
アオリイカの捌き方|墨袋を破らず刺身まで仕上げる7つの順番
よう、未来のエギングマイスターたち。
白く締めて、冷やして、墨ひとつ付けずに持ち帰ったアオリイカ。台所でまな板に乗せた最後のひと手間で、流しを真っ黒にしてないか。噛み切れない刺身を皿に並べて「アオリイカって意外と硬いな」なんて言ってないか。
捌くのが下手なわけじゃない。やる順番が崩れているだけだ。
アオリイカの捌き方で失敗する原因は、腕じゃなく順番だ。墨袋を最後まで破らない順番で進めれば、刺身まで台所は汚れない。
今日はその7つの順番と、それぞれの手の動かし方、なぜその順番なのかをやる。
捌く前に:7つの順番と、揃える道具

アオリイカの捌き方は、次の7つを上から順にやるだけだ。
■ ① 胴を開いて甲(背中に入っている透明な板)を抜く
■ ② ゲソ(足)と内臓を一緒に外す
■ ③ 墨袋を管からつまんで抜く
■ ④ 洗うのはここで1回だけ。あとは紙で拭く
■ ⑤ エンペラ(胴の縁のヒレ)と皮を剥がす
■ ⑥ 薄皮を乾いた紙でこすって剥ぐ
■ ⑦ 繊維を断つ向きに切る
外したゲソの掃除(わた・クチバシ・目を取る)は、⑥のあとにまとめて片付ければいい。胴の作業と混ぜないほうが、まな板の上が散らからない。
この順番の芯は「墨袋を最後まで破らない」ことにある。墨袋は内臓にくっついているから、内臓を身から外すまでは触らない。外してから、身と離れた場所で抜く。墨が出るとしてもボウルの上で済む。胴に深く包丁を入れて内臓ごと切ってしまうと、どこかで刃が墨袋に当たる。
揃える道具はこれだ。
■ よく切れる包丁1本(家の三徳包丁で足りる)
■ まな板
■ キッチンペーパー(多めに)
■ ボウル1つ(内臓と墨袋を入れる)
■ ラップと冷凍用の保存袋(寝かせる分・墨袋を取っておく分)
■ 竹串(あれば。薄皮の細かい残りに使う)
水を張った桶は置かなくていい。理由は④でやる。
捌く前にもう1つ確かめておくことがある。そのイカが白く締まっているかどうかだ。釣り場で締められずに茶色いまま持ち帰ったイカは、冷蔵庫で寝かせずにその日のうちに捌け。熟成の甘みは期待できないので、生で食べる分は冷凍を通し、それ以外は加熱料理に回す。締め方と持ち帰り方は、ここにまとめてある。
手順① 胴を開いて甲を抜く

イカをまな板に置いて、胴を指で押してみろ。中に硬い板が入っているのが分かる側が、甲のある背中側だ。その側を上にして、ゲソを手前に置く。胴のまん中の線に沿って、包丁を入れる。
深さの目安は、刃先が甲に当たるところまでだ。Honda釣り倶楽部の手順では「刃先は中にある甲まで入れる」、日本さばけるプロジェクトの手順では「表皮に浅く切れ目を入れる」と書いてある。刃先が甲の硬さに当たったら、甲の上をなぞるように胴の端から端まで1本通す。
切れ目を指で左右に開くと、中から透明で薄い甲が出てくる。これを指でつまんで抜く。板前の銀座わたりは動画で、アオリイカの甲はスルメイカやヤリイカに近い透明なもので、コウイカ(スミイカ)のような白い大きな塊とは違うと説明している。白い甲を探していると見落とすので、光に透かして確かめろ。
ここで包丁を深く入れないのが、墨袋を守る最初の関門になる。甲の下にはすぐ内臓がある。表から勢いよく刃を押し込むと、甲を越えて内臓まで切ってしまい、そこから墨がにじむ。刃は立てずに寝かせ気味にして、甲の上を滑らせる感覚でいい。
大きいイカほど甲は長い。胴の先(エンペラの端)まで甲が続いているので、途中で止めずに最後まで開いておくと、次の工程で内臓がきれいに外れる。
動きは動画で見ると一発で分かる。
▶ 日本さばけるプロジェクト(日本財団 海と日本プロジェクト)の動画。0:18から切れ目の入れ方と軟甲の抜き方、1:25から薄皮の剥ぎ方が映っている
手順②③ ゲソと内臓を外し、墨袋を管から抜く

