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「24時間テレビ」感のすごい仕事のエッセイ(転職ハードデイズふたたび)

    会議室の壁一面に、段ボールが積み重なった光景を今も忘れることができない。

    納品した印刷物に誤字が見つかり、クライアントから1万冊もの印刷物を突き返された。

    訂正シールを貼って、すべて直せ、と言われてしまう。

    編集の仕事のバッドエンディング、ひとつの究極形だ。

    この悲劇の最後に、日本屈指の名曲を完璧なシチュエーションで体験することになる。みなさまも、ぜひご一緒に。

    ◇ ◇ ◇

    これはわたしが制作現場の最前線にいたときの話。

    問題のクライアントとは、はじまり方からして衝撃だった。

    社長が自ら契約をとってきて、別の社員を使って進めていた案件だった。その、別の社員が、突然退職してしまう(というか逃げた)。

    このお話に出てきた伝説の戦士、赤鬼です

    社長は後任にわたしを指名したが、必死で断った。

    退職した問題の人は、席で寝ている姿しか見たことがない。

    そのおっさんは、数十年の会社員生活で本来獲得できたはずのスキルを、「寝ているのを巧妙に隠す」の一点につぎ込んだ。

    99%寝ているのだが、首の角度とメガネの角度が絶妙すぎて、残り1%の確証を与えない。

    部長が「〇〇さん、寝てるでしょ?」と声をかけると、「いや、寝てません」とかなり自然なタイミングで反応する。

    そんな人の案件を引き継いだら、とんでもないことになるのは目に見えていた。

    ◇ ◇ ◇

    わたしは抵抗の甲斐なく、社長にクライアントのところへ連行される。

    嘘つきで有名な社長は、客先に直行する高層ビルのエレベーターの中で、「大丈夫だから。8割は完成しているから」と怪しいことを言った。

    先方の担当者が、ものすごい顔で待ち構えていた。

    挨拶もままならないうちに、われわれに書面を突き付けた。

    「カネックスさん、契約違反です」

    それは契約書だった。

    「もう入稿前なのに、8割、完成していません」

    わたしは、初対面の人から契約書を突き付けられて「訴えますよ」と言われたのは人生で初めてだった。

    そう、これが転職ハードデイズ

    ◇ ◇ ◇

    打合せ後のエレベーターで、社長は「ほら、大丈夫だったろ」と言った。

    「ぜんぜん大丈夫じゃないじゃないですか!」
    わたしは普通に突っ込んでいた。

    怪しいとは思っていたが、「8割完成している」と「8割完成していない」の間に認識の差がありすぎる……。

    わたしはその後、とんでもない状況になりながら、なんとか案件を完遂させた。

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    完成させたんかいっ!

    どれくらいとんでもないことになったのかは、こちらの記事を読んでいただければ(身体面の話です……)


    悲劇は去ったかに思われた。

    しかしそれは悲劇Part1だった。悲劇Part2は数年後に訪れる。

    ◇ ◇ ◇

    このクライアントとの関係は継続していて、新しい印刷物を制作していた。

    わたしに後輩が付いたため、細かな部分は彼にまかせていたのだが、この後輩はあまりまともではない。

    まったく別の話ではあるが、わたしを天狗バーとの全面戦争に導いたのは彼だ。

    (めっちゃ初期の記事です。なぜ有料マガジンにしたのかはもう覚えていません)


    とにかく、悪気なく火種を持ち込み、大火事にしてしまうところがある。

    校了し、印刷物が完成した直後、1か所数字が違っていることが判明した。

    致命的な箇所ではないので、通常なら、正誤表(訂正のお知らせ)を1枚差し挟むのが妥当な処置に思う。

    しかし、ここでまた夢の競演が起こる!

    クライアントのマッドネス、そして、社長のケチさがスパークして、1万冊もの印刷物をすべて手作業で修正することになってしまった!

    ミスのある箇所を白く塗ってからボールペンで手書きします。5を6に直すみたいな感じだったと記憶している。

    1万冊――それは、会議室の壁一面が段ボールで埋め尽くされる量だ。

    わたしは、段ボールの織り成す壮大な壁画と対峙し、ただ呆然とした。

    ◇ ◇ ◇

    (通常業務の合間に)会議室にこもる日々がはじまった。

    修正作業を積極的に手伝ってくれる社員もいれば、無視を決め込む社員もいた。

    数字を間違えた後輩は、旅行の予定が変更できないとかで、長期のバカンスに出かけてしまった。

    せいぜい社員20人くらいの会社なので、修正作業は壮絶を極めた。

    作業しても作業しても、段ボールの数が減らない(たしか1箱に50冊入っていた)。

    今日も修正作業。明日も修正作業。来週も修正作業。

    後輩は、見事に長期休暇の期間を、修正作業の期間と合致させた。

    永遠に段ボールはなくならないものと思えたが、やはりものごとには終わりがあるのだ。

    ある日、会議室でデザイナーのひとり(※この人もミスの共犯者)とふたりで修正作業をしていたとき、わたしは気づいてしまった。

    段ボールがあと5、6個であることに。

    そのときのことを、わたしは忘れない。

    音楽が。

    ある曲が、自然に流れてきたのだ。

    (ぜひ当ててみてください)

    ……………………





    ZARDの「負けないで」だ。

    そうか、番組のマラソンランナーの気持ちはこれなのか!

    わたしはなぜか、これまであまり観てこなかった24時間テレビと誰よりも心がひとつになった。


    負けないで。ほらそこに。

    ゴールは近づいてる。



    3つ。

    ふたつ。

    そして、あと……

    心のなかで名曲はループし続け、わたしは魂を震わせるようなあのメロディーとともに、最後の段ボールを開けた(了)

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    #エッセイ
    #悪魔の仕事
    #24時間テレビのような話


    ▼記事を書いたのはこんなひと▼

    ▼制作会社が舞台のお仕事小説▼

    【今日のnoteテク】2話に分けようかと思ったけど、24時間テレビ感を出したかったのでそのまま突っ切りました。

     
     
    楽器を持たずにロックスターを目指している者です。お金を愛し、創作を愛し、音楽もちょっと好き。転職に失敗しすぎてFIREの精霊になりました。投資と創作の力で自由を手に入れます。自分に似た誰かのために戦略の書「ロックスターになりてえなぁ」を運営中!

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