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【硝子の味方】Fragment #01 ―硝子の檻、午前零時。―

    湾岸のタワーマンション、35階。硝子の向こう側に広がる夜景は、今夜も残酷なほどに美しい。私が人生を捧げた「株式会社 ヴェリタス・ホールディングス」のロゴが、冷たく発光している。かつて、この煌めきは私の勲章だった。けれど今は、私を閉じ込める冷たい檻にしか見えない。

    私は、何に負けたのだろう。 徳田常務の冷徹さか、河野(こうの)さんの野心か。……いいえ、私を奈落へ突き落としたのは、誰よりも信頼していたはずの門脇部長の、あの湿った声だった。

    「会社のために、矛を収めてくれないか」

    戦友だと思っていた。もう一人の父親だと思っていた。その人の手が、私を守るためではなく、私を消し去るために使われたという事実が、夜景よりも鋭く胸に突き刺さる。

    何の味もしない白湯(さゆ)を注いだマグカップを、両手でそっと包み込む。指先に伝わる微(かす)かな熱。裏切りという氷に閉ざされた今の私にとって、この小さな温度だけが唯一の、嘘のない味方だった。

    デスクの隅に眠る、一本の青い万年筆。まだインクさえ入れていない、空っぽの器。

    「世界中が敵になっても、僕だけは味方だ」

    かつての「先輩」――佐伯 和也(さえき かずや)の、あの頃と変わらない低く落ち着いた声を反芻(はんすう)する。大学のゼミで共に理想を語り合ったはずの彼が、なぜ今、弁護士として私の前に現れたのか。 その言葉が今の私への救いなのか、それとも新たな檻へと誘(いざな)う罠なのか。今の私には、まだ分からない。

    ただ、この硝子が白く明けるまで。私はこの檻の中で、静かに牙を研いでいる。


    今夜のBGM。
    濁流に架かる橋のように、そっと寄り添う旋律を。 遠くの喧騒ではなく、手元の温もりと、ピアノの一音だけに耳を澄ませて。

    Bridge Over Troubled Water(明日に架ける橋) / Simon & Garfunkel

    When you're weary, feeling small When tears are in your eyes, I will dry them all (あなたが疲れ果て、自分をちっぽけだと感じるとき。その目に涙があるときは、僕がすべて拭い去ろう)

    Bridge Over Troubled Water(明日に架ける橋) / Simon & Garfunkel
    ※YouTubeのフリー音源を使用しています。クリックしてお楽しみください

    この物語が、あなたの夜に一滴の蒼を添えられたでしょうか。もし、心のどこかが微かに震えたなら、その共鳴を『スキ』という形で預けていただけたら嬉しいです。それは、私たちが繋がっている唯一の証になるから。

    硝子の味方:目録(Digital Archive Index)
    本編、およびフォトギャラリーを含む全記録はこちらからご覧いただけます。

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    数字と論理の世界に身を置きながら、夜は言葉の綾を編む。 科学捜査ミステリ『TOKYO SILENT FILES』創作大賞2026入選(推薦:文藝春秋)・連載中/連作『硝子の味方』完結/短編集『綾なす日々に、一音(ひとね)の物語を。』随時更新。 声なき声を物語に変えて届けます。

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