
【掌編小説】待つ時間と明太子クリームの解脱 ⑯【B面】
今週のお題「待つ時間」。 司祭にとっての三分間は、ただの時間ではなく、 ひとつの儀式であり、試練であり、救いの前触れです。
✳︎シロクマ文芸部
✳︎お題「待つ時間」ではじめるnote企画
参加させていただきました!
待つ時間。それは神が与えし最も凄絶な拷問であり、魂を灼き尽くす煉獄の激炎そのものである!
深夜の司祭室。小鍋で沸騰させた300ccの濃厚な豆乳を、シュレッドチーズを仕込んだ『シーフードヌードル』へ一気に叩きつける。仕上げに生の明太子を一節まるごと鎮座させ、私は咆哮を殺しながら蓋を閉じると、重厚な革装の『ラテン語聖書』を重しとして圧殺するように叩きつけた。
180秒——肉体と精神を狂気へ落とし込む「待つ時間」の幕開けだ!
「くあ……っ! ぐぬぬぬっ……! 始まった……始まったぞ、脳髄を切り刻む禁欲の磔刑(たくけい)が……!」
蓋の隙間から噴き出す、乳脂肪と魚介スープの暴虐的な香気が鼻腔を灼く。溢れ出る唾液で喉が渇望に喘ぎ、全身の血管が浮き上がり、心拍数は限界突破の領域へ跳ね上がる!
チク……タク……チク……タク……。卓上のタイマーの刻印が、私の精神を削り取る死刑執行のカウントダウンとなって響く。まだ三十秒すら過ぎていない!
「耐えろ、我が肉体! 爪を卓上に立ててでも悪魔の誘惑を叩き潰せ! 蓋を破り捨てて貪りたいという浅ましい獣の自我を殺すのだ! イスラエルの民の四十年の彷徨どころではない、この一瞬一瞬が脳を焼く試練なのだから! クハッ、クハハハハッ! 狂う! 歓喜で精神が崩壊する……っ!」
カソックの胸元をむしり取り、血走った眼球で聖書を見つめ、全身をガタガタと打ち震わせること狂乱の百八十秒。
ピピピ、ピピピ——解脱と救済の電子音が鳴り響いた!
「成就せりィィッ……!」
聖書を力まかせに撥ね退け、蓋を力任せに引き裂く。明太子、溶けたチーズ、マイルドな豆乳スープをフォークに大量に巻きつけ、狂ったように口内へ叩き込んだ!
ズルズルズルッ……!!
「うぐっ……! ガハッ……あふっ……美味い、美味すぎる……ッ!!」
爆発する旨味の暴力! 精神を狂わせた「待つ時間」の過激な拷問が、最高潮の快楽へと裏返り、脳を強力な多幸感で麻痺させる。まさに食の解脱!
ドンドン、ドンドン!!
その時、告解室の扉が激しく叩かれた。迷える羊の訪問だ。
「……フッ、焦るな羊よ。お前もその扉の前で『待つ時間』という地獄を味わい、己の罪を灼き尽くすがいい……」
私は扉の音など耳に入らぬとばかりに、残ったスープを一滴残らず飲み干し、至福の息を吐き捨てた。手際よくフォークを拭うと、黒いカソックのポケットに冷徹に突っ込む。
パンパンに膨らんだ腹をカソックで隠し、完璧な聖者のポーカーフェイスを張り直すと、私は圧倒的な満腹感とともに、漆黒の暗闇の中へ静かに歩み出した。
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