
【ショートショート】肉球人狼 前門の虎、後門の狼 [毎週ショートショートnote]
肉球人狼 前門の虎、後門の狼
息が、苦しい。
少年は、暗い森の中を、必死に逃げていた。
ハッハッハッ……
静かな闇に、荒い呼吸音が響く。背後から、獣が追ってくる。いや、半分獣、人狼だ。
肺が、張り裂けそうだ。脚も、悲鳴を上げている。もう限界だ。そう思った時、森の出口が見えた。その先に、瞬く灯り。人家だ。もう少しだ。あそこまで、辿り着けば――。
希望が見えた矢先、目の前に、影が躍り込んだ。
つんのめりそうになりながら、足を止める。後ろの人狼も、ぴたりと止まった。
ウウウ……と、影が唸る。虎に似た、獰猛な魔物だ。
前門の虎、後門の狼。挟まれた。逃げられない。どうする。
ええい、俺は猫派だ! どうせ喰われるなら、猫だ。
やぶれかぶれになり、前に飛び出した。
虎が迫った。開かれる顎。生温かい息が、首にかかる。頬に、ひんやりしたものが触れた。柔らかい。
柔らかい? ん?
にゃあ!
はっと、目を開いた。目の前に、金色に輝く目が二つ。頬に、肉球が触れる。寝台に仰けに横たわった身体の、胸の上から、猫が、じっと覗き込んでいた。
「こら、ニック! お前、重いんだから、上で寝るなって言っただろ」
どこ吹く風、猫は、下りる様子もなく、のんびりと毛づくろいを始めた。
了 494字
今回、こちらのお題に参加させていただきました。
どうもありがとうございます。
本作は、拙作長編ファンタジー小説〈隻翼の竜の書〉『赤目の盗賊』の主人公、ハシャルの日常の一コマです。
〈隻翼の竜の書〉については、こちらをご覧ください。
前回参加した作品はこちらです。