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『消えたくなるほど君が好きだ』を語りたいのです

    はじめに

    表題は、テレビプロデューサー・佐久間宣行がプロデュースする8人組アイドルグループ、ラフ×ラフのメンバーである佐々木楓菜(ふーちゃん)がグループの楽曲として作詞・作曲を担当した1曲を指している。

    本稿執筆時点で公式から音源化されている”佐々木先生”曲は「消え好き」を含み4曲。そのどれもが素晴らしい出来映えで大好きなのだが、とりわけこの曲の完成度が出色であり、言葉の選び方・置き方の巧みさをどうしても誰かに伝えたくなってしまった。もちろん偉そうに論評などできる立場ではないことは重々自覚しつつ、言葉をかなりナイーブに取り扱うチリーンの仕事柄もあり(ラフな言葉で良い仕事などない気もするが)、すごいと思ったものをすごいと言いたい、あわよくば界隈の外側に届いたら嬉しいというピュアな気持ちで書いている点をお含みおきいただければ幸いである。

    なおチリーンには音楽についての学問的な知識はまるでないため(五線譜は読めないしコードもまるでわからない)、本稿は詞にフォーカスしている。その辺りに興味のある方は、くらうどべりーさんの記事をご覧いただきたい。

    ちなみにいつかのSHOWROOMでふーちゃん自ら歌詞と歌割りについて解説をしてくれていたが、残念ながらその配信を殆ど見ることができなかった(配信に気づいた時には、最終行の「それでいいんだ」を永松波留(はるるん)がソロで歌うことについて「さすが永松先生」的なことを言っていた記憶だけがある)。言うまでもなく公式見解こそが正解であり、多分に的外れなことも含むとは思われるものの、好きなポイントや感動した表現を自身の解釈や邪推なども交えてつらつらと書いていく。(いちいち「チリーンは個人的にそう思いました」と書いているとキリがないので省略して断定的に書きますが、ここから先は適宜脳内で補完してくださいmm)


    前提

    ラフラフYouTubeの人気企画、barもなみんで語られた「女の子がカラオケで歌いたくなる曲」構想を具現化した楽曲となっている。過去の作詞作曲プロジェクト同様に遠藤ナオキ氏(遠藤さん)とのタッグによって完成し、その制作過程もYouTubeで公開されている。

    チリーンのような音楽素人にも大変面白い(interestingの意)内容になっている。動画中にもあるように、この曲のテーマは女の子目線の失恋ソング。「気づいて欲しいって言ったり、気づかないでって言ったり」が重なり合う心の内を表現している。初見でこの動画を見た時に「量子みたいだな」と思ったチリーンは絶望的に乙女心の機微に疎い。

    ちなみにbarもなみんの方は齋藤有紗(ありさ)が泥酔サックスを披露した伝説回でもあり、その後の3rdアニバーサリーライブへの大掛かりな伏線の起点になった。伏線云々を抜きにしても、エンタメとして普通に面白い(funnyの意)ので合わせてご覧いただきたい。


    1番

    君の夢を見たんだ

    「夢十夜」を思わせる書き出し。主人公の独白で物語が始まる。

    「君」との関係性が希薄であれば、夢に見ることはないだろう。なんらかの特別な感情を抱く関係性であることが冒頭から提示される。

    夢の中でも君は
    常に私の視線を奪うズルい人だった

    すぐさま、特別な感情の正体が恋心であることが明かされる。そして「ズルい」という表現。シャ乱Q「ズルい女」をはじめ、思うようにならない恋愛対象を形容する際にしばしば用いられる。消え好きにおいては、主人公が片想いをしていること、そしてその想いが実ることはどうやらなさそうだ、と暗示する効果を果たしている。「ズルい」の一言で、詞全体のベースの世界観とこれから物語が向かっていく方向性が規定される。