甲を抜いたら、胴の中にある内臓とゲソを外す。ゲソのつけ根と身のあいだに指を入れて、身から内臓をはがすように探っていく。日本さばけるプロジェクトは「身とわたの間に指を入れ、さぐるようにして下足とわたを一緒にとる」、Honda釣り倶楽部は「頭とゲソ(足の部分)をつかんで内臓とともにはがし取る。この際、墨袋を破らないように注意」と書いている。
コツは、引っ張る前に指で内臓と身のくっついている所をはがしておくことだ。くっついたままゲソを勢いよく引くと、内臓が途中でちぎれて、いっしょに墨袋が破れる。最後に少しだけ繋がって残った所は、包丁の先で切り離す。
墨袋は管をつまんで引く
外したゲソと内臓を、身から離してボウルの上に置く。墨袋は内臓にくっついている小さな袋だ。袋から細い管が伸びていて、イカが水や墨を吐き出すロート(漏斗)のほうへつながっている。この管が墨の出口になる。
つまむのはロートではなく、この管だ。管をしっかりつまんで、ゆっくり引く。袋ごとスルッと外れる。袋そのものを指で押したり包丁を当てたりすると破れるので、触るのは管だけだ。破れたとしても、ボウルの上なら身は汚れない。
墨袋は捨てなくていい。パスタや黒作りに使えるので、ラップに包んで保存袋に入れ、冷凍しておけ。
▶ 銀座わたりの動画。4:16からゲソ側で墨袋の出口の管をつかんで外す手元が映っている
内臓は早く抜いて、身は目で見る
内臓を早めに外すのには、墨とは別の理由もある。厚生労働省によると、アニサキスはイカなどの主に内臓の表面に寄生していて、宿主が死んで時間が経つと内臓から筋肉(身)へ移動することが知られている。予防として挙げられているのは、新鮮なうちに速やかに内臓を取り除くこと、内臓を生で食べないこと、目で確認して取り除くことだ。
だから、持ち帰ったら早めに捌いて内臓を外す。外したら、身の表と裏を明るい所でひと通り見ておく。
手順④ 洗うのは1回だけ、短く

「アオリイカは洗っていいのか」。捌き方と一緒によく調べられているのがこの問いだ。答えは、内臓と墨袋を外した直後に1回だけ、さっと洗う。それより後は水に当てずに、紙で拭く。
日本さばけるプロジェクトの手順には「ぬめり、汚れを洗い、よく水気をとる」とあり、一方で水をなるべく使わないように勧める解説もある。どちらも、身を水に長く浸さないという点では一致している。
銀座わたりは動画で、洗う時間はなるべく短く、それ以降は水につけず、表面の水気もよく拭き取るように説明している。理由は、イカの旨味が水に溶けやすいからだ。身を水に浸しておくと、水を吸って水っぽくなり、旨味も流れる。気になるなら、海水くらいの塩水(3%ほど)でさっと流せばいい。
だから順番はこうなる。
■ 内臓と墨袋を外した直後に、胴の内側のぬめりと墨を短く流す
■ すぐにキッチンペーパーで内側も外側も水気を拭き取る
■ ここから先(皮を剥いだあと・切ったあと)は水に当てない
水を張った桶を最初に用意しないのはこのためだ。桶があると、つい身を浸けたまま作業してしまう。流しの水を細く出して、胴をくぐらせたらすぐ紙の上に上げる。それくらいの時間で足りる。
手順⑤⑥ エンペラと皮を剥がし、薄皮は乾いた紙でこする

水気を拭いたら、皮を剥ぐ。まずエンペラだ。
胴とエンペラの境目に、胴の先の側から指を差し込んで、境目に沿って滑らせる。エンペラが胴からはがれてきたら、Honda釣り倶楽部の手順どおり、最後は包丁で切り取る。エンペラを引くと、胴の表の外皮がいっしょにめくれてくることも多い。めくれずに残ったら、胴の端に包丁の先で浅く切れ目を入れ、そこをつまんでひっくり返すように、外皮とその下の薄皮を一緒に剥がす。
胴の口の側(ゲソが付いていた側)の縁は「えり」と呼ばれ、その両脇に硬い軟骨の部分がある。ここは包丁でそぎ取っておく。日本さばけるプロジェクトの手順でも、薄皮をはがす前に「えりと軟骨部分を切りとる」工程が入っている。残すと刺身にしたとき口に当たる。
外皮を剥いだ胴を触ると、表面にまだ薄い膜が張りついているのが分かる。これも剥ぐ。
薄皮を残すと硬くて噛み切れない
イカの胴の外側の皮は4層になっている。日本食糧新聞の連載「シーフード調理学」によると、第一層と第二層は比較的簡単にむけるが、第三・四層は胴の身についていてなかなかむけない。そして第四層にはコラーゲンという硬いタンパク質の繊維が体の軸に沿って走っていて、この皮が残っていると硬くて噛み切れない。アオリイカの刺身が硬いと感じたら、まず皮の残りを疑え。
剥ぎ方は、乾いたキッチンペーパーを胴の表面に当てて、こするように寄せる。膜が紙に引っかかってめくれてくるので、めくれた端をつまんで引く。日本さばけるプロジェクトは乾いたふきんで、Honda釣り倶楽部は乾いたペーパータオルでこすって取っている。俺も乾いた紙を使う。濡れていると膜の上を滑って、引っかかりにくい。
胴の裏(内側)にも薄皮がある。裏も同じように乾いた紙でこする。エンペラの皮も剥ぐ。細かく残った所は、竹串の先で引っかけるとはがれる(日本さばけるプロジェクトの手順)。
手順⑥のあとに:ゲソの掃除(わた・クチバシ・目)

