
納豆王の茨の道 第1章 「いわて大陸」ロケ始動!~納豆売場の即興ライブ~
「納豆チャンピオンへの道」(全21章)が完結してから3か月が経ち、「海外旅行失敗談集」(全23話)もひと段落ついたので、そろそろ納豆王の続編をスタートします。
初めてこの記事に辿り着いた方は、理解度を深めるために、「納豆チャンピオンへの道」のマガジンを読み始めることをお勧めします。
なお、今回の続編の主な内容は前編の最終章で「予告編」を紹介しています。
もうひとつのオファー
2000年12月8日(金)
IBC岩手放送で、翌日放送予定の「TVチャンピオン」の番組宣伝のため、生放送のラジオに出演をした。
実はこの日、僕は、もうひとつテレビ出演のオファーを受けていた。
IBC岩手放送が当時制作していた情報番組「いわて大陸」。
ラジオ出演を終えた僕に、番組のディレクターが声をかけてきた。
「納豆王が、岩手の納豆を紹介する番組を作りませんか?」
「えっ……岩手の納豆ですか?」
思わず聞き返した。
テレビ東京の「TVチャンピオン」で全国の納豆について語ったとはいえ、僕は岩手県内の納豆事情を全て知り尽くしていたわけではなかった。
「でも、僕一人で紹介できるほど、岩手の納豆の知識はあまりないですよ」
少々腰が引けていた。
するとディレクターは、すぐに別のアイデアを出してきた。
「それでは、当局のアナウンサーと一緒に、
岩手の納豆を探す旅番組というのはどうでしょう?」
なるほど。
一人で納豆を語るのではなく、二人で岩手を旅しながら、納豆を探していく。
それなら、僕にもできそうだ。
「それなら、協力できそうです」
その時、思い付きでこちらかも一つ提案した。
「ちなみに……納豆の歌を歌っている盛岡の人を、紹介していいですか?」
実は「TVチャンピオン」に出場する前から、「納豆開発委員会」というサイトを運営していて、僕は全国のメンバーから納豆情報を集める活動を展開していた。
その中で知ったのが、盛岡で音楽活動をしていたシンガーソングライター、田口 友善さんだった。
納豆を題材にした歌を歌っていた。
納豆王としては田口さんにぜひとも会いたかった。
「いいですね!
ぜひ紹介させてください」
ディレクターも即答だった。
そこから話は、まるで納豆の糸のように(笑)、するするとつながっていった。
岩手の納豆を探す旅が即決した。
ロケは12月23日(土)
クリスマスイブを目前にして、僕は「納豆王」として、岩手県内を駆け巡ることになった。
真冬の盛岡・高松公園にて
当日の朝8時。
待ち合わせ場所は、盛岡市にある高松公園だった。
この日の盛岡は晴天。
気温はマイナス1℃。
冬の盛岡としては、むしろ「今日は暖かい」と思える朝だった。
白い息を吐きながら待っていると、一台の車がやってきた。
カメラマンと一緒に降りてきたのは、IBC岩手放送の若手男性アナウンサー。
「はじめまして。
今日はよろしくお願いします」
僕が挨拶すると、
「はじめまして。
IBCの大沢です」
そして、そのまま話を続けた。
「いやぁ~、納豆王と仕事できるなんて光栄です!」
こちらが恐縮してしまうほどの歓迎ぶりだった。
聞けば大沢さん、局内でも有名な大の納豆好きらしい。
しかも、「TVチャンピオン」も、テレビにかじりついて見ていたという。
これは頼もしい。
今日の旅は、かなり期待できそうだ。
公園の池のほとりにある東屋に腰を下ろし、大沢さんが一日のスケジュールを説明した。
「まずは、ここから産直のお店へ行きます」
「はい」
「そこで岩手の納豆を紹介して……」
「いいですね!」
……と、打ち合わせをしていると、ふと気がついた。
カメラが既に回っていた。
そう。
この時点ですでに本番だった。
テレビ東京のように「ここから本番です!」という感じではない。
打ち合わせも移動も、全部が番組の素材。
ほぼ一発撮り。
こうして僕と大沢アナウンサーの、岩手・納豆珍道中が始まった。
いざ「岩手の納豆売場」へ
最初に向かったのは、盛岡市内の産直のお店。
午前9時の開店に合わせて店内へ入った。
まだ開店したばかりの店内には、新鮮な野菜や農産物が並んでいる。
そして、僕たちが向かったのは――もちろん、
納豆売場。
「ありました!」
大沢さんが、まるで宝物でも発見したような声を上げた。
そこに並んでいたのは、岩手県産の納豆。
その中で僕たちは二つの納豆を紹介した。
ひとつは、盛岡市の丸勘商店「盛岡納豆」。
そしてもうひとつが、遠野市の山口商店「南部納豆」。
「これが盛岡納豆です」
「そして、こちらが遠野の南部納豆」
納豆売場の前で、二人がパッケージを手に取りながら、豆の特徴や味、製造地などについて紹介し、納豆王として、ここぞとばかりに蘊蓄を披露した。
しかし、相手は単なるアナウンサーではない。
納豆好きの大沢さん。
「盛岡納豆って大正10年に、当時の岩手大学農学部の
村松博士が研究開発した納豆ですよね?」
「おっ、さすがですね!」
いつの間にか、納豆談義が止まらなくなっていた。
テレビ番組というより、
納豆好き二人による、納豆売場での井戸端会議。
そんな雰囲気になっていた。
納豆売場で即興ライブ
すると――。
「こんにちは!」
突然、ギターを抱えた片岡鶴太郎似の男性が現れた。
「はじめまして。田口です。
今日はお招きいただき、ありがとうございます」
来た!
待ってました!
盛岡のシンガーソングライター、田口友善さんの登場に、
一人で興奮してしまった。
「はじめまして。『納豆王』の蒲生です」
そして僕は、いきなり本題に入った。
「早速ですが……『Rock納豆ちゃん』を聞かせてください!」
田口さんは、一瞬驚いたような顔をした。
「わかりました」
そして、ニヤリ。
「しかし、さすが納豆王ですねぇ。
よくこの歌をご存じで!」
「もちろんですよ」
僕は胸を張った。
「東北地方に住む『納豆開発委員会』のメンバーから情報をもらって、
すでにCDも買いました」
「ありがとうございます!」
田口さんがギターを構えた。
すると、店内にいたお客さんたちも、
「何が始まるの?」
と、少しずつ集まってきた。
カメラも回っている。
僕も大沢さんも、もう後戻りはできない。
そして始まった。
納豆売場の前で、突然のミニライブ!
ギターの音が店内に響き、買い物に来ていたお客さんまで巻き込んで、ちょっとしたイベントになってしまった。
IBCからの呼びかけにより、田口さんが途中で合流することになっていたが、まさかここで即興ミニライブが始まるとは思いもしなかった。
これが地方ロケの面白いところだった。
テレビ東京の「TVチャンピオン」とは、まったく違う。
あちらが全国大会のような緊張感なら、こちらは、
「みんなで一緒に楽しもう!」
という岩手らしい温かさがあった。
地方のローカル局のロケって、こんなに楽しいんだ。
カメラが回っていることさえ忘れてしまうほど、現場は和気藹々。
納豆を語り、納豆を探し、納豆の歌まで聴く。
こうして僕の「いわて大陸」の旅は、最高のスタートを切った。
――さて、この先、僕たちは岩手のどんな納豆に出会うのか。
そして、納豆王を待ち受けていた「次なる納豆」は……。