
犬は、電柱をたどって帰った

その夏、テレビで、記憶をなくした人の話を見ました。
その人は、もともとラーメンをよく食べていたそうです。記憶をなくしたあと、ラーメンを食べたことをきっかけに、少しずつ思い出が戻っていったと紹介されていました。

匂いと記憶は結びついている。
そういう話は聞いたことがありましたが、ひとつの匂いから記憶が戻っていく話を見ていると、少し不思議でした。
その話がまだ頭に残っていた翌日、今度は犬の番組を見ました。

自宅から五キロほど離れた知らない土地へ連れて行かれた犬が、自分の力で家へ帰れるかを追っていました。
犬は、はじめのうち、何も考えていないように見えました。
散歩でもしているようにのんびり歩き、しかも家とは反対の方向へ進んでいきます。
ところが途中で、ふと足を止めました。
電柱でした。

そこに知っている匂いがあったらしく、そのあと、歩き方が変わりました。
ひとつの電柱へ行く。
匂いを確かめる。
また次の電柱へ行く。
そうやって電柱から電柱へ移りながら、少しずつ家のほうへ向かっていきました。
少なくとも、そう見えました。

犬は無事に、家に着きました。
そのあとしばらく、道を歩くたびに電柱が気になりました。
・・・近づいてみても、私には何も分かりませんでした。
