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氷河期世代AD、テレビの片隅で。#7「反社に捕まる歌舞伎町通いのホスト見習いAD]

    しばらくして、
    僕はキャバクラ嬢やホストが出演する企画を担当するようになった。

    打ち合わせ場所は、
    歌舞伎町や六本木だった。

    昼間会社にいるより、
    夜の街にいる時間の方が長かった気がする。

    歌舞伎町のキャバクラへ行き、
    ホストクラブへ行き、
    また編集所へ戻る。

    自分がADなのか、
    夜の街の人なのか、
    よく分からなくなっていた。

    打ち合わせで仲良くなったキャバ嬢と、
    少しいい感じになったこともあった。

    役得と言えば役得である。

    でも結局、
    僕は昔から女性にモテるタイプではなかった。

    歌舞伎町でも、
    その現実はあまり変わらなかった。

    ホストクラブにもよく行った。

    人気ホストたちは、
    僕と年齢がそんなに変わらなかった。

    でも世界は全く違った。

    月収300万。

    フェラーリ。

    高級マンション。

    僕は月15万円だった。

    編集所で怒られ、
    ロケ弁を冷凍して食べていた。

    同じ東京でも、
    ここまで違うのかと思った。

    ある日、
    店のナンバー1ホストに言われた。

    「一回働いてみなよ」

    流れで、
    ホストの体験入店みたいなことをやった。

    でも、
    全く向いていなかった。

    まず、
    女性を楽しませる会話ができない。

    ナンバー1ホストの接客は本当にすごかった。

    ずっと喋っている。

    しかも面白い。

    ほぼ芸人だった。

    女の子が笑うタイミングも、
    空気の作り方も、
    完全に計算されていた。

    「この人、
    芸人になってもかなり売れるんじゃないか!?」

    と本気で思った。

    結局、
    僕はホストにはなれなかった。

    でも、
    「やっぱりADの方が向いてるかもしれない」
    とは少し思った。

    向いているかは、
    まだよく分からなかったけど。


    歌舞伎町では、
    ロケもした。

    でもあの街は、
    撮影がかなり難しかった。

    暴力団事務所も多く、
    許可関係も複雑だった。

    でもディレクターは言った。

    「まあ、撮っちゃおう」

    今思うと、
    かなり雑だった。

    案の定、
    すぐにその筋の人が来た。

    「おい、誰に許可取ってんだ」

    かなり怖かった。

    そしてなぜか、
    僕が謝りに行くことになった。

    歌舞伎町の雑居ビル。

    その事務所で、
    僕は1時間くらい怒られた。

    「勝手に撮ってんじゃねえよ」

    僕は途中から、
    完全にディレクターを売っていた。

    「僕もここで撮るの反対だったんですよ」

    「悪いのはディレクターなんです」

    「だから僕は1ミリも悪くないんです」

    子どもみたいな言い訳をし続けた。

    今思うと、
    最低である。

    最初は怒っていたその人も、
    途中から少しだけ、
    「お前も大変だな」
    みたいな顔になっていた気がする。

    結局、
    「次から気をつけろよ」
    という感じで帰してもらった。

    あの人たちは、
    金が欲しかったのか、
    ただ怒りたかったのか、
    今でもよく分からない。

    でも、
    一度だけ例外があった。

    極道映画でもおなじみの、
    大物俳優さんと歌舞伎町でロケをした時だった。

    普段なら、
    どこからともなくその筋の人が現れる。

    でもその日は違った。

    明らかにそっち系の人たちが、
    少し離れた場所からこちらを見ている。

    なのに、
    誰も近づいてこない。

    誰も怒鳴らない。

    歌舞伎町なのに、
    妙に空気が穏やかだった。

    なるほど、
    そういうことかと思った。

    たぶんあの人は、
    映画の中だけじゃなく、
    歌舞伎町でも“大物”だったのだ。

    本物より、
    本物みたいだった。


    AV女優の方に出演してもらう企画もあった。

    だからAVプロダクションの人たちとも、
    自然と知り合った。

    みんな、
    意外なくらい普通だった。

    というか、
    むしろ優しい人が多かった気がする。

    でも数年後。

    ニュースを見ていた時、
    画面に見覚えのある顔が映った。

    当時よく仕事をしていた、
    AVプロダクションの人だった。

    ニュースでは、
    半グレグループの関係者として報道されていた。

    テレビを見ながら、
    「そうだったんだ……」
    と思った。

    でも、
    よく考えたら、
    普通の人ではなかった気もする。

    あの頃の僕は、
    テレビ業界にいたのか、
    歌舞伎町にいたのか、
    もうよく分からなくなっていた。

    #テレビ業界  
    #創作大賞2026 #お仕事小説部門 #実話


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    #8  「左目殴り社長、目的は笑いではなくADへの暴力」

    BB弾で撃たれ、理由もなく殴られる。
    それを「面白い」と思う人が、本当にいました。
    あの頃の僕は、テレビ業界と暴力の境界線が分からなくなっていました。


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    『氷河期世代AD、テレビの片隅で。全話まとめ』

    ▼第1話〜最新話まで一覧はこちら


     
     
    バラエティー番組のディレクター。東北出身の氷河期世代。「元気が出るテレビ」に憧れバイトADからテレビ業界へ。佐久間さんでもマッコイさんでもない普通の僕。AD時代の過酷な経験、震災、家族の事、ほぼほぼ実話の話を書きました。今もテレビの現場で働いています。登場人物や設定は一部変更。

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