
「何をしているか」を説明しても、伝わらない。7,100万回以上見られたTED講演が教える「なぜ」から話す方法〈世界の思考法〉
伝わらないとき、説明を増やす前に、話す順番を変えてみる。
月曜日の朝、職場で同僚に「週末、何してた?」と聞かれたとします。「最近、個人でアプリを作っていて」と答えると、相手は「へえ、すごいね」と言って、話題はそこで終わる。
これは想定例です。相手に悪気があるわけではありません。でも、自分では面白いと思っていることが、誰かに説明するとなぜか伝わらない。そんな場面は、仕事でも趣味でも起こります。
ここで、最初の一言を少し変えたらどうでしょう。「毎回同じ作業を繰り返して困っている人がいて。その手間を減らしたくて、アプリを作っているんだ」。話す内容はほとんど同じなのに、相手には「何を解決したいのか」が先に届きます。
はじめまして、北のワールドウォッチャーです。北海道の牧場で働きながら、海外で語られている考え方を追いかけています。
今日紹介するのは、作家・講演家のサイモン・シネック(Simon Sinek)。彼の有名な問いは、実は私たちの何気ない会話にも応用できそうです。
7,100万回以上見られた講演が、問い直したこと
2009年9月、シネックはTEDxPuget Soundで「How great leaders inspire action」という講演を行いました。TED公式ページの再生数は、2026年10月18日の確認時点で7,100万回を超えています。
講演では、アップルやライト兄弟、マーティン・ルーサー・キング・ジュニアなどが登場します。分野の違う人たちを結びつけるものとして、シネックが提案したのが「ゴールデン・サークル」です。
円の外側から順に、WHAT(何をするか)、HOW(どう実現するか)、WHY(なぜそれをするのか)。シネックは、多くの組織がWHATから説明する一方、人を鼓舞するリーダーはWHYから伝える、と主張します。
ここでいうWHYは、単なる「そうした理由」だけではありません。何を信じ、何を実現するために活動するのかという目的や信念のことです。
シネックが講演で繰り返す考え方を短く言い換えるなら、人が共感するのは、商品や行動そのものだけでなく、その背景にある信念でもあるということです。
これは「WHYから始めれば誰でも成功する」と証明された法則ではありません。まずは、相手に伝えるときの一つの見方として受け取るのがよさそうです。
「副業でアプリを作っています」の前に、一文足してみる
先ほどの例をもう一度考えます。
WHATから話す場合
「副業で、日々の作業を管理するアプリを作っています」
WHYから話す場合
「面倒な記録作業に時間を取られる人を少しでも楽にしたくて、日々の作業を管理するアプリを作っています」
後者も相手に必ず響くわけではありません。それでも、「なぜ作ったのか」が分かると、聞く側は自分の経験とつなげやすくなるかもしれません。これは講演を日常に置き換えた、私自身の考えです。
仕事でも使えます。会議で「新しいチェック表を導入したい」と提案するとき、「確認漏れを減らして、忙しい時間帯に誰かが困るのを防ぎたい。そのためにチェック表を使いたい」と話してみる。
趣味の話なら、「写真を撮っています」だけでなく、「普段は見過ごす景色を残したくて、写真を撮っています」と始めることもできるでしょう。
ただし、どんな会話でも理由から長々と話す必要はありません。相手がまず知りたいのが価格、時刻、手順なら、最初にその情報を示すほうが親切です。
大事なのは、必ずWHYから話すことではなく、今の自分の説明にWHYが抜けていないか確かめること。
牧場の仕事では、「なぜ」と「どうやって」はセットになる
私がこの話を牧場の仕事に置き換えるなら、新人に作業を伝える場面が思い浮かびます。以下は実際の出来事ではなく、説明のための想定例です。
「この順番で確認してください」と手順を教えることは欠かせません。でも、それに「なぜその確認が必要なのか」「何を守るための作業なのか」という目的も添えられたら、作業の意味を理解する助けになるかもしれません。
もちろん、搾乳や衛生管理の手順は、現場の定めた方法や指導に従って正確に行う必要があります。理由を理解しただけで手順を省略してよいわけではありません。
ここで面白いのは、日本語版『WHYから始めよ!』の第8章の見出しです。
「WHYから始めよ、だがHOWを知れ」
「なぜ」だけでは仕事は動かない。目的があっても、実現する方法と、実際に行うことが必要です。これは見出しから私が読み取ったことですが、WHYだけを強調しすぎないための大切な視点だと思います。
