
『歌舞伎とビヨンセ③』COWBOY CARTERはアメリカの時代物なのか?――『忠臣蔵』と比べてみた
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1.『COWBOY CARTER』はカントリーだけじゃない?
ビヨンセの『COWBOY CARTER』を聴いて、まず感じたのはカントリーらしさでした。でも、聴き進めると、それだけではありません。後半にはカントリーとは違う音楽も感じますし、最初と最後の曲にはゴスペルを思わせる響きもあります。
「カントリーのアルバム」と呼ぶのは間違いではなさそう。でも、それだけで説明してしまっていいのでしょうか。
ビヨンセ自身は、2024年3月に発表した声明で、カントリー音楽の歴史を調べたことや、音楽のジャンルを越えようとしたことを語っています。そして、この作品を単にカントリーアルバムとは呼ばず、「ビヨンセのアルバム」だと表現しました。
では、彼女が調べた「歴史」とは、どんなものだったのでしょう。そこで今回は、歌舞伎の「時代物」と並べながら、それぞれが歴史をどう扱っているのか考えてみます。
2.カウボーイは白人だけだった?
「カウボーイ」と聞くと、どんな姿が浮かぶでしょうか。西部劇に出てくる帽子とブーツの男たち。私たちが映像で見慣れた姿には、白人男性のイメージが強いかもしれません。
ところが、19世紀のアメリカ西部では、黒人のカウボーイも働いていました。米国議会図書館が紹介する歴史家の推計では、当時のカウボーイ約3万5,000人のうち、黒人は数千人規模にのぼります。「約4分の1」という数字も広く紹介されていますが、当時の正確な人数を示す確定統計ではありません。
ビヨンセは2024年の『GQ』のインタビューで、みんなに「cowboy」という言葉を調べてほしかったと語っています。さらに、歴史はしばしば勝者によって語られる、とも述べました。
なるほど。アルバムのタイトルにある一語を調べるだけでも、西部劇でおなじみのイメージとは違う歴史が見えてきます。ただし、これはビヨンセの発言と歴史研究を合わせて考えた結果です。彼女がアルバムの全曲で黒人カウボーイの歴史を描こうとした、とまでは言えません。
3.『忠臣蔵』は史実そのままではない
ここで、日本の歌舞伎に目を向けてみます。
歌舞伎には「時代物」と呼ばれる作品があります。江戸時代の観客にとって遠い過去の世界や、武家・公家などを題材にした芝居です。ただし、歴史の教科書を舞台で再現するわけではありません。
その代表的な作品の一つが『仮名手本忠臣蔵』です。もとになったのは江戸時代の赤穂事件。しかし、芝居では舞台を『太平記』の世界へ移し、人物の名前も変えています。事件を知る観客に向けて、史実に創作を重ねた物語を見せたのです。
『忠臣蔵』では、実際の事件が、別の時代を舞台にした芝居になりました。では、歴史を調べたというビヨンセは、『COWBOY CARTER』でその歴史をどのように扱ったのでしょうか。
ここからは、二つの作品を具体的に比べてみます。

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