
私はBOUKOU罪に問われているかもしれない
「では、以前の話に移る。一度目は、いつだったんだ?」
薄暗い部屋。高い位置の窓。真ん中にテーブル。
向かいに座った刑事が言った。
どうやら私は、何かの容疑でここにいるらしい。
「えっと……それは…朝。そう、朝です!朝起きてすぐ…
どうしても耐えられなくて…
でも、人間なんて、みんな、そういうものじゃないんですか…?」
返事はない。
「次は?ニ度目は?どうなんだ?」
畳みかけるように刑事が言う。
「ニ度目…あれは確か…
娘の運動会が終わって、家に帰った後でした。
少なくとも一度目の6時間以上後ですね…
家に帰ったら、急にその衝動に駆られて…」
「6時間で二度? 信じられない…どういう神経してんだ…」
「これが罪になるんですか?どう罪になるって言うんです?」
「何言ってんだ!これは、歴としたBOUKOU罪だ!
本能が壊れてるよ!あんた!」
うわ、もしかして、私 (僕/うち/俺/わし、お好きな一人称をどうぞ)、ヤバい人のことフォローしちゃってるんじゃね…?
そう思った方。
ご安心あれ。
ikoma は法に触れるようなことは一切いたしておりません。
ただ。
BOUKOU罪には問われているようです。
ちょっと深刻気味です。
BOUKOUって、暴行じゃないの?
本能がぶっ壊れて暴走して、その衝動が止められなくて、暴れまくってるんじゃないの?
違います。
じゃあ、なんなんですか!
一度しか言いませんよ?
BOUKOUは、膀胱です。
だから、BOUKOU罪です。
…はぁ???
ワタクシ ikoma、少し前までは「お手洗いが遠い」人だった。
朝起きたときに1回。
昼に1回。
そして夕方に1回。
お風呂入る前に1回。
小さな旅に出る回数は、多くても1日に6回だった気がする。
外出先で、夫が「ちょっとトイレ」というタイミングでも、私は「じゃあ待ってるね」という方が多かった。
自分のBOUKOUには自信があった。
【事例1:冒頭陳述のケース】
ーー娘の小学校の運動会の日。
朝5時半に起きて、お弁当を作り始めた。
夫は7時頃、場所取りのため、正門へ並びにいく。
そして準備体操が始まる9時過ぎ頃、学校へ。
運動会中、トイレは体育館。
出番前の子どもたちが並ぶ場所でもある。
私は娘のトイレの付き添いついでに、
「次出番の人優先ね」なんて、子どもたちの列を軽く仕切ったりしていた。
その間も、私のBOUKOUは気配すら見せずに沈黙していた。
実にできたやつだ。
家に帰り着いたのは、15時過ぎ。
そこでやっと、私のBOUKOUはその任務に戻った。
あ。
ここで一つ、訂正。
冒頭陳述では、家に帰ってからが二度目だと書いた。
でも実際は、家を出る前の9時頃、二度目を済ませていたと思う。
さすがに朝5時半から午後3時まで沈黙し続けるBOUKOUはヤバい。
だから正確には、午前9時から午後3時過ぎ。
これが私のBOUKOUが沈黙していた時間。
約6時間だ。
【事例2】
ーー夫の実家に集まった日。
14時から滞在し、食事の支度から片づけまで、口も体も動かし続けた。
そして帰り、最寄り駅のホームで、ようやく私のBOUKOUが主張する。
その刻、午後8時半。
やっぱり、6時間強。
私は、そんな私のBOUKOUの懐の広さに、たぶん頼り過ぎていたのだ。
私のBOUKOUは何も言わず、私の行動の邪魔にならないように、自分を押し殺していたのかもしれない。
「今は私の出る幕じゃない。今私が主張したら、この人のリズムが狂ってしまう。」
私は、そんな私のBOUKOUの優しさに気づくこともせず、ただただ甘えていただけだった。むしろ、それを私自身のスペシャルスキルのように考え、ドヤ顔すら浮かべていた。
私がもし、BOUKOUの立場だったら…きっとキレちらかしていることだろう。
私だって生きてるんだ!
私はここにいるんだ!
重要な役割を担ってんだ!
お前一人で生きてると思うなよ!
夢の中ですら、私のことを気遣い、体と脳との連携を断ち、SOSOUのない形を取ってくれていたのに。
私は、そんな健気な私のBOUKOUを、ずっとないがしろにしてきたんだ。
そんな私が、罪に、BOUKOU罪に問われるのは当たり前だ。
至極真っ当だ。
私のBOUKOUは、ついに堪忍袋の緒が切れたのだ。
そう。
BOUKOU罪を犯した私は今、「1時間ほどでトイレに行きたくなる」という刑を受けている。
朝起きて1回。
1時間後、もうすでに行きたくなる。
でも、ネットには「我慢しろ」と書いてある。
なんとか2時間経つまで我慢すると決める。
いや、もう我慢の限界だ。
時計を見る。1時間半経っている。
いいや、もう1時間半で。
毎日それを繰り返している。
そして当然。
寝ている間も、刑の執行は続いている。
朝4時半。
だいたい、いつも同じ時刻だ。
執行官は時間に厳しいらしい。
刑の執行が始まってから1週間ほど経った頃。
私は少しリズムを感じた。
どうしたって日中の衝動の方が多い。
夕方から夜にかけては、わりとBOUKOUの主張は穏やかな気がする。
もしや、朝のコーヒーか?
カフェインが私の刑を加速させている?
そう思った私は、今朝コーヒーを飲むのをやめてみた。
起きて1回の後、1時間が経った。
BOUKOUはまだ落ち着いている。
よし!
朝のコーヒーは、ここ数年の私にとっては癒しの一杯だった。
それがないと朝が始まらない。私の朝を創る大切な要素だった。
でも。
私はそれまで、BOUKOUの尊厳を傷つけてきたのだ。
そのぐらいの代償、払って当然だ。
BOUKOU罪の刑期は、特に知らされていない。
出先では、まずトイレの場所を確認する。行く機会があれば、とりあえず行っておく。
とにかく誠心誠意、BOUKOUへの謝罪をしていこうと思う。
あの、できれば… 次に映画館で観たい映画が出るまでに…どうか…どうか…
BOUKOU様… 怒りを鎮めたまえ…