。
日本を愛し、日本のために行動した人。
そして、挑戦の人。
もう一つ、強く印象に残っていることがあります。
経営者として、社員をとことん信じ、守り抜こうとした姿勢です。
人を信じること。
そして、信じた人に対して責任を持つこと。
私は、そこに佐三の優しさを感じます。
もちろん、一人の人間を簡単な言葉で説明することはできません。
佐三の思想や行動にも、さまざまな側面があったのでしょう。
それでも、彼の生き方を知るほど、美術館の見え方も少し変わっていきました。
3. 皇居を眺めながら
出光美術館には、私が好きだった場所がもう一つあります。
皇居のお濠を望む休憩スペースです。
展覧会を見た後、そこで景色を眺める。
左手方向には日比谷公園があり、丸の内にいることを忘れるわけではありません。
都会の真ん中にありながら、目の前には広い空と皇居、そして公園の緑がある。
私は、ときどき考えました。
出光佐三は、どんな気持ちでこの景色を眺めたのだろう。
日本を愛し、事業に挑み、美術品を蒐集した人。
その人が、皇居の近くに美術館をつくった。
そこには、どんな思いがあったのだろう。
美術館は、作品を見るだけの場所ではないのだと思います。
4. 新しい出光美術館へ
長く親しんだ空間がなくなることには、多少の寂しさもあります。
でも、私には新しい美術館への期待の方が大きい。出光佐三は、挑戦者だったと思うからです。
建物が新しくなることで、美術館も新しい姿になる。
それは自然なことだと思います。
ただ、受け継いでほしいものがあります。
出光佐三の優しさ。
彼の哲学。
そして、挑戦者としての想い。
それらを、これからの美術館の経営や、展覧会をつくるキュレーターの仕事の中に生かしてほしい。
作品を守ることは大切です。
でも、守ることは、何も変えないことではありません。
時代が変われば、作品の見せ方も、人々との関わり方も変わっていく。
新陳代謝は、守る上でも大切なことだと思います。
形は変わってもいい。
むしろ、変わってほしい。
その根っこにあるものを受け継ぎながら。
新しい出光美術館に出会える日を、楽しみにしています。