    君の夢を見たんだ 夢の中でも私は
    あなたの完璧なお友達を演じていたよ

    1回し目と同じ構造を維持しつつ、「君」と「私」を対比させる形で話が展開される。ただの友達ではなく「『完璧な』『お』友達」を演じているらしい。「完璧な」というワードからは、見込みの薄い片想いが露見して傷ついてしまうことを強く恐れ噯にも出すまいと気を張っている様子が伺え、主人公が極めて繊細で臆病な性格であることが分かる。「お」友達とすることで、友達と言い切ることにすら若干の抵抗があるような、やはり控えめで自分に自信のない印象が伝わってくる。

    普遍的な意見でないことを承知で言うと、チリーンはこのパートで阿部真央の「貴方が好きな私」を連想した。愛する人に捨てられないように、ただ愛されたい一心で「貴方が好きな私」を演じ続ける主人公の歌である。

    「貴方が好きな私」がわたしを殺してく
    終わりのない迷路を貴方の左手に引かれゆく
    瞬きをするその度に今の私を焼き付けて
    「貴方が好きな私」を今日も
    上手にできたわたしを愛して

    阿部真央「貴方が好きな私」

    相手から愛情を向けられるよう、「貴方が好きな私」を演じる阿部真央。
    相手に愛情を悟られぬよう、「完璧なお友達」を演じる佐々木楓菜。
    恋慕というきっかけと「演じる」というアウトプットのガワが同じなのに、途中の思考と表現のベクトルが真逆になるのが面白いなと感じた。そして(お二人のリアルは当然なんら知り得ない立場ではあるのだが、)メディアを通じて拝見するキャラクターを見るに、ご自身の性格や価値観が投影されたゆえの差分なのかなという印象を抱き、非常に興味深い。あるいは消え好きが”矛盾する感情の重ね合わせ”がテーマの曲だと念頭に置くと、実は両者は表裏一体なのかもな、という気もしてくる。

    話を消え好きに戻す。日本語には「夢想する」という言葉がある。文字通り夢の中で現実離れした空想を描くことを意味する言葉である。しかしながら「私」は、現実から自由に逸脱できるはずの夢の中ですら、現実をトレースしている。それほどまでに、2人の関係性に変化が訪れる余地がないことが示唆される。

    あぁ 初めてなんだこんな気持ちは
    目と目が合うだけで心がギュッてなるよ

    1Aでは
    ・夢の中の出来事を通じて
    ・叙事的に
    ポ厢茳で
    語られていたストーリーが、1Bでは
    ・現実の主人公が
    ・叙情的に
    ポ丝茳で
    感情を吐露している構図になっている。メロが1Aから1Bへと移行していくのに伴い、シーンの描き方も明確に切り替わっていく。

    「目と目が合う」という表現がされている。ほんの僅かな行動を、自身の感情が動かされるトリガーとして描くことは割と良くある。ただ、相手を知覚するルートは何も視覚だけに拠らない。声を聞く、指に触れる、匂いがする、熱を感じる。無限に表現の幅がある。パッと思いつくところで、

    その髪に触れただけで
    痛いや いやでも
    甘いな いやいや

    Official髭男dism「Pretender」

    横にいられると思い出す
    君のドルチェ&ガッバーナの その香水のせいだよ

    瑛人「香水」

    声を聞けば自動的に
    sun will shine

    宇多田ヒカル「automatic」

    とまぁこんな調子で、いくらでも書きようはある。そんな中ふーちゃんが採用したトリガーは「目と目が合う」だった。思えば1Aにも「常に私の視線を奪う」という表現がある。この辺りで、「ふーちゃん自身が割と視覚優位なタイプなのかな?」と思ったりした。ちなみにこの後にも、視覚からのアプローチで感情を捉えようとする表現が出てくる。

    「心がギュッてなる」は言葉遣いとしては幼いが、この場面の表現としてはこれで正しい。むしろ、洗練されていてはいけない。

    こんな気持ちなんて知らなきゃよかったなんて
    君を前にしたら絶対言えないけど

    「ギュッてなる」に続き、実りそうもない恋の苦しみを、これ以上ないほどストレートに、ややもすると野暮ったさすら感じさせるほど赤裸々に描いている。これも「こんな気持ち」は「初めて」だと踏まえると適切な表現。経験したことのない戸惑い・困惑に直面している時に、心の内を小器用に明かすことなどできっこない。例えばこんな風に美しく表現できるほど主人公はマチュアではない。

