メインコンテンツへスキップ
見出し画像

犬は、電柱をたどって帰った

    画像

    その夏、テレビで、記憶をなくした人の話を見ました。

    その人は、もともとラーメンをよく食べていたそうです。記憶をなくしたあと、ラーメンを食べたことをきっかけに、少しずつ思い出が戻っていったと紹介されていました。

    画像

    匂いと記憶は結びついている。
    そういう話は聞いたことがありましたが、ひとつの匂いから記憶が戻っていく話を見ていると、少し不思議でした。

    その話がまだ頭に残っていた翌日、今度は犬の番組を見ました。

    画像

    自宅から五キロほど離れた知らない土地へ連れて行かれた犬が、自分の力で家へ帰れるかを追っていました。

    犬は、はじめのうち、何も考えていないように見えました。
    散歩でもしているようにのんびり歩き、しかも家とは反対の方向へ進んでいきます。

    ところが途中で、ふと足を止めました。

    電柱でした。

    画像

    そこに知っている匂いがあったらしく、そのあと、歩き方が変わりました。

    ひとつの電柱へ行く。
    匂いを確かめる。
    また次の電柱へ行く。

    そうやって電柱から電柱へ移りながら、少しずつ家のほうへ向かっていきました。
    少なくとも、そう見えました。

    画像

    犬は無事に、家に着きました。
    そのあとしばらく、道を歩くたびに電柱が気になりました。



    ・・・近づいてみても、私には何も分かりませんでした。

    画像




     
     
    日常の小さな違和感や夢の断片を、答えではなく「問い」に変えるエッセイを書いています。景色やものの働きを比喩として借りながら、意味を決めつけず、内側の動きを見つめます。読んでくださった方にとって、自分の感覚へ少し戻れる時間になれば嬉しいです。

    あなたへのおすすめ