
キズも迷いも、いい味わいに。土屋鞄にコロナ禍入社した私が楽しむ、自分と革の「経年変化」 #社会人1年目のわたしへ
「早くご飯や飲み会などで直接話すのが楽しみです!」
辞令交付式での私は、のんきに未来を語っていた。少しばかり華やかな「社会人デビュー」に胸を躍らせていたのかもしれない。けれど、その願いはあっけなく崩れた。
2020年4月、入社直前にコロナによる緊急事態宣言が出て、入社式は無期限延期。私の社会人生活は、自宅の小さなデスクの前で、PCの画面を一人見つめながら始まった。
当時、なんだか色々くすぶっていた新卒のわたしへ。7年後の今だから少しだけわかってきたことがあります。

土屋鞄のクリエイティブセンターに所属するデザイナーの佐々木匠。土屋鞄の新ブランド「depsoa(デプソア)」のアートディレクションを任されています。
コロナ禍入社という異例のスタートを切り、はじめは失敗を恐れてくすぶっていた彼。そこからどのように試行錯誤を重ね、仕事に自分らしい「味わい」を出せるようになっていったのか。等身大の軌跡をご覧ください。
理想の環境を求めて、飛び込んだ
20歳のとき、成人のお祝いとして両親から「OTONA RANDSEL(オトナランドセル)」をもらったのがきっかけで土屋鞄を知り、入社しました。

学生時代はグラフィックデザインを学びました。自分一人でつくるだけではなく、既にあるプロダクトやブランドの魅力を、チームの中で引き出しながら伝えていく仕事がしたいと思っていました。
目指していたのは、「余白を楽しめるコミュニケーション」。
それをクリエイティブの力で世の中に届けたいと思っていました。

余白のあるコミュニケーションとは、「つくり手側の込めた意図が、つかい手の中で解釈が広がるようなもの」だと思っています。
伝える側としては、目的に応じたアウトプットにはなるので必ずしも全てがそのような解釈となるとは限らないですが、そんな体験のきっかけとなれるコミュニケーションが理想です。
製造から企画・クリエイティブ・販売まで、オールインハウスでものづくりに挑める土屋鞄の環境は、まさに「つくり手〜伝え手〜つかい手」の間をつなぐコミュニケーションを構築でき、自分の目指すクリエイティブができると考えました。

想定外だった「社会人1年目」
期待に胸膨らませた2020年4月、入社直前にコロナによる緊急事態宣言が出て、入社式は延期。研修もすべてオンラインに切り替わり、PCの画面を一人見つめながら始まりました。
オンラインのビジネスマナー研修の動画を再生し、自室の机に向かって必死にメモを取り、感想をまとめる日々。社会人としてのイロハを学ぶ貴重な時間だと分かってはいても、「いざという時、現場で実践できるのか」と不安ばかりが残りました。
ようやく緊急事態宣言が解除され、本来実施予定だった工房研修や店舗研修ができるようになった時は、革に直接触れられることが嬉しくて嬉しくて。
一気にブランドへの理解が深まりました。
ランドセルの製造では、多くの製造班をまわり、つくる工程に関われたことは貴重でしたし、コロナ禍でもランドセルを求めて、お店に足を運んでくれるご家族との対話は、新鮮であり、これ以上ない学びでした。

ただただ「くすぶっていた」1年目
社会人としてスタートを切ってから大きな壁は、ソーシャルディスタンスの流れでした。画面越しのコミュニケーションが当たり前になる中で、人との心の距離の測り方が分からなくなっている自分がいました。
マスク越しで表情も読めないし、当然飲み会も無い。なんだか、うまくいかない。
私は見事に、くすぶっていきました。

先輩から優しいフィードバックをもらっても、「気を遣わせて申し訳ない」と心の距離を置き、意見を求められても「あ、今言っていただいたやつがいいと思います」と思考停止で同調するだけ。
コロナのせいにしたりして、うまくいかない現実を完全に「他責」にすることで、変化のないつまらない環境を自分でつくり出していました。
失敗したくない=何も変化をうまない
そんなうまく立ち回れない現状に対して不貞腐れていた私を救ってくれたのは、先輩たちでした。

お互いに距離感を測りかねている状況下でも、先輩たちはランチに誘ってくれたり、業務の合間に趣味の話をしてくれたりしました。
ただの新卒社員ではなく、一人の人間として向き合ってくれる時間が、ありがたかった。
画面越しでも、毎日丁寧にフィードバックをくれる先輩がいました。私が気づかないような小さな変化も、ちゃんと見てくれていたんです。
いま、私が居心地よく仕事ができているのは、周りの人たちが丁寧に「環境」を整えてくれているからこそ。 その地盤があるから、頑張れます。
「失敗をしないことは、何も変化をうみ出さないこと」
そう気がつくと、景色が変わって見えました。