    あなたが気付かせた恋が
    あなたなしで育っていく
    悲しい花つける前に
    小さな芽を摘んでほしい

    ポルノグラフィティ「ジョバイロ」

    これが「洗練されていてはいけない」と考える所以である。登場するキャラクターと歌詞に矛盾がなく、完全に整合している。

    消えたくなるほど君のことが好きです
    この気持ちの名前本当は知っている

    やっとサビまで来た。まだまだ長くなりそうだ。
    好き「です」。奥手で殊勝な主人公は、敬体で語るに決まっている。やはりキャラクターの歌詞への落とし込みが徹底されている。

    本当は名前を知っていても、まだここでは「この気持ち」。見て見ぬふりをして、心に蓋をしていればこそ「この気持ち」。通して聞いてから振り返ると、サビのこの部分は展開のキーとなる表現が詰め込まれていることに後から気づくことになる。

    消えたくなるほど君が愛おしいよ
    ずっと願ってるよ君の幸せを

    自らの恋を諦め、傍観者としての立場を受け入れたかのようなフレーズ。どうかハッピーエンドを、との願いも虚しく2番に突入する。


    2番

    突然の夕立に困った顔の君は
    背の低い折り畳み傘と一緒に消えていった

    「背の低い折り畳み傘」という切り取り方があまりに秀逸。映像がありありと浮かぶ。「背の低い」は男の子との比較感ではなく絶対値として捉える方が適切だろう。メタ的な解釈になるが、この曲を高身長(公称165cm)のふーちゃんが書いているという事実を踏まえれば、なおさらそう思える。小さくて可愛らしい、俗っぽい言い方をすれば男ウケするタイプの女の子。不測の事態に備えて常日頃から折り畳み傘を持っている女の子と、「困った顔の君」。2人の性格や関係性まで見えてくる。叙事的な表現でありながら、ただ見送ることしかできない主人公の感情も手に取るように想像できる。「背の低い折り畳み傘」の1フレーズだけで、おそらくどの聞き手も殆ど同じように、これだけの広がりのあるイメージを一意に浮かべることができる。こういう「誰でも思い付きそうで、誰にも思い付かない」表現を生み出すのが一番難しい。かなりハイレベルな俳句的な感性というか、夏井先生もベタ褒めするのではないか。「一緒に」はなくても伝わるが、おそらく譜割りの関係で置いた感じだろう。「2人で」だと冗長だし「仲良く」だと幼稚なので、無色透明な「一緒に」ぐらいがちょうどいいチョイス。

    耳をイヤホンで閉じて1人失恋ソング
    悲劇のヒロインになるくらいは許して神様

    失恋ソングの中で失恋ソングを聴いているという入れ子の構造が面白い。聴いているのは消え好きだろうか。「耳をイヤホンで閉じ」は感情を内側にしまい込んでいる主人公自身の姿が無自覚に行動に表出された、ある種のメタファーのようにも感じられる。

    神様への願い、そんなんでいいのか?とツッコミを入れたくなる。本当はもっと望んでいることがある。それでも許しを乞うのは「悲劇のヒロインになるくらい」。徹底して控えめに描き続けることで、切なさがどんどん増幅されていく。

    あぁ 自分にもっと自信が持てたら
    勇気を振り絞って1歩踏み出せたかな?

