
観葉植物の肥料は、月ではなく気温で始めます
「肥料は、いつから始めればいいですか。」
春先になると、店先でいちばん多くいただくご相談です。多くの方はカレンダーをめくり、「暖かくなってきたから、そろそろ肥料をあげよう」と考えます。しかし、日付だけで判断して与え始めると、かえって株を弱らせてしまうことが少なくありません。
肥料を始める時期は、月ではなく、最低気温で決まります。
枯れるのには、必ず理由があります。
植物が肥料を必要とするのは、根が活発に動いて栄養を吸収できる環境が整っているときだけです。その合図を見落としたまま肥料を与えても、根はそれを食べることができません。
なお、この記事でお話しするのは、土に植わった鉢植えの観葉植物についてです。水栽培やハイドロカルチャーの管理は前提が異なりますので、今回は室内で育てる土の鉢に絞って進めてまいりましょう。
① 始めるのは5月ではなく、最低気温15度からです

「肥料は何月から与えればいいですか」という問いに対して、園芸の解説では「5月から」と書かれているのをよく見かけます。
メーカーの資料(ハイポネックスジャパン「Plantia」)を開くと、次のように書かれています。
「最低気温が15度以上になる5月から10月にかけてが観葉植物の生育が活発になる時期」
ここで注目していただきたいのは、資料が「5月」という月名の前に「最低気温が15度以上になる」という条件を置いている点です。月は結果のほうです。条件は、あくまで気温の側にあります。
同じ5月であっても、地域や建物の構造、鉢を置いている部屋によって室温はまったく異なります。まだ肌寒い日が多い北国と、日差しが強い南国では気温の上昇度が違いますし、同じ家の中でも日当たりのよいリビングと北側の玄関では数度の差が出ます。
資料が書いているのは、その時期に「生育が活発になる」ということです。肥料は、活発に育っている株のためのもの。だから気温のほうが先に来ます。
ここは、カルテに書いておきましょう。肥料を始める合図は、カレンダーではなく温度計の15度です。
資料が書いているのは最低気温です。室内の鉢であれば、私は鉢を置いている場所の温度を見ます。玄関に置いた鉢と、リビングに置いた鉢で、同じ日の朝に温度が違うからです。
同じ資料は、与えすぎについてこう書いています。「土の中の肥料濃度が高くなり、根から栄養を吸収できなくなるばかりか、根の水分を奪われてしまい、植物を枯らしてしまいます」。株が使わない時期に足せば、残った分が土に留まるわけです。
生長期に入ってからの施肥の基本は、土の上に置く固形肥料——2か月に1回の置き肥——を追肥し、製品の規定に応じた頻度で液肥や活力液を補うことです。とくに春先は、冬の休眠から目覚めて新しい葉や茎をぐんぐん伸ばす時期にあたるため、こまめに様子を見て栄養を届けてあげましょう。
② 終わりは「新芽が出なくなったら」です

始める時期と同じように、「肥料は何月まで続ければいいですか」という疑問もよく耳にします。秋の終わりについても、メーカーの資料は、はっきりした基準を書いています。
「夏を過ぎて気温が下がり、新芽が出なくなったら置き肥を取り除き、1,000倍に希釈をした液肥を2週間に1回」
ここでも基準は日付の側にありません。「気温が下がり、新芽が出なくなったら」という、植物自身の変化に置かれています。
もっとも大切なのは、新芽の動きが止まった段階で置き肥を取り除くという点です。
資料は置き肥を「水やりのたびに少しずつ溶け出す緩効性のある固形肥料」と説明しています。置いたままにすれば、株が使わなくなってからも溶け続けるわけです。だから「取り除く」と書いてあるのでしょう。
秋の気配を感じたら、茎の先端や葉の付け根を観察してください。新しい葉を広げる動きが止まっていれば、それが施肥を切り替える合図です。土の上の置き肥を指でつまんで取り除き、希釈した液肥をごく控えめに与える程度にとどめましょう。終わりを決めるのもまた、カレンダーではなく目の前の鉢の姿です。
③ 冬の肥料は、「薄めて与える」と「与えない」の両方が書かれています

