
【本日のお品書き】カニあんかけだし巻き|静寂を持て余す心と、包み込む優しさの輪郭
今日もお疲れ様。おいちゃんです。
誰もいない朝のリビングは、まるで音のない映画のワンシーンみたいだった。
いつもなら
「早く靴下履きなさい!」
「パパ、これ見て!」と、
怒号と笑い声が交差して頭がパンクしそうになる我が家。
けれど今朝は、ママを送り出し、5歳の姉ちゃんと3歳の弟君を保育園へ連れて行くと、家の中にはチクタクと響く時計の秒針の音しか残っていなかった。
超絶レアな、パパひとりの休日。
毎晩布団の中で
「頼むからひとりになりたい」
「誰にも邪魔されない時間がほしい」
と渇望していたはずなのに、いざその静寂を両手いっぱいに渡されると、どうして人間はこうもそわそわと落ち着かなくなるのだろう。
自由を持て余し、気づけばキッチンの油汚れを無心で磨き、散らかったおもちゃを片付け、洗濯物を几帳面に畳んでいる。
お昼休み、一時帰宅したママと二人で静かにご飯を食べ、午後は庭の畑へ出た。
しつこく生い茂るスギナに侵食されかけていたシソやネギを救い出すため、泥だらけになって草をむしる。
汗をぬぐい、ふと見上げた夕方の空。
風がひやりと頬を撫でたとき、胸の奥にじんわりと湧き上がってきたのは、「早くみんなの声が聞きたいな」という、ひどく矛盾した寂しさだった。
あんなに「早く寝なさーい!」と毎日叫んでいるくせに、いないと帰りを待ちわびてしまう。
パパという生き物は、つくづく身勝手で、けれどどうしようもなく家族が好きなのだと思う。
どうせ数時間後には怪獣たちの暴風雨に巻き込まれて、白目を剥きながらまた同じ台詞を叫ぶことになるとしても。
今日の「だれやめ」メニュー:カニあんかけだし巻き
ひとりきりの静けさの中で揺れ動いた心を鎮めるには、どこまでも柔らかく、すべてを肯定してくれるような温もりが必要だった。
だから今夜は、カニ缶をまるごと一缶投入した、贅沢な「カニあんかけだし巻き」。
幾重にも巻き重ねられただし巻き玉子は、日々の細やかな我慢と愛情の層そのもの。
そこに、海の濃厚な滋味をたたえた琥珀色のとろみが、音もなく優しく寄り添う。強すぎる刺激はいらない。
今日という愛おしい矛盾を丸ごと受け止める、精神安定剤のような一皿だ。

【材料】(2人分)
だし巻き玉子
・卵:3個
・出汁:90ml(薄味で出汁をしっかりきかせるのがコツ。面倒なら顆粒出汁や白だしを水に溶いても十分)
・薄口醤油:小さじ1/2
・みりん:小さじ1/2
カニあんかけ&トッピング
・カニ缶:1缶(汁も旨味の塊なので捨てずに丸ごと使う)
・水:150ml
・白だしまたは薄口醤油:ほんの少々(味の輪郭を整える程度でいい)
・水溶き片栗粉:適量
・刻んだシソ:たっぷり(庭で摘んできた採れたてを山盛りに)
【作り方】
ボウルに卵を割り入れ、出汁、薄口醤油、みりんを加える。 (白身のコシを菜箸で断ち切るように、手早く混ぜ合わせる。泡立てすぎないのが滑らかさの秘訣)
だし巻き器を中火で熱して油を薄くなじませ、卵液を3〜4回に分けて流し込む。 (奥から手前へ、破れても気にせず巻き込んでいく。出汁が多いぶん崩れやすいけれど、最後に形を整えれば全部優しさに変わる)
焼き上がった熱々のだし巻きを、深さのある器に盛り付ける。
小鍋にカニ缶を汁ごとあけ、水150mlを加えて火にかける。 (ひと煮立ちしたら味をみて、足りなければ白だしをほんの数滴。カニ本来の塩気と甘みを信じる)
沸騰したら弱火にし、水溶き片栗粉を回し入れてしっかりめにとろみをつける。 (だくだくのとろみが、だし巻きの隙間に入り込んでいくイメージ)
器のだし巻きの上から、熱々のカニあんを惜しみなく注ぎ、刻みたてのシソを天盛りにする。
箸を入れると、出汁をたっぷり抱き込んだ玉子がふるりと震え、カニの豊かな香りを纏った熱々の餡が絡みついてくる。
口に運んだ瞬間、上品な旨味が舌の上でじゅわりとほどけ、張り詰めていた心の輪郭がとろけていくような感覚に襲われた。
遅れて鼻腔を抜ける、庭のシソの爽やかな青い香り。
氷を浮かべた冷たい芋焼酎を流し込めば、一日分の迷いも寂しさも、全部「これでいいんだ」と許された気がした。
静けさは自分を見つめ直すためにあって、騒がしさは生きている喜びを噛みしめるためにある。 今夜も、いい夜だ。
今日も1日おやっとさぁ。
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