
【ショートショート】半透明ハイキング 恩返し [毎週ショートショートnote]
半透明ハイキング 恩返し
ある山の中に、幻獣の親子が棲んでいました。リスに似たその幻獣は、成長すると、体を透明にして見えなくすることができます。
ある日、そろそろ成獣になろうかという子が、ようやく身につけたその隠身の技を使って、山の麓の魔法使いの屋敷の庭に、大好きな果実を食べに行こうと思い立ちました。
隠身の技があれば、何も恐れる必要はありません。道中楽しくて、草原を転げ回ったり、木の洞を覗き込んだりして遊びながら、のんびりと進みました。
そしてとうとう、目的の庭に着きました。庭の木には、熟れた果実がたわわに実っています。その木の下の椅子に座り、魔法使いが本を読んでいました。その木に幻獣の子が登ると、魔法使いが、ちらと見上げました。でも、姿が見える筈はありません。幻獣の子は、かまわず果実を食べ始めました。魔法使いは、何も見なかったように、本へと視線を戻しました。
やがて腹もくちくなり、幻獣の子は、木から下りようとしました。そのとき、重くなった体がバランスを崩し、枝から落ちてしまいました。
地面に叩きつけられる!
恐怖に、幻獣の子は、目を閉じました。
ふいに、その体が、やわらかく受け止められました。大きな、温かい手。魔法使いの手でした。魔法使いは、幻獣の子をそっと地面に下ろすと、何事もなかったかのように、また本へと向かいました。
見えていたんだ。
いいえ。遊び回った幻獣の子の体には、特に背や尾の辺りに、葉っぱや草の種が、たくさん貼り付いていたのです。隠身の技では、体に付いたものまでは消すことができません。それで、幻獣の子は、体の半分程だけが透明だったのです。
幻獣の子は、無事に親の許へと戻りました。
数年後、魔法使いは重い病に罹り、床に伏しました。ある日、その枕元に、万病の薬とされる、珍しい、貴重な木の実が置かれていました。その脇に、すっかり乾燥した一枚の葉と一粒の草の種。あの日、幻獣の子の体に付いていたものでした。
了 797字
今回、こちらのお題に参加させていただきました。
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前に参加した作品はこちらです。
本作は、拙作長編ファンタジー小説シリーズ〈隻翼の竜の書〉の世界の昔話です。
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