胴の皮を剥ぎ終えたら、ボウルに置いておいたゲソを片付ける。胴をまな板の端に寄せてから始めると、ゲソの汁が身に付かない。
手順は3つだ。
■ 目のすぐ上、わた(肝)とつながっている側に包丁を入れて、わたを切り離す
■ ゲソを開いて、つけ根のまん中にある硬いクチバシを取る
■ 目を取る
日本さばけるプロジェクトの動画でも、墨袋を破らないように取ったあと、目の上に包丁を入れてわたを取り、下足を半分に切り開いてくちばしを取り、最後に目を取っている。クチバシは黒くて硬い小さな塊で、残すと噛んだときにガリッと当たる。目は包丁の先でくり抜くか、指でつまんで取る。
吸盤の中には硬い輪があって、口に残る。ゲソを指で根元から先へしごいて落とすか、包丁の背でこそげ取る。
切り離したわた(肝)とゲソの行き先は、刺身とは別になる。厚生労働省は内臓を生で食べないよう呼びかけている。それでも塩辛にするなら、作ったあとに冷凍を通してから食べる。炒め物にするなら、70℃以上(60℃なら1分)の加熱という厚生労働省の基準を目安に、中までしっかり火を通す。ゲソは天ぷらや唐揚げに向き、生で食べる沖漬けにするなら、これも冷凍を通してから食べる。料理の話はこの記事の最後で渡す。
▶ 日本さばけるプロジェクトの動画(えんぺら・下足)。2:15から目の上に包丁を入れてわたを取り、2:27でくちばし、2:37で目を取っている
手順⑦ 刺身は縦に切る:繊維を断つとやわらかい

切る前に、1つだけ決めておけ。今日食べるか、寝かせるかだ。
■ 今日食べる分 → この見出しの切り方で切る
■ 寝かせる分・生で安心して食べたい分 → 切らずに柵(刺身に切る前の身のかたまり)のまま冷凍する
厚生労働省が事業者向けに示している冷凍の条件は、−20℃で24時間以上だ。家の冷凍庫が−20℃まで冷えているかは機種と扉の開け閉めで変わるので、俺は48時間置いている。ただ、時間を延ばせば温度の不足を補えるという根拠は無いから、温度計で確かめるのが確実だ。このブログの冷凍の教えでは、凍らせると身の繊維がほどけて、ねっとりした甘みが出る。冷凍の手順と解凍の仕方は、こっちにまとめてある。
ここからが切り方だ。向きを間違えると、ここまで丁寧に剥いた身が硬くなる。
イカの身の繊維は胴に対して横向きに走っている。縦に包丁を入れれば繊維が切れて食べやすくなり、横に入れれば繊維が長く残って歯ごたえが立つ。
⑥で書いた皮の繊維(体の軸に沿う)とは別物で、こっちは身(筋肉)の繊維の話だ。Honda釣り倶楽部の刺身の解説は、繊維は胴体に対して横向きに通っていて、縦方向に包丁を入れると繊維が切断されて食べやすくなると書いている。ここで言う縦は、胴の先(エンペラの端)からゲソ側へ向かう体の軸の方向だ。開いた胴を、体の軸と同じ向きに細長く切っていけば、横に走る繊維を1本ずつ断つことになる。逆に横に切れば、繊維に沿って包丁が進むので、1切れの中に長い繊維が残る。
■ やわらかく食べたい → 縦に切る(体の軸と同じ向き)
■ コリコリした歯ごたえが欲しい → 横に切る(繊維に沿う向き)
■ 両方楽しみたい → 皿の上で、縦切りの山と横切りの山を分ける
身が分厚い大きなイカは、隠し包丁(表面に入れる細かい切れ目)を入れてから切るのも手だ。Honda釣り倶楽部の刺身の盛り合わせでは、格子に入れる場合の刻み幅を5〜6mmにし、巻き込む切り方では身の厚さの3分の1まで包丁を入れている。
エンペラも刺身になる。付け根の側は歯ごたえが強くて、胴とは違う食感が楽しめる。薄く切って胴と並べておけ。
外したゲソ、肝、墨袋、剥いだ皮は、刺身以外の料理で使い切れる。部位ごとの行き先はここだ。
まとめ:7つの順番で、刺身まで台所を汚さない

