
【硝子の味方】Fragment #04 ―太陽が死んだ日、あの子の行方。―
東京の雨とは、匂いが違う。窓を開けると、湿った土と草の匂いが流れ込んでくる。 四年前のあの日まで、私の世界は光に満ちていた。「茜の瞳は、まるで太陽みたいに真っ直ぐだね」と笑ってくれた人たちの期待に応えたくて、私はこの青い万年筆で、真実だけを綴(つづ)ると決めていた。
けれど、あのアスファルトに叩きつけられた雨の夜、私の言葉は巨大な力によって無残に踏みにじられた。真実は「嘘」に書き換えられ、私の声は闇へと葬られた。
鏡を見るたび、かつて「太陽のようだ」と言われた瞳が、今は光を吸い込むだけの空っぽな穴になっていることに気づく。沈黙の檻の中にいる私は、もう、自分をどう動かせばいいのかも分からない。
あの日、冷たい雨に濡れた駅のゴミ箱に、私は「あの子」を投げ捨てた。私の魂そのものだった、青い万年筆。私と一緒に、あの子も消えてしまえばいいと思った。
――カチリ、と乾いた音がした。 それは、私の声が死んだ音。喉の奥で固まったままの言葉は、いつまでも溶けない氷のようだ。冷え切った茶を啜(すす)り、雨を含んだ風の苦みを味わう。それが、今の私の唯一の言葉。
けれど、あの子は今、あの街で誰かのために戦っているという。「先輩」からの手紙が、静止した部屋に微かなインクの匂いを運んでくる。あの子が戦っているなら、私もいつか……。
私はただ静かに、止まない雨の音に耳を澄ませ、最初の一文字を落とすその時を待っている。インクの匂いがまだ届かないこの部屋で。
今夜のBGM。
言葉を奪われ、インクの匂いさえ忘れた夜。 投げ捨てたはずの「あの子」が刻んでいた、決して消えることのない沈黙の声に、静かに浸ってください。
The Sound of Silence / Simon & Garfunkel
Hello darkness, my old friend, I've come to talk with you again (ハロー、暗闇。僕の旧友よ。また君と話をしに来たよ)
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この物語が、あなたの夜に一滴の蒼を添えられたでしょうか。もし、心のどこかが微かに震えたなら、その共鳴を『スキ』という形で預けていただけたら嬉しいです。それは、私たちが繋がっている唯一の証になるから。
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