
『歌舞伎とビヨンセ①』ビヨンセのコンサートは現代の歌舞伎なのか?
1.はじめに
私はビヨンセが好きです。そして、歌舞伎にも興味があります。
ただ、歌舞伎に詳しいわけではありません。テレビなどで目にする程度で、歌舞伎座にもまだ行ったことがありません。
好きなのは『連獅子』です。いつから好きになったのかは覚えていませんが、あの豪快な毛振りには、つい目を奪われます。中村七之助さんが演じた八百屋お七にも感動しました。
そんな私が、ビヨンセのステージを見ていて、ふと思ったことがあります。
「これ、歌舞伎と似ていない?」🤔
大掛かりな舞台装置に、華やかな衣装。空を飛ぶ演出まであります。
そういえば、『連獅子』では長い毛を豪快に振りますが、ビヨンセも髪をバサーッと振っています(笑)。
もちろん、歌舞伎とビヨンセのコンサートは、歴史も文化も違います。それでも、どこか似ている気がするのです。
いったい何が似ているのでしょうか。
このシリーズでは全5回にわたり、歌舞伎とビヨンセの共通点を、舞台演出や文化史を手がかりに考えていきます。😊
2. 歌舞伎は昔から空を飛んでいた
歌舞伎には「宙乗り」という演出があります。役者が綱やワイヤーなどで吊られ、舞台や客席の上空を移動する演出です。
『義経千本桜』の狐忠信などが有名ですが、宙乗りの歴史は江戸時代にまで遡ります。
江戸時代には、現代のようなワイヤーシステムはなく、綱などを使った仕掛けで役者を宙へ上げていました。
歌舞伎では、宙乗りや早替わりなど、観客を驚かせる演出を「ケレン」と呼びます。こうした仕掛けは、江戸時代から観客を楽しませてきた見せ場の一つです。
3. 花道は観客との距離を縮める
歌舞伎の特徴として有名なのが「花道」です。花道は客席を通るように設けられた通路で、役者が登場したり退場したりするときなどに使われます。観客は役者を間近で見ることができます。
この点は、現代のポップコンサートにも通じるものがあります。
ビヨンセのRenaissance World Tourでは、メインステージから客席側へランウェイが伸びていました。Cowboy Carter Tourでも、星型のメインステージから客席側へ大きく張り出すキャットウォークが設けられました。
もちろん、歌舞伎の花道とビヨンセのランウェイでは、歴史も使われ方も異なります。
それでも、遠くにいた主役が自分たちの近くまでやって来ると、観客は特別な近さを感じられます。
4. ケレンとポップコンサート
歌舞伎では、宙乗りだけでなく、回り舞台やせりなど、舞台を大きく使う仕掛けも発達してきました。
一方、ビヨンセのツアーにも、さまざまな仕掛けが登場します。
・ファンから「Reneigh」と呼ばれる飛行馬
・空中を移動する車
・巨大なロボットアーム
・可動式ステージ
・巨大LEDスクリーン
こうして並べてみると、歌舞伎もビヨンセのコンサートも、歌や演技、ダンスだけでなく、大掛かりな舞台演出で観客を楽しませていることが分かります。
もちろん、江戸時代の歌舞伎と現代のスタジアム公演では、使える技術も観客の楽しみ方も違います。
5. Renaissanceと『義経千本桜』
ビヨンセのRenaissance World Tourと歌舞伎を比較するなら、『義経千本桜』も興味深い題材です。
この作品には、佐藤忠信の姿に化けた源九郎狐が登場します。狐忠信が宙乗りで舞台を去る演出は、歌舞伎の見せ場の一つです。
一方、Renaissance World Tourの終盤には、ファンから「Reneigh」と呼ばれる銀色の馬が登場します。ビヨンセはその馬に乗り、客席の上空を移動します。
狐忠信とReneigh。
一方は人間に化けた狐、もう一方は現代のコンサートに登場する銀色の馬です。まったく違うものですが、空を飛ぶ演出によって観客を驚かせるところは似ています。
そもそも、なぜ人は舞台で何かが空を飛ぶと、こんなにも心を奪われるのでしょうか。
6. Cowboy Carterと時代物
ビヨンセのアルバム『COWBOY CARTER』には、カントリー音楽やアメリカ西部の歴史を考えるきっかけになる要素が詰まっています。
なかでも私が興味を持ったのは、黒人カウボーイの歴史です。カウボーイと聞くと、私は西部劇に登場する白人男性を思い浮かべていました。しかし、実際には黒人のカウボーイもいたのです。
ここで比較してみたいのが、歌舞伎の「時代物」です。
時代物には、過去の事件や人物を題材にした作品があります。歴史をそのまま再現するのではなく、物語として脚色しているところも特徴です。
もちろん、『COWBOY CARTER』は音楽アルバムであり、歌舞伎の時代物とは成り立ちも表現方法も違います。
それでも、過去の歴史が芸術作品の中でどのように語られるのか、という視点から二つを並べてみるのは面白そうです。
シリーズ第3回では、『仮名手本忠臣蔵』を取り上げながら、この比較をもう少し詳しく考えてみます。
7. 実はサーカスも歌舞伎に近い
ここでもう一つ、比較してみたいものがあります。サーカスです。
シルク・ドゥ・ソレイユのような現代サーカスでは、空中演技やダンス、舞台装置を組み合わせたパフォーマンスが見られます。
歌舞伎の宙乗りとサーカスの空中演技。どちらも人が空中を移動するところは似ていますが、技術も演出の目的も同じではありません。
歌舞伎、サーカス、ビヨンセのコンサートでは、空を飛ぶ演出がそれぞれ違った形で使われています。それなのに、なぜ私は似たような面白さを感じるのでしょうか。
その理由については、シリーズ第4回で詳しく考えてみたいと思います。
8. おわりに
ビヨンセのコンサートと歌舞伎は、歴史も文化も違います。もちろん、似た演出があるからといって、ビヨンセが歌舞伎の影響を受けたということにはなりません。
こうして比べてみると、思っていた以上に共通点が見つかりました。でも、似ているところがあるからといって、ビヨンセのコンサートを「現代の歌舞伎」と呼べるのでしょうか。
歌舞伎に詳しくない私でも、好きなビヨンセを通して見てみると、今まで気づかなかった歌舞伎の面白さに出会えます。
最初は「なんだか似ている」という素朴な疑問でしたが、調べてみると、まだまだ気になることがあります。
例えば、衣装や姿を次々と変えて観客を魅了する演出です。
次回は、ビヨンセの『Renaissance』と歌舞伎舞踊の『京鹿子娘道成寺』を比べてみます。
次回|歌舞伎とビヨンセ②
『ビヨンセの衣装替えは歌舞伎に似ている?――『Renaissance World Tour』と『京鹿子娘道成寺』を比べてみた』
歌舞伎舞踊の代表的な演目の一つ『京鹿子娘道成寺』と、ビヨンセのRenaissance World Tour。
どちらにも、衣装や姿の変化を楽しむという見方ができそうです。
でも、歌舞伎の変化舞踊と、現代のコンサートで行われる衣装替えは、同じものなのでしょうか。
第2回では、二つの舞台を比較しながら考えてみます。
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