    たぶん踏み出せないだろう。キャラクターの解像度が高まった今、聞き手は全員そう思わされる。このクエスチョンマークは疑問というより反語に近い。

    夢のまた夢みたいなことを考えてしまうんだ
    現実の自分はだめだめだ センチメンタル

    単なる夢ではなく、「夢のまた夢」。やはり踏み出せそうもないことを主人公自身が一番よく分かっている。現実離れした妄想は、押し寄せる後悔を癒してくれない。それどころか、自己嫌悪を深めてしまう。

    消えたくなるほど君のことが好きです
    この気持ちを声に出来たら
    どんなに楽なのだろう

    1サビと同じく好き「です」「この気持ち」。

    ここも疑問ではなく反語であろう。さらに、「楽だろう」ではなく「楽なのだろう」とすることで、気持ちを声にすることのハードルの高さをより一層際立たせている。モーラの数が限界に近いが、歌詞のニュアンスの表現と歌いやすさ・聞きやすさのバランスがギリギリのところで保たれている。時間をかけて推敲した部分なのかな?という気がする。

    消えたくなるほど君が愛おしいよ
    せめて願わせてね 君の幸せを

    「せめて願わせてね」。失恋が確定したことで、傍観者の立場に身を置くことですら、1サビから更に一歩引くようになっている。ストーリーの進行と主人公の性格を踏まえた心情の変化として全く違和感がない。


    Dュロ

    月の満ち欠けのように君の気持ちが
    カレンダーでひと目で分かったらいいのにな

    Dメロの頭の「月の満ち欠け」、これは神の一手。想い人の感情を視覚的に捉えられたらいいのに、という気持ちを月の満ち欠けになぞらえて美しく表現している、それだけでも十分素晴らしい。漱石が「月が綺麗ですね」と表現したように、恋愛のモチーフとして定番の「月」をうまく用いている、これも素晴らしい。それだけでなく、ここに「月」というワードを置くことで聞き手の想像する場面を自然と夜に切り替えさせているのが巧い。これがあるおかげで「昨晩見た夢の話をしている(=おそらく午前中)1番→失恋した夕方を描いた2番→その日の夜」という時系列が貫かれているように捉えられる。1日のうちに起こった出来事なんだなと無理なく想像することができるようになる。加えて、夜のイメージが前もって頭に浮かぶおかげで、落ちサビの「夜空に消えた」の受け入れ態勢が気付かぬうちに整う。古文における係り結びのような機能をも果たしている。ここに「月」がなかったと想像すると、場面の転換にほんの少しだけ唐突感が生じそうに思われる。詩的な表現が素敵だねという評価に留まらない、1口で4度美味しいめちゃウマポイントだと思っている。どこまでが計算でどこからが偶然か分からないけど、全部意図通りだとしたらあまりに効果的でただただ驚嘆する。

    好きバレすら出来ない私の
    小さくて大きな気持ちに

    好きバレというワードがリアル。その辺のおじさんには絶対書けない。でも秋元康は普通に書きそうで怖い。
    「君」からすれば気づかないほどの、取るに足らない小さな気持ち。「私」にとってはそれが全てと思えるほどの大きな気持ち。相反する形容を並列で繋ぐことで、視点の違いによる捉え方の温度差が残酷なほどに浮き彫りになる。そんな「小さくて大きな」気持ちに、

    お願い、気づかないで

    どうか気づいて、とか書きそうなものを「気づかないで」と来た。”矛盾する感情の重ね合わせ”の真骨頂である。

    歌詞の話から少し外れてしまうが、ここのありさの歌唱が白眉なのはラフり隊(ラフラフのファンネームのこと)全員の意見が一致するところだろう。このパートはありさが地声で適性のある中で限界に近いキーを要求されている(たぶん)。高音に当てるために力を込めて歌った声が、主人公の切々とした心の叫びを表すのにフィットした響きになっているように聞こえる。普段はどちらかと言えば声に感情が乗りにくいタイプの声質のように思っているが、ここは本当に心が動かされる歌声になっていて聞くたびに感動する。


    落ちサビ

    本当は君の隣で笑っていたい
    消えてもきっと気付かれない 自分が嫌になる

    本音とは裏腹な思いを絶唱したことで、却って本当の気持ちをより強烈に意識させられてしまう。抑え続けて来た本心が、ついに堪えきれずポツリポツリと零れ落ちてくる。こういう心境の変化だから、落ちサビがベストマッチとなる。後ろでガチャガチャ楽器が鳴っていて、8人のユニゾンで歌うのではこの歌詞の良さが半減する。物語の展開やキャラクターの設定に留まらず、「聞かれ方」まで含めた世界観の中で最適な歌詞が構成されている。