「なぜ」を話しても、うまくいかないことはある
では、なぜを語れば、必ず人が動くのでしょうか。
そうとは言い切れません。講演を批判的に論じたThe Speaker Labの記事(2024年3月9日)は、法令順守が不可欠な業界や、理念だけでは事業が成り立たない場合などを挙げています。これは同サイトによる論評で、効果の有無を検証した実験結果ではありません。
そもそも、どれほど立派な理念を語っても、商品が役に立たなければ選ばれないことはあるでしょう。大切な約束を守らなければ、共感も続きません。
また、シネックの講演には、意思決定と脳の働きを結びつけた説明が登場します。しかし、その説明がゴールデン・サークルの効果を科学的に証明したとまでは、今回確認できませんでした。
だから私は、この考え方を「人を動かす万能の法則」ではなく、伝え方を点検する道具として使いたいと思っています。
明日、最初の一文だけ書き換えてみる
難しい準備はいりません。最近誰かに説明したことを、一つだけ思い出してみます。
まず、「私は○○をしています」と書く。次に、その活動で「誰のどんな困りごとを減らしたいか」「何を大切にしたいか」を一文だけ足す。最後に、説明する順番を入れ替えてみる。
例えば、
「私はブログを書いています」
を、
「知らないことを、難しい言葉抜きで理解できる場所を作りたくて、ブログを書いています」
と言い換える。
実際の会話でどう受け取られるかは、相手や状況によります。言い換えた結果、長く感じられるなら、短くすればいい。相手が具体的な内容を求めているなら、WHATを先に伝えてもいいのです。
それでも、一度自分のWHYを言葉にしてみると、「自分は何のためにこれを続けているのだろう」と考える機会になります。
今日持ち帰りたいのは、**「伝わらないとき、情報を足す前に、伝える順番を見直す」**という小さな工夫です。
では、自分の「なぜ」はどう見つけるのか
ここまで読んで、「自分には人に語れるような立派な目的なんてない」と感じた人もいるかもしれません。
でも、最初から大きな理念を用意する必要はないと、私は思います。「誰かの手間を減らしたい」「自分が困ったことを、ほかの人には経験してほしくない」。そんな身近な気持ちから考えてみてもいいのではないでしょうか。
シネックには、WHYの見つけ方を扱う『FIND YOUR WHY』という共著もあります。今度は「WHYを先に話す」から一歩進んで、「そもそも自分のWHYをどう見つけるのか」を別の回で掘り下げたいと思います。
そして「何を売るか」だけでなく「なぜ選ばれるか」を考えるという点では、以前紹介したアレックス・ホーモジの話ともつながります。価格競争から離れて価値を伝えるという、また別の角度から読める記事です。
▼あわせて読みたい
あなたが最近、人に説明したことを一つ思い出すなら、最初の一文をどう書き換えますか。よければコメントで教えてください。
参考資料
TED「How great leaders inspire action」Simon Sinek(TEDxPuget Sound、2009年9月。再生回数は2026年10月18日確認)
https://www.ted.com/talks/simon_sinek_how_great_leaders_inspire_actionSimon Sinek 公式サイト「Start with WHY」(公開日記載なし、2026年10月18日確認)
https://simonsinek.com/books/start-with-why紀伊國屋書店『WHYから始めよ! インスパイア型リーダーはここが違う』(2022年9月発売の版、2026年10月18日確認)
https://www.kinokuniya.co.jp/f/dsg-08-EK-1303209The Speaker Lab「Unpacking Simon Sinek’s TED Talk on Leadership」(2024年3月9日)
https://thespeakerlab.com/blog/simon-sinek-why-ted-talk/ライフハッカー・ジャパン『FIND YOUR WHY』書評(2019年2月19日)
https://www.lifehacker.jp/article/book_to_read_why/
※本記事は本人の講演・公式紹介に基づく考え方の紹介です。身近な具体例と解釈は筆者によるもので、実践の成果を保証するものではありません。