
【企画SS#風まかせ文芸部】二度寝
(1,000字)
「二度寝の背徳感と幸福感は異常」
「わかる。起きなきゃ、からのやっぱ無理。ダメ人間の烙印を押される感じが、むしろアダムとイブからの『ダメなことほど惹かれてしまう』人間の業を感じさせてーーー」
「いやそこまでの話ではない、ぜったいに」
手ひどい裏切りだ。睨むと、妻はふふふと笑って仰向けになった。シーツに長い髪が広がる。一般的な黒髪だが、こうして広がるとむしろ茶色味が濃い。一本一本が細いから、特にそう見えるのかもしれない。
「洗濯、掃除、買い物…やらなきゃいけないこと、やりたいことは山ほどあるのに…」
レースカーテンを透かして、明るい初夏の朝日が差し込んでいる。冬の間は真っ暗だった時間帯も、活動せよと追い立てるように明るい。
「二度寝の誘惑には逆らえない…」
呟いて、妻はふぅと息を吐く。
「そもそも、休日にこんな早く起きなくていいんだ。カーテンを閉めて寝るべきだよ」
「それはなんか違うんだよなぁ」
金曜の夜はスマホのアラームを切って寝る。なのにカーテンはいつもどおり、レースカーテンだけなのだ。陽が昇れば眩しくて、当然のように目が覚める。アラームを切る意味がない。
「音で起こされるのは無粋だけど、光で起こされるのはいいのよ。なんかこう、やわらかいものに顔を撫でられて起きるみたいな。例えば猫とか子どもとか、愛してるものがちょんちょんってさわってきて起きるのって、『寝てたいよー』って思いながらも幸せなんじゃないかなぁ、って」
「そうかな。しんどいと思うよ、まったく自分の都合どおりにいかないんだから」
「ほんとにそうやって起こしてくる対象がいるならね?そりゃ大変だろうけど。そういう、『愛しているものにそっと求められて起きる』幸福感だけ、味わいたいの」
「それが朝日で起きるってこと?」
「そう、そういうイメージ」
なるほど、求めていることはなんとなくわかった。
「そしてそこから、『まだ起きなくていいじゃん…』って二度寝に捕まるまでが、ワンセットの幸福感」
「倒錯してるなぁ」
「知ってる」
ふふ、と笑うその顔に手を伸ばす。
「…愛しているものに、そっと求められて起きる、なら」
頬にふれると、横目で僕を見る瞳が朝日に煌めく。
「こういうのでも、いいんじゃない?」
「そうね、でも…」
妻が僕に身体を向ける。ぱっちりと開いた瞳が、いたずら気に僕を映した。
「どちらにせよ、あなたは起きなきゃいけないけど」
たしかに、そうだ。
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