    こんな私でも好きでいていいですか
    届かない声はそっと夜空に消えた

    基本的に主人公の独白によってストーリーが進行していく中で、明確に「君」の存在を念頭に、「君」に向かって投げかけられた唯一の言葉であるにも拘らず、鉤括弧が付されていないのがいい。チリーンだったら付けてしまうかもしれない。付けると分かりやすくはなるが、若干のわざとらしさ、語りかけてまっせ感がどうしても出る。描出話法の方が圧倒的にさりげない。括弧を付さないことで、あくまで独り言なのです、という体裁をより感じられるし、気持ちを打ち明けることへの恐れや不安のニュアンスも滲んでくる。

    また歌詞から外れるが、ここの藤崎未来(みくちゃん)の歌唱も本当に素晴らしい。ないはずの鉤括弧が歌声によって浮かび上がってくるような感覚を持つ。歌声で表現できるなら、なおさら括弧なんてない方が良い。後工程(レコーディング)のディレクションで、メンバーの歌唱との合わせ技で台詞のように聞かせていく。だから歌詞上は言葉の滑らかさを優先し、あくまで地の文の中で描出話法で書くにとどめておく。ここまで構想にあって、逆算で括弧を付けなかったとしたら本当にすごい(急に語彙が終わる)。

    「好きでいていいですか」がこの主人公の精一杯だろう。付き合ってくださいと言うわけでもなく、そもそも目の前にその人はいない。それでも彼女にとっては決定的な一言。限界まで昂った感情が、「夢のまた夢」とまで言わしめた恋心の告白をとうとうさせてしまった。誰にも聞かれず夜空に消えていったその声は、誰も変えることができない。ただ一人を除いて。

    大サビ

    消えたくなるほど君のことが好きだ
    臆病な恋心 高鳴って募ってく鼓動

    そっと呟いた一言が蟻の一穴となり、ずっと蓋をしてきた生の感情が堰を切って溢れ出してくる。好き「だ」。ついに剥き出しになった思いは、プリミティブに常体で表現される。頑なに「この気持ち」と誤魔化してきた感情に、初めて「臆病な恋心」という名前が与えられる。1サビで「本当は知っている」とした名前。溜めて、溜めて、大サビで解放という王道の流れにカタルシスが止まらない。多少ピッチが甘くてもいいので感情を前面に出してほしいパートだ。

    消えたくなるほど君が愛おしいよ
    こんなに好きなこと後悔させないでね
    君が幸せなら それでいいんだ

    ・こいごko-ro
    ・消えたくなるho-do
    ・好きなko-to
    すべて、o-oの音で韻が踏まれている。(鼓動、もこの意図に含まれる可能性もあるが厳密には異なるので除外)歌ったら口が気持ち良さそうだ。

    「君が幸せならそれでいいんだ」は本心であり、本心ではないだろう。テーマである”矛盾する感情の重ね合わせ”を最後まで貫徹させ、曲はアウトロへ向かう。


    すごすぎます

    自分なりに解釈し言語化していく過程で、あまりにも緻密に、高精度に練り上げられた曲であることに気付き驚かされた。「まだ二十歳なのに」的な枕詞が一切不要なレベルで、単純に言葉を扱う能力がめちゃくちゃ高い。もちろん一朝一夕でこのアウトプットに到達しているわけではないと思うので、そういう意味では納得いくまで拘り抜いてものづくりに向き合えるだけの真摯さと思考の体力も感じる。「このキャラクターがこのシチュエーションに置かれたら、こういう言葉を使うはず」「全体でこういう展開を作りたいから、このパートにはこの言葉を置きたい」という設定や意図がビタビタにハマっている。言い換えれば、聞き手にほんの僅かな違和感すら与えないよう、可能な限りノイズが発生しないような言葉が選択し配置されている。変な言い方になるけど、極めて論理的に正しい作りになっている。だから物語に自然に引き込まれる。それだけでなく、「背の低い折り畳み傘」「月の満ち欠け」「お願い、気づかないで」のようなセンスの部分、エモーショナルな部分も兼ね備えている。だから物語に深く引き込まれる。もちろん、記事中で何度か述べた歌詞と音との調和という観点では、編曲の遠藤さんの力も大いに影響している部分はあると思う。チリーンが失恋ソング大好きニキであることも多少割り引いた方がいいかもしれない。それでも、ロジックとセンスがハイレベルに同居した傑作であることに変わりはないと思う。


