
【#シロクマ文芸部 9月③】お題:待つ時間(#怪異LABO)
シロクマ文芸部の1カ月の全お題を使って一つの物語を作っています。レギュラー部員は月初めにお題を全部教えてもらえるので思いつきました。今年で3年目の挑戦となります。
1回目は20字小説、2回目以降は文字数制限のないお話というスタイルで毎月挑戦中です。
第1話はこちら👇
第2話はこちら👇
「待つ時間ってどうして長いのかな?」
男の子は私にそう問いかけます。
「ずっとここにいたの?」
「うん。ずっと待ってるの。時間、長い」
私は黙って男の子を見つめました。コスモス畑で「おいでおいで」をしていたのは、この男の子だったのです。
怪しげな雰囲気に用心をしつつ近寄りましたが、目の前の男の子は消えてしまいそうなほど華奢な体つきをしています。
男の子への警戒はこみあげてきた切なさに切り替わりました。時にシルエットが闇に溶け込み、はかなげな存在として私の目に映り込んできます。男の子のコスモスに似た雰囲気がそうさせるのでしょう。
「誰を待っているの?」
「お母さん。忘れ物したから待っていてって」
図書館はここからもうすぐです。コスモス畑で待つように指示したということは貸し出しのカードを忘れて取りにでもいったのでしょうか。ただ、この時間は空の月もくっきりと見えるほどの夜空になっています。
小学校に上がるかどうかぐらいの男の子を置いて忘れ物を取りに行くなんて。
コスモス畑に一番近い家でも10分以上はかかります。
どうして一緒に帰らなかったんだろう?
そのまま通りすぎるなんてできません。私は男の子のとなりに座りましたが、視界はコスモスでいっぱいになりました。コスモスに囲まれると心が不思議と安まります。
「きれいだね……」
「きれいでしょ?お母さんもきれいだって言ってた」
男の子の瞳がうっすら輝きました。こんなにも母親を慕っているのに、さみしい場所に待たせておくなんて。
「ねえ、おうちまでの道わかる?お姉さんが送っていくよ」
立ち上がりかけたのですが、
「待つ!お母さんと約束したから!」
と男の子がいやいやと首を左右に振ります。スマホに目をやると、まだ閉館まで時間はあります。
(もう少し待ってあげるか)
私は男の子の横に座り直しました。
「それ……なに?」
「これ?お姉さんが借りた本」
「なにが書いてあるの?」
「知りたい?」
こくんと頷いたので、抱えていた本を広げます。ちょうどこのとき持っていた本は世界の民話を集めたものだったのです。読んであげれば小さな子でも理解はできます。
民話は世の怪異のヒントになるものがたくさん詰まっているので、仕事のヒントが見つけやすく、怪異LABOの一員として勉強になる部分が多いのです。
コスモス畑はこの季節の人気スポットであるため、控えめながらライトアップもされ、活字を追うには十分な明るさもあります。
「お話は面白いけど漢字がたくさんあるから読んであげるね」
「ありがとう」
うれしそうな男の子に私は頬をほころばせつつ、民話を読み始めました。
「誰かと一緒にいると待つ時間って短く感じるね」
気づくと民話をすべて読み終えています。
「これが終わったら、また待つ時間が長くなっちゃうんだね」
寂しそうに言うので
「もうお母さん、来るんじゃない?」
「どうかな……ずっと待ってるのに……お母さん全然来ない……」
そう言って私を見る男の子の目は暗い洞を感じさせました。
ヒヤリ。
背中に冷たいものが走りました。
(つづく)
小牧幸助部長、今週の部活は早めに参加できました!