
木の子どもたち 第21話「昆布の食卓」
約束の日が来た。
カントとノカは、小人たちを手のひらに乗せて、家まで連れて帰った。ノア、レン、ルツ、リディア、ラム、ニナ、ベン。七人全員が、大木を出て人の家に来るのは、初めてのことだった。
「わあ」とニナが、台所を見回して声をあげた。「ここが、カントとノカのおうち」
エマは、囲炉裏のそばに、小さな小さな食卓をしつらえていた。木の実の殻を皿にして、団栗の帽子を椀にして。小人たちのための、手のひらの食卓だった。
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エマの鍋からは、白い湯気が立っていた。
「今日は、チェㇷ゚オハウ」とエマが言った。「昆布でだしを取った、鮭の汁物よ」
ラムが、鼻をひくひくさせた。
「いい匂い……これ、昆布の匂いなの? 染料にするときとは、ぜんぜん違う」
「火を入れると、香りが変わるの」とエマが微笑んだ。
椀によそわれた汁を、小人たちはおそるおそる口に運んだ。
しんと、静かになった。
「……なにこれ」とルツが、目を見開いた。「口の中に、味が、ふわっと広がる」
「うまみ、っていうの」とエマが言った。「昆布が、海の中で長い時間をかけてためた味。だしにすると、それが出てくる」
「木の実とも、花の蜜とも違う」とノアが、ゆっくり言った。「深い。海の底みたいな味だ」
小人たちは、夢中で椀をかたむけた。木の実の殻のおかわりが、何度も回った。
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「ねえ、エマさん」とニナが言った。「これ、どうやって作るの? 私たちにも作れる?」
エマは、昆布のだしの取り方を、ひとつひとつ教えた。水に昆布をひたしておくこと。火にかけて、ぐらぐら煮立てる前に引き上げること。煮立てると、えぐみが出てしまうこと。
「糸を作るのと、似てる」とレンが言った。「もどしすぎても、煮すぎてもいけない。ちょうどいいところがある」
「ぜんぶ、そうなのね」とニナが笑った。「糸も、色も、だしも。ちょうどいいところを、ていねいに探す」
ノカが、自分の帽子をちょっと押さえて、自慢げに言った。
「お母さんの昆布、世界でいちばんおいしいんだよ」
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帰りぎわ、小人たちは、お礼にと、小さな包みをエマに渡した。
開けると、花の蜜と、干したきのこと、木の芽が、ちょこんと入っていた。
「私たちの、いつもの食べ物」とニナが言った。「昆布のお返し。森の味も、食べてみて」
エマは、それを大事そうに受け取った。
「ありがとう。明日のごはんに使わせてもらうね」
「海の味を教えてもらったから」とノアが言った。「今度は、森の味を返す。こうやって、食べるものが、だんだん豊かになっていくんだな」
カントは、その様子を見ていた。
昆布は、糸になり、色になり、だしになった。そして今日、森の小人たちの食卓に、海の味がひとつ増えた。森の味も、人の食卓に増えた。
分け合うほど、みんなの食卓が豊かになっていく。
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小人たちを大木まで送っていくと、もう日が暮れかけていた。
「今日は、ほんとうにありがとう」とニナが、手をふった。「こんなに楽しい食卓は、はじめて」
「また、おいでよ」とノカが言った。
「うん。雪が降る前に、もう一度ね」
ニナの言葉に、カントは、ふと冬のことを思った。雪が降れば、小人たちは大木にこもって、春まで会えなくなる。
でも、今日のことは、ずっと残る。
昆布のだしの味も、花の蜜の甘さも、みんなで囲んだ小さな食卓も。
来年の春、また灯りがともったら、きっとまた、いっしょにごはんを食べよう。
カントはそう思いながら、暮れていく森の道を、家へと歩いた。
(つづく)