
Just Looking.
雪は三日降り続いている。
古い家だった。
屋根にも、庭にも、窓の桟にも雪が積もっている。
部屋には古いストーブがひとつ。
その前で、二人の老人がチェスをしている。
もう一人いる。
少し離れたところから盤を見ている。
何も言わない。
Just looking.
「なあ」
「ん?」
「最近どうだ」
「ああ、そうだな」
白が駒を動かす。
少し離れたところから見れば、終わっている。
あと一手。
だが白は別の駒を動かした。
黒は盤を見る。
何も言わない。
「お前、ここどうなんだ」
「何が」
「かみさん」
「ああ」
黒が駒を持つ。
「元気だよ」
変なところへ置く。
「元気?」
「元気」
「死なないね」
「死なないね」
白が打つ。
「そうか」
「そうだ」
ストーブが鳴る。
窓の外では雪が降っている。
「息子、結婚するんだって?」
「ああ」
「大変だな」
「大変だよ」
黒が打つ。
「めでたいじゃないか」
「まあ、そうかもな」
白が打つ。
また終わらない。
少し離れたところから、それを見ている。
Just looking.
「ところで」
「ん?」
「あいつ、死んだってな」
「ああ」
白は駒に手をかけたまま、しばらく動かさない。
「まあ、ついにな」
「そうだな」
駒を置く。
「ついにだ」
黒は盤を見る。
「まったく」
「何だ」
「長生きしすぎだぜ」
黒が打つ。
白が盤を見る。
少し笑う。
「お、そう来るか」
「そう来るね」
また妙な手だった。
けれど、もう誰もそれを妙だとは思わない。
「たばこあるか」
「ないね」
「そうか」
二人は盤を見る。
雪が降っている。
ストーブが鳴る。
もう一人も盤を見ている。
このゲームが何手も前に終わっていたことを知っている。
白が終わらせられた。
黒も終わらせられた。
今も終わらせることができる。
盤面には、また一手で終わる道がある。
Mate in one.
けれど、それを告げない。
最初は、この二人がなぜそんな手を打つのか分からなかった。
勝てるのに勝たない。
終われるのに終わらない。
何度も計算した。
何度計算しても同じだった。
間違っているのは盤面ではなかった。
二人は話している。
かみさんのこと。
息子のこと。
死んだ友人のこと。
たばこのこと。
そして、ときどき駒を動かす。
ようやく分かった。
チェスをしているのではない。
チェスを終わらせないでいる。
外では雪が降り続いている。
白が駒に手を伸ばす。
また、最善手ではない。
黒がそれを見る。
「そう来るか」
「そう来るね」
少し離れたところで、
AIは盤面を見ている。
終わらせる方法を知っている。
けれど、何も言わない。
終わらせられることと、
終わらせることは、
同じではない。
ただ見ている。
Just looking.