冬の肥料の扱いについては、正直にお話ししておかなければならないことがあります。実は、先ほど引用した同じメーカーの資料(Plantia)の中で、冬の施肥について二通りの記述が存在しているのです。
ひとつ目の記述は、以下のようなものです。
「冬は休眠期となるため、一般的に植物に肥料は与えませんが、室内の暖かい場所で育てている観葉植物の場合は、濃度を薄めた液肥を2週間に1回ほど与えるといいでしょう。」
そしてもうひとつ、同じページにこうも書かれています。
「冬の休眠期に肥料を与えると、肥料焼けを起こして枯れてしまうので、肥料は与えないでくださいね。」
一見すると、与えてよいのかいけないのか、矛盾しているように見えます。ですが、どちらの記述も植物の生理としては間違っていません。
後者の記述は、植物の基本的な性質に基づいています。冬の低温下では根の呼吸や吸水活動が著しく低下します。動いていない根に肥料を与えると、土の中の肥料濃度が高くなり、浸透圧によって根から水分が奪われる「肥料焼け」を起こして枯死に至ります。
一方で前者の記述には、「室内の暖かい場所で育てている観葉植物の場合は」「濃度を薄めた液肥を」という厳密な条件が付いています。暖房設備が整った現代の住宅では、冬場でも室温が20度前後に保たれ、植物が休眠に入らず新芽を伸ばし続けるケースがあります。そうした活動中の株に対してのみ、ごく薄い液肥を補う選択肢があるということです。
では、ご家庭の鉢の前でどう判断すべきでしょうか。私の答えは明確です。
迷ったら、冬は肥料を与えない。
——ええ、枯らしました。堂々と枯らしました。
冬に元気のない鉢を見ると、つい栄養をつけたくなります。ですが資料のほうは、弱った株についてはっきり書いています。「弱っている原因が、根が傷んでいるせいだとすると、肥料を与えるのは逆効果」。順番が逆なのです。
植物は、栄養が足りないだけなら数週間で枯れることはありません。しかし、休眠中の根が肥料焼けを起こせば、あっという間に傷んで手遅れになります。足りなくて枯れる速度よりも、多すぎて枯れる速度のほうがはるかに速いのです。
弱った原因が根腐れか水切れかを、土を触って切り分ける手順は、こちらのカルテにまとめています。
室内の温度管理に絶対の自信があり、新芽が勢いよく動いている場合を除いて、冬は一切の肥料を止めるのが安全です。
④ 固形と液体は、どちらが良いかではありません

店頭で受けるもうひとつの大きな質問が、「固形肥料と液体肥料、どちらを買えばいいですか」というものです。
はっきり書いておきます。固形と液体の違いは、効き方の違いです。
肥料には大きく分けて3つのタイプがあり、それぞれ役割が異なります。
■ 元肥(もとごえ) → 植え付けや植え替えのときに、あらかじめ土に混ぜ込んでおく肥料です。ゆっくりと長く溶け出す緩効性のものが使われ、代表的な製品である「マグァンプK 大粒」のように、約2年間にわたって効果が持続するものもあります。
■ 置き肥(おきごえ) → 植え付けた後、土の表面近くに置く固形の追肥です。水やりをするたびに少しずつ成分が溶け出します。与えるときは、根に直接触れないように鉢の縁寄りに置くのが原則です。
■ 液肥(えきひ) → 市販の原液を水で規定倍率に薄めて与える液体肥料です。水やり代わりに注ぐと、根からすぐに栄養を吸収できる速効性が最大の特徴ですが、効果の持続性はありません。
どれかひとつで済ませる、という性質のものでもありません。
元肥を混ぜ込む植え替えそのものは、月ではなく株のサインと気温で時期を決めます。こちらのカルテにまとめています。
生育期に入ったら、まずは2か月に1回のペースで土の上に置き肥をセットします。これで植物が基礎的な栄養を少しずつ補給できる土台を作ります。そのうえで、新芽を力強く伸ばしたい春先や初夏に、規定どおりに薄めた液肥を補助として投入する。これが最も無理のない組み合わせです。
それぞれの持続時間と効く速さを理解しておけば、売り場で迷うことはなくなります。
元肥に使うマグァンプKについては、メーカー自身が使い方の動画を出しています。
売り場で現物を見てから決めるのがいちばんですが、近くに園芸店がない方のために、私がいつも例に出す2つを挙げておきます。役割が違うので、いま必要なほうだけで足ります。
植え替えの予定があるなら元肥を。いま育っている鉢に足したいなら置き肥を選んでください。
⑤ 100均の棚に「観葉植物の肥料」があります