すぐには結果が出なくても、傷ついたり失敗する経験こそが、自分らしい味わいのある仕事(アウトプット)をうみ出すことができる。
最初についたあの痛々しいキズも、経験を重ねていくと、自分だけの色に変わっていくんです。
変化を受け入れ、楽しむ
あれから7年が経ちました。2026年春、私がアートディレクションに関わったブランド「depsoa(デプソア)」が、国際的なデザイン賞「Indigo Design Award」でシルバー賞を受賞しました。(※)
「depsoa(デプソア)」では、自分の好きなストリートカルチャーや男児ならではのヤンチャな要素を、ターゲットと結びつけながら表現しています。

「土屋鞄から登場した新しいランドセルブランドのアートディレクションに携わる」。
これは土屋鞄のクリエイティブに携わる者としては、ものすごく喜びであり、同時にプレッシャーでもありました。
それまでは、ランドセルのカタログなど一部の制作物をつくる、というお客さまとの接点の中の“一つ”を担当することが多かった。ただ、今回はブランドの立ち上げから関わらせてもらうこれまでにない仕事です。
また、ランドセルという製品は、お子さまが使うものではありながら、ご家族のご意見もウエイトとして大きいものです。親子どちらにも刺さる表現でなくてはなりません。
━━新規ブランドのコンセプトは、どんなものがターゲットに刺さるのか。
━━お客さまが触れうるすべてのアウトプットは「depsoa(デプソア)」らしいブランド体験ができるものになっているか。
すべてがわからないことだらけ。それでも、くすぶっていた1年目の頃とは違い、この時の私は壁にぶつかりながら、とにかくがむしゃらに突き進むのみ、でした。
ただ、この試行錯誤の日々は、自分にとって大きな変化を与えてくれました。

「depsoa(デプソア)は世の中にどんなインパクトを与えられるのか」という高い視座をもってデザインすること。
この考えが、自分の中で根付くと、思考と手が一気に動き出しました。
お客さまと「depsoa(デプソア)」とのあらゆる接点一つひとつが、ブランドらしさが脈々と感じられるものになるように。
ブランドロゴ・カタログ制作のみならず、キービジュアルのディレクション、ムービー制作、ノベルティ……あらゆる顧客接点に関わるクリエイティブを担当させてもらいました。
当時入社6年目だった自分に、よくもまぁこんなにやらせてもらえたな、という感じです。頭がショートするくらい、考えたし、考える以上に、とにかく手を動かしまくりました。
挑戦や失敗を繰り返したもがきが、国際デザイン賞受賞という一つの形として評価され、誰かに届いたことが、本当に嬉しかったです。
自分は天才ではないからこそ、ものをうみ出す時は、もがいて、あがいて、試行錯誤し続けるしかありません。

「経年変化」という言葉は、革製品だけでなく仕事や人間関係においても、「変化を受け入れ、楽しむこと」だと、今では理解できます。
たとえ傷がついても、その傷が味わいに変わることもある。そうして初めて、そのものの本当の価値が決まるんでしょうね。
社会人1年目のわたしへ、手紙を書いてみた

社会人1年目のわたしへ。
いま仕事ができなくたって、思考停止して他責に逃げていたって、完璧じゃなくたって、とりあえずは大丈夫。もう少し今のままやってみると自分の本当の価値が見えてきます。
いま、あなたが感じている不安や焦り、止まったり迷ったりしているその泥臭い経験が少しずつ積み重なって、大きくジャンプするための跳躍台になってるし、未来の自分にちゃんとつながっていきます。
あと、それすらも自分らしい自己表現だったなって思えてくるはず。

キズがつくことや、変化をすることを恐れなくて大丈夫。ありのままで、自分らしく、泥臭く。
大抵のキズ(失敗)は、いつか必ず自分だけの「味わい」に変わっていくよ。
佐々木 匠(ささき・たくみ) / クリエイティブセンター デザイン課
東京工科大学 デザイン学部を卒業後、土屋鞄製造所へ入社。クリエイティブセンターへ配属後、「土屋鞄のランドセル」「grirose(グリローズ)」「depsoa(デプソア)」とランドセル事業を中心にアートディレクションを担当。日々の業務ではカタログやチラシなどのグラフィックデザインを行う。
※……「Indigo Design Award(インディゴデザインアワード)」は、グラフィックをはじめ、デジタルデザイン、UI/UX、ブランディングなど多岐にわたる作品を対象としている国際的なデザイン賞。Google、IKEA、SONYなど多様なバックグラウンドの審査員が審査をすることでも知られています。
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文・主な写真:小笹玲子
コーポレートブランド推進室所属。2021年、土屋鞄製造所 入社。土屋鞄の社内報『革ノオト』編集長。これまで社内報で手がけた記事は500記事以上。
(掲載情報は取材当時のものです)
この記事は、「これからラボ」のお題企画「#社会人1年目のわたしへ」に参加しています。
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