    ファンが熱狂する理由と今後の期待

    ちょっとデカめの主語だが、この曲はかなりファン人気が高い一曲だと認識している。人気化する背景には、クリエイティブが良すぎるという点以外に、等身大の価値観が真っ直ぐな言葉で投影されているという点もあると思っている。曲中でシャレついた言い回しは使われていないし、雰囲気以外に何の機能も持たない無意味な英詞も登場しない。極めて実直に、ひたむきにストーリーが紡がれている。借り物の言葉でなく、自分の中から出てきた本当の言葉には体重が乗る。だから聞く方も心を動かされる。リアルだから、今まさに恋愛している人は真っ直ぐ共感できるし、枯れたファンもかつて自分たちが通ってきた道なのでエモがることができる。比較的年齢が近いメンバーも違和感なく曲の解釈ができるし、表現したい世界観をすんなり腹落ちさせられるので、パフォーマンスにも張りが出る。結果として、ステージで発散される熱量が高くなる。さらに今だからこそビビッドに書ける、逆に言うと今しか書けないという時限性がアイドル活動そのものの刹那性とも重なり合うような感覚も持つ。

    加えて、失恋ソングというテーマ自体もファンの共感を呼びやすい。ファンがアイドルに対して一方的に感情を拗らせているという関係性が(←各所に土下座しながら書いています)曲中で描かれる人間関係とのアナロジーになり、曲の世界により容易く・深く入り込める構造になっている。

    そんなわけで「女の子がカラオケで歌いたくなる曲」として放たれたこの曲は、(作者の意図の外側にいるはずの)女の子ならざるチリーンも共感し、すっかりカラオケで歌いたくなっている。しかしながら最新のDAM収録曲を見ても、依然として「100億点」「考える時間をください」「クライアント」の3曲しかラフラフの曲はリストされていない。運営の頑張りでどうにかなる類のものではないのかもしれないが、1日でも早く採用されることを切に願う。冒頭に述べたように音楽の理論は良くわからないが、昨今のJ-POPは一般人に歌われることを拒絶しているかのような難易度のものも珍しくないと感じている。翻ってこの曲は、少なくとも急に3拍子のパートが出てきたり、人間を辞めないとカバーできない音域を要求されたり、信じられない回数の転調が起きたりするような類の難曲ではない。せっかくふーちゃんと遠藤さんがカラオケで歌いやすいように仕立ててくれたのだから、ぜひ歌えるようになってほしい。


    おまけ

    最後にもう一つだけ邪推すると、「舞台を設定し、緻密にキャラクターを定義し、舞台上でキャラクターを1本の時間軸の上で動かすことで物語が映画のように進んでいく」という全体のスタイルが昔のBUMP OF CHICKENっぽいなと感じた。「K」「ダンデライオン」「車輪の唄」とかあの辺り。「子供の頃にお父さんが車中で流した音楽の影響を受けている」とのことでこの辺をよく車で聞いていたのかな、あるいはふーちゃん自身がよく聞くのかな、などと思ったりしたものの、お父様の年齢を想像するにbump直撃世代よりはおそらく1回り程度上で、逆にふーちゃん自身は1回り程度下だと考えると、これは気のせいな可能性が高そうですかね。チリーンがbumpが好きなのでもしそうだったらちょっと嬉しいな、と完全な蛇足でもって締めたいと思います。

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