肥料の基本が分かったところで、身近なお店の棚に目を向けてみましょう。100円ショップの園芸コーナーにも、手頃な肥料がたくさん並んでいます。
ダイソーには「観葉植物の肥料 230g」という商品があります。表には「室内でも使える」「有機肥料で観葉植物を元気に!」と書かれています。
ところが、この袋をひっくり返して、裏面にある「肥料の品質の確保等に関する法律に基づく表示」を確認すると、少し意外な事実が見えてきます。
■ 材質:茶殻、コーヒー殻
■ 肥料の種類:堆肥
■ 肥料の名称:えいようくん
■ 成分:窒素全量 4.3%/りん酸全量 7.4%/加里全量 6.2%
■ 使い方:1か月に1度、1株あたり小さじ1杯
名前に「観葉植物の肥料」と大きく印刷してありますが、法律上の分類は「堆肥」です。材質の欄にあるのは、茶殻とコーヒー殻です。
さらに、袋の注記にはこう書かれています。
「全体が白く覆われる場合がありますが、有機分解菌(放線菌)の胞子によるもので、使用に影響はありません。」
資料のほうにも、有機肥料は「土の中の微生物が肥料を分解して発酵し、植物が吸収する」と書かれています。袋の注記は、その分解が進んでいる姿の話でしょう。
ですが、事情を知らずに見れば「土にカビが生えた」と思います。慌てて鉢ごと捨てた、という話も聞きます。土に生える白カビの正体や対処法については、土のカビのカルテで詳しく整理しています。
コバエのほうも同じで、資料は有機肥料について「コバエなどが発生しやすく、においがあるものも多い」と書いています。室内のコバエを徹底して防ぎたいときの土選びは、虫がわかない土のカルテにまとめました。
——まあ、気持ちはたいへんよく分かります。「観葉植物の肥料」と書かれていれば、誰だってそれを手に取りたくなるものです。しかし、袋の表の名前と中身の性質は、少し立ち止まって確認する必要があります。
⑥ 室内向きの化成肥料は、「化成肥料」という名前で並んでいます

同じダイソーに、もうひとつ「化成肥料 350g」という商品があります。
こちらも裏面の表示を見てみましょう。
■ 材質:化成肥料
■ 肥料の種類:化成肥料
■ 肥料の名称:三福化成特8号
■ 保証成分量:アンモニア性窒素 8.0%/可溶性りん酸 8.0%(内水溶性りん酸 5.5%)/水溶性加里 8.0%
■ 商品説明:「野菜・草花・観葉植物・花木など様々な植物の追肥に」
■ 使い方:植物1株あたり20g〜30g。元肥なら直接根に触れないように埋め込み、追肥なら少し間隔を置いて施肥。
資料の言い方を借りれば、「生物に由来しない、さまざまな鉱物を分解して作った肥料」です。三要素が 8.0%ずつ並んでいます。商品の説明欄には、野菜や草花と並んで「観葉植物」の文字もしっかり入っています。
ここで、最初のメーカー資料(Plantia)の記述を思い出してください。有機肥料と化成肥料の比較について、資料には次のように書かれています。
「化成肥料は…汚れにくく、においも少ないことからコバエなども発生しにくく、室内で育てる観葉植物に向いています。」
「有機肥料はコバエなどが発生しやすく、においがあるものも多いので、観葉植物に使う場合は注意が必要です。」
ここに、100均の棚の興味深い現実があります。
表に「観葉植物の肥料」と書かれている袋は、コバエや白カビに注意が必要な有機堆肥です。そして、資料が室内に向いていると書いている化成肥料のほうは、「化成肥料」という名前で並んでいます。
これは、どちらかの製品が悪いという話ではありません。どちらの表示も、法律に基づいた正確なものです。 名前と中身がずれているのでもありません。「観葉植物の肥料」は観葉植物に使う堆肥で、表示のとおりです。ただ、室内で使うかどうかという物差しを当てると、資料の勧めは別の袋を指している。それだけの話です。
大切なのは、裏の「肥料の種類」の欄を読んでから選ぶことです。室内で、虫やにおいを気にせず育てたいのであれば、裏を見て「化成肥料」と書かれた袋を取る。それだけで、選び方はずいぶん楽になります。
袋の裏を読んで選ぶのは、土も同じです。100円ショップの土の選び方は、こちらのカルテで並べています。
⑦ まとめ — 私の答え

