
教えてダーウィン
うちのオカンって、強いのよ。
嫌なことは割り切って素知らぬ顔。
良くも悪くも自分の道を進む強さを持ってる。
それに、どうすれば自分が幸せかをよく知ってはる。
人として尊敬してる。
よくオカンの話を書いたりするけど、実際のところ程よい距離感で付き合ってると思うのね。
たまにお茶して世間話するくらいの距離感。
そんなオカンに、俺は悩みを相談したんよ。
いや、悩みってより愚痴に近い。
最近身体の調子が悪く、少しメンタルも落ち込んでたからつい。
客観的に、今の俺を外側から見た時、自分で自分を許せへんねんって。
短距離しか歩けへんこと。
軽い荷物すら持てへんこと。
オカンに負担をかけてしまってること。
そういうことが、ずっと自分の中に引っかかってる。
もちろん、事情があることは誰よりもわかってる。
自分の身体のことやからな。
歩けへんのも、持てへんのも、俺が好き好んでそうしてるわけじゃない。
そんなことは、嫌ってほどわかってる。
やからこそ、許せへんねん。
俺本人やからこそ、許せへん。
そんなことを、ポロッとオカンにこぼしてしまった。
それこそお茶してる感覚で。
そしたらオカンの顔がみるみる曇って、しまいには顔を手で覆って泣き出した。
俺は、オカンに泣かれるのが一番キツい。
幽遊白書の主人公、幽助が蔵馬に対して言ったセリフで「母親が自分のことで泣いてんの見たことあっか?あんなにバツの悪りーもんはねーぜ!」ってセリフがあんのよ。
まさにアレ。
今までもずっと自分のことが許せへんかった。
でも、オカンを泣かせたことで、またひとつ自分を許せへん理由が増えた。
悪いことしたなぁ。
ちょっと考えればわかる話なんよ。
俺の身体のことで一番負い目を感じてるのはオカンやってことくらい。
五体満足に産んでやれへんくてごめんって何度言われたか。
それやのに。
わかってんのに、言ってしまった。
オカンには、いつまでも笑っててほしい。
穏やかに生きてほしい。
もしひとつだけ願いが叶うなら、俺の身体がどうのなんて願わへん。
ただ笑っててほしい。
それだけが願い。
やったのに。
自分の愚かしさに胸の奥が熱くなる。
自分に対する怒りがぬたぁっと湧き上がる。
せめて一言、泣かせてしまったことだけでも謝りたい。
そう思って、
「なぁ、オカン」
と声を出した瞬間。
オカンの携帯から、LINE通話の呼び出し音が鳴った。
オカンは涙を拭いながら携帯を取り、そして何事もなかったかのように、
「もしもし〜? ○○ちゃん〜? 久しぶり〜! 元気してた〜?」
俺、ぽっかーん。
口半開きで、ぽっかーん。
今の今まで泣いてたやん…。
俺、まだ謝ってへんねんけど。
ほんで切り替え早すぎるやろ。
俺が一人で自分を責めてる横で、オカンはいつものオカンに戻ってた。
でも、言うたかて電話の時は嫌でもよそ行きの声になるわな…仕方ない仕方ない…と、通話が終わるのを隣で待ってたんよ。最初は。
でもそこから3時間。
3時間ぶっ通しで通話してはった。
キムチぽりぽり食べながら。
もう俺待ちくたびれて、ダーウィンが来た観てたもん。
待ちぼうけ過ぎて北原白秋の気持ちがわかったくらいよ。
あ、そうそう。
ダーウィンが来たでやってはったんやけど、アフリカの国立公園の生態系を復活させるとかなんとかで、最近ハイエナの数が増えてるんやってさ。
映像にも子供のハイエナをお母さんハイエナが心配そうに見てる姿が映ってた。
肉球?足?が丸っこいのね。ハイエナって。
独特な形してて可愛らしい。
よく見りゃお顔もキュートやんか。
寝起きの俺に似てる気がする。
そんなチャーミングなハイエナに夢中になってると、いつの間にか電話を終えたオカンがキムチのパックを片付けながら「くれぐれも無理せんときや」って。
自分が傷ついても俺を思い遣るその姿を見てると、人間でもハイエナでも結局のところ親と子ってのは変わらへんのやな。
でもさ、やっぱり俺は俺を許せへんのよ。
もうちょいできるやろって思ってしまう。
自分に期待してんのかな?
当たり前のことをしたいだけやねんけどなぁ。
それとオカンを泣かすな。
ほんま最低やぞそういうとこ。
とりあえず、つらつらと書き出したら気持ちの整理ができて、自分を許す方法が見つかるかも…。
と思って書いてみたはいいけど、自分を許す方法は全く見つけられへんかった。
ツチノコくらい見つけらへん。
この先見つけられる自信もない。
なんなら全然ダメそう。
俺無理ぽ。
でもそんなことほんまにどうでもよくて。
ただ、オカンはもう泣かんといてほしい。
笑っててほしい。