今回の講義はここまでだ。
アオリイカの捌き方で失敗する原因は、腕じゃなく順番だ。墨袋を最後まで破らない順番で進めれば、刺身まで台所は汚れない。
■ ① 胴のまん中に、刃先が甲に当たるまで包丁を入れて、透明な甲を抜く
■ ② ゲソと内臓は、身とのくっつきを指ではがしてから一緒に外す
■ ③ 墨袋は身から離して、袋から伸びる管をつまんで抜く
■ ④ 洗うのは内臓を外した直後の1回だけ。あとは紙で拭く
■ ⑤ エンペラと外皮を剥がし、えりの軟骨をそぎ取る
■ ⑥ 薄皮は乾いた紙でこすって剥ぐ(残すと硬い)
■ ⑦ 寝かせる分は柵のまま冷凍し、今日食べる分は縦に切って繊維を断つ
この7行を台所に貼っておけば、次のアオリイカは迷わない。
よくある質問(FAQ)
理屈っぽいお前らが抱きそうな疑問に、先回りして答えておくぞ。
Q1. アオリイカは刺身で食べられますか? アニサキスは大丈夫ですか?
A. 結論:刺身で食べられる。安心して食べたいなら、柵のまま一度冷凍してからだ。 厚生労働省は、アニサキスはイカなどの主に内臓の表面に寄生していて、時間が経つと身に移動することがあると説明している。だから新鮮なうちに内臓を外し、身を目で見て、生で食べる身は−20℃で24時間以上凍らせる(俺は家の冷凍庫で48時間置く。温度は温度計で確かめろ)。一般的な料理で使う程度の酢や塩漬け、醤油やわさびではアニサキスは死なない、とも書いてある。
Q2. 捌いた刺身は冷蔵庫で何日もちますか?
A. 結論:俺は冷蔵なら翌日までに食べ切る。それより先に回す分は冷凍だ。 紙とラップで包んで冷蔵庫で寝かせる人もいるが、家庭の冷蔵庫で生のイカを3日も4日も置くと、甘みが増す前に傷みのほうが進む、というのがこのブログの考えだ。寝かせて甘みを出したいなら、柵のまま冷凍して、食べる半日くらい前に冷蔵庫へ移してゆっくり戻す。
Q3. 包丁を使わず、キッチンバサミだけで捌けますか?
A. 結論:胴を開いて内臓と墨袋を外すところまではハサミでもできる。皮と刺身は包丁でやれ。 胴を開くのも、ゲソと内臓を切り離すのも、刃先を身の奥まで入れなければハサミで足りる。ただ、外皮を剥ぐときの切れ目と、刺身を縦に細く引く作業は、よく切れる包丁のほうがきれいに仕上がる。
Q4. 墨袋を破ってしまったら、身はどうすればいいですか?
A. 結論:身に付いた墨はキッチンペーパーで拭き取れ。水に浸けて洗い流さない。 墨は水の中で広がるうえ、浸けると身が水も吸う。拭き取れない所だけ、さっと流してすぐに拭く。破れた袋の墨は、肝と混ぜて黒作りという塩辛にできる。ただし肝は生で使うので、作ったあとに冷凍を通してから食べろ。
Q5. キロアップ(1kgを超える大きさ)のアオリイカは、刺身だと硬いですか?
A. 結論:硬さを大きく左右するのは、薄皮と切る向きだ。 大きいイカほど身が厚く、皮もしっかりしている。薄皮を裏表とも剥ぎ、隠し包丁を入れて、縦に切る。それでも硬いと感じたら、一度冷凍して繊維をほどいてから切ると食感が変わる。天ぷらや炒め物に回すのも手だ。
締めて、冷やして、捌いて、切る。釣り場から台所までが1本の線でつながれば、アオリイカは最後のひと手間でも裏切らない。
包丁を研いでおけ。次の1杯は、捌くところまでがお前の腕の見せ所だ。
このブログでは、エギングの「なんとなく」を一つずつ物理で解体していく。役に立ったならフォローしておけ、損はさせねぇ。
またな。