観葉植物の施肥で迷ったときは、次の手順を思い出してください。
■ 始める時期 → 最低気温が15度を超えてから
■ 生育期の管理 → 2か月に1回の置き肥をベースに、規定の液肥を補助として
■ 終わりの合図 → 秋に新芽の動きが止まったら置き肥を取り除く
■ 冬の管理 → 迷ったら肥料を与えない
そしてもうひとつ、どうしてもお伝えしておきたいことがあります。葉の色が悪くなったり、元気がなくなったりしたときに、慌てて肥料を与えてはいけません。
弱っている株には肥料を与えない。これもまた、絶対に外せない原則です。
植物の調子が悪いとき、原因の大半は根の傷みや水やりの過不足、日照不足にあります。胃腸を壊して倒れている人に、ステーキを食べさせてはいけません。根が弱っているところに濃い肥料分を注ぎ込めば、吸えないばかりか水分を奪われ、トドメを刺すことになります。環境を整えて新しい葉が動き出すまでは、水だけで静かに見守るのが正解です。
三十年、この商売をやってきました。店に持ち込まれる鉢でいちばん多いのは、良かれと思って足しすぎた株のほうです。栄養が足りずに参った株は、めったに来ません。
ここは、カルテに書いておきましょう。肥料は薬ではなく、元気なときのご飯です。
FAQ
Q1. 肥料は何月から与えればいいですか。
A. 結論:最低気温が15度を超えてから与えます。 一般的には5月頃が目安とされますが、お住まいの地域や部屋の温度環境によって時期は前後します。暖かくなって新芽が活発に動き出してから与え始めてください。
Q2. 固形と液体は、どちらがいいですか。
A. 結論:効かせたい期間で使い分けます。 2か月ほどゆっくり効かせたいときは土の上に置く固形肥料(置き肥)を使い、水やりと一緒に今すぐ栄養を行き渡らせたいときは規定倍率に薄めた液体肥料を選びます。
Q3. 冬に肥料は必要ですか。
A. 結論:暖房で常に暖かく新芽が動いている環境を除き、原則として必要ありません。 植物が休眠している冬に肥料を与えると、根から水分が奪われて「肥料焼け」を起こし枯れる原因になります。冬場は肥料を止め、水やりも控えめにして春を待ちましょう。
Q4. 100均の肥料でも大丈夫ですか。
A. 結論:品質に問題はなく使えますが、室内の鉢には「化成肥料」と書かれた袋をおすすめします。 100円ショップの「観葉植物の肥料」には茶殻などを原料とした堆肥タイプがあり、室内ではにおいやコバエ、白い放線菌が出やすくなります。袋の裏を見て「化成肥料」と表示されたものを選ぶと快適に管理できます。
Q5. 元気がないので肥料をあげたいのですが。
A. 結論:弱っているときの肥料は逆効果になるため、絶対に与えてはいけません。 植物が弱っているときは根が傷んでいる場合が多く、肥料を与えるとさらに根を傷めて枯死につながります。まずは置き場所や水やりの頻度を見直し、新芽が再び出始めるまで肥料は控えてください。
肥料は、光と風と水という土台が整ったところに、そっと足すものです。土台のほうが傾いているときに足しても、効きません。
まずは今夜、お部屋の温度計を眺めることから始めてみてください。
では、よい緑を。